【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第405話 小さくなあれ

「おい、魔族が消えたぞ!」

 

 昆虫人の将たちが慌て始めた。

 ……あ、暗影の指輪か。

 これまでは、奇襲だったり敵対とまではいかない相手だから効果を発揮しなかったが、今は完全に敵対しているから、俺の姿が見えないのか。

 

「何を言っている! 悪は目の前だ!」

 

 それに対して、こいつには俺がしっかりと見えているのはなんでだろうなあ。

 姿を隠せない条件としては、敵意がないことか一定以上の実力を持っていることだが……。

 さすがに前者ということはないから、後者ということになる。

 やはり、昆虫人の将よりも厄介な存在ということか。

 

「ケルベロス。頼んだ」

 

「む! 犬からか!」

 

 ケルベロスが指示と同時にヒーローへと襲いかかる。

 昆虫人たちならば、それだけで倒せていた可能性があるが、敵はしっかりと攻撃を回避し続けている。

 そして、先ほどと同じく体格差をものともしないような、強力な一撃を打ち込んでいく。

 

「硬いな! 俺の攻撃がここまで通用しないとは!」

 

 だが、今度は世良の結界がされているおかげで、ケルベロスへの攻撃も軽減できたようだ。

 互いにダメージを与えられないという状況にも見えるが、こちらは世良の魔力頼み、このまま消耗してしまったら、再び不利になってしまう。

 それがわかっているためか、俺よりも先に風間が動く。

 

「なんだお前は! 悪か!? 正義か!?」

 

「わからないけど、どちらかというと悪側かな!」

 

 ケルベロスの攻撃だけでなく、風間の攻撃にもしっかりと対処するあたり、この場にいる誰よりも強い。

 今まで見てきた転生者の中でも、一番強いんじゃないか? こいつ。

 

「……お前、本当に悪か?」

 

「君がレイさんを悪と判断したなら、その仲間の僕も悪だろうね!」

 

 しかも、風間に語り掛けたり、まじまじと顔を見つめる余裕すらある。

 どうやら、風間が悪かどうか疑っているようだ。

 まあ、悪は魔王軍だけだからな。風間たちは特に悪事は働いていない。

 せいぜい、今回昆虫人を倒してしまったことくらいだが、あちらもこちらが逆らったら殺そうとするし、仕方ないことだろう。

 

「っ!? 爆発か! 演出しようという気持ちは嬉しいが、ファンなら大人しく見ていてくれ!」

 

「誰がファンよ!」

 

 原の不意打ちによる爆破魔法も、攻撃範囲から逃れて対処された。

 というか、攻撃ではなく応援と認識されてしまっている。

 三対一だろうと、問題なく対処するか……。

 

 こいつもしかして、十魔将なみの強さか? いや、ステータスはそこまでではなかった。

 ヨハンと同じくらいのはずなのに、ここまでの力の差があるのか。

 ……だけど、風間や原はゲームのキャラではないから、知識で攻撃をしのいでいるわけでもない。

 となると、女神の加護によって数値以上のパワーアップをしている可能性が高いな。

 

 あるいは……隣にいる転生者の力で、他の部隊のように相乗効果で強化されているか、だ。

 

「まずは、そこの犬が邪魔だな! お前は後回しだ!」

 

 さすがにいつまでも会話をするわけにはいかないらしく、ヒーローはそう判断するとケルベロスに向き直る。

 拳が燃えて……雷? なんか赤い炎と雷みたいなのがまとっているんだが、こいつ本当になんの加護をもらっているんだ。

 

「その障壁ごと、ぶち破ってやろう!」

 

 宣言通り、ヒーローの拳が結界を破壊する。

 炎と雷は威力を増大しただけでなく、攻撃範囲まで広がっているらしい。

 拳自体は結界に直撃して止まったのだが、炎と雷の勢いは止まることなく、結界が破壊され無防備のケルベロスへと飛んで行った。

 

 まずいな。

 やはりケルベロスが攻撃を避けられないのがまずい。

 いくら頑丈といっても、あの攻撃を受け続けるのは不利だ。

 ここまでの道のりで、この子が戦えるような広い場所は無かったから、逃げたところで意味はない。

 それどころか、背後から攻撃されて余計に窮地に追いやられる。

 

