【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「ピルカヤ。可能な限り分体を作成し、地下を徹底的に調べなさい。戦闘能力は不要です。まずは、レイを探し出すことを最優先としなさい」
「了解です」
「ダスカロス。ピルカヤが情報を得られない場所から、昆虫人の巣を探します。手伝いなさい」
「承知しました」
「プリミラ。地底魔界から消えた者は、レイと転生者だけですね?」
「はい。間違いありません」
淡々と、意外なほど冷静に指示を出している。
なるほど。これが本来の魔王様なのだろう。
いや、こちらも本来の魔王様というべきか。
普段の魔王様は、レイ様のおかげで生み出されたもう一つの顔なのかもしれない。
「クララ。ロペスが消えた状況は、レイと同じでしたか?」
「は、はい」
この状況の魔王様に話しかけられると、さすがに緊張してしまう。
威圧や魔力による負荷などはない。
だが、あまりにもなにもないのが、かえって恐ろしい。
それこそ、昆虫人たちのように、無感情に淡々と処理しているかのようだ。
「転移魔法にしても、ここまでのことは無理ですね。おそらく転生者の能力ということでしょう」
「ええ。同じタイミングで昆虫人も転生者も消えたため、目的はこちらの人材の転移ということになるかと」
従業員も無事なことを考えると、きっと転生者の力を求めたのだろう。
現に、昆虫人たちは、転生者を複数引き連れて攻め入ってきた。
そこで失われたのはきっと向こうにも想定外だっただろうけれど、だからこそ余計に補充したかったんだろうね。転生者を。
……ということは、レイ様は転生者なのかな?
それとも、戦闘能力がなくて有益な能力があるものであれば、無関係にさらった?
「全員待機しておきなさい。ピルカヤが戻り次第、次の行動を考えます」
そう言って玉座に座る魔王様は、まさしく魔王にふさわしい姿だった。
話しかけることすらはばかれるほど、レイ様がいるときの魔王様とはまるで別人のように見える。
無理もないか……。そのレイ様がさらわれたのだから、激昂してもおかしくないからね。
これで、もしも無事に戻ってこなかったその時は……世界が滅びるかもしれない。
私は、冗談抜きにそう思えて仕方がなかった。
◇
「さすがに、自分以外は無理か」
「す、すみません。こんなことなら、もっと加護を鍛えておけば」
「いや、気にしないでくれ。何度も言うがないものねだりしても仕方ない。少なくとも、俺より役立てるだろうし」
「俺の解錠も役に立たないぜ。それに比べたらオクイの力は、かなり有益だろう」
ロペスはロペスで、脱出する際に鍵開けの仕事がありそうだけどな。
となると、俺はやはりこの魔力で何かできればいいのだが。
「とりあえず、時任の選択肢で危機察知。奥居に進む先を偵察してもらって、万が一戦闘が発生したときは風間と原と世良に対処を頼みたい」
「了解です!」
時任をはじめ、みな俺の提案に二つ返事で頷いてくれた。
信頼がありがたくもあり、緊張も少しある。
宰相として、なんとしても全員で帰還しないとな。
……俺にできることが指示だけというのもあれだし、やはり自爆の準備はしておこう。
「ボス、俺も戦力外だから、変に覚悟決めないでくれよ?」
「自爆もか?」
「むしろ、自爆のことしか言ってねえつもりなんだけど……」
なんかアナンタに似てきたな。ロペスのやつ。
こっちも、よほどのことがないと使わないつもりなのに、なんとも信用のないことだ。
「むむむ! 選択肢全部が昆虫人です!」
「一番数が少ない……いや、一番安全に切り抜けられる選択肢は?」
「えっと……こっちです! 風間くんたちに、戦ってもらうことにはなりそうですが……」
「任せてくれ。みんなのことは、僕たちが守るから」
戦闘は避けられないが、被害なく切り抜けられるとわかるのはありがたい。
風間たちには負担をかけて悪いが、なんとか勝利してもらおう。
兵隊を各個撃破するぶんには、風間たちならば問題ないはずだ。
そしてこれだけ戦っても兵隊の増援が来ないということは、危惧していた監視も存在しないだろう。
問題があるとすれば、昆虫人の将か女王、あるいは転生者だな……。
◇
「なんとか倒せたけど、これって兵隊というか、一番弱い昆虫人なんですよね?」
「ああ。ダンジョンによく来ていた兵隊だな。これとは別に、ちゃんと意思がある将がいる」
「将が彼らより強いのなら、危険かもしれません」
「勝てないか」
「はい。残念ながら……」
風間自身も、ちょうど先ほど俺が考えていたのと同じ答えにたどり着いたようだ。
まあ、兵隊を倒せるだけでもありがたいけどな。
時任に選択してもらうことで、なんとか将以上に出くわさないように進むしかない。
「友香って、魔法の爆弾みたいなの作れないかしら?」
「え? 爆破魔法ならできるけど、道具みたいなのはテクニティスさんでもいないと無理ね」
「そう……。壁の中から爆弾でも投げれば、私でも役に立てるかと思ったんだけど……」
「江梨子ちゃん、たまに変なこと言うよねぇ」
奥居って、もっと常識人かと思っていたんだけどな。
たまに、俺側の人間になる時がある気がする。
というか、最終的になんで俺のほう見てるの?
