【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第402話 シェフの気まぐれエンカウント

 ついに恐れていたことが起こってしまった。

 時任の顔が青ざめたのを見て、俺はそれを理解してしまう。

 

「レ、レイさん! どの選択肢も、昆虫人の将と遭遇と出ています!」

 

「一番数が少ないところはわかるか?」

 

「え、えっと、大雑把にでしたら……」

 

 分かれ道五つ、後退、待機。選択肢は六つ。

 その中で最も数が少ないのは、おそらく行き止まりの道。

 だが、そこは先に進むこともできない選択肢だ。

 やり過ごせるなら良いが、逃げ場が無くなったうえで増援と戦い続ける可能性もある。

 

「……となると、こっちの道を進むしかないな。相手は二人、ちょっと厳しいな」

 

「な、なんとかやってみせます!」

 

 風間たちはそう言ってくれるが、はっきり言って普通に戦って勝てるとも思えない。

 そりゃあ十魔将たちより弱いけれど、転生者と組むことで超位モンスターすら苦戦させた相手なのだから。

 

「奇襲で一気に仕留めるとか、何かやり方を変えないとな」

 

「いっそ、隠れてやり過ごしてみるかい?」

 

「俺たちを探しているのだとしたら、隠れても見つかりそうだ」

 

 何より、時任の選択肢に隠れるという案が無いのだから、きっと結局は見つかってしまうのだろう。

 なら、半々で何とかするか。

 

「風間たちは隠れてくれ。とりあえず、俺たちが囮になる」

 

「ボス。いくらなんでも、あんたが囮に……俺たち?」

 

「俺とロペスだな。相手は将なんだろ? 会話ができるなら、ついでに色々と聞いておこうじゃないか」

 

「そういうことなら付き合うぜ。つまり、俺たちは会話で隙を作って、タケミたちが奇襲するわけだ」

 

「奥居が地面に潜っておいて、合図をしたら足を掴むとかも効果的かもな」

 

 地面や壁に埋まっているときは、何も見えないらしいので合図は必要になるが、ここぞというときに助けてもらいたい。

 

「わ、わかりました。位置とタイミングさえ教えてもらえたら、なんとかしてみます」

 

「レイさん、私はどうしますか!」

 

 気合を入れながら時任が尋ねてくるが、悪いが時任だけは待機だ。

 

「時任はできるだけ安全な場所に隠れて、常に選択肢で最良の行動を探り続けてくれ。俺たちが行動することで、結果が変わるかもしれないからな」

 

「わかりました! 頼んだよ、選択肢!」

 

 さて、できることなどこの程度だ。

 あとはなんとかこの場を切り抜けられることを祈りつつ、最悪の場合は俺が責任を取らないとな。

 体内の魔力の循環を感じながら、軽く乱してみながら、俺は最悪の場合に備えて軽く練習しておいた。

 

    ◇

 

「見つけた。こんなところにいたのか、転生者……魔族? どうなっている。なんで、魔族が混ざっているんだ」

 

 昆虫人の将は、やはり会話も思考もできているらしい。

 ロペスを見て、やや疲れたように転生者と口にしていたが、俺を見ると少し不思議そうにしていた。

 

 そうか、転生者を拉致して自分たちの戦力に加えようとしていたか。

 そのあたりは、だいたい予想通りだな。

 俺が転生者でないと思っているあたり、転生者のみを転移させたという自信も無さそうではあるが。

 ついでに、魔族の転生者という発想は、やはり無いらしいな。

 

「なんで、とは随分だな。こっちもいきなりこんな場所にいて迷惑しているんだ。用がないなら帰らせてくれ」

 

「……いや、転移の対象として選ばれたというのなら、お前、欲望のダンジョンのいずれかの施設の責任者なのだろう?」

 

 それが転移対象の条件か?

 たしかに、うちの転生者たちは全員なんらかの施設を管理しているが……。

 それなら、マギレマさんやロマーナもここにいるということか?

 いや、さすがにそんな強敵を内部に招くような真似はしないか。

 おそらく、それ以外に条件が設定されていると見たほうが良さそうだな。

 

 ……たとえば、自分たちより弱いとか。

 それなら、逆らわれても最悪力ずくで対応できるし、強い転生者なんてうちにきたヒーローとヨハンくらいだからな。

 たしかに、転生者を釣れる可能性が高そうだ。

 

「目的は施設の責任者なのか?」

 

「いや……そういうわけではないが、あてが外れたようだな」

 

 当たっていることは言わないでおこう。

 そもそも、ダンジョンにいない俺なんて転生者としての力は何もないし。

 

「じゃあ、帰りたいんだが。俺は巻き込まれただけだろ?」

 

 ロペスを売ろうというわけじゃない。

 それはわかっているようで、ロペスもその発言を聞いて焦る様子は見せなかった。

 これが時任あたりなら、大いに動揺していた気がする。

 というか、この発言を聞いて人知れず焦っている気がする。

 嘘だから。別にお前らを見捨てるわけじゃないから、選択肢、ちゃんとそう伝えてくれよ。

 

「そういうわけにもいかない。まずは、女王様に会ってもらう。話はそれからだ」

 

 自爆チャンスか!?

