【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第417話 初心忘るべからず

「あ~つい~ですね~!」

 

「そのわりにはうるせえな。トキトウ」

 

「せめて元気にしないと、やられちゃうからね!」

 

 何にだろう。

 むしろ、体力を無駄遣いしている気がしなくもないが、まあ時任だし。いつものことか。

 

 それにしても、時任の言うことは理解できる。

 なんか地底魔界全体が暑いな。

 これは、外の世界も猛暑なのだろうか?

 

「地底魔界って、洞窟だからひんやりしているイメージだったんだけどなあ」

 

「むしろ熱がこもっているなあ。おじさんも、暑くて溶けそうだよ」

 

 というかほんとに溶けてるじゃないか。

 久しぶりに見たぞ。そのメタリックなスライム形態。

 

「見た目だけなら、リグマは冷たそうなんだけどな」

 

「触ろうとするなよ? むしろ、熱がこもった金属だから、ほんとに火傷しかねないからな」

 

 伸ばしていた手を引っ込める。

 そうか。金属スライムだから、見た目と違って相当熱いのか。

 

「見てきたけど、やっぱり外に暑さの原因とかなかったよ~」

 

「そうか、ありがとうピルカヤ」

 

 となると、単に気温の問題というわけだ。

 いっそ、熱源の転生者やモンスターが原因なら、全力で撃退するだけでよかったのに。

 

「ボク優秀だからねぇ」

 

「うん。だから今はあまり近寄らないでくれ」

 

 ピルカヤ自体は熱くないんだけど、見た目のせいでなんか体感気温が上がった気がする。

 

「……」

 

「悪かったから、無言で火力増すなよ……」

 

「仲良く暑苦しく何やってんのさ。君たち」

 

 思わず邪険にしたら、四天王から手痛い反撃を受けた。

 ただそれだけの話だ。

 ピルカヤめ。わざわざオーロラ形態じゃなくて、普通の色の炎に戻って燃え盛りやがって。

 

「しかし、これだけ暑いとオクイが大変そうだな」

 

「奥居が? ……ああ。海は繁盛していそうだもんな」

 

 今が夏なのかはわからないし、そもそもこの世界に四季があるのかもわからない。

 だけど、これだけの暑さなら海という娯楽は、きっと利用者も増えていることだろう。

 

「ちょっと様子でも見てみるか」

 

 ここにいるよりは、そのほうが涼しそうでいいだろうしな。

 

「レイくん。その前に、おじさんのために凍結床作ってくれない?」

 

「いいけど……怪我しないようにな」

 

「今の溶鉄スライムよりは、怪我率低いと思う」

 

 ということなので、リグマのために適当に凍結床を作っておいた。

 床のうえでたれているスライムは、なんか力尽きて溶けているようだけど……本当に平気なんだろうか。

 

    ◇

 

「ただいま」

 

「ありゃ、ずいぶん早いな。なんかあったのか?」

 

「盛況で客が多すぎてな。リズワンたちまでいたから、さすがに俺は遭遇しないようにした」

 

「そりゃあ賢明な判断だ。だが、ロペスたちは一緒じゃないみたいだな」

 

「あいつらは、リズワンに会ったことがあるからな。というか、奥居の協力者だということも知られているし、そのまま海で遊ぶ許可は出した」

 

 時任が、なんかすごい楽しそうに海に走っていって波に呑み込まれていた。

 砂浜に突き刺さった時任は、きっと奥居が救出してくれることだろう。

 

「とりあえず、俺たちは従業員用の人工海を使うか」

 

「おじさん、このまま床と対話し続けるから、魔王様と一緒に行ってきな~」

 

 今日はもう、リグマはずっと凍結床の上にいそうだな。

 いまだにスライムの姿だし、相当まいっているようだ。

 

    ◇

 

「というわけで、海に……。なんですか、この部屋」

 

 あの暑さはどこへやら。

 フィオナ様の私室は、むしろ肌寒さを感じさせる温度だった。

 

「なんか今日は暑いですからねえ。魔力をちょっと使って、涼しくしました」

 

「あのフィオナ様が……。宝箱ガシャ以外に魔力を」

 

「私をなんだと思っているんですか」

 

 ガシャという欲望に呑まれた魔王様です。

 と思っただけなのに、フィオナ様の指はすでに俺の頬に触れていた。

 

「指も少し冷たいですね」

 

