【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第410話 そこから先は射程距離です

「どうなってるのよ。星崎(ほしざき)

 

「……」

 

「なに? 死にかけてるの?」

 

 星崎というのが、ヒーローを応援していたもう一人の転生者の名前らしい。

 相変わらず、日本人の転生者だったか……。本当に多いな。

 

「救護班。治してあげなさい」

 

 将や戦闘員だけでなく、そんなのまでいたのか。

 何らかの治療用の魔法だろう。淡い光に包まれた星崎は、麻痺から解き放たれて大きく息を吐いた。

 

「ふ~……麻痺毒ってこわいもんだな。意識はあるのに、まったく動けなかった」

 

「麻痺ねえ。あっちは違うみたいだけど」

 

鳴神(なるかみ)は、そこのシャチのせいで混乱してるみたいだ」

 

「見覚えあるわね……。まさか、私の巣でこんなモンスターを見ることになるとは思わなかったわ」

 

 女王は、地を這うテンタクルオルカを一瞥する。

 こいつを知っているということは、やはりうちに攻めてきたのもこの女王の指示ってことだ。

 

「気を付けろよ。そこの魔族の男、モンスターを召喚する能力を持っている」

 

「魔王軍だからってことかしら。便利な能力そうだし、あんたも私が支配してあげるわね」

 

 来た。

 余裕たっぷりで話なんてしているのも、俺たちが下手に動けないのもそれがあるからだ。

 支配の能力者。条件と効果が検証できていない以上、最悪を見積もっておいた方が良い。

 意識一つで支配できる。どんな相手も永続で支配できる。そのくらいを想定しておこう。

 

 ――だから、やられる前に仕込みが必要だ。

 

「それよりも、待遇を聞かせてくれよ」

 

「待遇?」

 

 その言葉に、女はこちらに向けていた視線をロペスへと向けた。

 さすがに、真正面から挑むわけにはいかない。

 なので、ああやって気を引いて、少しでもこの場を突破できるようにしてくれているみたいだ。

 

「そっちの星崎ってやつ。それとあのヒーロー。支配されてねえんだろ?」

 

「そうね。支配してしまえば便利だけど、結局指示が必要になるのは不便なの。ただでさえ、兵隊たちがそうだからね」

 

「そういうことなら、俺たちわりと役立てると思うぜ?」

 

「へえ……。つまり、こちらにつくということかしら?」

 

「待遇次第だな。さすがに、今の生活よりもひどいことになるというのなら、遠慮したい」

 

 考えなしの相手だったら、これで一時でも騙せただろう。

 だけど、この女わりと用心深そうなんだよな……。

 ダンジョンに兵隊を送り続けていたが、退くべき時は退けるようだし、ちょっと厄介そうだ。

 

「駄目ね。ここまで不利になったから従うなんて言われたって、信用できないもの」

 

「へえ。それじゃあ、俺たちの能力は使いこなせないな」

 

「どういうことかしら?」

 

「あんたに支配されたら、意識がなくなるんだろ? 例えば、このウサギとかは考えを導く能力だ。意思がなければ、置物になるだけだぜ」

 

「ウサギの置物って、運勢が上がりそうだね!」

 

 時任の、ただの置物ではないアピールは良いとして、ロペスの言うことも間違いというわけではない。

 選択肢って、時任が支配されても使えるか微妙なところだからな。

 自分の行動に対する選択肢しか出てこないし、他人が使いこなすのはきっと無理だろう。

 

「そうなると、結局力ずくってことかしら?」

 

「おいおい、穏やかじゃねえなあ。もっと穏便にすませられないのかい?」

 

「うちの兵隊も将も殺したんでしょ? それで穏便にすませろってほうが、無理を言っていると思うんだけど?」

 

「誘拐された弱者たちの、精一杯の正当防衛だと目をつむってもらいたいねえ」

 

「将すら倒すのは弱者とは言わないの。さて、時間稼ぎはこのくらいでいいかしら?」

 

 会話に応じたのは、ロペスに乗せられたからというわけではない。

 向こうは向こうで、時間を稼ぐ必要があったため。

 それは、鳴神と呼ばれるヒーローを、回復させるための時間稼ぎというわけだ。

 

 だが、こちらはこちらで時間を稼いでおく必要があった。

 あとは、どちらの時間稼ぎに意味があったか、そういう勝負ってことだな。

 

「鳴神。そいつら私たちの敵よ。正義のために倒しなさい」

 

「なにっ!? ……いや、う~む」

 

「は? なにしてんの? 私の部下を殺したと言ったじゃない。あんたの中の正義は、殺人を許すの?」

 

「いや……むむむ」

 

 なんか、ヒーローがすごく渋っている。

 もしかして、星崎とかいう男の能力が解けたのか?

