【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
ついに恐れていたことが起こってしまった。
時任の顔が青ざめたのを見て、俺はそれを理解してしまう。
「レ、レイさん! どの選択肢も、昆虫人の将と遭遇と出ています!」
「一番数が少ないところはわかるか?」
「え、えっと、大雑把にでしたら……」
分かれ道五つ、後退、待機。選択肢は六つ。
その中で最も数が少ないのは、おそらく行き止まりの道。
だが、そこは先に進むこともできない選択肢だ。
やり過ごせるなら良いが、逃げ場が無くなったうえで増援と戦い続ける可能性もある。
「……となると、こっちの道を進むしかないな。相手は二人、ちょっと厳しいな」
「な、なんとかやってみせます!」
風間たちはそう言ってくれるが、はっきり言って普通に戦って勝てるとも思えない。
そりゃあ十魔将たちより弱いけれど、転生者と組むことで超位モンスターすら苦戦させた相手なのだから。
「奇襲で一気に仕留めるとか、何かやり方を変えないとな」
「いっそ、隠れてやり過ごしてみるかい?」
「俺たちを探しているのだとしたら、隠れても見つかりそうだ」
何より、時任の選択肢に隠れるという案が無いのだから、きっと結局は見つかってしまうのだろう。
なら、半々で何とかするか。
「風間たちは隠れてくれ。とりあえず、俺たちが囮になる」
「ボス。いくらなんでも、あんたが囮に……俺たち?」
「俺とロペスだな。相手は将なんだろ? 会話ができるなら、ついでに色々と聞いておこうじゃないか」
「そういうことなら付き合うぜ。つまり、俺たちは会話で隙を作って、タケミたちが奇襲するわけだ」
「奥居が地面に潜っておいて、合図をしたら足を掴むとかも効果的かもな」
地面や壁に埋まっているときは、何も見えないらしいので合図は必要になるが、ここぞというときに助けてもらいたい。
「わ、わかりました。位置とタイミングさえ教えてもらえたら、なんとかしてみます」
「レイさん、私はどうしますか!」
気合を入れながら時任が尋ねてくるが、悪いが時任だけは待機だ。
「時任はできるだけ安全な場所に隠れて、常に選択肢で最良の行動を探り続けてくれ。俺たちが行動することで、結果が変わるかもしれないからな」
「わかりました! 頼んだよ、選択肢!」
さて、できることなどこの程度だ。
あとはなんとかこの場を切り抜けられることを祈りつつ、最悪の場合は俺が責任を取らないとな。
体内の魔力の循環を感じながら、軽く乱してみながら、俺は最悪の場合に備えて軽く練習しておいた。
◇
「見つけた。こんなところにいたのか、転生者……魔族? どうなっている。なんで、魔族が混ざっているんだ」
昆虫人の将は、やはり会話も思考もできているらしい。
ロペスを見て、やや疲れたように転生者と口にしていたが、俺を見ると少し不思議そうにしていた。
そうか、転生者を拉致して自分たちの戦力に加えようとしていたか。
そのあたりは、だいたい予想通りだな。
俺が転生者でないと思っているあたり、転生者のみを転移させたという自信も無さそうではあるが。
ついでに、魔族の転生者という発想は、やはり無いらしいな。
「なんで、とは随分だな。こっちもいきなりこんな場所にいて迷惑しているんだ。用がないなら帰らせてくれ」
「……いや、転移の対象として選ばれたというのなら、お前、欲望のダンジョンのいずれかの施設の責任者なのだろう?」
それが転移対象の条件か?
たしかに、うちの転生者たちは全員なんらかの施設を管理しているが……。
それなら、マギレマさんやロマーナもここにいるということか?
いや、さすがにそんな強敵を内部に招くような真似はしないか。
おそらく、それ以外に条件が設定されていると見たほうが良さそうだな。
……たとえば、自分たちより弱いとか。
それなら、逆らわれても最悪力ずくで対応できるし、強い転生者なんてうちにきたヒーローとヨハンくらいだからな。
たしかに、転生者を釣れる可能性が高そうだ。
「目的は施設の責任者なのか?」
「いや……そういうわけではないが、あてが外れたようだな」
当たっていることは言わないでおこう。
そもそも、ダンジョンにいない俺なんて転生者としての力は何もないし。
「じゃあ、帰りたいんだが。俺は巻き込まれただけだろ?」
ロペスを売ろうというわけじゃない。
それはわかっているようで、ロペスもその発言を聞いて焦る様子は見せなかった。
これが時任あたりなら、大いに動揺していた気がする。
というか、この発言を聞いて人知れず焦っている気がする。
嘘だから。別にお前らを見捨てるわけじゃないから、選択肢、ちゃんとそう伝えてくれよ。
「そういうわけにもいかない。まずは、女王様に会ってもらう。話はそれからだ」
自爆チャンスか!?
