【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「まあ、ロペスの紹介なら」
「そうですね。ロペスの紹介なら」
「ありがたいんだが、その信頼が怖いときもある……」
ビッグボスとボスは、あっさりと許可をくれた。
どんな相手なのか軽く話しただけでこれだ。
会うこともなく判断していいんだろうか。
それだけ、俺を信頼してくれているというものなのだろうが……。
そのぶん、もしも裏切ったときが怖えな。
「まあ、何か売る程度なら問題ないだろ。あとは、変なものを売らないようにだけ注意してもらいたいが」
「ああ、そこは抜かりないぜ。しっかりと管理しておく」
珍品が多いから、わりと大変そうだが、俺と女王様で協力すればなんとかなるだろう。
食料一つにしても、元の世界では知らないものがたまにあるからな。
あいつが扱うのは、そういうものばかりのようだし、しっかりと見ておく必要がある。
「とりあえず、本は預かってきたから、これはビッグボスに渡しておけばいいか? それともビブリオンの姉御に渡すべきか?」
「ふむ、私が預かっておきましょう」
「見たことない本ばかりだ。お手柄だな、ロペス」
「おう、二人とも楽しんでくれ」
たしかに、俺も見たことないというか、知らない文字の本さえあったからな。
あいつ、本当に珍品コレクターを狙った商売をしているみたいだ。
なかなか面白い目の付け所じゃないか。
◇
「てなわけで、仲間たちから許可は得た。くれぐれも変なもの売るんじゃねえぞ」
「あ、ありがとな。まあ、変なものといえば、俺が扱うもの全部変なもののような気はするが」
「たしかに……。俺もよくわからねえものが多いからなあ」
売れるかどうかはわからねえが、興味を惹かれると思う。
これで客が増えてくれたら、ボスが使える魔力も増えるみたいだし、こちらにとっても悪い話ではない。
「だからこそ、残念だねえ」
「女王様?」
そんな俺の考えを否定するかのように、女王様はため息をつきながら商人を冷たい目で見ていた。
そんなに売れないか? これ。
……ってわけじゃなさそうだな。どちらかと言うと、敵を見る目だ。
つまり、そういうことなんだろう。
「売っている物の中に、おかしなものがあったかい?」
「ああ、主に魔法関連の危険物が多いね」
そうきたか。
俺にはわからないが、そちらの目利きは女王様に任せていた。
ならば、こいつは俺たちを利用して、危険物あるいは違法とされる品でも売ろうとしていたってことだろ。
「な、何言っているんだ! ダークエルフなんかに何がわかる!」
「これでもエルフではあるからね。少なくとも君たちよりは、魔力について詳しいつもりだよ」
「女王様、ちなみにどれがアウトだったんだい?」
「たとえばこの果物。これを食べた者の魔力を吸い尽くして、多幸感を与えて現実感を減らすものだね。最後は現実と夢の境目がなくなり、魔力が枯渇し続ける」
「やべえな」
そんなもの、うちのカジノで売り出してたまるか。
リズワンの旦那だけでなく、レンシャの姉御もいるんだぞ。
あの姉御、テイランでも魔法知識に長けている存在らしいし、一発で違法なアイテムと看破されるだろ。
そして、そんなものを売っているうちの信用はガタ落ちだ。
「こっちのほうは、魔力反応の受信アイテムだね。購入者の位置を知って、何かしようとしていたのかい?」
「ろくなもんねえなあ……」
これ、うちを利用してよからぬことを企む気満々じゃねえか。
商人の男は否定するが、俺にとってはお前の言葉なんかより、女王様の言葉のほうが断然信用できる。
「ま、商売の話は無しだな」
「お、おいおい。そんなダークエルフなんかの言葉を信じるつもりかよ。そいつ、迫害種だぞ」
「うち、そういうのやってねえんだ」
なんなら、とりまとめている二人が迫害種だしな。
そもそも、魔王軍が迫害される理由も……。
まあ、危険だというのはわからんでもないか。
