【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

430 / 436
第430話 二度と供給されないカップリング

 ロペスがハーフリング仲間の商人から、本を色々と仕入れてくれた。

 それは良い。それは良いのだが、問題はその中身だ。

 内容が悪いとかそういう話ではない。

 というよりも、そもそもその内容を精査することができない。

 

 ロペスのやつも言っていたが、これらの本は珍品であり、扱われている文字がやたらと特殊みたいだ。

 とりあえずということで、俺やフィオナ様に預けてくれたのだが、さすがにこれはフィオナ様も扱いに困るだろう。

 

「とりあえず、ビブリオンに保管してもらいますか?」

 

「いえ、ちょっと気になる点が……」

 

 もしかして、読めるのだろうか。

 魔族であれば読める本だったりする?

 だとしたら、ロペスはまたも良い物を仕入れてくれたということになる。

 まあ、俺は読めないけれど、フィオナ様が楽しめるならそれが一番だからな。

 

「……やっぱり」

 

「何かありましたか?」

 

 フィオナ様は、その本を読むというよりは観察している。

 ページをめくるだけでなく、時に本全体を観察し、時に目を閉じて何かを感じ取ろうとしていた。

 

「魔本ですね。これらは」

 

「魔本……」

 

 またゲームっぽい単語が出てきたものだ。

 装備品かアイテムか。効果はどんなものだ?

 もしかして、使用することで魔法を習得できるのではないだろうか?

 

「読んだ者といいますか、なんでしょう。使用者に様々な魔法を施す本です」

 

 やっぱり、想像していたような効果のようだ。

 であれば、俺にもついに自爆以外の攻撃手段が……。

 

「フィオナ様」

 

「なんでしょう?」

 

「俺、魔本を使ってみてもいいですか?」

 

「えぇ……。相変わらず、思い切りがいいですねえ」

 

 なんか、少し変な反応だな。

 もしかして、危険な魔法が込められている場合もあるのか?

 いや、その場合は俺の身を案じて、そもそも許可してくれないはずだ。

 

「……魔本って、どんな魔法が込められているんですか?」

 

「そうですよね。普通は、そこを聞くのが先ですよね」

 

 なんか、ほっとされてしまった。

 どうやら、だいぶ勇み足だったみたいだ。

 

「まあ、魔力を感じ取った限りでは、危険なものはありませんね」

 

「えぇ……」

 

「なぜそこで残念がるんですか……」

 

「危険じゃないということは、攻撃魔法に使えないということかと思いまして」

 

「まあ、この手の魔本はくだらない効果ばかりですよ」

 

 なんだ、期待外れだったみたいだな。

 どうにも俺が思うような効果は見込めない、そんな品物らしい。

 

「試しに適当に使ってみます?」

 

「あ、そんなノリということは、本当に危険ではなく、くだらない魔法なんですね」

 

「ええ。どうせ、動物に変わったり、お部屋の模様替えをしたりといった程度ですよ」

 

「動物に変わるとか、わりと大事じゃないですか……」

 

「大丈夫です。この魔力量なら、せいぜい一日程度ですから」

 

 なるほど……。それなら、問題ないのか?

 動物に変わるとなると、どこかで諜報活動に使えるかもしれない。

 となると、わりと強力な効果もありそうだな。

 

「フィオナ様。やっぱり、適当に試してみても良いですか?」

 

「まあ、これも何が起こるかわからない、ガシャみたいなものですからねえ。レイの気持ちもわからなくはないです」

 

「別に、そんなつもりでは……」

 

 いや、たしかにどんな効果か楽しみにしているのはある。

 否定しそうになった言葉を飲み込み、俺は無作為に魔本を手に取った。

 

「魔本を使うと念じながら魔力を注いでみてください。それで、中に仕掛けられた魔法が発動するはずです」

 

「ええと……こんな感じですかね」

 

 宝箱に注ぐときと同じような感じか。

 それなら、俺だけでなく誰もが使えそうだな。

 そう思いながら魔力を注ぐと、魔本はたしかにそれに呼応するような反応を見せた。

 

 魔力が俺にもわかる程度には強くなり、本自体も勝手にページが開かれていく。

 そうして、わずかに光を放ったかと思えば、本はすとんと床に落ちた。

 

 ……何も変化がないな。

 手を見てもいつもの魔族の手だ。

 時任や奥居のように獣の手ではないので、動物どころか獣人にすらなっていないのがわかる。

 もしかして、魔族である私には効果がなかったんだろうか?

