【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「
嘘でしょ!? あいつ、自爆したわよ!?
そんな気配まったくなかったじゃない。
それまで、ごく普通にしていたじゃない。
道連れにしてやるとか死ぬことへの恐怖心とか、少しは態度に現れても良いはずでしょ!?
あいつのほうが、昆虫人よりよっぽど虫っぽいわよ。
いえ、そんなことよりも転生者たちに逃げられ……。
違う。鳴神は? あの至近距離で、というよりも私たちをかばうように直撃した鳴神もさすがに無事じゃいられないはず……。
「一応、無事みたいだな……。死んでいないという意味だけど」
「だけど、さすがにこれ以上酷使はできないわね」
鳴神は生きていた。
だけど、ここまでぼろぼろになってしまうと、さすがの鳴神も治療して休ませないと動かせない。
やってくれるじゃない……。
まあいいわよ。あの男が自爆したってことは、一番厄介なモンスターを作成する男は消えたってこと。
残りのやつらも逃げ出したってことは、私たちと戦って不利と判断しているんでしょ?
だったら、鳴神がいなくても昆虫人どもの兵隊と将の数の暴力でどうとでもなる。
「ヒーローは倒せたか。じゃあもう一回」
「は?」
なんで……復活しているの?
あんた、たった今自爆したばかりじゃない。
もう一回って言った? 鳴神という盾がいなくなった状態で、もう一回……?
「兵隊! 私たちを守りなさい! 兵隊以外は全員逃げるわよ!」
「なんだよこいつ! なんで、自爆したのに生き返っているんだ!」
とっさに兵隊に指示を出す。
間に合ってよかった……。私たちにはもう男の姿が見えない。
兵隊たちが群がって、男を囲むようにしているからだ。
鳴神ほど頑丈ではないけれど、これなら自爆の被害を最小限にできる。
だけど、次も生き返って自爆されたら最悪ね。今のうちにさっさと逃げて、体勢を立て直さないと……。
◇
「あ、そっか。生き返っても魔力は回復しないのか」
自爆しようとしても、いっこうに何も起こらないからおかしいと思ったんだ。
さっきの自爆で魔力を全部使ってしまったらしい。
……そういえば、よく考えたら俺の魔力って十程度だったよな。
だから、爆破も小規模だったのか。
どうやら、初の自爆ということで、色々と考えが及んでいなかった。
わりと危なかったな。
ヒーローがこちらに接近していなかったら、あそこまでダメージを与えられなかった。
それに、ここにいる兵隊以外が撤退していなかったら、俺はあっさりと捕まるか支配されていたことだろう。
こうして意識がある以上は、きっと魔力が一くらいは残っているんだろうけれど、魔力を全て使い切っていたら、そのまま気絶もしていただろうし、色々と考えが及んでいなかったようだ……。
まあ、結果的に自爆発言がブラフになって、相手が逃げてくれて助かった。
「ちょっとどいてくれ。俺はお前らの女王に手出ししないしできないから」
「本当カ?」
「ああ。だから、女王を守るという命令はちゃんとこなせる。安心してくれ」
「ナラ、問題ナイカ」
問題あると思うぞ。
俺にまとわりついている女性の昆虫人たちは、あっさりと俺の言葉を信じて解放してくれた。
普通なら、このまま捕獲するだろうけど、そこはやはり兵隊といったところか。
命令以外は別に興味がないらしい。
「さて、そろそろ時間は稼げただろうか」
ロペスたちは逃げてくれたし、女王たちは撤退した。
こちらも余裕を取り戻せたので、もう焦る必要は無いが、さすがにそろそろ帰りたい。
……火を起こせないのが問題だな。確認するためには、原と合流しないと駄目か。
「あ、いたいた~」
「おお、ピルカヤ。間に合ったみたいだな」
「なに言ってんのさ~。聞いたよ。君、自爆したんだって?」
「初めてにしては上手くできたと思う」
「そこで誇らしげにするあたり、精霊のボクですら意味わかんないときあるよ。レイって」
ぶっつけ本番がうまくいったのは、なかなか誇らしいことじゃないか?