……俺のこと、魔族爆弾だと思ってる?
「……投げるか?」
「いえ、さすがにレイさんを投げるわけには……」
「そもそも、オクイの能力ボスや俺たちには適用できねえだろ」
できたらやったのかな?
奥居の場合、どっちかわからないんだよなあ。
◇
「不便ね」
自分の巣だというのに、状況がつかめないというのはどうなのかしら?
こんなとき、四天王のピルカヤみたいな能力があれば、と思ってしまう。
その手の転生者はいなかったのよね。
だから、使い捨ての兵隊で連絡を取らせているんだけど、ちょっと消耗しすぎたみたい。
「九番は、ちゃんと能力を使っているでしょうね?」
あの、ホームグラウンドとかいうふざけた名前の加護。
名前はともかく、とある一つの懸念のためには、とても助かる力。
「ええ。私たちの巣の中において、他者が勝手に発生させた火や水は、いかなる能力にも利用できません」
「そう。なら、万が一あの転生者たちが魔王軍とつながっていたとしても、ピルカヤは来れないわね」
私たち自身は、火を扱わないよう徹底しているからね。
もしもあいつらが、勝手にこの巣の中で火を起こしたとしても、それはあいつらが作った外部の火。
その権利がないのであれば、ピルカヤだって手出ししようがない。
あんなのがやってきたら、たまったものじゃないからね……。
それなら一安心といったところかしら。
あとは、さっさと転生者たちを捕まえたいところなんだけど。
「転生者は、たしかに転移させたのよね?」
「はい。七番と八番の能力で、私たちと敵地の転生者を転移させました」
八番の能力は転移。
あの女神のように、世界をまたいだ転移まではできない。
それに、どこでもというわけでもない。
あくまでも、自分が認識している対象を、自分の拠点として設定した場所に転移するだけ。
だから、外からここに帰るためにしか使えない。
「七番の条件指定は?」
だから、七番と組ませて行動させた。
七番の能力は、察知。
アイテムやモンスターや人間。あらかじめ条件を定めて能力を使うことで、対象の場所にそれらがいくつ存在するかを認識し、共有する。
あくまでも数となんとなくの存在がわかるだけで、場所こそわからないけれど、八番との相性がちょうどよかった。
七番がダンジョン内の対象の人数を八番に認識させることで、八番はそれらを転移対象にできる。
つまり、条件に指定したあらゆる存在を、私たちの巣に持ち帰れるということ。
効果範囲があるから、ダンジョンの奥まで進まないといけなかったし、そのために転生者まで失ってしまった。
だけど、今回さらった分で帳尻が合うならそれでもいいわ。
「七番には、こちらの将より弱く、それでいてダンジョンの施設の責任者である者たちを察知させました」
「そう。それなら問題なさそうね」
単純に、転生者を察知とか、女神の加護を持つものを察知とかにしたかった。
だけど、それは条件に指定できないらしいから、七番の能力はかなり使い勝手が悪いらしい。
もしかしたら、現地民も回収してしまう可能性があるけれど、将より弱いなら問題ないわね。
「それで、八番はどこに転移させたの?」
「巣の中のどこか、ではあるのですが……」
こっちはこっちで使い勝手悪いわねえ。
拠点への転移と言えば便利そうだけど、拠点のどこに転移するかはランダムなのだから。
狭い拠点にでもすれば良かったのかしら?
好き勝手作った巣は、複雑かつかなりの広さだからね。
「まあ、仕方ないわ。ここからは、危険な敵もいないことだし、ゆっくりと探しましょ」
「はい。将と兵隊たちに巣の中を探させています。今しばらくお待ちください」
……ついでだから、暇な転生者たちも使っておこうかしら。
あの暑苦しいの。他と違って、支配されていてなお鬱陶しいやつとか。
どうせ暇でしょうし、弱い相手だから返り討ちにされる危険ももうない。
「転生者も使いなさい。今度は守ってやる必要もないわ」
「承知いたしました。では、コンビで行動させましょう」
まあ、あんなのでも数合わせくらいにはなるはずよね。