【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「最後に、ヒーローに聞いておきたいことがある」
「む、まだあるのか? 良いだろう。お前たちの味方はできないが、答えられることには答えよう」
「ここに元女王がいるということは、現女王も近くにいるのか?」
「いや? 俺が知っている女王は、こことは逆のほうにいる。だからこそ、駆けつけるのが遅れたわけだ」
なるほど……。
ということは、こちらが出口に近い場所ということだな。
さすがに、女王は巣の奥にいるはずだろう。
そのほうが安全だからな。
元女王を出口側に配置したのは、兵隊をすぐに外界に送り出すためか、あるいは囮か。
もしも、裏をかいて逆の配置をしているというのなら、そのときは俺の負けだけどな。
「助かった。それじゃあ、俺たちは足掻くとするよ」
「悪党といえ、感謝できるのは良いことだ! そして、諦めずに足掻く姿勢も好ましい! 惜しいな……。貴様らならやり直しもできるだろうに」
悪いな。俺の居場所は、フィオナ様の隣以外ありえないんだ。
それが悪と言うのなら、俺は今後も悪であり続けよう。
◇
「時任、次の選択肢は?」
「こっちです! 選択肢がふざけてきたので、そろそろ安全な場所のはずです!」
それはそれでどうなんだ……。
いや、危機を脱したとわかりやすいから、ありなのか?
「本当に複雑な場所でしたね。ここを攻略しろと言われたら、地図をしっかり作らないと迷いそうです」
「タケミ、わりとダンジョン攻略に興味あるのか?」
「知らないことが多いからね。実際に挑戦することで、勉強にはなると思う」
「ボスのダンジョンはやめておけよ?」
「ダスカロス先生にも、君にはまだ早いって言われてる」
そうなんだよな。
せっかくやる気がある挑戦者なのに、ダスカロスが許可をくれないんだ。
風間たちが成長したら、いずれはテストプレイヤーになってくれるんだろうか。
「次は~……っ! レイさん! 敵です!」
「昆虫人か?」
いや、それならこんなに焦らない。
つまり、転生者だ。
ヒーロー以外の厄介な相手がまだ残っているということに……。
「悪よ死ね!」
俺たちを守るように、ケルベロスがその攻撃をまともに受けて消滅してしまった。
直撃したことだけが原因ではない。
明らかに、これまで以上の威力を発揮している。
両手に黒い炎を宿したヒーローの一撃は、一撃必殺を思わせるほどの威力に見えた。
なんだあれ……。ここにきて、まだお前が立ちはだかるのか。
ついさっきまで、一時的にとはいえ敵対はやめると言っていたじゃないか。
「終わらせてやる。覚悟する間も与えんぞ、悪人ども」
「これまた、急な話だな。さっきの今でどういう心変わりだよ。あんた」
「悪と語るつもりはない。潔く消えうせろ」
今までと違って、会話すらままならない。
こいつなら、たとえ悪が相手でも会話はできていた。
つまるところ、そういうことだろう。
「支配されたな。こいつ」
「ああ、そういうことかい。どおりで、さっきよりも物騒なわけだ」
これまで支配されていなかったのに、何がきっかけだ?
元女王を見て、現女王に話をしに行くと言っていたが、そこで自由に動かすよりは支配すべきと判断されてしまったのか?
理由はわからないが、とにかくこいつは再び敵になったということだ。
それも、これまでと違って、会話の余地すらなく、本気で俺たちを殺そうという敵に。
「後ろにいるお前も、こいつの支配に関係しているのか?」
俺は、ヒーローの後ろで待機していた男に話しかける。
こいつはヒーローとともに行動していた転生者だ。
昆虫人は、転生者同士相性がいい組み合わせで行動させていたことを考えると、無関係とは思えない。
というか、今までと違って随分と感情がありそうじゃないか。
さては、支配されたふりでもしていたのか?
「ああ、ばれたか。まあ、ばれても問題ないから良いんだけどな。支配……というよりは、ちょっと気分を盛り上げてやったんだ。悪を殲滅する方向にな」
もしかして……支配以外にも、精神に干渉する能力があるのか?
そして、こいつがその能力者?