俺たちが無抵抗だからか、昆虫人の将たちとは比較的まともに話ができている。
「隣の男が転生者というのなら、俺には用はないんだろ?」
「ついでだ。人手はいくらでもいる。魔族でも、最低限の雑用くらいはできるだろ」
それこそ兵隊に任せればと思わなくもないが、言葉にはしない。
こちらがそんなことを知っていると不自然だろうしな。
機械的に動くだけでなく、自己判断できる雑用が本当に必要な可能性もあるが、とりあえず逃さないためという考えのほうが大きそうだ。
「逆らったら力ずくで従わされるのか?」
「さすがは魔族だな。力の差くらいはわかるのか。無駄な抵抗が無いほうが、俺たちも楽で助かる」
……わりと会話はできていたが、それはこちらが無抵抗だからというだけみたいだ。
下手に逆らったら、それこそ手荒く連れて行かれそうだな。
「なあ、転生者を集めて何がしたいんだい? 俺の女神の加護って、鍵を開けるだけで何にも役に立てそうにないんだが」
「鍵開け……。いや、どんな加護だろうが、女王様なら何かしら活用手段を思いつくだろう。お前も抵抗するなよ? 殺す気は無いが、それ以外は約束する気もない」
女王様か。
やっぱり、昆虫人の女王とやらが兵と将と転生者を編成しているのか。
であれば、加護同士の組み合わせもできていたし、わりと厄介な敵っぽいな。
だが、こうして協力者を求めているにしては、うちに来た転生者はヒーロー以外の様子がおかしかった。
常に無感情で、まるで心が無いかのようだったよな。
……女王とやらが、思考の毒でも注入しているんじゃないか?
会った途端に、まともに何かを考えられなくされそうだな……。
「仕方ない……。怪我はしたくないし、ついていくよ」
「それが良い。戦うことはかまわないが、無駄な時間は費やしたくないからな」
降参しておく。
ここで抵抗したら、警戒心を引き上げるだけだろう。
目的を達成したと思い、気を緩ませてもらえば、風間たちも奇襲がしやすいはずだ。
敵は二人。
俺とロペスは、手を縄みたいなもので縛られている。
それらの縄の先は、二人の昆虫人が掴んでいる。
一見すると逃げられないが、昆虫人たちの片手も塞がっているな。
「で、どこに向かえば良いんだ? ここは複雑すぎて、すっかり迷っていたんだけど」
「だろうな。俺たちだって、全貌を理解できていない。わかっているのは、女王様くらいだ」
どおりで、兵隊も将もバラついているわけだな。
やはり、本人たちも把握しきれていなかったか。
「ついてこい。こっちだ」
そう言った昆虫人が向かったのは、彼らがやって来た方角であり、俺たちが進もうとしていた方角だった。
……奥に進んでしまっていたか。
逆に進んだ場合の昆虫人との戦闘回数は、かなり増えてしまっていたのでこちらに来ていたのだが。
まあいい。彼らが来た道を引き返すということは、俺たちに背を向けているということだ。
ある程度油断させ、背中を向けて、片手も塞がっている。
これ以上は無いだろう。
「前に5メートル」
足で地面を鳴らす。
同時に、風間とロペスから預かっていた通信アイテムで、奥居が潜んでいた場所から大まかな距離を告げる。
これで最低限の位置はわかるはずだ。
目測にすぎないが、普段からダンジョンを構築しているため、施設や罠の距離等を測るのはそれなりに得意だし、的外れでもないだろう。
それを証明するように、昆虫人の足を猫獣人の手がしっかりと掴んでいるのが見えた。
「やぁっ!!」
それとほぼ同じタイミングだ。
奥居の行動を見てからでは間に合わないし、きっと奥居を信じて動いたのだろう。
風間の奇襲は見事に昆虫人の背中を斬り裂くことに成功していた。
「なっ……。お、お前ら……」
その隣で、もう一人の昆虫人の背中が爆ぜる。
風間にも当たりそうだけど、大丈夫なのかな? あれ。
「……とりあえず、やったみたいだな」
二人の昆虫人は倒れていた。
さすがに兵隊よりも頑丈らしいが、あそこまで油断した状態で不意を突かれると、なかなか脆いもののようだ。
奥居に急に足をつかまれ、下を見ている間に背中を攻撃され、彼らはろくに戦うこともできずに倒れてくれた。
……これが通じるのもどこまでだろう。
同じ手段で倒せるかわからないし、そもそも油断してくれないかもしれない。
三人以上来た場合は、動きも止められない。
……やはり、なるべく遭遇しないのが一番なんだろうなあ。