【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第407話 サムライアリの来訪

 昆虫人の兵隊たちは臨戦態勢であり、今にも襲いかかってきそうだった。

 こちらもすぐにケルベロスに指示を……。

 いや、いっそ自爆を……。

 

「やめなさい」

 

 しようとしたところで、女性の昆虫人が言葉を発する。

 すると途端に昆虫人の兵隊たちは、こちらを襲おうという意思が消え去ってしまったようだ。

 

「ごめんなさいね。この子たちが」

 

 謝罪をされた。なぜだ? 敵である俺たちと戦おうとしたのだから、兵隊のほうが正しいはずだ。

 女王らしき昆虫人には戦う意思は無い?

 それは、しっかりと俺を認識していることからも、可能性は高そうだった。

 まあ、ヒーローもそうだけど、単に暗影の指輪の効果が通用しないだけの格上かもしれないが。

 

「なぜ、そいつらを止めた? 俺たちは敵だと思うんだが」

 

「そうかしら? 私たちにとっての敵は、女神に唆された種族だけのつもりだけど、あなたたちもそうなの?」

 

「いや……女神大嫌い。死ねば良いと思う」

 

「そ、そう……。なんか、思っていたよりもしっかりと被害に遭っているのね」

 

 俺のことはもうわりとどうでも良いけど、魔族や迫害種とか、ろくなことしてないんだ。あいつは。

 あんなのにフィオナ様が苦しめられたというのであれば、あいつはもう滅べば良い。

 

「それなら、女神に嫌われて、女神を嫌っている者同士、敵対する必要は無いと思わない?」

 

「そのわりには、俺たちの拠点に攻め込んできたり、俺たちをこうして拉致したみたいだけどな」

 

「それについては、申し訳ないと思うわ。ただ、一族を代表しての謝罪ももうできないの」

 

 もうできない。ということは、前はできたということだ。

 一族を代表とも言っているし、やはり目の前の女性が昆虫人の女王ということで合っていそうだな。

 

「あんた、昆虫人の女王ってことで良いのか?」

 

「元女王よ」

 

「元……」

 

 ということは、女王は二人いた?

 権力争いか何かで負けたのが、こちらの女王ということか?

 

「今、昆虫人たちを指揮しているのは私じゃない。私は、この子たちを生産するだけが役目のただの昆虫人よ」

 

「兵隊は、やっぱり女王が量産できたってことだ」

 

「ええ、それが私たちの強みだからね。だから、あの女も私を殺さず生かしているんでしょうね」

 

「あの女というのが、今の昆虫人の女王か」

 

 トップが変わったことで、昆虫人たちの方針も変わってしまったんだろうな。

 その結果、オーガたちが襲われたり、俺たち転生者が拉致されたってわけだ。

 まあ、察するに魔王軍も、フィオナ様が魔王になる前後で方針が変わっていそうだし、どこの種族にもあることなのだろう。

 

「俺たちは帰りたいんだが、あんたが口利きしてなんとかならないか?」

 

「無理でしょうね。私は便利だから生かされているだけ。意見を取り入れるなんて無理よ」

 

 元女王がそんな扱いとは、なんとも不憫な話だなあ。

 現女王はともかく、かつての部下たちもドライなものだ。

 まあ、昆虫人たちがそういう種族だというのなら、仕方がないのかもしれないが。

 

「となると、情報もあまり得られていないか」

 

「そうね。あの女が何をしているのか、巣がどう拡張されたのか、残念ながら私にはわからない」

 

「転生者を集めていることも知らないか? なんかヒーローみたいなやつ」

 

 あいつの弱点とか知っていたら。とも思うが、この様子だとそもそも存在すら知らないかもしれない。

 

「転生者を集めている……? そういうこと。たしかに、転生者の力が強力なのは、彼女自身がよくわかっているでしょうからね」

 

「……どういうことだ? そいつも、過去に転生者にやられたとか?」

 

「いいえ。私から女王の座を奪ったあいつは、転生者だからよ」

 

 転生者……。

 なるほど、なんか俺みたいだな。

 その種族の重要なポジションを任され、地下にある拠点を好き勝手改築し、部下たちを自由に動かせるとは。

 

「その女王。もしかして、昆虫人とは別の種族ってことかい?」

 

 これまで、俺たちの会話を黙って聞いてくれていたロペスが口をはさむ。

 どうやら、女王の種族が気にかかっているようだ。

 俺みたいに、迫害種に転生させられた女が、この世界で生きるために昆虫人を乗っ取ったわけではないのか?

