【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「申しわけありませんが、私にもわかりません」
「プリミラでもわからないかあ」
あの後ダスカロスに聞いても、この種のことはわからなかった。
ならば、プリミラならばも思ったが、プリミラですらわからないらしい。
そうなると、もう誰に聞いても答えは得られない気がする。
「ですが、興味はあります」
距離が近い。
これは、たまに見る興奮気味のプリミラだ。
それだけ謎の種に興味があるのだろう。
「虚無の種子や蘇生薬と同等の価値の種。きっと、素晴らしいものが育つと思います」
「なら、プリミラが育ててみるか?」
「良いのですか?」
「ああ。一番適任だと思うから」
「ありがとうございます。必ずや、素晴らしい結果を咲かせてみせます」
「虚無の種子みたいに、植物じゃない可能性もあるから、まあ気負わずにな」
実際のところ、ただの植物ということはないと思うし、その可能性のほうが高いだろう。
「では、さっそく畑に行って埋めてきます。レイ様もご一緒しますか?」
「そうだな。俺もたまには様子を見るだろうし、場所くらいは知っておきたい」
ということで、見た目からはわからない上機嫌なプリミラに連れられて、俺は畑へと向かった。
◇
「……なんで、この速度でこんな巨大な果物が」
「土壌は、私たちが住んでいた巣と同じはずよね……」
案内された先には、いつもの畑といつもの面子だけでなく、見覚えのある者たちがちらほらと。
昆虫人。それもあの流暢な話し方は、将を務めていた者たちだな。
「あ、プリミラ様。それに宰相様も、お疲れ様です」
「ええ。作業は順調ですか?」
「順調すぎますね……。何もかもが、私たちの農作と違います」
「なんで、このペースで収穫できるんですか。それに大きさも味も私たちの育てていたときより上ですし、土はまだまだ魔力に満ちて元気ですし」
「レイ様が作った畑ですので」
「宰相様。すごいですね……」
俺にはよくわからないが、ダンジョンマスターさんは今日も誰かを驚かせているようだ。
なんか早さとデカさだけでなく、あの畑は特別良いものらしいな。
「昆虫人たちは、プリミラの畑で働くようになっていたんだっけ」
「はい。地底での農作経験はこの者たちにもありますので、適任ということで働かせています」
「私たちの経験とわりと違いますけどね……」
「あとは、兵隊たちはディキティスのもとで修練を、他の将たちもそれぞれ店員として教育中です」
「ダークエルフたちのときみたいだな」
あの種族も、できることが多かったので様々な分野で力になってもらっているからな。
「ええ。オーガたちのときと違って、器用にそつなくこなすのは、強みですね」
「オーガたちはなあ……」
店員をさせてみたものの、わりと不器用だったり、接客は不向きだったりした。
あの種族は、やはり戦闘員としての適性が一番高いようだ。
もっぱら、ディキティスのもとで訓練しているか、各施設の用心棒をしているか、モンスターや一般魔族と実戦を行なっている。
今後はそこに昆虫人も加わり、さらに戦闘訓練は大規模になることだろう。
「さて、ここは野菜。あちらは薬草。空いている場所は……あそこが良さそうですね」
プリミラがキョロキョロと畑を見渡すと、少し離れた場所を指さす。
きっと、謎の種を育てる場所を見繕っていたのだろう。
「プリミラ様。その種は何でしょうか?」
「レイ様が用意してくださった種です。何が育つかわからないので、念のため他と離して育てようかと」
「なるほど……たしかに、見たこともない種ですね」
ダークエルフの女性も、やはりこの種に見覚えはないらしい。
「ですが、種の時点で少なくない魔力を感じます。きっと、何か良いものが育つはずですね」
「ええ、私もそう思います。もしかしたら、さらに品質の高い魔力回復薬の原料になるかもしれません」
なるほど……。言われてみれば、そこはかとなく魔力を感じる。
さすがはダークエルフと四天王だ。
魔力の感知に長けている、彼女たちならではの視点だな。
「とりあえず、フィオナ様には言わないほうが良さそうだな」
