【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「なるほど……ボスだったのか」
「え~! 私もレイちゃんさん見たかった~!」
レイちゃんさん……。
そんないいものじゃないぞ。別に普段と何も変わらないしな。
というか変わらなさすぎて、いつもどおり過ごしてしまったくらいだ。
ただ、今思えば気付いている者もいれば、気付いていない者もいた気はする。
「ちなみに、魔本自体は図書室にあるから、ビブリオンに頼めば時任も男になれるぞ」
「ウサギ男ってありですかね?」
「ありだと思うよ~」
時任の疑問にイピレティスが答える。
まあ、彼女なら同種族の男性を見たこともあるだろうし、特段変という感性はないんだろうな。
「しかし、ボスもよく普通に業務をこなしていたよな」
「いや、俺の業務に性別は関係ないから」
「……たしかに、俺もそうかも」
だよな。肉体労働ではないし、頭の中が変わっているわけでもないので、俺もロペスも不都合なくこなせる。
「風間あたりは、もしかしたら戦うとき影響あったかもな」
「どうでしょう……。魔王軍で一番強い人と二番目に強い人が女性なので、むしろパワーアップする可能性も……」
「なるほど」
十魔将も半分は女性だしな。
案外、風間に秘められた新たな力とか覚醒するかもしれない。
「武巳くんが女の子に……」
「ありね」
「なんか、良い予感はしないね……」
原と世良なら風間の性別がどうであろうとかまわないんだろ。
フィオナ様も似たようなことを言っていたが……。
まあ、俺の場合は性別が変わっても働けることは、昨日証明したからな。
「君たち、自分の性別を軽く考えすぎでは?」
「女王様の場合は、性別が変わったら王様になるから大変そうだな」
「いや、そういう問題でも……」
「そういえば、リグマの旦那なんて魔本無関係に、性別変われるよな?」
「見た目だけならな。おじさん、プリミラにもリピアネムにもピルカヤにもなれるぞ」
さすがはスライム。
変幻自在の攻撃手段で、ゲームプレイヤーをさぞかし苦しめていたんだろうな。
「へえ、そりゃあ強力そうだな」
「おう、こんな感じで」
そう言うとリグマは、プリミラの姿へと変化した。
うん、たしかに見た目だけならプリミラだ。
もっとも、全体的にだるそうというか胡散臭い感じは据え置きなので、性格が違う双子の姉妹みたいではあるが。
「リグマ様」
「ああ、悪い。自分の姿になられるとか、嫌だったか?」
「私が二人いる。それすなわち、畑仕事が二倍できるということですね」
「ちょっと……プリミラさん? 強い強い。力が強い!」
あれは、はしゃいでいるときのプリミラだ。
リグマのやつ、しばらくは休めないだろうなあ……。
「プリミラ、それが終わったら私に変化してもらって鍛錬したい」
「かしこまりました」
「おじさんを差し置いて、なんでかしこまるの!?」
「すごいなぁリグマさん、どっちがプリミラさんかわかんないや~」
「お前は、絶対わかってるよな!?」
さて、リグマはしばらく四天王同士で交流していそうだし、忘れよう。
「ちなみに、フィオナ様が魔本を使った場合……」
「どうですかね? もしかして、魔王として完全体な私になる可能性もあるのではないですか?」
……想像してみる。
フィオナ様は美しい。つまり、とてもかっこいい魔王様になるだろう。
それに強い。強くてかっこいい魔王として、地底魔界に君臨する。
……顔が良いうえに、スキンシップが過剰気味。
そんなのに迫られたら、女性陣が落とされるかもしれない。
「駄目な男になりそうなので、やめたほうがいいですよ?」
「なにをぅ!? つまり、今が駄目な女ということじゃないですか!」
「駄目だけどかわいいから平気です」
「なら、良いんでしょうか……?」
首を傾げながらも、フィオナ様は納得してくれたみたいだ。
うん。あなたは今のままが一番いいです。
◇
「それにしても、まさか献上した本までまともじゃないとはなあ」
「まあ、危険ではないから問題ないみたいだぞ」
「これで危険物だったら、俺のクビがやばかったかもなあ……」
