【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
お店で働いていたら、いつもどおり侵入者がやってきたみたい。
だけど、私は私の仕事をこなすだけで、侵入者の相手は魔王軍のお仕事。
最近は、そういう荒事を好む人たちも増えたからな~。
余計私にはその手の仕事は回ってこない。
「トキトウさん。毒消しの在庫が切れそうなので、補充してきますね」
「あ、は~い。よろしくお願いします」
鹿の獣人のお兄さんが、そう言って倉庫へと向かった。
獣人にさん付けされたうえ、リーダーとして見られている。
つまり……私は、わりと偉い立場になっている!
ふっふっふ……。これが、古株ということなんだね。
ただの店員だけど、経験を積んだことで店長としてふさわしい私に、知らず知らず成長していたってこと。
「さて、店長として頑張らないと、店長として!」
「客はもうさばき終わったから、何も頑張ることないよ。店長」
「……お掃除でもしますか」
カーマルさんの言葉に、手持ち無沙汰になっていたことに気付く。
カーマルさんは、だらだらと休憩しているようだけど、性分なのか私はなんだか落ち着かない。
箒を手に、床でも掃こうとしたそのとき、私の目の前は光りに包まれた。
「……」
どこ、ここ?
むむむ……。ははん、さてはレイさんかテクニティスさんの実験が失敗したんだね。
さすが私、もうこんな不思議現象にも慣れてきた。
「ピルカヤさ~ん! 時任が迷子です。ピルカヤさ~ん!」
……返事がないね。
転移事故じゃないの? もしかして、事故じゃなくて狙い通り?
……ついに、捨てられた!?
「ご、ごめんなさ~い! なんか知らないけど、ごめんなさ~い! ごめんくださ~い!」
おろおろと、ピルカヤさんに話しかけるけど反応がない。
な、なんで……? 選択肢、警告してなかったじゃん!
「そ、そうだ。選択肢!」
ええと、現状を知る……のは無理だから、行動を決めないと。
迷子になったので、今後の選択を……。
1.待機する → 昆虫人に連れ去られる。
2.前に進む → ロペスと合流。
3.後ろに進む → 昆虫人に連れ去られる。
「三分の二が不穏!」
逃げよう。ウサギだから、身軽に逃げよう。
とりあえず、前に進んでロペスと合流を……。
あれ? ロペスって、ロペスくんだよね?
私はともかく、ロペスくんまで捨てられたの?
あんなに優秀なロペスくんまで捨てられるってことは……。
「ま、魔王様が、魔王様になっちゃったってこと!?」
なんで急にそんなことが……。
まさか、レイさんと痴話喧嘩した挙句、人類を滅ぼすと決断してしまったんじゃ……。
まずは、捨てられた者同士合流して、そこから考えよう!
江梨子ちゃん、無事かなあ。
ロペスくんの後は、他のみんなも探さないと。
そう思いながら進んで行くと、たしかにロペスくんがそこにはいた。
「おう、トキトウか」
「おやあ、ロペスくん冷静だねぇ」
ロペスくんは、状況こそわかっていないみたいだけど、頭をかいて冷静に周囲を観察していた。
私と違って、相変わらず周りを見てから行動しているなぁ。
「事情はわからないが、焦っても良いことなんてないからな」
「そうだよねぇ。なんで、私たち魔王様とレイさんに捨てられたんだろう?」
「ちょっと待て! 俺たち捨てられたのか!?」
焦ってるじゃん。良いことないよ?
冷静沈着なロペスくんも、魔王様とレイさんのことになると、そうはいかないらしい。
「ピルカヤさんに無視されているから、きっとダンジョンのどこかに捨てられたと私は考えているよ!」
「いや、それは火がないから、ピルカヤの旦那が分体を作れない場所ってだけだろ」
なるほど……。
明るいから気付かなかったけど、いつもの地底魔界と違うね。
「じゃあ、ここどこ?」
「当たっているかはわからねえが、昆虫人の巣じゃないかねえ」
「え、私たちそんな場所に捨てられたの!?」
「いや……まず、その捨てられたという結論が、間違ってねえか?」
そうかな? たしかに、ふだんの魔王様やレイさんを考えると、いきなり捨てるなんておかしい。
これでも、店長だからね!
解雇されるのはともかく、捨てられるまではいかないはず。
……いかないよね?
