【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
『タケミ聞こえるか?』
「ロペス。ああ、聞こえる。今回は下手に動かないようにしておいたよ。レイさんたちに、助けてもらえるってことで良いんだよね?」
来た。やっぱり、レイさんが今回も助けてくれるみたいだ。
聞きなれたロペスの声に、このわけのわからない場所から抜け出せるとほっとする。
『あ~……。そのことなんだが、これは救助のための通信じゃない』
「え……?」
『俺たちも、お前たちと同じ状況なんだ。気付いたら知らない場所、おそらく昆虫人の巣にいた』
「ロペスたちも……たちってことは、他にも同じ状況の人が?」
クララさんかな?
それに、最近はクララさんと一緒にいるナツラさんも、もしかしたらここにいるかもしれない。
だとしたら、とても頼りになるし、案外悪い話でもないのかな。
しかし、次の言葉で僕たちが置かれた状況は、想定以上に悪いと知ることになった。
『ボスとトキトウが一緒だ』
「……レイさんまで?」
単なる事故で転移したと思っていたけれど、転移先が昆虫人の巣。
しかも、地底魔界で指示を出してくれていたレイさんが、今はこっちに来てしまっている。
まずいんじゃないかな……。
『とりあえず、合流するために動くから待っててくれ』
「わ、わかった……」
どうしよう。僕たちは揃って敵地で分断されているってことになる。
ここまでくると、これが昆虫人のしわざだということは察することができた。
敵意をもって自分たちの巣に転移させた、ということだ。
まずは、みんなと合流を……。そして、新と友香は僕がなんとしても守らないと。
大丈夫。レイさんが一緒ということは、むしろ地底魔界から指示をしてもらうよりも、力になってもらえるってことだ。
そうだよ。あの力で助けてもらえるのなら、とても頼りになるじゃないか。
◇
「というわけで、俺は自爆しかできない」
「や、やめてくださいね……」
風間たちとは、つつがなく合流できた。
俺たちと違って、すでに何人もの昆虫人の兵隊に襲われていたらしいが、そこは風間たち。
俺たちと違って、自分たちで戦って切り抜けるだけの実力を有していた。
そんな風間に、当然ながらダンジョンマスターとしての力を期待されたので、誤解を招かないように早めに伝えておいた。
すると、なんだかアナンタがよくする顔をしてしまった。
自爆。けっこう強いと思うんだけどなあ……。
「ああ、そうだ。世良がいるのなら、俺が自爆しても治せたり」
「ば、ばらばらに爆発しちゃった人までは無理です!」
無理かあ。さすがにそこまでの精度には到達していないらしい。
となると、やはり残機分だけの自爆と考えておこう。
「そういうことなら、私たちに任せてください。貴重な戦力として、がんばって虫退治しますから」
原の顔もややひきつっている。この戦法はお前らの先生の真似だぞ。
この三人、ロマーナの自爆戦法を見ていたら、きっとドン引きしていただろうな。
「ああ、ありがとう。期待している。……そうだ、三人に不死鳥の羽を」
「いりません。僕たちが死んだら見捨てて逃げてください」
「あ、でも後で蘇生してくれると助かるかなあ。なんて思っています」
「命を懸けて守った恩賞として、蘇生ってありですかね?」
お前らもか……。
なんか、覚悟決まりすぎじゃないか?
元人間の俺だからわかるが、もっと死を恐れるべきだと思うぞ。
しかしそうなると、ここで全滅しても最悪問題ない気もしてきたな。
全滅する。
俺たちの魂はプネヴマに地底魔界に回収される。
予備の蘇生薬で生き返る。
そこから、蘇生薬ガシャで全員生き返る。
……もういっそ、ここで自爆して全員死んでおくべきなのか?
いや、それは自暴自棄な行為っぽいし、やめておくか。
「そうだ。原がいるのなら魔法で火を起こせるだろうし、ピルカヤと連絡がつきそうだな」
「な、なるほど。その発想はありませんでした」
俺の言葉を聞いて、原はすぐに炎の魔法を使用した。
これを辿ってもらえれば、ピルカヤの分体が……。
「来ないな。ピルカヤ? 聞こえているか?」
当然ながら返事はない。見るからにただの炎だもんな。
もしかして、この場所がわかっていないからたどり着けない?
それとも、ピルカヤの力を阻害する結界でも張られているのか?
