【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第397話 勇者の教師は反面教師

「ピルカヤ」

 

 反応がない。おそらく、声は届いていないのだろう。

 周囲に火が無いというのは、事前に予想されていたとおりだ。

 しかし、それでも思っていたよりは明るい場所だな。

 うちと同じく、魔力光によって明かりを確保しているのか。

 だからこそ、実はここが地底魔界なのでは、と思ってしまう。

 

「壁作成」

 

 だが、そうではないということもわかる。

 メニューが使えない。文字が光ってはいるので、魔力は足りているはずだが、ダンジョンという条件を満たしていないんだろうな。

 マップを見ても、俺を示すアイコンがない。

 ……わりと、絶体絶命だよな。これ。

 

 俺の唯一の強みである、ダンジョンマスターが使用できない。

 こうなると、俺はまったくの無力だ。

 これまでで一番のピンチは、フィオナ様と出会う前にイドに襲われたことだが、加護を使えないことを考えると、今はそれより状況が悪い。

 

「なるほどな。女神がハズレと言うわけだ」

 

 ダンジョンにいないと、なんの能力も無いのだから、あながち間違った発言ではなかったということか。

 今まで、いかにフィオナ様のおかげで力を振るえていたか、改めて理解する。

 魔王が所有しているダンジョン。その権利を借り受けて初めて有効となる加護なんて、本来なら使い道が無かったんだろう。

 

「探すしかないか……。帰り道を」

 

 あるのは、不死鳥の羽が十枚。

 残機がそれだけ残っている。ここから抜け出す前に、十一回死んだら俺の負けか。

 途端に不安になってくるが、まずは動かないことには始まらない。

 そう自分に言い聞かせるように、俺は見知らぬ洞窟を進むことにした。

 

    ◇

 

「ここにも、罠はない。それに待ち伏せしてるモンスターもとい昆虫人もいない」

 

 どうなっているんだ?

 こんなにも安全に進めるなんて、もしかして時間をかけて俺を仕留めるのを楽しんでいるのか?

 それを、ピルカヤみたいに視界を共有して、みんなで楽しんでいるとか……だとしたら、今までの自分の行いが返ってきたというだけか。

 文句は言うまい。ただ、黙ってやられるつもりもない。

 

「……誰か来るな」

 

 それがわかったのは、偶然だった。

 自分しかいない洞窟は、立ち止まっていると一気に音がなくなり、どこか冷たさを感じさせる。

 そんな中、誰かが歩くような音が聞こえてきたのだから、いよいよか。と緊張してきた。

 

「一人……。二人」

 

 たぶん、二人以上の足音だと思う。

 まずいな。一対一でも勝てる見込みは薄いのに、複数いたらいよいよ殺されるぞ。

 

 どこかに隠れてやり過ごすのがいいだろうが、万が一殺されたときに蘇生がバレないようにもしたい。

 殺されてその場で生き返ってを繰り返して、無駄に羽を消耗したら終わりだからな。

 

「自爆できればなあ……」

 

 どうせ命を消費するのなら、ロマーナみたいに自爆できればよかった。

 ……俺にもできないか? 魔力だけなら、ロマーナを上回ったことだし、うまくいけば昆虫人の将すら討ち取れるはずなんだが。

 

「隠れる場所はない。だとしたら、そこの曲がり角の死角に潜んで……」

 

 すれ違い様に自爆してみよう。

 向こうがこちらに気づく前に、できる限り見つかりにくい場所に……。

 あとは、なんかうまい具合に魔力を内部で暴発させてみるか。

 駄目だったら……死ぬだけだな。

 

 足音だけが近付いてくる。

 さすがに、緊張してきた。イドほどの脅威ではないのかもしれないが、騒がしくない分あの頃よりも心臓は鼓動を速める。

 魔力の感覚はまだわからないが、普段から加護を使うときのようにすれば、なんとなく掴めそうではある。

 よし……自爆してやるぞ。来るなら来い。

 

 ……止まった。

 それも、俺が潜んでいる曲がり角のすぐ近くで。

 気付かれたか? ちょっと距離はあるが、このまま自爆を……。

 

