【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「さて、無事にレイたちも戻ってきたことですし、あとは事後処理のお話ですね」
「フィオナ様が魔王っぽいこと言ってる……」
「なんですか、不満ですか? 魔王なんですけど?」
「いえ、むしろ感動ですかね?」
たまに魔王らしくなるからなあ、この魔族。
そんなときは、わりとしっかりと頼りになるし、文句なんてあるはずもない。
「なるほど……つまり、私に会えて感動したということですか!」
「いえ……まあ、また会えてうれしかったのはそうですけど」
満面の笑みかつ無言で頭なでないでくれます? 子供じゃないんですから。
しかし、そんな顔をしていたのもつかの間、フィオナ様はまた真面目な表情へと変わった。
かわいいと綺麗の変化が激しいなあ。
「リピアネム、リグマ、連れてきなさい」
「はい」
連れてくる……。ああ、昆虫人の元女王と、無事そうな転生者か。
ということは、女王の座を乗っ取った転生者は、すでにやられてしまったということかもしれないな。
まあ……もしも戦闘になっていたとしたら、フィオナ様と四天王相手なんて勝つのは無理だろうし、仕方がないことだ。
というか、フィオナ様だけでやばい。
プリミラを追い詰め、リピアネムに善戦していた、ヨハンだってフィオナ様の前では瞬殺だもんなあ……。
今回の転生者と、どちらが厄介だったか考えるが、俺自身は今回のほうがピンチだったろうな。
なんてことを考えていると、二人が昆虫人の女王と、ヒーローを連れてくる。
「……ふむ、敗北したわけか。いいだろう、だが殺すのは待ってほしい」
「どうしますか? レイ」
「え、そこで俺に委ねるんですか」
「あなたは魔王軍の宰相ですので」
それにしたって、宰相よりも魔王の意見のほうが優先だろうに。
俺に伺い立てしてくるとは、律義と言うべきか、あるいは独裁しないように気を付けているのか。
「でもさぁ。負けたからって命乞いするなんて、それこそヒーローっぽくないよねぇ」
ピルカヤはピルカヤで煽らないであげてくれ。
というか、なんか怒ってないか? こいつ。
「ああ、俺はヒーローとして失格だった。殺すのはかまわんが、その前に確認だけしておきたい」
意外なことに、死ぬこと自体は受け入れているようにすら見える。
こいつ、本当に俺たちと同じ世界の人間だったのか? よくもまあ、こんなにも死を受け入れられるな。
俺なんて、それが嫌だから誰かを殺してまでいる大悪党なのに。
「悪……とは言えないか。むしろ今回は俺が悪だ。だが、名前を知らんので呼び方がわからないな。そこの魔族」
「ああ、そういえば自己紹介なんてする必要もなかったしな」
「俺の名は、
「魔王軍宰相のレイだ。ヒーローだったって、なんで過去形?」
「昆虫人たちを洗脳した悪党の部下だったからな。そして何よりも、約束を違えたろう」
「約束というと……」
あの場では俺たちと敵対しないという約束のことか?
ただ、こいつ自身の意思で敵対していたわけではなさそうなんだよなあ。
転生者の男の力で、なんか明らかに様子がおかしくなっていた。
かと思えば、今度は転生者の女の力で、支配されて命令をただ実行していた。
……こいつ、厄介な敵だと思っていたけれど、その手の力に弱すぎでは?
「それだけが心残りだ。俺が嘘を言ったら、貴様らを全面的に支持し、貴様らのヒーローになる。そう約束したはずだ」
「ああ、あれって勢いだけの言葉だろ?」
「いや、俺は嘘を言わない。言ってしまったが、だからこそもう一つまで嘘にしてはいけないだろう」
「つまり、魔王軍の仲間になるってことか?」
「不要なら、仲間入りしたあと処刑でもしてくれ。だが、約束は守ろう」
ここまで覚悟が決まっているとは、ロペスやヨハンとはまた違うタイプのおかしな転生者だなあ。
というか、悪の大本なんだけど、そこに仲間入りするのは良いんだろうか。
「俺たち魔王軍だし、お前ら人類の敵で悪党なんだけど」
「つまり、ダークヒーローとしての活動となるな!」
いや、ダークヒーローってそんなのだったか?