「ど、どうしましょうか。このまま、炎を放出し続けますか?」
「いや、原も貴重な戦力だ。無意味かもしれないことに魔力を割く余裕はない」
「わかりました。私たちだけで、なんとかここから出ないといけないんですね……」
そのための戦力は、風間と原と世良だけ。
そんな三人の負荷も消耗も、可能な限り減らしたほうが良いだろう。
「とはいえ、戦闘はなるべく避けたいから、時任には今後も定期的に選択肢を使ってもらうが、大丈夫か?」
「お任せください!」
「無理はしないようにな。負担が大きすぎる場合は、休んでもらったほうが効率が良い」
「それ、自爆前提に話していたレイさんが言いますか……」
俺は無理してないから。
できることを無理の無い範囲で、そうしたほうが生存率は上がるはずだ。
「大目標はここからの脱出だけど、小目標として、まずは奥居を探したいかな」
「オクイもここにいるのかい? ボス」
「確証は無いけど、転移したのが戦闘に不向きな者って考えると、可能性は高いと思う」
というよりも、転生者だけが転移させられた可能性が高そうだ。
このメンバーになら言っても良かったけど、どうやら俺を転生者だと思っていないようなので、なんとなくごまかした理由になってしまった。
「なるほど……タケミにハラにセラは、まだ実戦経験が足りていない。それ以外はボス含めて戦闘職じゃないもんな」
「ああ、俺は今回特に役に立てない状況だし」
ダンジョンマスターがない俺なんて、お荷物にならないように必死についていくしかない。
……そんな俺が、こうして偉そうに指示を出して良いのか?
いや、俺は宰相だ。ここで弱気なことを言ったら、みんなが不安になるか。
「うぬぬ……選択肢~。江梨子ちゃんがピンチだよ~。助けて~。選択肢~」
「まだ、ピンチと決まったわけじゃねえけどな」
「そもそも、奥居の能力ならそうそうやられないと思う」
というか、その気になれば発見すら困難だぞ。
物質透過を使えば、壁や地面に隠れられるからな。
とはいっても、大切な友人のピンチのためか、時任は必死に能力に話しかけていた。
……こいつの能力、なんか相棒みたいな扱いされてるよなあ。
「わかりました!」
「オクイと合流できそうかい?」
「うん! あっちに進んで、地面を掘れば会えるって!」
「オクイって、モグラの獣人だっけ……?」
猫のはずだ。猫らしさは特に発揮していないけどな。
まあ、時任は時任でウサギらしさを発揮していないし、そういうものなんだろう。
「それじゃあ、がんばって江梨子ちゃんを掘り起こしましょう!」
「なんか一気に、発掘隊みたいになってきた」
「江梨子ちゃん発掘チームですね!」
友人の扱いそれで良いのか。時任よ……。
彼女に悪気は当然ないし、必死なのはわかるけど扱いが人間や獣人ではなく、石器とかと同じだ。
◇
「それにしても時任さんの能力すごいね……。僕たちがあれだけ昆虫人と戦ったのが嘘みたいに、まるで出くわさずに進んでいる」
「この子もやるときはやるんだよ!」
時任は、自分の事というよりは、他人事のようにそう返した。
きっと、手柄の全ては選択肢自身だと考えているんだろう。
俺もその気持ちはよくわかる。
「それで、この部屋にオクイがいるんだよな?」
「うん! 埋まった江梨子ちゃんが、部屋の中央にいるって! みんなで掘り起こしてあげないと!」
「いらないわよ!」
あ、奥居が出てきた。
そりゃあいらないだろうな。自分の能力で潜っていただけなんだから。
「あれ? 江梨子ちゃん、自力で出てこれたの? よかった~」
だが、時任はなんか途中から勘違いしていたのか、素直に奥居の地中からの脱出に喜んでいる。
本気でそう思っているため、奥居もそれ以上時任に何か言うことはできないようだ。
「ええと……。あ、レイさんもいるんですね。よかった。迎えに来てくれたんですか?」
……そして、風間たちもそうだったが、俺を見て安心されるのはとても心苦しい。
また、俺がこの中で一番役立たずだと申告しないといけないのか。
「悪いが、今の俺は自爆しかできない」
「あ、あの……。事情はわかりませんが、それはやめたほうが良いと思います」
そして誰一人として、俺の唯一のできることを許してはくれなかった。
羽を配ることも許されない。自爆も許されない。まいったな、なにか役立てることはないものか。
「リピアネムでも呼べないかな」
「たしかに、リピアネムの姐御はボスが呼んだら駆けつけるが、さすがにここでは無理だと思うぜ……」
「だよなあ」
ピルカヤすら返事ができないような場所だし、敵地に一人で突貫はしてこないだろう。
やっぱり、俺たちだけでなんとか脱出する必要があるな。
あとは……これで全員かどうか、そこも問題か。
今まで合流できたのは、俺を含めて全員転生者だ。
だけど、無差別に転生者だけを転移させる、なんて能力はあるのか?
なにか条件をつけて転移させるにしても、他に共通点でもあるんじゃないだろうか?
やっぱり、非戦闘職ということだろうけど、それはそれで風間たちが少し引っかかるな。
一定以下のステータスの者を転移させたのか?
自分たちより弱い相手だけを転移させる、という能力だった場合、今の状況はかなりの窮地だと考えておくべきだろうな……。