【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
ロペスがハーフリング仲間の商人から、本を色々と仕入れてくれた。
それは良い。それは良いのだが、問題はその中身だ。
内容が悪いとかそういう話ではない。
というよりも、そもそもその内容を精査することができない。
ロペスのやつも言っていたが、これらの本は珍品であり、扱われている文字がやたらと特殊みたいだ。
とりあえずということで、俺やフィオナ様に預けてくれたのだが、さすがにこれはフィオナ様も扱いに困るだろう。
「とりあえず、ビブリオンに保管してもらいますか?」
「いえ、ちょっと気になる点が……」
もしかして、読めるのだろうか。
魔族であれば読める本だったりする?
だとしたら、ロペスはまたも良い物を仕入れてくれたということになる。
まあ、俺は読めないけれど、フィオナ様が楽しめるならそれが一番だからな。
「……やっぱり」
「何かありましたか?」
フィオナ様は、その本を読むというよりは観察している。
ページをめくるだけでなく、時に本全体を観察し、時に目を閉じて何かを感じ取ろうとしていた。
「魔本ですね。これらは」
「魔本……」
またゲームっぽい単語が出てきたものだ。
装備品かアイテムか。効果はどんなものだ?
もしかして、使用することで魔法を習得できるのではないだろうか?
「読んだ者といいますか、なんでしょう。使用者に様々な魔法を施す本です」
やっぱり、想像していたような効果のようだ。
であれば、俺にもついに自爆以外の攻撃手段が……。
「フィオナ様」
「なんでしょう?」
「俺、魔本を使ってみてもいいですか?」
「えぇ……。相変わらず、思い切りがいいですねえ」
なんか、少し変な反応だな。
もしかして、危険な魔法が込められている場合もあるのか?
いや、その場合は俺の身を案じて、そもそも許可してくれないはずだ。
「……魔本って、どんな魔法が込められているんですか?」
「そうですよね。普通は、そこを聞くのが先ですよね」
なんか、ほっとされてしまった。
どうやら、だいぶ勇み足だったみたいだ。
「まあ、魔力を感じ取った限りでは、危険なものはありませんね」
「えぇ……」
「なぜそこで残念がるんですか……」
「危険じゃないということは、攻撃魔法に使えないということかと思いまして」
「まあ、この手の魔本はくだらない効果ばかりですよ」
なんだ、期待外れだったみたいだな。
どうにも俺が思うような効果は見込めない、そんな品物らしい。
「試しに適当に使ってみます?」
「あ、そんなノリということは、本当に危険ではなく、くだらない魔法なんですね」
「ええ。どうせ、動物に変わったり、お部屋の模様替えをしたりといった程度ですよ」
「動物に変わるとか、わりと大事じゃないですか……」
「大丈夫です。この魔力量なら、せいぜい一日程度ですから」
なるほど……。それなら、問題ないのか?
動物に変わるとなると、どこかで諜報活動に使えるかもしれない。
となると、わりと強力な効果もありそうだな。
「フィオナ様。やっぱり、適当に試してみても良いですか?」
「まあ、これも何が起こるかわからない、ガシャみたいなものですからねえ。レイの気持ちもわからなくはないです」
「別に、そんなつもりでは……」
いや、たしかにどんな効果か楽しみにしているのはある。
否定しそうになった言葉を飲み込み、俺は無作為に魔本を手に取った。
「魔本を使うと念じながら魔力を注いでみてください。それで、中に仕掛けられた魔法が発動するはずです」
「ええと……こんな感じですかね」
宝箱に注ぐときと同じような感じか。
それなら、俺だけでなく誰もが使えそうだな。
そう思いながら魔力を注ぐと、魔本はたしかにそれに呼応するような反応を見せた。
魔力が俺にもわかる程度には強くなり、本自体も勝手にページが開かれていく。
そうして、わずかに光を放ったかと思えば、本はすとんと床に落ちた。
……何も変化がないな。
手を見てもいつもの魔族の手だ。
時任や奥居のように獣の手ではないので、動物どころか獣人にすらなっていないのがわかる。
もしかして、魔族である私には効果がなかったんだろうか?