「えぇっ!? な、なんで!? レ、レイさん! ちょっと待ってください! 降参します! 時任芹香、降参します!」

 

 ……なんか、知ってる声だな。

 耳に届く声、それは紛れもなく時任のものだった。

 

 敵の罠の可能性もあるが、そっと様子を見てみることにしよう。

 ただし、いつでも自爆はできるように、魔力には集中し続けながら……。

 

「……ボ、ボスだったか。いや、ボスまでここにいたのかい」

 

「よ、よかった~……。危うく全滅するところだったねぇ」

 

 見た目は、時任とロペスだな。

 本物か? 昆虫人、あるいは転生者の能力で化けていたり、幻覚でも見せられている可能性はないか?

 やはり自爆してみるか? いや、本物だった場合、二人が死んじゃうから駄目か。

 二人というか、俺も一回死ぬから三人だけど。

 

「レ、レイさん! 私、時任です!」

 

「うおっ! どうしたトキトウ。なんで、ここで急に自己紹介を?」

 

「……本物っぽいな」

 

「よし、今度こそ全員生き延びることができたみたいだよ!」

 

 時任が急に変なことをするか言うときは、大抵選択肢の導きに従っているときだ。

 今回も、俺が疑っているときに名前を叫んだというのは、俺の疑念が伝わったためだろう。

 ここまでそれっぽいところを見ると、本物の可能性は高いと考えて良さそうだな。

 

「それで、二人はどうしてここに? 俺も状況がわからないから、わかっていることがあったら共有してくれ」

 

「もしかして、ボスも似たような状況なのか……。俺とトキトウは、気が付いたらここにいたんだ。一瞬の強い光に目を閉じたら、地底魔界から移動していた」

 

「となると、俺と同じ状況ってわけだ。あの残りの転生者の能力か? 強制転移みたいな力だとしたら、ここは昆虫人の住処の可能性が高いな」

 

「あ~……やっぱりそうなっちまうか」

 

 転生者だけが拉致されたか、それとも魔王軍全体を分断して、各個撃破でも狙っている?

 だとしたら、俺たちは戦闘力がないため、後回しにされてもおかしくないな。

 

「でも、レイさんがいるなら安心ですね! いつもみたいに、ぱぱっと」

 

「時任」

 

「はい、時任です」

 

「敵地の可能性があるから、あまり情報は漏らさないようにな」

 

「そうでした!」

 

 そして、時任が何を期待しているもわかってしまった。

 いつもみたいにということは、俺のダンジョンマスターの力さえあれば、この窮地を脱することができると思っているんだろう。

 まいったな。頼られるどころか、俺が誰かを頼るしかない状況だというのに。

 

「それと、事情があって時任の期待には応えられない」

 

「も、もしかして……私とロペスくん、やっぱり不要になって捨てられました!?」

 

「捨てる……? 何の話だ?」

 

「気にしないでくれボス。たぶんトキトウは勘違いしている。そして、ボスの事情は俺はなんとなく理解できた」

 

 ロペスがいてよかった……。

 なんかとんでもない方向に飛躍した時任と違って、俺の状況を正しく理解してくれたようだ。

 

「しかしそうなると、せめてタケミあたりと合流したいな。同じように転移しているなら、の話だが」

 

「ああ、風間か原か世良。あのあたりの誰かと合流できたら、多少は戦闘も可能になる」

 

 その発言を聞いたロペスが、ふと思い出したように尋ねてきた。

 

「なあボス」

 

「どうした?」

 

「トキトウが声をかけずに、あのまま俺たちが進んだ場合。俺もトキトウも、それとボスまで死ぬことになったらしいんだが……心当たりあるかい?」

 

「……」

 

 あるな。

 たしかに、あそこで時任が謎の降伏をしなかったら、成功するかは別として自爆していたからな。

 

「自爆しようとしていた」

 

「何してんだ、あんた!」

 

「いやあ、最善の手段を考えた結果、自爆しかないなって」

 

「ボスの行動、たまにとんでもないから予想できねえんだよなあ……」

 

 俺なりにできることを考えた結果だったのだが、どうやらロペスには奇行ととらえられてしまったようだ……。

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