【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「宿屋作成。宿屋作成。宿屋作成」
「……巣の拡張って、こんな気軽にできるものでしたっけ?」
「ここは地底魔界だからな。わりと楽にできるようになっている」
ヒーローはともかくとして、昆虫人たちは種族丸ごと配下になるとしたら、当然ながら住処が足りない。
なのでこうして、大量の宿屋を作っているところだ。
クララやナツラのときも同じことをしたし、これにもすっかり慣れている。
「あれ、レイくん何してんの? おじさん、また管理する宿屋増えちゃう?」
「いや、こっちは昆虫人用の住まいだから、昆虫人たち自身に管理してもらおうかと」
「えっ」
えっ、てなんだ。
まさか昆虫人たちは、そういうの苦手なのか?
「あの……私たちの住処であれば、以前の巣を使うことになるものかと思っていました」
「……なるほど」
そうか。クララやナツラと違って、昆虫人たちの巣は地底魔界とつなげられそうだもんな。
となると、これらの宿屋は無駄になるな。
「で、ですが、こちらで泊まり込みの作業をする際には役立つかと」
どうやら、気遣わせてしまったらしい。
まあ、これに関しては俺の判断ミスだ。
というか、方針決めの会議に参加しなかったからな。
フィオナ様が離してくれなかったせいで。
朝一で行動する前に、まずは情報共有するのが先だったか。
「まあ、昆虫人の兵隊たちに命令すれば、宿屋もしっかりと管理するだろうさ」
「ええ、あの子たち命令はしっかりとこなしますから」
ううむ。それなら、リセットせずにこのままにしてもいいか。
なんだか、手間を増やしただけのようで申し訳ない気がしてきた。
昆虫人の女王も……。
そういえば、名前すら聞いていなかったな。
これも、昨日の会議で聞いていたかもしれないが、俺自身はまだ知らない。
「俺の名前はレイだけど、昆虫人の女王って名前なんていうの?」
「はい。私の名前はゼラシアといいます」
よし、覚えておこう。
クララやナツラと同じく、今後は友好的な関係になる気がするし。
「それじゃあ、まずはダスカロスのところに行くか。昨日決めたことを聞いておきたい」
「そうだな。おじさんも、そのためにレイくんを呼びに来たわけだし」
「そうだったのか。悪いな、四天王を使いっ走りみたいにして」
「それ、どっちかというとダスカロスのせいだけどな。あいつ、四天王だろうと容赦ねえんだもん。暇そうならって……まあ、暇だけどさあ。従業員も優秀に育ったし」
真面目な教育係りのおじさんは、いつの間にか自堕落スライムおじさんに戻っていたらしい。
そして、それをしっかりと見抜くダスカロスもさすがといえる。
「プリミラに見つかる前で良かったんじゃないか?」
「まあなぁ……。プリミラの場合、もっと容赦なく働かせそうだよ。主に畑でな」
経験者は語る。
そんな他愛ない話をしながらも、俺とリグマはダスカロスのもとへと向かった。
「……四天王が護衛ですか。やはり、重要な方なのですね」
◇
「ダスカロス~。連れてきたぞ~」
「ああ、助かった。リグマ」
「お疲れ様です、リグマ様。あとは私が」
「おう。そんじゃあ、おじさんは宿屋の新人教育に戻るわ~」
あれ?
さっき、従業員がみんな優秀だから、リグマは暇だって言ってなかったか?
「魔王様の様子は普段と変わらなかったか?」
「フィオナ様? ……いつもよりベタベタしてきて、いつもより絡み方がウザかった」
「ふむ、であれば問題なさそうだな。君には悪いが、しばらくは魔王様の行為を受け入れてくれ」
「ああ、それは別に構わないけど」
思わず、魔王様をウザかったと言ってしまったが、ダスカロスもプリミラも気にした様子はない。
……それでいいのか魔王軍。
なんか、フィオナ様をもう少し大切にしてあげようと思ってしまう。
「さて、昨日決めた方針だが……」
そうして、ダスカロスは昆虫人と鳴神について教えてくれた。
概ね、先ほどリグマやゼラシアと話したとおりだな。
「……」
「……」
なんか、地底魔界に来てすぐを思い出す。
今は賑やかな魔王軍だけど、あのころはフィオナ様とプリミラと俺しかいなかったからな。
そんなことを思い出したのには理由がある。
「あの」
「なんでしょうか?」
「なんで、俺の後ろをついてきているの?」
イピレティスの横を歩く姿は、まるでもう一人の秘書のようだ。
まあ、あのころはまさしくそんな関係だったが。
「お気になさらないでください」
「仕事や畑はいいの?」
「仕事は問題ありません。畑も、任せているので問題ありません」
そうは言うが、趣味の一環だから自分でできることは自分でしたがっていたじゃないか。
首を傾げながらも、とりあえず俺は三人で昼食をとりに行くことにした。
◇
「いっぱい食べてね~」
なんか、俺の好物がこれでもかと並べられているけど、今日って何か記念日だったっけ?