その言葉は飲み込んでおくことにした。
本人が納得しているなら、俺がとやかく言うべきことではないだろうからな。
「魔王様。どうしましょう……」
「宰相であるあなたに、全て任せます」
丸投げしやがったこの魔王――というわけでもなさそうだな。
俺が鳴神を仲間にしたくないのであれば、すぐにでも敵として扱うような気がしてきた。
いつものフィオナ様ではない。なんというか、冷たい目をしている。まるで本物の魔王みたいだ。
そして、それは昆虫人の元女王も同じことなのだろう。
それを誰よりも理解しているのは、きっと彼女自身だ。
……俺としては、フィオナ様をこんなふうに怒らせたくはない。
「じゃあ、保留します。鳴神と女王、それに他の昆虫人もかな? 全員、うちで働くということで様子見しようかと」
「ということみたいです。あなたたちは、これから魔王軍の配下となります」
「温情感謝する! ダークヒーロー鳴神奏一。これからは、魔王軍のために働こう!」
「このたびは、私が種族の手綱を握れず、大変ご迷惑をおかけいたしました。ご温情感謝いたします」
鳴神、お前本当にそれでいいのか?
いや、一度言ったことを曲げたくないから、これも彼なりに考えた結果なのかもしれないな。
これまで正義だと思っていた昆虫人たちは、転生者をさらったり敵を倒したりと、この世界ではごく普通にありふれた存在だった。
そして、それは魔王軍でも同じこと。ついでに言えば、他の国でもきっと同じことだろう。
残念ながら、鳴神よ。
お前が口癖のように言っている正義なんてものは、この世界のどこにも存在しないんだ。
「それじゃあ、何をしてもらうかは改めて伝えるから、今は地底魔界での暮らしに慣れてくれ」
「承知した」
本当は俺が説明しても良いんだけど、悪いが今は後回しだ。
他の全ては後回しになる。最優先事項ができたからな。
◇
「フィオナ様。もしかして、怒っています?」
「え!? 怒られるようなことしたんですか? なんですか、私に内緒でガシャでも回しました?」
……いつものフィオナ様だ。
さっき見た、冷たい視線が見間違いだったんじゃないかとすら思えてくる。
だけど、さすがにあれが俺の勘違いってことはないよなあ。
「鳴神と昆虫人の女王のこと、怒っていませんでした?」
「そりゃあそうですよ! 私の大事な大事なレイをさらったんですよ? つまり、これって私への宣戦布告ですよね? どうします? やっぱり、今からでも戦うべきですか?」
「いや、それの主犯は別の転生者二人なので、やめてあげたほうが良いと思います」
「わかっているんですけどねえ……。レイ、こっちにきなさい」
言われるがままに、俺はフィオナ様の元へと近づく。
すると、いつもよりも強く抱きしめられた。
苦しいとまではいかないが、身動きが取れない。
相変わらず、見た目からは想像できないほどの力だよなあ。
「どこにも行かないように。あなたが私を見捨てたら、私はちょっと本気を出して魔王をしますよ?」
「俺自身は、ずっとここで一緒に暮らしたいと思っていますが、今回みたいな不可抗力はなんとも……」
「ふむ……。まあいいでしょう。レイ自身が私とずっと一緒にいたいというのであれば、今回は許します」
何を?
俺か? それとも、鳴神や昆虫人の女王か?
顔が見えないため、今のフィオナ様がどんな気持ちなのか、いまいち把握しきれなかった。
まあ、ずっと一緒にいることを許してもらえているし、俺への怒りとかはないと思いたいところだな。