【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第41話 判断麻痺のハーベスト

「イド!? なんであんなやつが来ちゃうんだよ……」

 

「こいつ……たしか獣人の最強戦士だったな」

 

「勇者くらい厄介だったよねえ……でも、なんか今は少しだけあの時より弱そう?」

 

「いかがいたしますか? 私たちで始末いたしましょうか?」

 

 四天王たちさえ知っているとなると、やはりイドは主要キャラなんだろうな。

 いや、落ち着こう。フィオナ様が倒してくれてから、まだそこまでの時間は経っていない。

 ステータスを見ると、やはりあのときの実力は取り戻せていないみたいだ。

 

 イド 魔力:50 筋力:80 技術:65 頑強:80 敏捷:75

 

 ……いや、それでも強いよ。

 これじゃあ、このダンジョンは簡単に攻略されるだろうな……。

 でもそれはそれで問題ないか? むしろさっさと攻略させて、ここには二度と立ち寄らないでもらうのがいいかもしれない。

 

 現に、モンスターたちは相手にならずに倒されているし、罠も力押しで対処されている。

 迷路も壁を壊され……ないな? あいつから逃げるときは簡単に壁を壊されていたけれど、今回はかなり苦戦している。

 あ、諦めた。なんか一緒にいる猫の獣人を先行させたな。

 

 ……は? 壁を通り抜けている?

 あんなことができるやつもいるのか。それとも……女神の力?

 

「あっちの猫の獣人がまずいかもしれない」

 

 壁抜け? そんなことできるのならダンジョンが意味をなさない。

 ガーゴイルの攻撃が通り抜けることを考えると、壁だけでなく物質すべてを透過できる可能性さえ考えるべきだろう。

 生き物はどうだ? もしも生き物も有効なら、あいつへの攻撃手段が存在しない。

 しかも、向こうはすり抜けてから内臓を攻撃したりもできるかもしれない。

 

「捕まえる? 今なら獣の勇者はまだ埋まっているから、同時に相手しなくてすむよ」

 

「あの先にあるのは、ガーゴイル地帯としかけたばかりの巨大な岩か……」

 

 ものの見事に物理特化というような地帯だ。

 魔法や毒や火は獣人たちには有効なので、迷路の先は攻略してもらうためにあえて相性のいい物理ゾーンにしている。

 それでも簡単には突破できないはずだった。突破はできないが、次回はいけると思えるような絶妙な調整にしたつもりだった。

 あんな能力さえなければ……。

 

「まずそうだな。ちょっと急ぐか」

 

「フィオナ様は……」

 

「魔王様は玉座で休まれています」

 

「ボクが分体で知らせておくよ」

 

 こういうときに判断や情報伝達が速いのはとても助かる。

 フィオナ様への報告はピルカヤに任せて、猫獣人を討伐するために俺たちは現場へと急いだ。

 イドがあのまま生き埋めになっているのならここまで急ぐ必要はないが、あいつのことだ絶対にあの程度じゃ倒せていないだろう……。

 

    ◇

 

「レイは地底魔界と獣人ダンジョンの出入り口の開閉だけでよかったんじゃない?」

 

「たしかに俺の役目はそれくらいだけど、万が一があったときには壁を作りながら脱出用の道も作るつもりだから」

 

「無茶はしないでよねえ? 戦いはボクらの役割なんだし、レイがそっち方面まで担うことはないんだから」

 

「ああ、フィオナ様から不死鳥の羽をもらっているし、最悪の事態は免れると思う」

 

「不死鳥の羽は、任意での発動のほかに、生命活動に支障がある場合に自動で発動します。レイ様の命は一度限り安全ではありますが、あまり無茶はしないでください」

 

「悪いな。心配させてしまって」

 

 本当なら俺だって安全な場所にいたかったけど、相手が相手だ。

  あの二人が協力して、イドがダンジョンを無視して奇襲してくるようなことがあれば、四天王でも最悪敗北する可能性さえある。

 

 みんながやられたら、またフィオナ様が悲しむだろう。せっかくの蘇生薬もまた一から作り直しになる。

 そしてなによりも、俺自身みんながやられるのは嫌だ。

 だから、ここであの猫獣人のほうだけでもなんとかしないといけない。

 

「このあたりだ。ピルカヤ、中の様子わかるか?」

 

「勇者は埋まったままみたいだね。猫は埋まった通路の先の部屋まで逃げたみたいだけど、疲れているのか休んでいるみたいだ。間に合ったね」

 

「こんなことなら、部屋丸ごと埋まるようにしかければよかった……」

 

 ためしに過剰魔力で道を作ったのだが、それが時間経過で勝手に埋まった。

 今回はあくまでそれだけの話で、イドや獣人を狙ったわけではない。

 だけど、この二人を処理できるのなら、もっと広範囲にしかけておけばと思ってしまう。

 

 悔やんでも仕方がないし、とにかく急いで部屋の中へと入る。

 一番頑丈なプリミラが先頭に立ち、俺たちは部屋に入ってすぐに猫獣人を確認した。

 向こうもこちらに気がついたようだが、ステータスは四天王のみんなのほうが高い。

 武器による攻撃は効かない可能性が高いし、ここはやはりピルカヤの炎を……。

 

 部屋に入る前に決めておけばよかったのに、今さらこんなことを考えるあたり俺はずいぶんと気が動転していたのかもしれない。

 猫獣人が動いた。まずい、先手を取られる。体勢を低くして、もしかして地面に潜ってやりすごそうとしている?