あと、昼からこの量は多くないですか?
「あれ、今日はナツラが厨房にいる」
そんなことに気がつくと、マギレマさんが珍しく表情を歪めた。
なんか、すごく嫌そうな顔だな……。
「まあ、仕方ないから使ってるというか」
「私だって、このくらいはできるぞ」
「まだまだネムちゃんのが上手だけどね~」
「そうだろう!」
そんなリピアネムの声は、厨房ではなく俺の隣から聞こえた。
どういう時間帯で働いているかは知らないが、今日の作業は終了しているらしい。
隣でのんびりと大量の肉を食べている。
「では、リピアネム様。あとはお任せします」
「任された」
何を?
そう言うと、食事を終えたプリミラが去っていく。
何だったんだろう? 一緒に食事をしたかっただけか?
「レイ殿は、この後どうするのだ?」
「昆虫人たちに会って、生活に慣れたか確認かな」
「それは、ダスカロスとカーマルがやるので、いつも通りで良いと思うぞ」
「そうか? じゃあ、ダンジョンの点検かな」
まあ、転生者からの支配という後遺症があるらしいからな。
しばらくは、テラペイアに診察してもらって、元に戻ってから会ったほうがいいだろう。
「うむ。私もついていこう」
珍しいな。
普段はあまりこちらの作業に興味を持たないのに。
まあ、最近では強いモンスターも増えたことだし、リピアネムの戦闘欲求が刺激されたのかもしれないな。
そんなこんなで、俺はリピアネムとイピレティスと、三人でダンジョンを回ることにした。
なお、アナンタがいつもより疲れていたのは、リピアネムも俺とイピレティス寄りの意見を出すからだろうなあ。
◇
「ということで、今日はピルカヤ以外の四天王と一緒に行動していました」
「なるほど。みんなしっかりとしていますね」
しっかりと? まあ、全員仕事はきっちりこなすタイプだけど。
今日はどちらかというと暇なのか、俺と一緒に行動していたという話ですよ?
「ピルカヤはピルカヤで、ダンジョン全体を見張ってくれています。なので、安心ですね」
「ええ。それはまあその通りなんですけど」
……なんか微妙に会話がずれているような気がしてきた。
「そういえば、イピレティスも今日はちょっと変でしたね?」
「と言いますと?」
「いつもは、そこまでしっかりと一緒にいるわけじゃないのに、今日はずっと俺についてきていました」
「あの子も、とても後悔していましたからねえ」
……なんの話だ?
なんか、俺が知らない話をさっきからしていないですか?
「レイが再びさらわれないように、四天王から誰か一人、十魔将から誰か一人。必ず護衛するよう命じましたから」
いや……胸を張って言わないでください。
どうりで、ずっとついてくるはずだよ!
「あの……俺がさらわれたとき、イピレティスは隣にいたので、護衛に落ち度はないはずなんですけど」
「むむむ……たしかに、そのとおりですね」
良かった。どうやら理解してくれたようだ。
たしかに、あのとき誰かが一緒に転移していたら楽だったけれど、隣にいたイピレティスが除外された時点で、魔王軍の護衛体制の問題ではないからな。
「となると、常に接触でもしておきますか? いっそ、リグマの体の一部でも身につけておきます?」
「それ、戦力になるんでしょうか?」
「本体か分体が近くにいないと、意味がないですね……」
俺を心配してくれるのはありがたいが、それで手を煩わせるのもなあ。
しかと、その労力に見合った結果とならないのであれば、なおさらだ。
「良いことを思いつきました!」
「出ましたね。良いこと」
絶対良いことじゃないのは、もうわかっている。
「私が常にレイと手を繋ぐか頭をなでるか抱きしめることで、私ごと転移する可能性が!」
「動きにくいから嫌です」
「私の何が不満なんですか!?」
「提案が不満ですね……」
結局、あの能力から守るのは無理な話だし、みんなには無理のない範囲内で、俺を護衛してもらうことにした。
なんか……やたらと過保護にされている気がするなあ。