【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「くそっ! なんでこんなモンスターが!!」
順調だ。
「転生者は!? 私たちだけでは対処できないぞ!」
順調に倒せている。
だからこそ、なにか見落としているような不安がある。
それでも今は、とにかく戻るしかない。
「順調だな。ボス」
何度目かわからない戦闘が終わるが、ロペスの言うとおり、いまだにケルベロスのおかげで圧倒的に有利に戦えている。
ただ、やはりと言うべきか、あまりにも狭い戦場のせいで、この子のポテンシャルは発揮しきれていない。
まず回避ができない。窮屈そうに巣の中を移動している姿からもわかるが、この子が攻撃を避けられるほどのスペースなどない。
そのため、いくらか攻撃を受けてしまっている。
世良が結界で防御してくれたり、傷を即座に回復してくれているが、彼女の魔力もそろそろ底を尽きそうだ。
次に、これもやはり狭いという単純な理由ではあるが、攻撃もかなりしづらそうに見える。
豪快な動きで相手に襲いかかるのがこの子のやり方。
しかし、この狭い場所ではやはり自由に動けない。
襲いかかろうとするも壁や天井に激突することで、勢いが削がれたりこの子自身に衝撃が返ったりしている。
「将といえど、超位モンスターなら倒せるか……?」
だが数が集まったらどうだ?
そして、やつらが言うように転生者と組んだときは?
うちに侵入していた昆虫人の部隊は、転生者と組むことで最大限の力を発揮していた。
そして、ケルベロスはそれに翻弄されてしまっていた。
あのときよりも戦いにくいこの場所だと、ともすれば敗北すらあり得る。
「レ、レイさん。選択肢で見てみましたけど、やっぱり後ろは一番敵が多いです」
「だけど、出口はこっちだからな……。選択肢で、全滅するという結果が出ないうちは、無理にでも戻らないと」
選択肢で、敵が少ない場所を進んだのは良いものの、それは出口とは真逆の方角だった。
俺たちの居場所まではわからないけれど、逃がすことだけはないように、出入口に人数を固めているということだろう。
それに気付けずに、まんまと敵地の奥まで進んでしまったのは俺の失態だ。
だから、今度は多少のリスクを覚悟してでも、逃げるために戻らなくてはならない。
奥に進んで、女王を倒すという方法もあるにはあるが……。
戦力が追加された今、敵を巻き込んで自爆という、勝機の薄い賭けに挑む必要はない。
「敵が集まる前に、できるだけ戻ろう」
全員反論することもなく、ついてきてくれている。
俺の判断ミスで、余計に歩かなくてはいけなくなっているのに、申し訳ないことだ。
「でも、将が少しだけならケルベロスちゃんが何とかしてくれますよね!」
時任のそんな励ましの言葉が、今はどうにも不吉な気がしてならなかった……。
◇
「私のせいかなぁ!?」
「いや、どの道こうなるのは仕方なかった」
今度の昆虫人たちは、それこそ俺たちのダンジョンに侵入していた一部隊ほどの数だった。
これまでの突発的な遭遇戦とは違い、苦戦が想定されるほどの人数。
それだけでも辛いのに、よりによってこいつか……。
「観念しろ悪党ども! ヒーローたる俺が、お前たち悪を討つ!」
「……」
転生者だ。それも二人。
片方は、超位モンスター相手に敗北しないほどの実力者。
一撃でモンスターを殺すとか、味方を補助して部隊で戦うようなやつではなく、それ単体で戦闘能力が高い者。
そいつが、昆虫人たちの部隊の最前線で、俺たちを指さし高々と叫んでいる。
「私たちが悪だって! レイさん! 言い返しましょう!」
「いや、わりと悪党なのは間違いないから、言い返せないかなあ」
「むっ! 非を認められるのは良いことだ! であれば、投降するが良い! どんな悪党でも、やり直すことはできるはずだ!」
暑苦しいリピアネムみたいなやつだなあ。
根が善か悪かはわからないが、とにかく純粋な男なんだろう。こいつは。
「投降したら、奴隷か洗脳か、ろくな目に遭わないんじゃないのか?」
それは、こいつ以外の転生者の姿から容易に想像できることだ。
現にお前の隣にいる転生者とか、一言も言葉を発していないじゃないか。
それを許容しているあたり、こいつはこいつである程度の犠牲には目をつむるタイプのヒーローということだろう。
「俺を見ればわかるとおり、そんなことはないぞ!」
「いや、お前以外は感情が消えたようだったぞ。兵隊のように感情を消されているんじゃないのか?」
「なにっ!? どおりで無口なやつらだと思っていたんだ!」
……まさか、気付いていなかったのか?
