【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「あ~つい~ですね~!」
「そのわりにはうるせえな。トキトウ」
「せめて元気にしないと、やられちゃうからね!」
何にだろう。
むしろ、体力を無駄遣いしている気がしなくもないが、まあ時任だし。いつものことか。
それにしても、時任の言うことは理解できる。
なんか地底魔界全体が暑いな。
これは、外の世界も猛暑なのだろうか?
「地底魔界って、洞窟だからひんやりしているイメージだったんだけどなあ」
「むしろ熱がこもっているなあ。おじさんも、暑くて溶けそうだよ」
というかほんとに溶けてるじゃないか。
久しぶりに見たぞ。そのメタリックなスライム形態。
「見た目だけなら、リグマは冷たそうなんだけどな」
「触ろうとするなよ? むしろ、熱がこもった金属だから、ほんとに火傷しかねないからな」
伸ばしていた手を引っ込める。
そうか。金属スライムだから、見た目と違って相当熱いのか。
「見てきたけど、やっぱり外に暑さの原因とかなかったよ~」
「そうか、ありがとうピルカヤ」
となると、単に気温の問題というわけだ。
いっそ、熱源の転生者やモンスターが原因なら、全力で撃退するだけでよかったのに。
「ボク優秀だからねぇ」
「うん。だから今はあまり近寄らないでくれ」
ピルカヤ自体は熱くないんだけど、見た目のせいでなんか体感気温が上がった気がする。
「……」
「悪かったから、無言で火力増すなよ……」
「仲良く暑苦しく何やってんのさ。君たち」
思わず邪険にしたら、四天王から手痛い反撃を受けた。
ただそれだけの話だ。
ピルカヤめ。わざわざオーロラ形態じゃなくて、普通の色の炎に戻って燃え盛りやがって。
「しかし、これだけ暑いとオクイが大変そうだな」
「奥居が? ……ああ。海は繁盛していそうだもんな」
今が夏なのかはわからないし、そもそもこの世界に四季があるのかもわからない。
だけど、これだけの暑さなら海という娯楽は、きっと利用者も増えていることだろう。
「ちょっと様子でも見てみるか」
ここにいるよりは、そのほうが涼しそうでいいだろうしな。
「レイくん。その前に、おじさんのために凍結床作ってくれない?」
「いいけど……怪我しないようにな」
「今の溶鉄スライムよりは、怪我率低いと思う」
ということなので、リグマのために適当に凍結床を作っておいた。
床のうえでたれているスライムは、なんか力尽きて溶けているようだけど……本当に平気なんだろうか。
◇
「ただいま」
「ありゃ、ずいぶん早いな。なんかあったのか?」
「盛況で客が多すぎてな。リズワンたちまでいたから、さすがに俺は遭遇しないようにした」
「そりゃあ賢明な判断だ。だが、ロペスたちは一緒じゃないみたいだな」
「あいつらは、リズワンに会ったことがあるからな。というか、奥居の協力者だということも知られているし、そのまま海で遊ぶ許可は出した」
時任が、なんかすごい楽しそうに海に走っていって波に呑み込まれていた。
砂浜に突き刺さった時任は、きっと奥居が救出してくれることだろう。
「とりあえず、俺たちは従業員用の人工海を使うか」
「おじさん、このまま床と対話し続けるから、魔王様と一緒に行ってきな~」
今日はもう、リグマはずっと凍結床の上にいそうだな。
いまだにスライムの姿だし、相当まいっているようだ。
◇
「というわけで、海に……。なんですか、この部屋」
あの暑さはどこへやら。
フィオナ様の私室は、むしろ肌寒さを感じさせる温度だった。
「なんか今日は暑いですからねえ。魔力をちょっと使って、涼しくしました」
「あのフィオナ様が……。宝箱ガシャ以外に魔力を」
「私をなんだと思っているんですか」
ガシャという欲望に呑まれた魔王様です。
と思っただけなのに、フィオナ様の指はすでに俺の頬に触れていた。
「指も少し冷たいですね」
「冷やしすぎましたか」
ほんと、外の暑さが嘘みたいだな。
魔法でここまで快適にできるとは。
「そういえば、海がどうかしましたか?」
「いえ、暑かったので人工海にでも行こうと思いまして」
でも、この部屋にいるのならその必要もなさそうだな。
とりあえず、ピルカヤを通して地底魔界の希望者だけを招くか。
そう思っていたら、フィオナ様はすでに扉の前に移動していた。
「何をしているんですか? すぐに行きますよ」
「乗り気ですねえ」
「レイが、私の水着を見たいようですからね! あの露出面積過多の恐ろしい布切れを!」
変な言い方をするのやめてくださいよ……。
ただの水着だったじゃないですか。
文化が違うのか、着慣れていないためやたらと恥ずかしがっていたけれど、転生者女子組は同じような水着を普通に着ていましたよ?
