【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「魔王様は読書が趣味なのか、組織の長として知識をどん欲に求めているということだな」
「さすがは魔王様です。聡明であらせられる」
……誰の話だ?
フィオナ様は、むしろちょっとアホだぞ。
「……」
「なんでつねるんですか」
「私が聡明な魔王だからです」
勘が良い魔王め。俺の心を的確に読んで行動してくるじゃないか。
「な、なんか私たちの発言のせいですみません……」
「魔王様とレイくんのあれは、いつものじゃれ合いだから気にしないようにな~」
そう、いつもつねってくるんだ。この魔王様。
痛かったことは一度もないけどな。
今日もやわらかい感触が、優しく俺のほおをつねっている。
「ただ、本屋さんは厳しいですね。売るほどは本を入手できませんし、そんなに手に入るならまずフィオナ様に渡しますから」
「だからレイって好きです」
「今度は抱きしめている……。ロペス、あのお二人の関係は馬鹿な俺にはわからんのだが」
「馬鹿じゃない俺にもわかんねえから安心しろ」
「そうか! ならば安心だな」
単に魔王と宰相ってだけだ。
馬鹿でも馬鹿でなくても簡単だと思うぞ。
さて、本屋はそういう理由で無理。かといって図書館は?
こちらも正直なところ難しいというか、あまりメリットがなさそうだ。
うちの本といえば、全てフィオナ様の私物だ。
それをわざわざ外部に貸し出して、もしも戻ってこなかったらフィオナ様が悲しむからな。
「とりあえず、外部の客とは無関係な図書室の作成がいいんじゃないですか?」
「良いですね! では、テクニティスやカールに頼んで、本棚を作ってもらいましょうか」
「部屋なら一瞬でできるので、問題は本棚と蔵書のほうですからねえ」
しかし、そうなるとあくまでも内部用の施設が増えるだけだ。
内部用であれば魔王軍や魔族の誰が管理しようが関係ない。
鳴神やゼラシアという、外部用の管理者をここで使うのは違うな。
「この前引いた蘇生薬。いっそ司書みたいな魔族の蘇生に使いますか?」
「い、いいんですか? 私の欲望のためだけに、貴重な蘇生薬を使っちゃいますよ?」
「まあ、いいんじゃないですか? 魔王様の魔王軍なんで」
「そうですか! では、魔王として宰相に蘇生薬の調達を命じることも!」
「宰相として却下します」
「いじわる!」
まったく、欲望のままに行動するなんてとんでもない魔王様だな。
俺がしっかりと目を離さないようにしておかないと。
「司書が務まるとなるとビブリオンでしょうか。彼女は、記録者として優秀でしたので」
「ダスカロスの旦那。あの二人のやり取り全然気にせず、よく割り込めるなあ」
「気にする必要もないからな」
なんだ、ちゃんと司書向けの魔族がいるのか。
だったら、すぐに蘇生してしまって、今後は司書として働いてもらうようにお願いしておくか。
「じゃあ、そのビブリオンさんを蘇生するということで」
「一応言っておくが、彼女より君の方が偉い。名前の後ろにさんをつけたり、敬語で話したりしないようにな」
「そうだった」
宰相であることを自覚したはいいものの、いまだにこのあたりの癖は抜けないなあ。
まあ、これにも慣れていって改善していくよう心がけよう。
「で、では! 魔王の欲望のままにビブリオンを復活させますが、いいんですね!?」
「良いと思いますよ」
「ロペスよ。魔王とはもっと欲深いものではないのか? なんか、想像していた存在と違うぞ」
「ビッグボスは、部下想いな方だからなあ」
俺やダスカロスから許可をもらったため、フィオナ様はウキウキした様子でカーマルに蘇生薬を取り出すよう命じた。
相変わらず、ガシャ祭りの景品をうまく使っているなあ。
アナンタの胃薬とか、まったく使用する気配がないというのにな……。
◇
「はい、蘇生しなさい。ビブリオン」
軽いなあ。まあ、今後も数多くの魔族が蘇生することを考えると、そのくらいでいいのかもしれない。
いつものように、蘇生薬が人の形を……。
人? なんか、どちらかというとモンスター寄りな形だな。
シルエットだけでは、四足歩行の大型獣みたいに見える。
それが形を作っていくことで、ようやく俺にも彼女の種族が理解できた。
顔は獣人よりも獣寄りであり、かといって完全な獣ではない。
人と獣の中間といえるような見た目だ。そして、体はライオンだな。
これは、もしかしてスフィンクス?