「フィオナ様、特に変化はありませんでした」
「いやいや! 変わってますから、性別が!」
……性別。
視線を落とす。
なるほど、たしかにいつもと違う。
「フィオナ様、私女性になっていました」
「一人称まで変わっていますもんねえ。いやあ、まさかそんな魔本だったとは」
一人称……。前はどうだったっけ。
私は私だったと思うんだけど……。
まあいいか。どうせ、時間がくれば魔法は解けるらしいから。
「残念ながら、性別以外の変化はないみたいです」
「受け入れるの早いですねえ。わりと大きな変化だと思うのですが」
「だって、攻撃手段とかステータス変わってませんし」
「レイにとっては、そちらのほうが大事ということですね」
なので、私にとってこの変化は意味がない。
と思っていたら、フィオナ様が抱きしめてきた。
なんか、いつもよりちょっと強いな。
「……いつもより力入れてます?」
「いえ? だいたい同じくらいですよ?」
もしかして、ステータス下がってる?
慌てて確認するが、特に変化はない。
つまり、性別が変わったことで、そのあたりの感覚も変わったのか。
「ただ、そうですねえ。同じ性別なら、もっとベタベタしても平気ですね!」
「違う性別でもしてるじゃないですか」
抱き枕扱いされているのに、何をいまさら。
こうして抱きつかれるのだって、別に今に始まったことでは。
……なんか、いつもより体をまさぐられている気がするんですが。
フィオナ様?
「なんか手つきがやらしくないですか?」
「スキンシップです」
「まあ、フィオナ様がしたいなら止めませんけど」
何も変わらないと思っていたが、一つ良いことがあった。
同性になったためか、こんなにベタベタされても煩悩のかけらもない。
これはいい。寝る前ときに使っておけば……翌日も性別が変わってしまうな。
うん、やめておこう。
別に私の性別なんて些細なことだが、それでも男であることを手放すつもりもない。
「いつもと違う匂いですねえ」
「やっぱり、いつもは変な匂いでも無理して嗅いでいるんですか?」
「いえ、どっちも好きです! レイであれば、性別なんて些細なことですからね!」
なんか、私と同じことを考えているな。
少し嬉しくもあるが、それを言うとうざそうなので内心にしまっておこう。
「魔王様、失礼します。何やら魔本を仕入れたとのことなので、取り扱いの注意と解析を……」
「……」
「ええと、どちら様ですか?」
見た目もわりと変わっているのか?
エピクレシに誰か尋ねられてしまったし、プネヴマに至っては完全に無言だ。
「ぎ、ぎゃーっ!! こ……こんな! 二度と……あるかもわからない……新境地の供給なんて……!」
「何言ってるんですか、あなた……いえ、その反応。もしかして、レイ様でしょうか?」
「レイ様です」
「なるほど……性別変更の魔本ですか、まあ見た限りでは明日には戻っているでしょうし、危険はなさそうですね」
エピクレシのお墨付きももらえたし、やはりしばらくはこの姿で過ごすとしよう。
まあ、私の中身は変わっていないので、特に業務に影響もないだろうからな。
そういえば、鳴神の実力を調べようとしていたんだった。
ちょうどエピクレシとプネヴマもいることだし、十魔将と戦ってもらうか。
となると、一番戦いたがるのはイピレティスだろうな。
……そんなウサギは、二人と一緒に俺たちの姿をまじまじと観察している。
それに、何かを必死に我慢している気が……。
「イピレティス?」
「あ、駄目です。今の僕に話しかけると、レイ様のこと襲いそうなので、しばらく僕の存在は忘れてください」
……相変わらず、よくわかんないやつだな。こいつも。
プネヴマとイピレティス、十魔将の中でも特にわからない二人がいるせいか、なんだかフィオナ様の部屋が混沌としている気がする。
まあ、いいや。気にせずいつもどおり過ごすとしよう。
◇
そうして、つつがなく今日の仕事も終えたころ、俺はいつの間にか男に戻っていた。
なんか、俺自身の意識もわずかに変わっているのか、変化しても認識しにくいな。
「……ほら、やっぱり男でも女でも抱きつくじゃないですか」
「どちらも良い抱き心地ですからね。レイなら、性別など些細なことなのです」
まあ、本人が満足しているのなら……。
なんか、走ってくる音が聞こえる。それも、足は二本ではない。
マギレマさんかラプティキさんだな。
「失礼します!」
「はい、どうぞ」
フィオナ様の返事を待って、勢いよく扉を開いたのはラプティキさんだった。
そんな彼女は、俺を見て崩れ落ちる。
……何? なんかあった?
「レイさんが……女性になっていると聞いて、服を作りに来たのですが……」
「それ、さっき売り切れました」
「間が悪かったみたいね……。次は逃さないわ」
次、あるのかなあ……?
すごすごと帰るラプティキさんの背を見ながら、俺はあの魔本を少し遠ざけるのだった。