「なぁんだ。捨てられてないかもしれないよ。私たち」
「ああ、だから驚かせないでくれよ……」
ロペスくん、魔王様とレイさんのことになると、驚いてばかりだもんねぇ……。
とりあえず、仲間と合流できたし、私たちは捨てられたわけでもないみたい。
なら、このままみんなと合流して、力を合わせて私たちの家に帰らないと!
「つまり、私とロペスくんの即席パーティだね!」
「そうなるな。戦えないパーティだから、慎重に進まねえと」
……ほんとだ!
ど、どうしよう。このままじゃ、敵に見つかった瞬間にゲームオーバーだよ。
「まあ、トキトウと合流できたのであれば、多少は状況が改善できたのが幸いかねえ」
「え!?」
ど、どういうことだろう?
私、ロペスくんが安心できるほどの戦力じゃないと思うんだけど……。
もしかして、私の秘められた力が覚醒でもしている?
「が、がんばるよ! オーガたちにも勝った私なら、昆虫人をバッタバッタと倒しちゃうから!」
「おい、なんか変な勘違いしてるだろ。俺たちじゃ戦えないって、数秒前に言ったばかりじゃねえか……」
「え……。でも、私と合流したから状況が良くなったって……」
「選択肢な。それで安全に進めるって意味だから」
「……し、知ってたし!」
まったくもう!
勘違いさせるような発言をする、ロペスくんが悪いと思う。
きっと、クララちゃんにも変なことばっかり言ってるんだろうねぇ。
「な、なんか悪かったな?」
「いいよ! 私だって、選択肢で役に立てるし!」
最初に魔王様とレイさんにつかまったときだって、選択肢がなかったら罠で死んでただろうからね!
そう考えると、普段は反抗期な選択肢も、一気に頼もしく思えてきた。
昆虫人の巣だかわからないけれど、ここがレイさんのダンジョンより恐ろしいってことはないだろうし。
「ええと、それじゃあ。まずはこの後の行動について……」
1.待機する → 昆虫人に連れ去られる。
2.前(左の道)に進む → 行き止まりのため引き返す。
3.前(中央の道)に進む → 次の分かれ道にたどり着く。
4.前(右の道)に進む → 次の分かれ道にたどり着く。
5.後ろに進む → 昆虫人に連れ去られる。
6.昆虫人に逆らう → 殺される。
7.ロペスとイチャつく → クララがロペスを叱る。
「イチャついてないけど!」
「うわっ! な、なんだ、急に?」
「選択肢が生意気なの!」
「そ、そうか……。仲が良さそうで何よりだな」
全然わかってない!
ロペスくんは、クララちゃんとイチャついてればいいでしょ。
「それで、選択肢はどうなっているんだい?」
「ロペスくんとイチャついていたら、クララちゃんが怒るって」
「意味わかんねえんだけど!?」
だよねぇ!
ピンチのときには、余計な選択肢は出さないでほしい、と私も思っているよ。
「待機するか後ろに戻ると、昆虫人にさらわれるみたい。しかも、逆らったら殺されるって……」
「ということは、あまりのんびりしていると捕まるのか。もしかして、追われている?」
たしかに……ここにいても後ろに行ってもつかまるのなら、そういうことなのかな?
さすが、頭良いねえ。私よりも、選択肢の結果から状況が見えている。
「あっちの真ん中か右の道を進むと、次の分かれ道みたいだよ」
「左は?」
「行き止まりだから、引き返すことになるって」
「なるほどなあ。となると、そのまま昆虫人たちに捕まる可能性もある。とりあえず、中央か右を進むとするか」
どっちが良いのか、そこまではわからない。
そういうところがちょっと融通がきかないよね。
まあ、変な選択肢を出されるときのほうが問題だけど……。
そんなことを考えながら、私たちは真ん中の道を進む。
すると、聞いてもいないのに選択肢がとんでもないことを言ってきた。
1.このまま進む → 時任、ロペス、レイが死ぬ。
2.レイに降伏する → 生き残る。
3.後ろに進む → 生き残る。
「えぇっ!? な、なんで!? レ、レイさん! ちょっと待ってください! 降参します! 時任芹香、降参します!」
意味が分からないけど、まずはレイさんに降伏しよう。
なんだか、最初に捕まったときのことをますます思い出しながら、私は綺麗に土下座をすることにした。