いや、その場合もせいぜい、そのハーフリングに責任を取らせるくらいだと思う。
「魔本を管理してくれているビブリオンの姐さんに感謝しておかねえとな」
そのためかわからないが、ロペスや時任たちも図書室へと歩みを進めている。
ジムや娯楽室や海もそうだが、作った施設をこうして活用されると作りがいがあるな。
「ちなみに、二人は本気で性別を変えようとして、図書室に向かっているのか?」
「いや、俺は他の魔本について姐さんに聞いておこうかと……。持ち込んだ俺が知らないというのは、さすがに問題だったからな」
「私は、男の子になって、江梨子ちゃんと、ハルカちゃんを驚かせます!」
ハルカ……。
ああ、時任の護衛として働いてくれているオーガか。
完全にトラウマも克服し、仲良くやっていけているようで何よりだ。
そんな意気揚々と歩く時任は、ビブリオンの試練と戦うこととなった。
「魔本の力を使いたくば、我が試練に打ち克つといい」
「えぇ!? そんな厳重なんですか!?」
大丈夫。その試練、ザルすぎるセキュリティだから。
「朝とともに現れ、夜とともにに去る光の正体は?」
「むむむ……」
そんなうねるような謎かけだろうか。
謎にすらなっていない何かだぞ、これ。
「ああ!? なんで答えちゃうの? 選択肢!」
茶番を見かねた選択肢は、どうやら時任に答えを教えてしまったようだ。
まあ、あれに悩まれても困るだろうし、仕方ないか。
「た、太陽です……」
「はい、正解~。やるねえ、うさぎちゃん」
「不正がありました! 再挑戦を申し立てます!」
「あれ? そうなの~? まあ、私はいくらでも試練を出せるけど」
そうして納得していない時任相手に、ビブリオンは何問も試練を出し続けた。
そう、何問もだ。つまり、その都度選択肢が答えを教え、納得していない時任が再挑戦しているというわけだ。
「すごいね~。あなた、賢者みたいだよ」
「選択肢のおまけ、時任です!」
最後は、もう選択肢に敗北を認めてしまったようだ。
まあ、俺もダンジョンマスターのおまけだし、ある意味では仲間だな。
「それじゃあ、この魔本だったよね? はい、どうぞ」
「わ~い! 男の時任として、色々な人を驚かせてきます!」
そう言って、時任はたしかに男の子の姿へと変化した。
へえ、わりと見た目が変わるもんだな。
なんか、小動物系の男子になって、そのまま去ってしまった。
あれなら、わりと時任だと気付かない者も多そうだ。
「トキトウのやつ、思い切りが良いよなあ」
「ああ、興味本位で性別を変えるくらいだからな」
「興味本位で魔本を使ったボスも、大概だと思うぜ」
……言われてみればそうかも。
やはり俺と時任は、案外共通点があるのかもしれないな。
「色が変わる魔本に、年齢が変わる魔本。なるほどなあ、害はなさそうだし、俺がお咎めなしなのも頷ける」
「フィオナ様が、しっかりと検分したからな。あの魔族、本についてはかなり詳しいみたいだし」
ロペスは、危険性がないことを確かめると、ほっと胸を撫で下ろしていた。
まあ、失敗しても罰を与えられたりはしないだろう。
もっと気楽にやってくれてもいいのに。
「レ、レイさ~ん!」
気楽なほうの転生者が、なんかこっちに走ってくる。
もしかして、奥居あたりに怒られたか?
いや、よく見ると後ろにオーガもいる。
「ハ、ハルカちゃんが反抗期に!」
そんな時任の言葉どおり、オーガはたしかに時任を疑うような目を向けていた。
なんなら、敵扱いされそうになっているな。
「僕! 僕だよ! 時任!」
「ハルカ……。それ時任だから、仲良くしてやってくれ」
俺の言葉を聞いて、オーガはしばらく時任と俺の顔を交互に見ていた。
まだ釈然としていない様子ではあるが、最後は俺の言葉を信じてくれたのか、警戒心を解いてくれたようだ。
「レ、レイさんの命令はちゃんと聞いてる! レイさんに、ハルカちゃんをとられた~!」
「というか、もともとボスのを借りてるだけだぞ」
「そうだった!」
騒がしい姿を見ていると、オーガも完全にこれが時任だと理解したらしい。
なるほど、昨日の俺もあんな感じだったわけだ。
……もしかして、モンスターたちに出会っていたら、俺が敵だと思われていたのかな?