 それはたしかに有効かもしれない。まだ部屋にも道にもなっていない場所は、フィオナ様でさえ掘るのに一苦労するのだから。

 

 ……?

 別に地面に潜ったりしないな。もしかして、疲れが一気にあふれて倒れたとか?

 いや、何をのんきな考えを。今のうちにこの獣人を。

 

「降伏します! 助けてください!」

 

 ……なんか、少し前に聞いたことあるセリフだな。

 猫獣人が姿勢を低くしたのは、単なる土下座だったらしい。

 ええと……もしかして、思っていたよりも危険な力の転生者ではないということだろうか?

 それでも四天王のみんなは油断なく身構えているので、俺もこれが演技の可能性も考えながら一応話してみることにした。

 

    ◇

 

 やばいやばいやばいやばい!

 虎男が生き埋めになっているので、これ幸いと通路の先の部屋まで逃げた。

 そこでのんびりと休憩していると、急に部屋に誰かが入ってきた。

 思わず開けられた扉を見ると、そこにいたのは常時スーパーアーマー鬼畜ロリと数の暴力鬼畜精霊とセーブ無し連戦鬼畜スライム。

 広範囲追尾技の鬼畜ドラゴンはいないみたいだけど……あの魔族は誰? あの三人と一緒ってことは、もしかして知らないボス?

 

 そうこう考えているうちに、私は三人の行動を見逃さなかった。

 散々私が操作するキャラを殺してきた、数々の攻撃の予備動作のうちの一つだ。

 まずい!! そっか! 私侵入者で、あっちはボスキャラ! 殺す気まんまんじゃん!!

 

「降伏します! 助けてください!」

 

 急いで土下座して命乞いをした。

 当然。魔族なんだからそれを聞き入れると思えないけど、まずはこれでいい。

 

 リグマとプリミラの攻撃は女神の力で透過できる。

 問題はピルカヤの炎。あの範囲攻撃をされたら、私なんかあっというまに一撃死だ。

 だけど、あの攻撃はしゃがんでいたら回避できる……はず。

 ゲームとここの動作が違っていたら知らないけど、どっちにしろ私にはこれしかできることはない。

 

 ……失敗したら焼け死ぬ。

 というか、次の攻撃次第ではリグマとプリミラの攻撃でも死ぬ。

 なんとか生き残る方法を考えていると、意外なことにいつまでたってもこちらが攻撃されることはなかった。

 

「……こっちの攻撃なんて、全部通り抜けられるんじゃないのか?」

 

 ……こっちの加護までばれている。だけど正確ではない。

 この男の魔族、もしかしてゲームには出てこなかった魔王軍の頭脳みたいなやつなの?

 そういえば、こいつだけはこちらを攻撃しようとしていない。

 なら、私が命乞いすべきはこの魔族。

 

「限界がありますので、攻撃しないでもらえたら嬉しいです……」

 

 嘘はつけないし、実際攻撃されたら困るのでそうすがってみる。

 だけど、どこまでが通用するかはできればまだ隠しておきたい。

 ああ、もう……。なんでこんな面倒なことを考えながら、恐る恐る言葉を選ばないといけないんだろう。

 

「……転生者だよな」

 

「え、ええ。そうです。獣人の転生者で奥居(おくい)江梨子(えりこ)といいます……」

 

 男が思案するような動きをした。

 ……もしかして、いける? 転生者という肩書は、魔族にとっても利用価値があるものだと判断してもらえる?

 幸いなことに私には他の獣人みたいな偏見は少ない。

 獣人たちのもとで生活しようが、魔族たちのもとで生活しようが、私には大差はない。

 

 ……大差ないかなあ。魔族のほうがより危険ではある。

 獣人たちよりも導火線が短そうだし、なにが原因で自分が危険な目にあうかわからない。

 でも、今のこの状況も要するにわけのわからない理由で危険な目にあっているんだし、やっぱり変わらないか……。

 

「他の獣人の転生者は知っているか?」

 

「い、いえ……私以外の転生者と会ったことはありません」

 

 ふつうの獣人たちは転生者にあまり興味がないから当然として、私を街におくことにしたあの老人からも聞いたことはない。

 獣人たちにとっては転生者というのはその程度の扱いなのかもしれない。

 

「……だったら」

 

「クソがっ!!!!」

 

 魔族の男がなにかを言おうとした瞬間。

 怒気に満ちた虎男の大声が部屋の中に響き渡った……。

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