【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「ピルカヤ」
反応がない。おそらく、声は届いていないのだろう。
周囲に火が無いというのは、事前に予想されていたとおりだ。
しかし、それでも思っていたよりは明るい場所だな。
うちと同じく、魔力光によって明かりを確保しているのか。
だからこそ、実はここが地底魔界なのでは、と思ってしまう。
「壁作成」
だが、そうではないということもわかる。
メニューが使えない。文字が光ってはいるので、魔力は足りているはずだが、ダンジョンという条件を満たしていないんだろうな。
マップを見ても、俺を示すアイコンがない。
……わりと、絶体絶命だよな。これ。
俺の唯一の強みである、ダンジョンマスターが使用できない。
こうなると、俺はまったくの無力だ。
これまでで一番のピンチは、フィオナ様と出会う前にイドに襲われたことだが、加護を使えないことを考えると、今はそれより状況が悪い。
「なるほどな。女神がハズレと言うわけだ」
ダンジョンにいないと、なんの能力も無いのだから、あながち間違った発言ではなかったということか。
今まで、いかにフィオナ様のおかげで力を振るえていたか、改めて理解する。
魔王が所有しているダンジョン。その権利を借り受けて初めて有効となる加護なんて、本来なら使い道が無かったんだろう。
「探すしかないか……。帰り道を」
あるのは、不死鳥の羽が十枚。
残機がそれだけ残っている。ここから抜け出す前に、十一回死んだら俺の負けか。
途端に不安になってくるが、まずは動かないことには始まらない。
そう自分に言い聞かせるように、俺は見知らぬ洞窟を進むことにした。
◇
「ここにも、罠はない。それに待ち伏せしてるモンスターもとい昆虫人もいない」
どうなっているんだ?
こんなにも安全に進めるなんて、もしかして時間をかけて俺を仕留めるのを楽しんでいるのか?
それを、ピルカヤみたいに視界を共有して、みんなで楽しんでいるとか……だとしたら、今までの自分の行いが返ってきたというだけか。
文句は言うまい。ただ、黙ってやられるつもりもない。
「……誰か来るな」
それがわかったのは、偶然だった。
自分しかいない洞窟は、立ち止まっていると一気に音がなくなり、どこか冷たさを感じさせる。
そんな中、誰かが歩くような音が聞こえてきたのだから、いよいよか。と緊張してきた。
「一人……。二人」
たぶん、二人以上の足音だと思う。
まずいな。一対一でも勝てる見込みは薄いのに、複数いたらいよいよ殺されるぞ。
どこかに隠れてやり過ごすのがいいだろうが、万が一殺されたときに蘇生がバレないようにもしたい。
殺されてその場で生き返ってを繰り返して、無駄に羽を消耗したら終わりだからな。
「自爆できればなあ……」
どうせ命を消費するのなら、ロマーナみたいに自爆できればよかった。
……俺にもできないか? 魔力だけなら、ロマーナを上回ったことだし、うまくいけば昆虫人の将すら討ち取れるはずなんだが。
「隠れる場所はない。だとしたら、そこの曲がり角の死角に潜んで……」
すれ違い様に自爆してみよう。
向こうがこちらに気づく前に、できる限り見つかりにくい場所に……。
あとは、なんかうまい具合に魔力を内部で暴発させてみるか。
駄目だったら……死ぬだけだな。
足音だけが近付いてくる。
さすがに、緊張してきた。イドほどの脅威ではないのかもしれないが、騒がしくない分あの頃よりも心臓は鼓動を速める。
魔力の感覚はまだわからないが、普段から加護を使うときのようにすれば、なんとなく掴めそうではある。
よし……自爆してやるぞ。来るなら来い。
……止まった。
それも、俺が潜んでいる曲がり角のすぐ近くで。
気付かれたか? ちょっと距離はあるが、このまま自爆を……。
「えぇっ!? な、なんで!? レ、レイさん! ちょっと待ってください! 降参します! 時任芹香、降参します!」
……なんか、知ってる声だな。
耳に届く声、それは紛れもなく時任のものだった。
敵の罠の可能性もあるが、そっと様子を見てみることにしよう。
ただし、いつでも自爆はできるように、魔力には集中し続けながら……。
「……ボ、ボスだったか。いや、ボスまでここにいたのかい」
「よ、よかった~……。危うく全滅するところだったねぇ」
見た目は、時任とロペスだな。
本物か? 昆虫人、あるいは転生者の能力で化けていたり、幻覚でも見せられている可能性はないか?
やはり自爆してみるか? いや、本物だった場合、二人が死んじゃうから駄目か。
二人というか、俺も一回死ぬから三人だけど。
「レ、レイさん! 私、時任です!」
「うおっ! どうしたトキトウ。なんで、ここで急に自己紹介を?」
「……本物っぽいな」
「よし、今度こそ全員生き延びることができたみたいだよ!」
時任が急に変なことをするか言うときは、大抵選択肢の導きに従っているときだ。
今回も、俺が疑っているときに名前を叫んだというのは、俺の疑念が伝わったためだろう。
ここまでそれっぽいところを見ると、本物の可能性は高いと考えて良さそうだな。
「それで、二人はどうしてここに? 俺も状況がわからないから、わかっていることがあったら共有してくれ」
「もしかして、ボスも似たような状況なのか……。俺とトキトウは、気が付いたらここにいたんだ。一瞬の強い光に目を閉じたら、地底魔界から移動していた」
「となると、俺と同じ状況ってわけだ。あの残りの転生者の能力か? 強制転移みたいな力だとしたら、ここは昆虫人の住処の可能性が高いな」
「あ~……やっぱりそうなっちまうか」
転生者だけが拉致されたか、それとも魔王軍全体を分断して、各個撃破でも狙っている?
だとしたら、俺たちは戦闘力がないため、後回しにされてもおかしくないな。
「でも、レイさんがいるなら安心ですね! いつもみたいに、ぱぱっと」
「時任」
「はい、時任です」
「敵地の可能性があるから、あまり情報は漏らさないようにな」
「そうでした!」
そして、時任が何を期待しているもわかってしまった。
いつもみたいにということは、俺のダンジョンマスターの力さえあれば、この窮地を脱することができると思っているんだろう。
まいったな。頼られるどころか、俺が誰かを頼るしかない状況だというのに。
「それと、事情があって時任の期待には応えられない」
「も、もしかして……私とロペスくん、やっぱり不要になって捨てられました!?」
「捨てる……? 何の話だ?」
「気にしないでくれボス。たぶんトキトウは勘違いしている。そして、ボスの事情は俺はなんとなく理解できた」
ロペスがいてよかった……。
なんかとんでもない方向に飛躍した時任と違って、俺の状況を正しく理解してくれたようだ。
「しかしそうなると、せめてタケミあたりと合流したいな。同じように転移しているなら、の話だが」
「ああ、風間か原か世良。あのあたりの誰かと合流できたら、多少は戦闘も可能になる」
その発言を聞いたロペスが、ふと思い出したように尋ねてきた。
「なあボス」
「どうした?」
「トキトウが声をかけずに、あのまま俺たちが進んだ場合。俺もトキトウも、それとボスまで死ぬことになったらしいんだが……心当たりあるかい?」
「……」
あるな。
たしかに、あそこで時任が謎の降伏をしなかったら、成功するかは別として自爆していたからな。
「自爆しようとしていた」
「何してんだ、あんた!」
「いやあ、最善の手段を考えた結果、自爆しかないなって」
「ボスの行動、たまにとんでもないから予想できねえんだよなあ……」
俺なりにできることを考えた結果だったのだが、どうやらロペスには奇行ととらえられてしまったようだ……。