「冷やしすぎましたか」

 

 ほんと、外の暑さが嘘みたいだな。

 魔法でここまで快適にできるとは。

 

「そういえば、海がどうかしましたか?」

 

「いえ、暑かったので人工海にでも行こうと思いまして」

 

 でも、この部屋にいるのならその必要もなさそうだな。

 とりあえず、ピルカヤを通して地底魔界の希望者だけを招くか。

 そう思っていたら、フィオナ様はすでに扉の前に移動していた。

 

「何をしているんですか? すぐに行きますよ」

 

「乗り気ですねえ」

 

「レイが、私の水着を見たいようですからね! あの露出面積過多の恐ろしい布切れを!」

 

 変な言い方をするのやめてくださいよ……。

 ただの水着だったじゃないですか。

 文化が違うのか、着慣れていないためやたらと恥ずかしがっていたけれど、転生者女子組は同じような水着を普通に着ていましたよ?

 

「というか、その認識なのにまた着るんですか?」

 

「レイがどうしても見たいようなので、仕方がありませんね!」

 

「いえ……」

 

「ほう?」

 

「見たいです……」

 

「ふふん」

 

 嘘は見抜かれそうだったからなあ。

 実際のところ見たいよ。見たくて何が悪いんですか?

 あなた普段から美しいですけど、水着は水着で別の美しさでしたからね!

 

「うわぁ……むわっとしますね。やっぱり引きこもりませんか?」

 

「そうしたいのなら、無理にとは言いませんけど」

 

「一緒に引きこもります?」

 

「いえ、俺は海に行こうとしています」

 

「一緒じゃないと意味ないじゃないですか!」

 

 怒らないでくださいよ。

 無理強いすると良くないと思って気を遣ったのに、なぜ怒られているのだろうか。

 

「じゃあ、行きますか」

 

 そうして手を差し出すと、フィオナ様はしっかりと握り返して一緒に歩くことになった。

 客用の人工海は、あれはあれで賑やかで楽しいだろうが、身内用の人工海も良いものだ。

 時任やロペスは、今回は奥居と一緒に行動するために向こうに行ったが、どちらもそれぞれの良さがある。

 

 きっと、こちらの海も今日はそれなりの利用者がいることだろう。

 

    ◇

 

「……貸切ですね」

 

 まさか誰もいないとは。

 ピルカヤに伝えてもらったから、今日みたいな日は利用者が多いと思ったのに。

 人工海、まさか人気ないのか……?

 

「ふむ、そういうことであれば、こんな水着ていど恥ずかしがる必要もありませんね!」

 

 ……両手で体を隠すようなそのポーズやめませんか?

 なんか、卑猥なもののように見えるじゃないですか。

 

「言葉と行動がばらばらですねえ」

 

「……おのれ人類」

 

 人類関係ありません。

 これはあなた自身との戦いです。

 

「フィオナ様って、肌が白いから顔が赤いとすぐにわかりますね」

 

「何に気づいているんですか! まったく……マイペースな子ですよ。ほんとに」

 

 いつもの軽口を叩くと、フィオナ様もようやく恥ずかしさが消えたようだ。

 少なくとも、両手で体を隠すような仕草はやめてくれた。

 

 ……ただ、これはこれで目に毒というか。

 うん、なんか隠したがる理由もわかるというか。

 

「な、なんですか? そんなにじろじろと見られると、また羞恥心がぶり返しますけど?」

 

「いえ、やっぱりきれいだと思いまして……」

 

「……」

 

「……」

 

 なんか、前回もこんな感じだったよな。

 相変わらずというべきか、成長しないというべきか、俺とフィオナ様がまともに水遊びができる日は、いつか来るんだろうか?

 

    ◇

 

「ぼえぇ……」

 

「それは、暑さで死にかけているんですか? それとも、魔王様とレイ様を見て死にかけているんですか?」

 

「後者だろうな。魂の抜け方がいつもと同じだ」

 

「つまり治療は不要ということですね」

 

「ああ、そのへんのベッドに寝かせておけ。それよりも熱中症の者が出ないかが問題だ」

 

「今のところ問題なさそうですねえ。レイ様の提案どおり海で涼めたらなお良かったのですが……」

 

「……あの二人の邪魔はできんだろうさ。人工海の手前で人だかりができているから何事かと思ったが、皆が気を遣ったということか」

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