 ということは、もしかして俺たちとは一旦停戦するという約束が有効なので渋っている?

 だとしたら、助かる。無茶な賭けはしないでもすむかもしれない。

 

「その前に聞かせるが良い。現女王」

 

「なによ? ……現?」

 

「俺は先ほど、元女王を名乗る女性と出会った。早瀬(はやせ)と違って、人間ではなく昆虫人だ」

 

「ああ、見ちゃったのね」

 

「早瀬が後から現れて、ここを乗っ取ったというのは本当なのか?」

 

「まあ、そういうことになるでしょうね」

 

「くっ……悪事に加担していたというのか! ヒーローである俺が!」

 

「なあんだ。そんな簡単だったのね。あんたの心の隙を作るのって」

 

 早瀬と呼ばれた女の目が光った気がした。

 すると、後悔していたような鳴神は、だらんと糸が切れたように体から力が抜ける。

 これ……支配されてないか?

 

「さあ、これで優秀な手駒に早変わり。使い辛かったヒーローともお別れね」

 

「あらら、便利なやつだったのに、容赦ねえなあ」

 

「……」

 

 心の隙を作ったことで支配した。ということは、心さえ強ければ効かないという能力か。

 ヒーローは、さぞかし通じにくかったんだろうなあ。

 だけど、今ではすっかりと早瀬の操り人形になってしまったようだ。

 

「ロペス」

 

「オーライ」

 

 ここまでだな。まずはロペスに指示を出す。

 しっかりと、いつでも動けるようにしていたらしいので、ロペスはすぐに手を動かし鍵を開けるような動作をした。

 

「なっ……!? 崩落?」

 

「開錠っていうんだ。鍵以外も開けられるみたいだがなあ!」

 

 うちにきたときと同じだ。

 ロペスが鍵を開けるだけで、壁や天井の結合が一部解かれて崩落する。

 こんな敵の巣のど真ん中でやりたくなかったが、ヒーローと敵対し、支配される危険もあるのなら、もう四の五の言っていられない。

 

「世良、風間」

 

「はい! みんな僕の近くに!」

 

「結界展開します!」

 

 ほんと、確証もない危険な賭けだよなあ。

 ロペスに巣を崩落させてもらって、俺たちは風間の周囲に集まることで、主人公補正みたいなのに助けてもらおうなんて。

 一応世良に結界は張ってもらっているが、生き埋めになる可能性のほうが高そうなんだよなあ。

 

 まあ、最悪全員死んだら奥居がいる。

 彼女だけは地面に潜ってもらったので、崩落に巻き込まれて死ぬことはない。

 全員死んだら、奥居になんとかして逃げてもらおう。

 

「くそっ! ここにきて、また逃がすなんて冗談じゃないわよ! やりなさい。鳴神!」

 

 だが、女王は冷静にヒーローを使った。

 こいつ、支配されていてもこんなに強いのか。

 崩落した洞窟の中、鳴神だけはそれをものともせずにこちらに接近する。

 となると、もうしょうがない。

 時間稼ぎは残念ながら間に合わなかった。

 あとは、責任を果たすだけだ。ここまで命令してきたのは俺なんだから。

 

「じゃあ、一回死ぬから頼んだぞ」

 

「……俺たち、あとでビッグボスに殺されるかもなあ」

 

「まあ、そのときは生き返らせるさ」

 

 そう言いながら、俺はヒーローと対峙するように前に一歩足を踏み出す。

 魔力の流れは好調。暴走させる感覚にも慣れてきた。

 なんか、ちょっと風邪をひいたときみたいな感じだな。

 あとは、これを一気にめちゃくちゃに混ぜてしまってから、外に向かって放出する。

 

 それで、自爆は成功するはずだ。

 うまくいくと良いんだけどなあ。なんせ、自爆なんて初めてなんだから。

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