 

「人間よ」

 

「つまり、人間に種族を丸ごと乗っ取られたってわけか」

 

「でも、それっておかしくないか?」

 

 同じ昆虫人なら、強いほうにかつての部下が従ったというのは理解できる。

 だけど、いきなり現れた人間が、女王を負かしたか何かで力を見せたからと言って、他の昆虫人が簡単に従うものだろうか?

 

「あんたを人質にして、他の昆虫人たちを従えているか、あるいは洗脳みたいな能力でもあるのか……」

 

 可能性が高いのは後者だな。

 それならば、あのヒーロー以外の転生者が、人形みたいだった理由も納得できる。

 

「そこまでわかるの。そうね、あの女の能力は支配と言っていた。私の部下たちはまんまとそれにかかったらしいわ」

 

 支配……。これまた面倒くさそうな能力だな。

 どこまでが支配できて、どんな条件で、効果時間はどれくらいなのか。

 うちに攻め込んだ転生者たちのことを考えると、女王が近くにいなくても効果は通用する。

 少なくとも数日は効果が持続する。

 あのヒーローには力量差がありすぎて通用していないのか?

 

「なあボス。昆虫人のやつら、俺たちを女王のもとへ連れて行くとか言っていたよな」

 

「ああ、あのままだったら、女王に支配されていただろうな」

 

「ええ!? 危ないところだったじゃないですか!」

 

 逆らう可能性がある俺たちを、わざわざ女王のもとへ連れて行こうとするわけだ。

 一度支配してしまえば、きっと女王に服従する存在へと変わるんだろう。

 

「条件はわかるか? まさか、近づいただけで支配されるとかは……」

 

「さすがに、そこまではわからないけれど、私が支配されていないことを考えると、支配したらまずい場合もあるのかもしれないわね」

 

 元女王に求められているのは、兵隊を生産する能力。

 それこそ支配してしまって、それだけに注力させるべき能力とも思える。

 単に実力差の問題で支配できなかったのか?

 

「女王を倒すというよりは、やっぱりここから脱出すべきだろうな」

 

「そうですね。私たち全員が支配された場合、逃げる意思すらなくなるかもしれませんし……」

 

 下手したら、ケルベロスすら支配されて敵に回るかもしれない。

 そうなると、いよいよ俺たちに打つ手はなくなる。

 できる限り穏便に、この場を切り抜けることを考えたほうが良さそうだ……。

 

    ◇

 

「まだ見つからないの?」

 

「どうやら、激しく抵抗しているようでして……兵隊どころか将にも多数の被害が出ています」

 

「それだけ強力な加護ってことね……。どれだけ犠牲が出てもかまわないわ。必ず、そいつらを私の元へ連れてきなさい」

 

 身柄を抑えて対面すればどうにでもなる。

 虫どもの女王から少しずつ兵隊や将を奪ったときと同じ。

 少しでも付け入る隙がある相手なら、私の能力で必ず支配できる。

 

 虫どもは、迫害され続けて疲弊していたから簡単だった。

 転生者たちは、わけもわからず見知らぬ地で、死と隣り合わせで心が折れかけていたから簡単だった。

 だから、今度の転生者たちも、必ず付け入る隙はある。

 

 例外としては……あの暑苦しいヒーローごっこの馬鹿だけ。

 あいつ、なんで見知らぬ地であんなに自信満々に行動できるのよ。

 あれだけは、支配なんてまったく通用しなかったわね。

 まあ、馬鹿だから、うまく言いくるめて使えているけど。

 

「女王!」

 

 馬鹿がやってきた。

 

「何かしら?」

 

「侵入者が、女王の元へやってきたと聞いてな! 助けに来たぞ!」

 

「は? 来てないわよ。むしろ、あんたたちが連れて来るはずじゃない」

 

「む?」

 

 どういうこと?

 後ろを見ると、馬鹿とは別に支配していないもう一人の転生者の姿が見えた。

 私にだけ見えるように手を合わせて謝ったようなポーズをしている。

 ……ああ、そういうこと。

 

 大方女王の元へ転生者たちが向かってピンチとか言ったんでしょうね。

 でも、それって、元女王のほうでしょ?

 この馬鹿は、元女王のことを知らないから、私のほうへ駆けてきたというわけね。

 

「はあ……。とりあえず、私は無事だから、あなたは侵入者たちをとらえてちょうだい」

 

「心得た! ヒーローとしての役目を果たすとしよう!」

 

 支配しなくても、使い勝手は良いんだけどねえ。

 たまに……いえ、頻繁に暴走するのだけは面倒ね。

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