【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「ロペス。お前、誰かを殺したな」
「ナルカミか。さて、なんのことだ?」
「ふむ……。つまりお前は」
面倒なことになりそうだ。
落とし前って言っても、こいつの中では悪判定だろうなあ。
さて、どうしたものか。ダークヒーローとして納得してもらうよう、とりあえず話してみるかねえ……。
「俺と同じく、ダークヒーローということか」
「は?」
てっきり、文句を言われると思ったんだが……。
というか、悪と認定されて殴り掛かってくるとすら思った。
だが、説得どころか、すでにダークヒーローとしてなんか割り切ってくれた。
「悪を討ったのだろう?」
「まあ……俺たちを騙して利用して、自分は利を得て、こちらは不利益を被るような相手だったが」
「ならば悪だな! 魔王軍としての正義、俺にもわかってきたぞ」
俺はむしろお前がよくわからねえ……。
こいつはこいつで、魔王軍に馴染もうとしているのか、あるいはこいつの言う正義とは単純なものではないのか。
「とりあえず、他の魔王軍には内緒な」
「うむ。ヒーローとしての活動は、誰かに言いふらすものではないからな」
違うんだけどなあ……。
まあ、この調子だとこいつも魔王軍の中でやっていけるだろう。
玉座の間に呼ばれているのは、ビッグボスたちもそろそろこいつに仕事を与えるつもりということだろうな。
◇
「店はまだ作ってないから、鳴神やゼラシアには引き続き、今ある店の手伝いをしてもらう」
前回はビブリオンの蘇生と図書室の作成だけで終わったから、まだ店の構想はない。
本を外部の者に貸し出してまで、ダンジョン魔力を集める気はないという結論に至ったからな。
「む、ということは今日は配置換えのために呼ばれたのか」
「いや、そのあたりは今まで通りだ」
わざわざ呼び出されたということもあって、鳴神のやつは仕事が変わると思ったようだが、今はまだ新たな仕事はないからな。
なので、今回呼び出したのは別の理由だ。
「ここに来てもらったのは、鳴神の戦力を把握しておきたいと思ってのことだ」
「そういうことか。いいだろう! 魔王様と戦えばいいのか?」
「いや、それだと測れない」
フィオナ様相手だと、全員瞬殺だから何もわからん。
もしも少しでも抗えるのなら、それはもう四天王レベルの強さということになるからな。
……下手したら、四天王を超えているんじゃないか?
「ということで、鳴神には十魔将あたりと戦ってもらおうかと」
「ちょっと待ってくれ」
「なんだ? ロペス」
「ええと……さすがに、十魔将の旦那や姐御が相手だと、ナルカミには荷が重くねえか?」
まあ、うちの転生者はまだまだ十魔将に届かないからな。
これが風間たちのパーティであれば、十魔将と戦えと言われても無茶ぶりもいいところだ。
だが、鳴神のやつはすでに超位モンスターに勝利している実績がある。
ヨハンもそうだったが、たまに転生者の中には十魔将以上の戦闘能力を備えている者がいる、と見ていいだろう。
「まあ、そのあたりをはっきりさせるための戦闘だ。実際のところ、私は鳴神の強さはそのレベルだと思っている」
ただ、はっきりさせておきたいだけだ。
もしも十魔将クラスでないのに、そのように評価してしまっていたら、肝心な時に無茶な戦闘を指示しそうだからな。
だから、今のうちに安全に鳴神の実力を測っておく。それだけのことにすぎない。
「よし! では、準備してくる!」
準備……。いつものヒーローみたいな恰好はしているみたいだけど、他に何か。
精神の統一というか、気持ちを昂らせるための準備かな。
こいつの能力は、気持ち一つで強さが全然変わってくるみたいだし。
「それじゃあロペス、鳴神を案内してやってくれ。前回の戦闘イベントで使った広間だ」
「お、おう……」
若干のとまどいを感じる。
それだけ鳴神が心配なのかもしれないな。
まあ、実力が足りないときはちゃんと加減するだろうし、十魔将もそのへんのことはわかっているだろう。
◇
「当然! 僕ですね!」
「ああ、やっぱりそうなっちまうようなあ……」
「メイドといえ油断はせんぞ! そもそも、油断できるほどの相手ではないようだからな!」
「あ、わかる? いやあ、身内相手だからか弱いふりとかしてないからねえ」