「おはようございま~す……」
「ええ、おはようございます。ビブリオン」
「……」
「ビブリオン? 寝ようとしてません? ビブリオン?」
ビブリオンは身体を伸ばしたかと思うと、そのままだらっとうつぶせになって眠りそうになっている。
なるほど……。こういう子か。
雰囲気と態度が、とてもマイペースだな。
「起きなさいビブリオン。魔王様の御前だ」
「はっ! す、すみません」
「いえ、気にしていません。久しぶりですね、ビブリオン」
「はい~。勇者に殺されて以来ですかね?」
そしてやっぱり勇者に殺されていたのか。
魔王軍、死因はだいたい勇者だな。
スフィンクスとか、見た目的にはボスを勤めていそうだし、納得といえば納得でもある。
「ええ、勇者に殺されたあなたを、こたびはこちらのレイの力で蘇生させました」
「そうだったんですか~。ありがとうございます。……あれ? 見覚えがないですね。私の記憶にない方となると、新しく魔王軍に入った方ですか?」
「はい。レイは私と二人で魔王軍を立て直した功績があり、現在は宰相を勤めております」
「宰相……」
その言葉を聞いたとたん、ビブリオンの雰囲気が変わった。
なんだろう。なんか少し圧を感じるというか、こちらを試すような目になっている。
「魔王軍を記録する者として、見極めねばいけませんね。魔王様、よろしいでしょうか?」
「ええ、かまいませんよ。というわけで、レイ。がんばってください」
「え、何をですか……」
なんか、これから試練を与えられるかのような雰囲気だ。
しかも、フィオナ様はあっさりと許可を出してしまっている。
スフィンクス……。試練……。
もしかして、謎解きか? あれってたしか、失敗したら食い殺されるとかだったような気が……。
ああそうか。俺の場合、食い殺されても不死鳥の羽があるから、フィオナ様も安心して挑戦させられるということだな。
「では、宰相であるあなたには、その知恵を確かめさせてもらいます。あなたに……この謎が解けますか?」
「わかった。とりあえず、挑んでみよう」
「その意気やよしです。では……」
一体どんな謎が……。
答えが人間であるあの有名なやつなら一瞬で終わるが、そう簡単にいくものだろうか?
重々しい空気の中、ビブリオンが口を開く。
そうして、出てきた謎は……。
「四つ足で『にゃー』と鳴くものは何だ?」
……謎?
いや、相手はスフィンクスだ。もしかして、とんでもないひっかけ問題の可能性が……。
なんか、フィオナ様がジェスチャーしている。
奥居を指さしてるな。まあ、たしかに奥居は猫獣人だけど……。
え? 本当に、それが答えで良いの?
「猫……」
「せ、正解!」
……忖度した?
俺が宰相であることは認められないという態度を一応とったけれど、実はすでに認めてくれているとか?
「やりますね~。さすがは魔王様から宰相を任命されるだけはあります。まさか、これほどまでの知恵者とは……」
「あの……」
思わずフィオナ様の顔を見る。
すると、彼女は困ったように笑いながら、小声で教えてくれた。
「ビブリオンは謎かけが好きですが、その難易度はとても低いのです」
「なるほど……」
「まあ、たまに付き合ってあげると喜ぶので、今みたいになぞなぞに答えてあげてください」
なぞなぞと言っていいかすらわからないけど、まあ本人がそれを望むのなら、そのくらいは……。
こちらを認めるようなビブリオンの顔を見ると、さすがに俺もそれ以上は何も言えなくなってしまうのだった……。