【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第408話 またしても何も知らない鳴神奏一さん

「さっき、そこの兵隊たちが俺たちを襲おうとしたのを止めていたな」

 

「ええ、悪かったわね。誘拐されたとはいえ、あなたたちはこの巣の部外者だから、この子たちが敵と勘違いしたみたい」

 

「いや、謝る必要はないが、その兵隊たちは支配されていないのか?」

 

 女王の座を蹴落とされたのは、部下を支配されたからと言っていた。

 だけど、全員ではない? それとも、生まれたばかりの兵隊たちだから、例外というだけか?

 

「この子たちは、女王の命令に従うだけ。考えることができないの。だから、支配するまでもなく、私かあの女の命令を聞いているみたいね」

 

「将の指示にも、従っているように見えたが」

 

「きっと、あいつがそういう命令をしたんじゃないかしら?」

 

「となると、支配されているのはあくまでも将と転生者だけか」

 

 ……将も転生者も兵隊も、がっつりと殺してしまった。

 と嘆くことはやめておこう。今までだって、ダンジョンの侵入者に同じことをしていたからな。

 利用されているからといって手を抜くと、俺たちのほうが危なくなる。

 なんでも救えるほどの余裕は、俺にはない。

 

「あんたの命令で、兵隊だけでも俺たちと敵対しないようにはできないのか?」

 

「生まれた子たちに命令することはできるけど、その後であの女の命令に上書きされるでしょうね」

 

「女王が二人いるせいで、後に言った命令をこなすようにでもなっているのか……」

 

 となると、ここに幽閉されている元女王のほうが不利だな。

 やはり、敵は昆虫人と転生者全てということになってしまう。

 支配している転生者を倒せたらいいが、その前に洗脳されそうで怖いな。

 

「仕方ない。結局は、逃げる以外に道はないようだ」

 

「こっちの女王様も不憫だが、俺たちにも余裕はねえからな……」

 

「気にすることはないわ。これは昆虫人の問題なのだから」

 

 転生者が絡んでいる時点でそうとも言い難いが、俺たちにどうにかできる問題でないのも事実。

 要するに、これもまた女神のせいってことだよな……。

 あいつ、本当にろくなことしないな。

 

「う~……女王様かわいそうだけど、助けられる選択肢がないよぉ」

 

 せめて、地底魔界に戻ってからだな。

 俺たちの身も守れない状況で、誰かに手を差し伸べるのは無理な話だ。

 

「……あ、あれ?」

 

 なんとか選択肢から最良の手を探していた時任だったが、ピタッと動きが止まる。

 困惑した様子から、動揺した様子へと変わり、すぐに大きな声で叫んだ。

 

「このままここにいたら、ヒーローが来ちゃうみたいです!」

 

「げっ……だとしたら、すぐに逃げ」

 

「俺の名を呼んだか! 悪党ども!」

 

 名は呼んでないし、そもそも知らないぞ……。

 勢いよく部屋に突入したヒーローを前に、俺はそんなことを考えてしまった。

 

「む……知らない昆虫人がいるな。お前は、正義と悪どちらだ?」

 

「さあ? それがわかるほど賢くはないわね」

 

「なるほど、無辜の民だな! 安心するが良い。俺が悪党どもを倒してみせよう!」

 

「それなら、この部屋で騒がないでほしいんだけど、この子たち生まれたばかりだし」

 

「……昆虫人の兵隊か。ここで生み出されていたということは……お前が女王? いや、しかし女王は人間だったはず……」

 

 こいつ、あまり事情を知らないみたいだな。

 というか、昆虫人の女王が人間っていうことに、今まで疑問を抱かなかったんだろうか。

 

「昆虫人の女王なら、同じく昆虫人っていうのが道理だろ」

 

「なるほど! 賢いじゃないか、悪党! 馬鹿な俺よりよほど頭が良いらしい!」

 

 やっぱり、リピアネムタイプだな。こいつ。

 だが、うまくいけば説得できるか?