「そうですね」
「え、魔王様にお伝えしなくていいのですか? 地底魔界の最高権力者ですし、あらゆる情報はお伝えすべきではないのでしょうか……」
たしかに、昆虫人の女性の言うことももっともだ。
特に、彼女たちは兵隊が物事を考えないため、かき集めた情報の全てを女王が吟味していたようだからな。
……それを継げたあの転生者、実はわりとすごいやつだったのではないだろうか。
と、脱線しそうになったが、うちはそんなことをする必要はない。
あの魔王様、だいたいのことを俺に任せているから、俺やダスカロスやプリミラが知っていれば問題ないのだ。
というか、この件は下手にフィオナ様の耳に入れてはいけない。
「……そんな魔力回復薬ができるかもと言ったら、絶対にガシャのために使うと期待するだろうからなあ」
「そうですね……」
「ガシャ?」
昆虫人たちは首をかしげるが、ダークエルフたちですら頷いている。
まあ、いずれわかるだろうさ。
ガシャの件も魔王様が残念という件も。
そのころには、昆虫人たちもうちに馴染んだと言えることだろう。
◇
そんなことを話していたのが半月ほど前。
早いもので、すでに昆虫人たちも鳴神のやつも、地底魔界に順応していた。
フィオナ様としても、ようやく彼らへの警戒心が薄れたのか、今日は顔見せをするとのことだ。
まあ、顔自体は互いに見ているけれど、今までは挨拶していなかったからな。
ここまでの警戒心になるとは、なんか動物みたいだな。
「ということで、こちらが魔王様だ。ここに住む以上、魔王様が最優先で、逆らうことは許さない」
「は、はい!」
「うむ……そうだな。こちらも居候の身だ。ヒーローとしても、仁義に反することはするつもりはない」
よそ行きの顔のフィオナ様に騙されているのか、ゼラシアは緊張した面持ちで反応する。
……鳴神のやつも、珍しく緊張しているっぽいな。
そんな二人に興味がなさそうに、すました顔のフィオナ様がこちらを見てくる。
ああ、もう飽きたんですか。挨拶も終わりましたし、されじゃあこのまま解散と。
「失礼します」
思ったタイミングで、プリミラがやってくる。
すでに予定はすんでいるので、タイミングとしては問題ない。
というか、それまで待機してタイミングを伺っていた可能性が高いな。プリミラのことだし。
「何かあったか?」
「問題はありませんが、ご報告にと思いまして」
とりあえず、トラブルではないようで何よりだな。
この世界、何かとトラブルが多いので、こういう場での報告はついつい身構えてしまう。
「以前レイ様よりいただいた種が、木になりました」
「へえ。普通に植物の種だったんだ」
片割れが虚無というか空間を作り出すとんでもない種だから、同じくわけのわからないものかと思っていた。
「いえ、普通の植物とも言い難く。種のとき以上に魔力に満ちております」
「ということは、本当に高品質な魔力回復薬を作れる可能性が?」
「レイ様」
プリミラに止められて気付いた。
そうか。フィオナ様には言っていなかった。
すでに手遅れだったらしく、フィオナ様はなにか期待したようにそわそわと……。
「つまり、私の魔力を回復できる可能性が?」
すました顔と態度をキープできたことだけは褒めよう。
たが、中身はこれでもかというほどポンコツだ。
言わなくてもわかる。絶対に今のフィオナ様の頭の中は、ガシャを何回引けるかでいっぱいだ。
「とりあえず、解散しましょうか。俺はプリミラとちょっと話があるので」
「待ちなさい。魔王の耳にも入れるべき内容では?」
「魔王様の手をわずらわせるようなことではないので」
「魔王命令で、その内容の共有を求めます」
「その命令は却下するので、一旦解散しますね」
「ま、魔王命令なんですけど! 私を除け者にするのはよくないんですけど!」
許してください。
あなたをぬか喜びさせないためなのです。
◇
「……言っていること違わないか?」
「魔王様の命令、あっさりと却下されていたわね……」
「ふむ、つまり地底魔界の運用においては、魔王様ではなく宰相様に権限があるということだな」
「そんな方を誘拐したのだから、そりゃあ魔王様の怒りに触れるはずよね……」