【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「さっき、そこの兵隊たちが俺たちを襲おうとしたのを止めていたな」
「ええ、悪かったわね。誘拐されたとはいえ、あなたたちはこの巣の部外者だから、この子たちが敵と勘違いしたみたい」
「いや、謝る必要はないが、その兵隊たちは支配されていないのか?」
女王の座を蹴落とされたのは、部下を支配されたからと言っていた。
だけど、全員ではない? それとも、生まれたばかりの兵隊たちだから、例外というだけか?
「この子たちは、女王の命令に従うだけ。考えることができないの。だから、支配するまでもなく、私かあの女の命令を聞いているみたいね」
「将の指示にも、従っているように見えたが」
「きっと、あいつがそういう命令をしたんじゃないかしら?」
「となると、支配されているのはあくまでも将と転生者だけか」
……将も転生者も兵隊も、がっつりと殺してしまった。
と嘆くことはやめておこう。今までだって、ダンジョンの侵入者に同じことをしていたからな。
利用されているからといって手を抜くと、俺たちのほうが危なくなる。
なんでも救えるほどの余裕は、俺にはない。
「あんたの命令で、兵隊だけでも俺たちと敵対しないようにはできないのか?」
「生まれた子たちに命令することはできるけど、その後であの女の命令に上書きされるでしょうね」
「女王が二人いるせいで、後に言った命令をこなすようにでもなっているのか……」
となると、ここに幽閉されている元女王のほうが不利だな。
やはり、敵は昆虫人と転生者全てということになってしまう。
支配している転生者を倒せたらいいが、その前に洗脳されそうで怖いな。
「仕方ない。結局は、逃げる以外に道はないようだ」
「こっちの女王様も不憫だが、俺たちにも余裕はねえからな……」
「気にすることはないわ。これは昆虫人の問題なのだから」
転生者が絡んでいる時点でそうとも言い難いが、俺たちにどうにかできる問題でないのも事実。
要するに、これもまた女神のせいってことだよな……。
あいつ、本当にろくなことしないな。
「う~……女王様かわいそうだけど、助けられる選択肢がないよぉ」
せめて、地底魔界に戻ってからだな。
俺たちの身も守れない状況で、誰かに手を差し伸べるのは無理な話だ。
「……あ、あれ?」
なんとか選択肢から最良の手を探していた時任だったが、ピタッと動きが止まる。
困惑した様子から、動揺した様子へと変わり、すぐに大きな声で叫んだ。
「このままここにいたら、ヒーローが来ちゃうみたいです!」
「げっ……だとしたら、すぐに逃げ」
「俺の名を呼んだか! 悪党ども!」
名は呼んでないし、そもそも知らないぞ……。
勢いよく部屋に突入したヒーローを前に、俺はそんなことを考えてしまった。
「む……知らない昆虫人がいるな。お前は、正義と悪どちらだ?」
「さあ? それがわかるほど賢くはないわね」
「なるほど、無辜の民だな! 安心するが良い。俺が悪党どもを倒してみせよう!」
「それなら、この部屋で騒がないでほしいんだけど、この子たち生まれたばかりだし」
「……昆虫人の兵隊か。ここで生み出されていたということは……お前が女王? いや、しかし女王は人間だったはず……」
こいつ、あまり事情を知らないみたいだな。
というか、昆虫人の女王が人間っていうことに、今まで疑問を抱かなかったんだろうか。
「昆虫人の女王なら、同じく昆虫人っていうのが道理だろ」
「なるほど! 賢いじゃないか、悪党! 馬鹿な俺よりよほど頭が良いらしい!」
やっぱり、リピアネムタイプだな。こいつ。
だが、うまくいけば説得できるか?