 

「フィオナ様、特に変化はありませんでした」

 

「いやいや! 変わってますから、性別が!」

 

 ……性別。

 視線を落とす。

 なるほど、たしかにいつもと違う。

 

「フィオナ様、私女性になっていました」

 

「一人称まで変わっていますもんねえ。いやあ、まさかそんな魔本だったとは」

 

 一人称……。前はどうだったっけ。

 私は私だったと思うんだけど……。

 まあいいか。どうせ、時間がくれば魔法は解けるらしいから。

 

「残念ながら、性別以外の変化はないみたいです」

 

「受け入れるの早いですねえ。わりと大きな変化だと思うのですが」

 

「だって、攻撃手段とかステータス変わってませんし」

 

「レイにとっては、そちらのほうが大事ということですね」

 

 なので、私にとってこの変化は意味がない。

 と思っていたら、フィオナ様が抱きしめてきた。

 なんか、いつもよりちょっと強いな。

 

「……いつもより力入れてます?」

 

「いえ? だいたい同じくらいですよ?」

 

 もしかして、ステータス下がってる?

 慌てて確認するが、特に変化はない。

 つまり、性別が変わったことで、そのあたりの感覚も変わったのか。

 

「ただ、そうですねえ。同じ性別なら、もっとベタベタしても平気ですね!」

 

「違う性別でもしてるじゃないですか」

 

 抱き枕扱いされているのに、何をいまさら。

 こうして抱きつかれるのだって、別に今に始まったことでは。

 ……なんか、いつもより体をまさぐられている気がするんですが。

 フィオナ様?

 

「なんか手つきがやらしくないですか?」

 

「スキンシップです」

 

「まあ、フィオナ様がしたいなら止めませんけど」

 

 何も変わらないと思っていたが、一つ良いことがあった。

 同性になったためか、こんなにベタベタされても煩悩のかけらもない。

 これはいい。寝る前ときに使っておけば……翌日も性別が変わってしまうな。

 うん、やめておこう。

 別に私の性別なんて些細なことだが、それでも男であることを手放すつもりもない。

 

「いつもと違う匂いですねえ」

 

「やっぱり、いつもは変な匂いでも無理して嗅いでいるんですか?」

 

「いえ、どっちも好きです! レイであれば、性別なんて些細なことですからね!」

 

 なんか、私と同じことを考えているな。

 少し嬉しくもあるが、それを言うとうざそうなので内心にしまっておこう。

 

「魔王様、失礼します。何やら魔本を仕入れたとのことなので、取り扱いの注意と解析を……」

 

「……」

 

「ええと、どちら様ですか?」

 

 見た目もわりと変わっているのか?

 エピクレシに誰か尋ねられてしまったし、プネヴマに至っては完全に無言だ。

 

「ぎ、ぎゃーっ!! こ……こんな! 二度と……あるかもわからない……新境地の供給なんて……!」

 

「何言ってるんですか、あなた……いえ、その反応。もしかして、レイ様でしょうか?」

 

「レイ様です」

 

「なるほど……性別変更の魔本ですか、まあ見た限りでは明日には戻っているでしょうし、危険はなさそうですね」

 

 エピクレシのお墨付きももらえたし、やはりしばらくはこの姿で過ごすとしよう。

 まあ、私の中身は変わっていないので、特に業務に影響もないだろうからな。

 

 そういえば、鳴神の実力を調べようとしていたんだった。

 ちょうどエピクレシとプネヴマもいることだし、十魔将と戦ってもらうか。

 となると、一番戦いたがるのはイピレティスだろうな。

 ……そんなウサギは、二人と一緒に俺たちの姿をまじまじと観察している。

 それに、何かを必死に我慢している気が……。

 

「イピレティス?」

 

「あ、駄目です。今の僕に話しかけると、レイ様のこと襲いそうなので、しばらく僕の存在は忘れてください」

 

 ……相変わらず、よくわかんないやつだな。こいつも。

 プネヴマとイピレティス、十魔将の中でも特にわからない二人がいるせいか、なんだかフィオナ様の部屋が混沌としている気がする。

 まあ、いいや。気にせずいつもどおり過ごすとしよう。

 

    ◇

 

 そうして、つつがなく今日の仕事も終えたころ、俺はいつの間にか男に戻っていた。

 なんか、俺自身の意識もわずかに変わっているのか、変化しても認識しにくいな。

 

「……ほら、やっぱり男でも女でも抱きつくじゃないですか」

 

「どちらも良い抱き心地ですからね。レイなら、性別など些細なことなのです」

 

 まあ、本人が満足しているのなら……。

 なんか、走ってくる音が聞こえる。それも、足は二本ではない。

 マギレマさんかラプティキさんだな。

 

「失礼します!」

 

「はい、どうぞ」

 

 フィオナ様の返事を待って、勢いよく扉を開いたのはラプティキさんだった。

 そんな彼女は、俺を見て崩れ落ちる。

 ……何? なんかあった?

 

「レイさんが……女性になっていると聞いて、服を作りに来たのですが……」

 

「それ、さっき売り切れました」

 

「間が悪かったみたいね……。次は逃さないわ」

 

 次、あるのかなあ……?

 すごすごと帰るラプティキさんの背を見ながら、俺はあの魔本を少し遠ざけるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。