 補助をするにしても、今以上は見込めない。

 原と世良が遠距離から攻撃や防御をしてくれている。

 近距離で唯一横やりを入れられそうなのは風間だけ。

 奥居が足をつかむ暇すらない。

 

「させない!」

 

 ケルベロスへ攻撃しようとしたヒーローを、風間が背後から斬りつける。

 しかし、やはりというべきか、ヒーローにはまったく通じている様子もない。

 風間の攻撃を無防備に食らったら、昆虫人の将ですら一撃だったというのにな……。

 もしかしたら、無防備に見えただけで、実は風間たちにも気を配っているのかもしれない。

 

「邪魔をするな保留中の男! お前はわからないが、その犬は今のところ確実に悪だ! ならば、ヒーローたる俺が正さねばならない!」

 

「僕はその子の仲間だからね。そうですか、と引き下がるわけにはいかないんだよ」

 

「ならば、お前には眠ってもらおう! 正義の拳によって、改心するが良い!」

 

 風間に向けて殴りかかろうとするヒーローは、またしても攻撃を妨害される。

 斜め後ろから、原の爆破魔法が命中したためだ。

 先ほどは回避したが、今度は直撃とまではいかずとも当たっている。

 爆風で吹き飛ぶことこそなかったが、ほんの少しだけダメージが通っているように見える。

 

「くっ! なぜわからない! 悪に加担するよりも、正義を成すほうが良いということが!」

 

「私は正義だろうと悪だろうと、武巳についていくだけよ!」

 

「なるほど、愛か! ならば仕方あるまい!」

 

 物分かり良いなあ、こいつ。しかも何も間違っていない。

 それにしても、まだまだ健在か……。タフで強くて、本当に厄介な相手だ。

 

 だが、こちらもそれなりに良い布陣をしけている気がする。

 ヒーローを中心に、ケルベロスと風間と原の三人で、三角形で囲むように位置取りできている。

 誰かに向かえば、残り二人が攻撃するような状況だ。

 いくら三人に気を配っているといえ、さすがのヒーローもこの状態では背後からの二人の攻撃は対処しきれていない。

 

「……悪とはいえ、強さは本物だな。認めよう」

 

 そんなヒーローが、覚悟を決めたかのように目を閉じた。

 観念した……わけじゃないな。こいつ、まだ上がある。

 

「変身!」

 

 ヒーローを名乗っているのだから、当然と言えるのかもしれない。

 変身とはそのくらい当たり前に思える。

 だが、俺たちと対峙していた姿が、すでにアメコミのヒーローみたいな姿だったじゃないか。

 変身後の姿と戦っていたんじゃないのか? 俺たちは。

 

「カペラフォルム! これで、横やりなど通用しない!」

 

 先ほどのヒーローのような姿から、さらにゴテゴテとした重そうな姿へと切り替わる。

 もしかして、防御力が上昇する変身ということか?

 ……わりと嫌いじゃないぞ。敵じゃなければな!

 

 変わったのは見た目だけではなく、宣言通り攻撃が通じなくなっている。

 ケルベロスの攻撃だけは避けているので別だろうが、風間や原の攻撃はもはや背中で受け止めてしまっているみたいだ。

 ただ、速度は落ちている気がするので、俺のダンジョンマスターのスキルと同じかもしれないな。

 何かを犠牲にすることで、他の何かの能力を上昇させる力ということか。

 

「さあ、終わらせてやろう、犬! 安心するがいい。お前ならば、俺の拳にも耐えられよう! そして、改心して人類のための犬となれ!」

 

 一応、やり直す機会は与えようとしてくれているんだよなあ。

 なんか、人の言葉を鵜呑みにしやすそうだから、女神や昆虫人の女王に唆されているだけなんじゃないか?

 魔王軍というか俺が悪なのは間違いないから、否定できないせいでややこしくなっている。

 だけど、昆虫人だって善かと言われると微妙なところだ。女神にいたっては完全に邪悪な神だろ。あいつ。

 

「だけど、なんとか間に合ったかな」

 

「なっ! 体の動きが鈍い……。どうした俺の体! お前は、こんなところでへこたれるようなやつなのか!?」

 

 単純な殴り合いが無理なら、やはり状態異常だよな。

 俺は手のひらの中に作成した、極限まで小さくした食人花を見ながら一安心するのだった。

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