 俺たちが無抵抗だからか、昆虫人の将たちとは比較的まともに話ができている。

 

「隣の男が転生者というのなら、俺には用はないんだろ?」

 

「ついでだ。人手はいくらでもいる。魔族でも、最低限の雑用くらいはできるだろ」

 

 それこそ兵隊に任せればと思わなくもないが、言葉にはしない。

 こちらがそんなことを知っていると不自然だろうしな。

 

 機械的に動くだけでなく、自己判断できる雑用が本当に必要な可能性もあるが、とりあえず逃さないためという考えのほうが大きそうだ。

 

「逆らったら力ずくで従わされるのか?」

 

「さすがは魔族だな。力の差くらいはわかるのか。無駄な抵抗が無いほうが、俺たちも楽で助かる」

 

 ……わりと会話はできていたが、それはこちらが無抵抗だからというだけみたいだ。

 下手に逆らったら、それこそ手荒く連れて行かれそうだな。

 

「なあ、転生者を集めて何がしたいんだい? 俺の女神の加護って、鍵を開けるだけで何にも役に立てそうにないんだが」

 

「鍵開け……。いや、どんな加護だろうが、女王様なら何かしら活用手段を思いつくだろう。お前も抵抗するなよ? 殺す気は無いが、それ以外は約束する気もない」

 

 女王様か。

 やっぱり、昆虫人の女王とやらが兵と将と転生者を編成しているのか。

 であれば、加護同士の組み合わせもできていたし、わりと厄介な敵っぽいな。

 

 だが、こうして協力者を求めているにしては、うちに来た転生者はヒーロー以外の様子がおかしかった。

 常に無感情で、まるで心が無いかのようだったよな。

 ……女王とやらが、思考の毒でも注入しているんじゃないか?

 会った途端に、まともに何かを考えられなくされそうだな……。

 

「仕方ない……。怪我はしたくないし、ついていくよ」

 

「それが良い。戦うことはかまわないが、無駄な時間は費やしたくないからな」

 

 降参しておく。

 ここで抵抗したら、警戒心を引き上げるだけだろう。

 目的を達成したと思い、気を緩ませてもらえば、風間たちも奇襲がしやすいはずだ。

 

 敵は二人。

 俺とロペスは、手を縄みたいなもので縛られている。

 それらの縄の先は、二人の昆虫人が掴んでいる。

 一見すると逃げられないが、昆虫人たちの片手も塞がっているな。

 

「で、どこに向かえば良いんだ? ここは複雑すぎて、すっかり迷っていたんだけど」

 

「だろうな。俺たちだって、全貌を理解できていない。わかっているのは、女王様くらいだ」

 

 どおりで、兵隊も将もバラついているわけだな。

 やはり、本人たちも把握しきれていなかったか。

 

「ついてこい。こっちだ」

 

 そう言った昆虫人が向かったのは、彼らがやって来た方角であり、俺たちが進もうとしていた方角だった。

 ……奥に進んでしまっていたか。

 逆に進んだ場合の昆虫人との戦闘回数は、かなり増えてしまっていたのでこちらに来ていたのだが。

 

 まあいい。彼らが来た道を引き返すということは、俺たちに背を向けているということだ。

 ある程度油断させ、背中を向けて、片手も塞がっている。

 これ以上は無いだろう。

 

「前に5メートル」

 

 足で地面を鳴らす。

 同時に、風間とロペスから預かっていた通信アイテムで、奥居が潜んでいた場所から大まかな距離を告げる。

 これで最低限の位置はわかるはずだ。

 

 目測にすぎないが、普段からダンジョンを構築しているため、施設や罠の距離等を測るのはそれなりに得意だし、的外れでもないだろう。

 それを証明するように、昆虫人の足を猫獣人の手がしっかりと掴んでいるのが見えた。

 

「やぁっ!!」

 

 それとほぼ同じタイミングだ。

 奥居の行動を見てからでは間に合わないし、きっと奥居を信じて動いたのだろう。

 風間の奇襲は見事に昆虫人の背中を斬り裂くことに成功していた。

 

「なっ……。お、お前ら……」

 

 その隣で、もう一人の昆虫人の背中が爆ぜる。

 風間にも当たりそうだけど、大丈夫なのかな? あれ。

 

「……とりあえず、やったみたいだな」

 

 二人の昆虫人は倒れていた。

 さすがに兵隊よりも頑丈らしいが、あそこまで油断した状態で不意を突かれると、なかなか脆いもののようだ。

 

 奥居に急に足をつかまれ、下を見ている間に背中を攻撃され、彼らはろくに戦うこともできずに倒れてくれた。

 ……これが通じるのもどこまでだろう。

 同じ手段で倒せるかわからないし、そもそも油断してくれないかもしれない。

 三人以上来た場合は、動きも止められない。

 ……やはり、なるべく遭遇しないのが一番なんだろうなあ。

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