「というか、その認識なのにまた着るんですか?」
「レイがどうしても見たいようなので、仕方がありませんね!」
「いえ……」
「ほう?」
「見たいです……」
「ふふん」
嘘は見抜かれそうだったからなあ。
実際のところ見たいよ。見たくて何が悪いんですか?
あなた普段から美しいですけど、水着は水着で別の美しさでしたからね!
「うわぁ……むわっとしますね。やっぱり引きこもりませんか?」
「そうしたいのなら、無理にとは言いませんけど」
「一緒に引きこもります?」
「いえ、俺は海に行こうとしています」
「一緒じゃないと意味ないじゃないですか!」
怒らないでくださいよ。
無理強いすると良くないと思って気を遣ったのに、なぜ怒られているのだろうか。
「じゃあ、行きますか」
そうして手を差し出すと、フィオナ様はしっかりと握り返して一緒に歩くことになった。
客用の人工海は、あれはあれで賑やかで楽しいだろうが、身内用の人工海も良いものだ。
時任やロペスは、今回は奥居と一緒に行動するために向こうに行ったが、どちらもそれぞれの良さがある。
きっと、こちらの海も今日はそれなりの利用者がいることだろう。
◇
「……貸切ですね」
まさか誰もいないとは。
ピルカヤに伝えてもらったから、今日みたいな日は利用者が多いと思ったのに。
人工海、まさか人気ないのか……?
「ふむ、そういうことであれば、こんな水着ていど恥ずかしがる必要もありませんね!」
……両手で体を隠すようなそのポーズやめませんか?
なんか、卑猥なもののように見えるじゃないですか。
「言葉と行動がばらばらですねえ」
「……おのれ人類」
人類関係ありません。
これはあなた自身との戦いです。
「フィオナ様って、肌が白いから顔が赤いとすぐにわかりますね」
「何に気づいているんですか! まったく……マイペースな子ですよ。ほんとに」
いつもの軽口を叩くと、フィオナ様もようやく恥ずかしさが消えたようだ。
少なくとも、両手で体を隠すような仕草はやめてくれた。
……ただ、これはこれで目に毒というか。
うん、なんか隠したがる理由もわかるというか。
「な、なんですか? そんなにじろじろと見られると、また羞恥心がぶり返しますけど?」
「いえ、やっぱりきれいだと思いまして……」
「……」
「……」
なんか、前回もこんな感じだったよな。
相変わらずというべきか、成長しないというべきか、俺とフィオナ様がまともに水遊びができる日は、いつか来るんだろうか?
◇
「ぼえぇ……」
「それは、暑さで死にかけているんですか? それとも、魔王様とレイ様を見て死にかけているんですか?」
「後者だろうな。魂の抜け方がいつもと同じだ」
「つまり治療は不要ということですね」
「ああ、そのへんのベッドに寝かせておけ。それよりも熱中症の者が出ないかが問題だ」
「今のところ問題なさそうですねえ。レイ様の提案どおり海で涼めたらなお良かったのですが……」
「……あの二人の邪魔はできんだろうさ。人工海の手前で人だかりができているから何事かと思ったが、皆が気を遣ったということか」