ビッグボスとか、ボスがいなかったら俺たちを招いてくれていたかわからねえしなあ……。
「さて、こうなってくると単独犯なのか、誰かの命令なのかも気になるね」
「そうだな。自分が稼ぐためにうちの評判を落としたのか。それとも、評判を落とすほうが目的か。教えてくれるか?」
商人は引きつった顔をしているが、もう自白したようなもんだな。
言い訳も支離滅裂で、最後は女王様の罵倒に変わっているし、どうやら初めから俺たちを利用するつもりで近づいたらしい。
「ウルラガの旦那。頼むわ」
「おうよ。……殺しちゃいけないんだろ?」
「悪いな、捕獲だけにしてくれ。聞きたいことはあるからな」
逃げる商人をウルラガの旦那が捕まえる。
やっぱ、用心棒として優秀だよなあ。この旦那。
さて、話す気がないなら話す気になるまで、色々と聞いてみるかねえ。
同じハーフリングのよしみとか、舐めてんじゃねえぞてめえ。
◇
「というわけで、すまなかったボス。俺の目が曇ってたみたいだ」
そう言いながら、ロペスは深々と頭を下げる。
とは言ってもなあ……。罰する気なんて毛頭ない。
「未然に防げたのなら問題ないだろ」
「ああ、女王様がいなかったら、まんまと一杯食わされていたかもな」
いや、それはないと思う。
慣れない魔力関連のアイテムだったとはいえ、なんやかんやでロペスなら見抜くだろう。
相変わらず、謙遜するやつだなあ。
「それで、その男は誰の差し金なんだ?」
ロペスの話では、金に目がくらんだだけではなさそうだったが。
「なんでも、転生者の成功を疎ましく思っている連中に頼まれたらしい」
「なんだその限定的な妬みは……」
「俺たち、わりと利用価値があるからかなあ。手元に置いておきたいってことだろうな」
ああ、なんとなくわかった。
ロペスたちは、いわばフリーの転生者だ。
どの国にも組織にも所属しておらず、それでいてこちらでの暮らしも成功している。
だから、なんとかして評判を落として、落ちぶれたところを保護してやることで、利用しようと考えている組織でもいるんだろう。
あるいは国単位となるかもしれないか。
まあ、ロペスたちが独立しているというのは嘘であり、れっきとした魔王軍の一員なんだけどな。
それを知られていないということは、むしろいいことだろう。
「その連中とやらには、たどりついたか?」
「いや、残念ながらあの男は、そこまでの情報を得ていないらしい。まったくもって度し難いな。依頼主のことすら知らねえなんて、腑抜けている」
金稼ぎをする者としての常識なのか。
ロペスは、むしろ依頼主をよく知らないことに対して怒っているようだった。
「そうか。ちなみに、その男はどうなったんだ? 逃がしてそいつらとの接触でも待つか?」
「いや、それもためした上で何の役にも立たなかった」
さすがはロペスだ。
すでに、その程度のことは実施済みらしい。
それでも情報がないということは、その商人の男、本当に何も知らずに目先の欲だけで動いていたんだろうなあ……。
「じゃあ、今ごろハーフリングの国に帰っているか」
まあ、被害もなかったし、情報も何もないというのなら、わざわざ捕獲する意味もないからな。
そんなやつ、従業員にしてもしょうがない。
「いや? たぶん、もうどこにもいないんじゃねえかな?」
「……そうか」
始末したっぽいな。
ウルラガに頼んだか、あるいはナツラあたりに頼んだか。
……いや、なんか自分で対処している気がする。
たしか、元々は表に生きていない人間だったという話だし。
そういうルールの元に動いたんだろうな。
普段は優秀かつ情けをかけるタイプだが、やるときはやるということだ。
「とりあえず、ウルラガは今後もカジノの用心棒のままでいてもらうか」
「そうしてもらえると助かるぜ。なんせ、俺はか弱いハーフリングだからな」
どうだか。
いつもと変わらない態度のロペスを見ながら、その謙遜も彼の武器の一つなんだろうなと改めることにした。