「
「わかってるよ
ケルベロスはすでに消滅し、黒い炎だけが今もなお燃え続けている。
手の中には食人花。残り魔力は回復分も考えると、30……いや、40。
まずは、食人花で麻痺だな。
すぐに判断を下し、手の中の食人花に指示を出す。
花粉が大量に散布され、ヒーローは再び状態異常に襲われ……。
「同じ手で負けるなよ? がんばれ、ヒーロー!」
「無論だ!」
効かないか……。
状態異常が通じなくなっている。真っ向勝負はケルベロスがやられたことから問題外。
なぜあそこまで強くなった?
やはり、悪認定されたといえ、手加減していたからか?
それか、やはりあのもう一人の転生者のほうの能力か……。
「そっちには効くんだろ」
食人花の麻痺花粉が効かないのは、あくまでもヒーローだけだ。
なら、もう一人を止めてしまえば、状況も多少は変わるだろう。
「ああ、俺は……そろそろ動けなさそう……だな。だが、もう十分だ……」
「非力な人間も狙うとは、やはり悪か! この俺が正さねばなるまい!」
ああ、効くには効くが、もう用済みなのか。
ヒーローの強化はすでに完了している。
ならば、自分が動けずとも、ここでヒーローが大暴れするだけで全て片がつくと。
「くっ……」
食人花まで消し飛んだ。
ご丁寧に、俺ではなく手の上の食人花だけを焼き払ってきやがった。
パワーだけでなく、制御もかなりのものだな。これは。
「手下どもは倒した。さあ、死ぬがいい!」
ヒーローが俺に向かって拳を構える。
出せるモンスターは、あと一体が限度。
何を出せば勝てる? 状態異常すら効かなくなったこいつは、今の俺やモンスターでは対処方法が……。
そもそも、なぜ状態異常が効かなくなった?
たしかに、攻撃は加減していたかもしれない。
だが、耐性まで加減するなんてできるのか?
それはもはや、器用とかいう話ではないだろう。
こいつが後天的に耐性を得ているのだとすれば……。
やはり、もう一人の転生者の力だな。
あいつは、ヒーローに何をしていた?
同じ手で負けるな。と応援していたな……それか?
「テンタクルオルカ作成」
麻痺して動けない男が、こちらを馬鹿にしたように笑った気がした。
ヒーローが、困惑したような気がした。
ああ、わかるよ。
水場でもないのに、こんなモンスターを出したら、そんな反応もされるだろう。
現に、テンタクルオルカは、動きづらそうに地をはっている。
たくさんのタコ足で、なんとかヒーローのほうに体を起こしているくらいだからな。
「手下の選出がお粗末だな! 動けないシャチなど、俺の敵ではないぞ!」
だけど、まずはテンタクルオルカを倒そうとするらしい。
こいつ、支配されていたとしても、俺たちみたいな知性体を殺すのに抵抗があるんじゃないか?
もっとも、モンスターがいなくなったら、俺たちを殺そうとするんだろうが。
「まあ、狙い通りだとしたら、これでなんとかなるか」
「ぬうっ!?」
テンタクルオルカが、ヒーローに向かって口を開く。
噛み付いて攻撃しようというわけではなく、特技を使用するためだ。
海中を猛スピードで動き、敵の位置を正確に捕捉する超音波。
テンタクルオルカのその力は、命中した敵を混乱の状態異常にするらしい。
状態異常無効ならこれも通用しないが、こちらの想定通りなら、一度目は効くはずだ。
これなら、同じ手で負けるわけじゃないからな。
「……」
転生者は、二人とも言葉を発さなくなった。
一人は食人花の花粉で麻痺して動けず、もう一人は脳内がぐるぐると混乱していて、言葉を発するどころではないのだろう。
わずかに停止していたヒーローは、近くにあった壁を殴りつけた。
続いて地面や天井と、手当たり次第に攻撃を繰り返している。
混乱は、通用しているらしいな。
テンタクルオルカには、ヒーローを混乱させ続けてもらおう。
ヒーローは無理だが、もう一人の転生者は今なら倒せる。
風間に頼むか? いや、人間を殺すのは抵抗があるかもしれない。
なら、俺かロペスが……。
「とんでもないことになっているわね」
思考を中断させたのは、呆れたような女性の声だった。
……ああ、ついに出てきてしまったのか。
昆虫人たちを乗っ取った女王を名乗る転生者が。
多くの兵隊と将を引き連れた女は、俺たちに向けて睨みつけるような視線を飛ばしていた。