「お前、なんで今の女王に従っているんだ?」
「当然、正義のためだ! この世界も女神も間違っている! ならば、良い世界を作ろうとする、昆虫人の女王のもとで働くまで!」
「そこにいる女王様は、今の女王に部下を奪われたそうだが、あんたの正義としてはありなのかい?」
「奪われた? 過程によるな。詳しく話すがいい」
ロペスもこいつと戦うのは得策ではないと思ってくれたのか、なんとかして敵対関係を解除しようと手伝ってくれている。
いや、ロペスだけではないな。
「転生者の力で、そこの女王様の仲間が洗脳されちゃったんだよ! かわいそうだと思わないの?」
「なんだと!?」
「ついでに、私たちや他の転生者は誘拐されて、同じように洗脳されるみたいよ」
「洗脳された転生者は、使い捨てのコマのようにされている。それは正義とはほど遠いんじゃないかな?」
「そんなもの、まさしく悪の所業ではないか!」
よし、やはりこいつにとっては看過できないことのようだ。
何も知らされていなかったため、一方的に俺たちが悪と考えていたようだが、どちらも悪だというのなら敵対する必要もないだろう。
問題があるとすれば、どちらも悪ならどちらも滅ぼすとか言われかねないことくらいか……。
「悪党!」
「なんだ?」
指をさされたため、返事を返す。
「貴様の悪事を話せ!」
「生きるために他者を殺している。仲間のために他者を殺している。俺自身は、まぎれもなく悪で間違いない」
「貴様自身から誰かを襲ったことは!」
「難しいな……。おびき寄せるようにして、侵入者を殺している」
「侵入していない者は?」
「手出ししていない」
「そうか……」
これはどっちだ?
ヒーローとして、許容範囲だったら助かるが、さすがにそこまで甘くはないと思う。
「女王!」
「な、なにかしら?」
「貴様自身は、部下に裏切られても仕方ないほど非道だったのか!?」
「……違うと思いたいわね。たしかに、不便な生活は送らせていたけれど、ひどい扱いはしていないはずよ」
「むむむ……どちらも真実か。であれば、最も悪なのは現女王……?」
「その前に、女神が一番邪悪だけどな」
これだけは自信を持って言える。
俺自身の悪事なんかかわいく見えるほど、あいつはやばい。
というか、あいつ以上の悪なんてこの世界に存在しないだろ。きっと。
「それは重々承知だが、まだ倒せるだけの力がない! ふがいないヒーローですまないな」
実力差を理解するだけの冷静さも一応あるのか。
なんかもっと、勢いだけの存在かと思っていた。
「しかし……やはり……うむ、話を聞く必要がありそうだ。現女王に全てを問いただす。誰を悪とみなすかは、そこからだ」
そう言うと、ヒーローは戦う気がなくなったのか、腕を組んで仁王立ちをした。
これは、見逃してくれるということで良いのか……?
「ついでに、俺たちを帰してくれたりはできないか?」
「すまんが、俺は馬鹿だから道もわからん」
「そ、そうか……」
まあ、複雑な道らしいからな。
今は、こいつが敵じゃなくなっただけでも、良い結果といえるだろう。
「なあヒーロー」
「なんだ。少年」
「いや、種族的に小さいだけで、俺はガキってわけじゃ……まあいいか」
子供扱いされたことを否定しようとするも、面倒になったのか、あるいは理解されないと思ったのか、ロペスは言いかけていたことを優先するらしい。
「俺たちは、ここから生きて脱出したい。だが、昆虫人はそれを妨害し、捕まえようとする」
「だろうな。俺もそれは聞いている」
「そうして捕まったら、そのまま洗脳されて俺というものが消える。つまりは死だ」
「やはり……悪か……」
「だから、そうならないために、俺たちは昆虫人と戦わなくてはいけない。それで命を奪うことになってもだ」
「……仕方あるまい。それはもはや正義や悪ではなく、生存のための戦いなのだから」
「なら、あとからそれを悪事扱いしないでくれると助かるぜ」
なるほど。
今後脱出のために戦うにしても、それを咎められてヒーローがまた襲いかかってはたまったものではないからな。
「これに関しては、馬鹿な俺には判断できん。どちらが正義などという単純な問題でもない」
「つまり?」
「応援はできんが、抗うことは罪ではない。それを裁けるほど俺は傲慢ではないつもりだ」
「そう言ってもらえて助かるぜ。俺たちもできれば穏便に済ませたいが、最悪の場合はそうなると理解してくれ」
「うむ、約束は違えない。もしも俺が嘘を言うようなことがあれば、貴様らを全面的に支持し、貴様らのヒーローになろうではないか」
「そりゃあ頼もしい」
口約束ではあるが、こいつ相手にはそれで十分だ。
こいつ自身が嘘を嫌い約束は守る人間だろうからな。
ロペスのおかげで、このヒーローは完全に無力化できたということになる。
あとは……ここからなんとか逃げるだけだ。