それに、ピルカヤがここにいるってことは、転生者たちはみんなうまく逃げられたってことだし、役目はしっかり果たせたってことだからな。
「とりあえず、今は窮地は脱したっぽいぞ」
「みたいだねぇ。まあ、レイが死んだってことは、今までで一番ムカつく敵ってわけだけど」
そう言いながら、ピルカヤは昆虫人の兵隊たちをにらみつける。
だけど、こいつらは良くも悪くもただの兵隊だから意味ないぞ。
「こいつらに害はない」
「そうなの? もしかして、部下にでもした?」
「いや、女王の最後の命令が、女王を守ることだからな。この場に女王がいない以上、こいつらは俺たちに危害を加えることは無い」
「へぇ、そうなんだ。……あれ? もしかして、女王を自爆で殺したってこと?」
「いや、残念ながら俺程度の自爆では、相手が逃げるくらいの威力だったよ」
「そこで残念そうにされてもねぇ……」
せっかくやるのなら、敵を全て巻き添えにできるほうが良いじゃないか。
まあ、今回は俺もガス欠だったし、少ない魔力であの場をなんとかできたのだから、そこは誇るべきか。
「じゃあ、今のうちに帰るか」
「うん。そうしたいんだけど……ちょっと待ってね。魔王様が来てるから」
「え? フィオナ様来てるの? ここ、昆虫人の巣だよな」
「そりゃあ来るでしょ。レイが誘拐なんかされたんだから、地底魔界にこもってなんかいられないよ」
まずいな……。フィオナ様の情報はなるべく隠したい。
ここで目撃されてしまったら、どこから勇者に情報が洩れるかもわからない。
……昆虫人、全滅させないと駄目か?
そんな考えが浮かんでくると同時、ふと優しく抱きしめられる。
「まったく、無茶する子ですね。本当に」
「フィオナ様。お久しぶりです」
「本当ですよ。まったく!」
なんか、俺が怒られているようだが、俺も被害者なのですが?
とか言い出すと、余計に怒られそうなので、今はされるがままに抱きしめられておこう。
「レイ様、ご無事……ではないですね。申し訳ございません。救出が遅れました」
「いや、それは良いんだけど、プリミラたちまで……」
「すまなかった! 肝心な時に、魔王様とレイ殿の剣である私が不在とは!」
「しっかし自爆とはねえ……。もう少し、なんか方法はなかったのか?」
四天王まで全員来ちゃってるじゃん……。
これ、地底魔界本拠地のほう大丈夫か?
まあ、十魔将が全員いるのなら、きっと防衛は問題ないんだろうな。
ともあれ、これで完全に窮地は脱した。
昆虫人の巣に誘拐されたときはどうしようかと思ったが、意外となんとかなるものだな。
◇
よりにもよって、ボスに殿を務めさせてしまった直後、俺たちは急いでそれを試した。
「友香。そろそろ確認してみてもいいんじゃない?」
「そ、そうね。ちょっと待って、すぐに火を」
オクイの言葉を聞いて、ハラは急いで魔法を発動させる。
最初に試したとおり、これではピルカヤの旦那は意識を移せない。どうやら、移せないよう細工がされているみたいだな。
だけど、今なら事情が変わっているはずだ。
ビッグボスのことだからなあ……。ボスのためなら、とんでもない力を発揮していそうだ。
「お、いけるね。魔王様~。つながりました~」
ピルカヤの旦那も、わりと焦っていたのかもしれない。
ここにいないビッグボスに語り掛けているというのは、おそらく本体と分体で同じことを喋ってしまっているのだろう。
「ええと、まずは……レイは?」
「すまねえ、旦那。ボスは俺たちを逃がすために、昆虫人の女王相手に自爆している」
「……敵の場所は?」
「それなら、向こうの道をまっすぐ行ったところ……に」
消えちまった。というか、移動したんだろうな。
俺たちの失態を咎める余裕すらなく、ピルカヤの旦那はボスのところへと向かったようだ。
その直後に、俺の直感が警鐘を鳴らした。ダンジョンに侵入したときですら、こんな寒気は感じなかった。
……なんだよこれ。いや、わかる。そりゃあそうだよなあ。
ボスが自爆までするほどピンチなんだ。あの方が、それに対してのほほんとしていられるわけがない。
「魔王……か」
まじでよぉ。どうやってこの方を倒すつもりだったんだよ。ジノ。
怒りが俺たちに向けられているわけではないのに、この場にいるわけでもないのに。
それでも震えをおさえられないほど、とんでもない重圧を放つような方だぞ。あの方は。
「とりあえず……うまくいったってことで、いいんだよな」
俺の軽口に、あのトキトウですら言葉は返せなかった。
ああ、怖いよな。俺たちのビッグボスって、やっぱり魔王様なんだなって実感できるよ。