まあ、こうなるだろうな。
十魔将に戦闘をお願いする以上、彼女が立候補するのは当然のことだろう。
イピレティスは、嬉々として鳴神と対峙している。
「味方とはいえ、訓練は訓練! ヒーローとして全力で挑ませてもらう!」
そう言い放った鳴神は、また無意味に高々と跳躍した。
あれだけで、すでにとんでもない身体能力なことはわかる。
そして、例によって物理法則を無視しながら軌道を変えて降下する。
真上に飛びあがっているのに、なんで相手を追尾するように降りてこれるんだろう。
「うわっと!」
イピレティスは、そんなヒーローのキックをすれすれで回避した。
それにしても嬉しそうだ。
思っていた以上に鳴神が強いから、きっと彼女も楽しいんだろうな。
「いいね! たしかに、君は強いよ」
「む、速いな……」
そんなイピレティスも、身軽さを利用した攻撃で鳴神を翻弄している。
なんかふわふわした軌道で、鳴神の攻撃をしっかりと避けて、かと思えば鋭い踏み込みと攻撃で襲いかかる。
なんとも、やりにくそうな戦い方だな。
そこにフェイントとかも混ぜているようだから、実につかみどころのない相手といえるだろう。
「もらった!」
おい、首を狩ろうとするな。
さすがにそれは加減していない……。いや、あれでもしているのか。
手に持った短刀は、鳴神の喉を斬ることはなく、わずかに赤い筋を作るだけに終わった。
「はい、僕の勝ち~」
「本気だったら、俺の喉が切り裂かれていたか。強いな、十魔将」
「君もなかなかのものだったよ。ただ、直線的な動きが多いね」
「ヒーローだからな!」
「ふ~ん、こだわりならしかたないか」
なるほど、イピレティスのほうが上か。
ということは、鳴神は十魔将よりはさすがに弱いということになるな。
「よし! 次を頼む!」
「えぇ……お前、まだやる気かよ」
「十魔将というからには、十人はいるんだろ? 全員と戦って、俺の強さを正確にはかってもらわなくてはな!」
お、やる気だな。
じゃあ、残り九人にも協力してもらうとするか。
◇
「強い……これが魔王軍の幹部たちか」
「結局十連戦した後だというのに、お前も大概元気なやつだなあ」
というか、十魔将全員と戦うとか、精神も随分と強いな。
やはり、自己暗示という能力と相性がいいやつだ。
「まさか、料理長があそこまで強いとは……」
「ああ、マギレマの姐御強かったなあ。マギレマの姐御というか、姐御の足だけで翻弄されていたな」
「ロペスよ。お前にはわからないかもしれないが、あの足の一本一本が恐ろしく強かったぞ」
そんな足が何本も生えている姐御……。
なるほど、戦闘に関しては足の役割というわけかい。
姐御自身は、自分の足を操ることに注力していたしな。
「それに、技術職である者たちもあそこまで戦えるのだな」
「テクニティスの旦那は、ピルカヤの旦那ほどではないにしても、炎の扱いがすごかったなあ」
テラペイアの旦那やルトラの姐御も、それぞれしっかりと戦う力があった。
ルトラの姐御はプリミラの姐御のように水を操り、ナルカミの炎で相殺しようにも規模で負けていた。
テラペイアの旦那は医者だからか、的確にナルカミの体を破壊していったな。
「プネヴマの姐御も、戦えるとは思わなかった」
「あれが一番きつかったぞ!」
「お前には、そうかもな……」
魂の管理なんて特殊すぎる仕事であり、普段の様子も知っているため、あの姐御は戦闘能力がない特殊な存在かと思っていた。
しかし、ふたを開けてみれば、ナルカミとの相性最悪だったな。
なんか黒い魔力の塊を飛ばしてきたかと思えば、それらが延々とナルカミを追いかけていった。
よくよく見れば、たまに骸骨や人の顔のようになっているそれは、どうやら霊魂のようなものを飛ばしていたらしい。
直撃することで、ダメージを受けるわ、ナルカミの精神が削られていくわ、確実に弱体化させていったからな。
「しかし実りある時間だった!」
「まあ、お前がそれでいいならいいけどよ……」
「それにしても、一つ気になることがあるんだが」
どこか清々しい様子だったナルカミだが、腑に落ちないという様子でこちらに尋ねてきた。
「十魔将と戦うよう俺に指示していた、あれは誰だ? どうやら、俺はまだ魔王軍の者を把握してきれていないらしくてな」
「……それが、俺もわからねえんだ」
あれ、本当に誰だったんだろうなあ……。