 

「お前、なんで今の女王に従っているんだ?」

 

「当然、正義のためだ! この世界も女神も間違っている! ならば、良い世界を作ろうとする、昆虫人の女王のもとで働くまで!」

 

「そこにいる女王様は、今の女王に部下を奪われたそうだが、あんたの正義としてはありなのかい?」

 

「奪われた? 過程によるな。詳しく話すがいい」

 

 ロペスもこいつと戦うのは得策ではないと思ってくれたのか、なんとかして敵対関係を解除しようと手伝ってくれている。

 いや、ロペスだけではないな。

 

「転生者の力で、そこの女王様の仲間が洗脳されちゃったんだよ! かわいそうだと思わないの?」

 

「なんだと!?」

 

「ついでに、私たちや他の転生者は誘拐されて、同じように洗脳されるみたいよ」

 

「洗脳された転生者は、使い捨てのコマのようにされている。それは正義とはほど遠いんじゃないかな?」

 

「そんなもの、まさしく悪の所業ではないか!」

 

 よし、やはりこいつにとっては看過できないことのようだ。

 何も知らされていなかったため、一方的に俺たちが悪と考えていたようだが、どちらも悪だというのなら敵対する必要もないだろう。

 問題があるとすれば、どちらも悪ならどちらも滅ぼすとか言われかねないことくらいか……。

 

「悪党!」

 

「なんだ?」

 

 指をさされたため、返事を返す。

 

「貴様の悪事を話せ!」

 

「生きるために他者を殺している。仲間のために他者を殺している。俺自身は、まぎれもなく悪で間違いない」

 

「貴様自身から誰かを襲ったことは!」

 

「難しいな……。おびき寄せるようにして、侵入者を殺している」

 

「侵入していない者は?」

 

「手出ししていない」

 

「そうか……」

 

 これはどっちだ?

 ヒーローとして、許容範囲だったら助かるが、さすがにそこまで甘くはないと思う。

 

「女王!」

 

「な、なにかしら?」

 

「貴様自身は、部下に裏切られても仕方ないほど非道だったのか!?」

 

「……違うと思いたいわね。たしかに、不便な生活は送らせていたけれど、ひどい扱いはしていないはずよ」

 

「むむむ……どちらも真実か。であれば、最も悪なのは現女王……?」

 

「その前に、女神が一番邪悪だけどな」

 

 これだけは自信を持って言える。

 俺自身の悪事なんかかわいく見えるほど、あいつはやばい。

 というか、あいつ以上の悪なんてこの世界に存在しないだろ。きっと。

 

「それは重々承知だが、まだ倒せるだけの力がない! ふがいないヒーローですまないな」

 

 実力差を理解するだけの冷静さも一応あるのか。

 なんかもっと、勢いだけの存在かと思っていた。

 

「しかし……やはり……うむ、話を聞く必要がありそうだ。現女王に全てを問いただす。誰を悪とみなすかは、そこからだ」

 

 そう言うと、ヒーローは戦う気がなくなったのか、腕を組んで仁王立ちをした。

 これは、見逃してくれるということで良いのか……?

 

「ついでに、俺たちを帰してくれたりはできないか?」

 

「すまんが、俺は馬鹿だから道もわからん」

 

「そ、そうか……」

 

 まあ、複雑な道らしいからな。

 今は、こいつが敵じゃなくなっただけでも、良い結果といえるだろう。

 

「なあヒーロー」

 

「なんだ。少年」

 

「いや、種族的に小さいだけで、俺はガキってわけじゃ……まあいいか」

 

 子供扱いされたことを否定しようとするも、面倒になったのか、あるいは理解されないと思ったのか、ロペスは言いかけていたことを優先するらしい。

 

「俺たちは、ここから生きて脱出したい。だが、昆虫人はそれを妨害し、捕まえようとする」

 

「だろうな。俺もそれは聞いている」

 

「そうして捕まったら、そのまま洗脳されて俺というものが消える。つまりは死だ」

 

「やはり……悪か……」

 

「だから、そうならないために、俺たちは昆虫人と戦わなくてはいけない。それで命を奪うことになってもだ」

 

「……仕方あるまい。それはもはや正義や悪ではなく、生存のための戦いなのだから」

 

「なら、あとからそれを悪事扱いしないでくれると助かるぜ」

 

 なるほど。

 今後脱出のために戦うにしても、それを咎められてヒーローがまた襲いかかってはたまったものではないからな。

 

「これに関しては、馬鹿な俺には判断できん。どちらが正義などという単純な問題でもない」

 

「つまり?」

 

「応援はできんが、抗うことは罪ではない。それを裁けるほど俺は傲慢ではないつもりだ」

 

「そう言ってもらえて助かるぜ。俺たちもできれば穏便に済ませたいが、最悪の場合はそうなると理解してくれ」

 

「うむ、約束は違えない。もしも俺が嘘を言うようなことがあれば、貴様らを全面的に支持し、貴様らのヒーローになろうではないか」

 

「そりゃあ頼もしい」

 

 口約束ではあるが、こいつ相手にはそれで十分だ。

 こいつ自身が嘘を嫌い約束は守る人間だろうからな。

 ロペスのおかげで、このヒーローは完全に無力化できたということになる。

 あとは……ここからなんとか逃げるだけだ。

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