単にそういう性格だと思っていた? 本当に?
「よし、わかった! ならば、女王に話をつけてやる! おかしな真似をするようであれば、そのときは俺の正義が火を噴くだろう!」
実際、なんか燃えていたからな。拳とかが。
「お、おい! 勝手なことを言うな!」
なんか、昆虫人の将たちも焦っているな。
やっぱりこいつ、制御できていない転生者じゃないのか?
「そもそも、こいつは魔族だぞ。どうせ魔王軍の一員だ。人類の共通の敵と、うちの女王、どちらが正義だと思っている」
「むむっ! 魔王軍! それはたしかに良くないな」
俺が魔族だからか、案外確信に近いことを言い当てられた。
今生き残っている魔族って、魔王軍の残党くらいってことだろうからな。
「おい、お前!」
「なんだ」
ヒーローは、俺を指さしてやはり大声で話しかけてくる。
昆虫人たちは、会話をなるべくさせたくないのか、止めようとしているがまるで聞く耳持たずだ。
ほんと、暴走しているようなやつだなあ。こいつ。
「単刀直入に聞こう、嘘はなしだ! お前は正義と悪どちらだ!」
じっとこちらの目を見つめてくる。
にらみつけているというよりは、俺の出方を伺っているようだ。
どうする? ここで嘘でごまかして、こいつとの敵対を避けるか?
……なんとなく、それは悪手に思えた。
こいつ、ヒーローとか正義とかにこだわっているようだし、嘘で騙したらそちらのほうが面倒なことになりそうだからな。
「悪、だろうな。俺を殺しにきたやつは、返り討ちにしている」
「……嘘は言っていないようだな」
わかるのか?
だとしたら、やはり嘘はつかなくてよかったのかもしれない。
「お前が悪であるというのであれば、ヒーローである俺が戦わねばなるまい!」
「結局、そうなるわけか……」
ケルベロスでどうにかできるか?
ただでさえ本領を発揮できないこの場所で、こいつを倒して逃げ切れるものだろうか……。
だが、それしかない。ケルベロスは、すでにヒーローに向けて唸り声をあげている。
風間たちも、それをサポートするために、かまえている。
「だが、お前を殺しに来た者を返り討ちにすることは、悪ではない! お前が悪なのは本当だろうが、そこは間違えるな。悪党!」
そう言いながら、ヒーローはケルベロスに向かって突貫してくる。
悪と言われたり、返り討ちにすることは許されたり、なんとも意味がわからないやつだな。本当に……。
「ケルベロス。悪いが、なんとか撃退してくれ」
俺が頼むまでもなく、ケルベロスがヒーローに襲いかかる。
壁や天井に阻まれながらも噛みつこうとするが、軽々と避けられてしまう。
当然だ。こいつは、もっと広く自由に動ける場所でも、超位モンスターの攻撃をいなしていた。
「悪よ、滅べ!」
結局、滅ぼそうとしてくるあたり、徹底しているな!
噛みつき損ねた頭を叩き潰すように、ヒーローは燃える拳を地面に向かって振り下ろす。
さすがにケルベロスがそれだけでやられることはないが、今までで一番大きなダメージを受けているのは明らかだ。
やっぱり、こいつが鬼門か……。
しかし逆に言えば、こいつさえ突破できれば、脱出に限りなく近づけるということだ。