【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「なんですか、その恰好」
「レイのせいです」
なぜ俺の責任に……。
なぜか、今日のフィオナ様はドレスではなくズボンをはいている。
どちらかというと、俺みたいな一般的な魔王軍の軍服を着ている姿だ。
というか、なんか男装しているっぽい。
「レイが、ラプティキの欲を満たせなかったせいで、私に流れ弾が飛んできました」
「ラプティキさんの欲というと……俺が女性になってたときに、服を作り損ねたあれですか?」
「そうです。普段とは異なる服を作りたいという欲求が爆発し、魔王に襲いかかった結果がこれです」
律義に着てあげるフィオナ様って、やっぱり優しいよな。
というか、そこまできたらいっそのこと、あの魔本で男性化してもいいのでは?
俺がやめたほうが良いと言ったから、魔本を使わなかったんだろうか。
「まあ、フィオナ様見た目はいいから、似合ってますけどね」
「見た目は……という言葉選びに、若干の不敬さを感じますが、私の見た目が大好きというところは正直なので、許してあげましょう」
なら、なぜ頬をつねるのですか。
まあ、見た目がいいのは本当だ。何を着ても大体似合うだろう。
まさか男装まで似合うとは……。
男装の麗人と言うべき姿は、歌劇団のトップスターのようであり、女性に人気がありそうだ。
「魔王様かっこいい!」
「そうでしょう!」
「あ、中身はいつもの魔王様ですね」
「私は私ですからね」
時任のそれも、若干不敬にあたるんじゃないだろうか。
俺だけ頬をつねられることに対して、そこはかとなく不公平さを感じる。
「あ……単体なのに……無理……」
プネヴマが、フィオナ様を見た瞬間倒れた。
なんか、いつもと違う倒れ方だったような気がする。
まあ、テラペイアに任せたらどうにでもなるか。
「ふむ、なんだかみんなの反応がいつもと違いますね」
「今のフィオナ様、かっこいいですからね」
「え、普段の私は?」
「かわいいです」
無言ではにかんでいる。先ほどまでのかっこよさが消えてしまった。
さっきまでは、服装や髪型や化粧によって、キリッとしたかっこいい姿だったのにな。
「ちなみに、レイはかっこいい私とかわいい私なら、どっちが好きですか?」
「フィオナ様なら、全部好きです」
「ですよね! レイが私のことを大好きなのは、当然ですからね!」
まあ、お世話になっていますから。
いろいろとよくしてもらっているという自覚もあるし、好かれる上司の理想みたいな方だ。
「ちなみに、新しいドレスも作っていましたので、特別にレイにだけ見せてあげましょう!」
なんか、えらい意気込んでいるな。
これ、褒めすぎるとまた調子に乗ってうざ絡みが続くやつだ。
ちょっと、言葉を選んで感想を言ったほうがよさそうだな。
そうして、フィオナ様の部屋に案内され、相変わらず魔力でなんか姿を隠して着替えられる。
……俺、やっぱり男として見られてないよなあ。
いくら姿が見えないとはいえ、よくもまあ同じ部屋で着替えるものだ。
「どうですか!」
そうして見せられた新たなドレスは、たしかに今までと違ってこちらも非常に美しい。
素直に感想を言うのであればそうなのだが……。
「ふふん!」
すでにうざそうな顔で、俺の言葉を待っているのを見ると……。
「馬子にも衣装ですね」
すげえかわいい。
「なにをぅ!」
とてもきれいでかわいいです。
ですが、それを言うと、あなたはまたしばらくうっとうしくなりますので。
◇
「ヒーローとしての衣装を作ってもらえるということか!」
「ええ、あまり挑戦したことがないから、なんか面白そうね」
ラプティキさんの仕事欲が爆発しているらしく、鳴神がその標的にされている。
まあ、彼の姿は僕たち魔王軍の転生者の中でも、特に変わっているからね。
ヒーローの衣装となると、ラプティキさんでさえ作ったことがなさそうだ。
「となると……やはり、ダークヒーローとして黒系か。いや、暗色系だな」
「色はともかくとして、デザインはどうなのかしら」
「俺は馬鹿だから絵心はないぞ。デザイナーはいないのか?」
「それならオクイちゃんが」
「私、そんな大層なものじゃないんですけど……」
奥居さんはそうは言いつつも、なんとか絵に描こうとしているみたいだ。
謙遜はしているけれど、わりとバリエーション豊富なデザインを提案できているあたり、けっこうその手の才能もある気がする。
新や友香も、いつも服装の相談でお世話になっているみたいだからね。
「よし! これでいこう! ダークヒーローとしての活動には、やはり魔王軍の衣装にあわせるのがいいだろう!」
「え~……軍服なら、魔王軍のみんなが着ているし、真新しさはないんだけどねえ」
「なので、こちらのヒーロー衣装との融合を所望する」
「なるほど……たしかに、これなら」
そうして鳴神は、レイさんや他の魔王軍の方たちが着ているような、軍服ベースの衣装を作ってもらうことになったようだ。
……正直なところ、ちょっとうらやましいかもしれない。
僕たち転生者や、現地の捕虜である従業員たちは、服装までは魔王軍のそれになっていないからね。
頼んだら、僕たちも魔王軍の制服みたいなの、作ってもらえるのかな。
「じゃあ、ついてきなさい。あなたの場合、普段の衣装も見ておきたいから、一緒にいてもらったほうが早く作れそうだわ」
「いいだろう。ヒーローとして、すばらしい衣装を頼んだぞ」
そう言い残すと、二人はラプティキさんの作業部屋へと移動してしまった。
「わりと馴染めてるな。あいつも」
そう言いながら、同じく様子を見ていたロペスが隣にやってくる。
彼も、なかなか心配していたようだからね。
魔王軍として、僕たちみたいに馴染めるか不安だったらしいから。
まあ、あの性格だから、下手したら敵対とかもありえたというのは、よくわかる。
「そうだね。なんというか、実直だよね。鳴神って」
「あれでなかなか融通か利くみたいで助かった。そうでなかったら、内部から暴れられて……」
それは、嫌だな。
鳴神は、僕たちと同じ転生者と思えないほどに、戦闘能力が頭一つ抜けている。
そんなのが暴れたとしたら……。
「……いや、わりと問題ないか」
「……そうだね」
僕もロペスも、きっと同じ結論に至ったんだと思う。
あのときの昆虫人の巣でならともかく、ここで暴れたところで彼より強い相手はわりとたくさんいる。
十魔将に四天王に魔王様。ナツラさんやロマーナさんも、彼には勝てるんじゃないかな?
そんな僕たちの考えは、奇しくも彼自身が証明することとなった。
「いや、これに関しては本当に申し訳ないと思っている……」
「まあ、私もついやりすぎたわ」
鳴神は、ラプティキさんの糸にぐるぐると体を巻かれて、無造作に床に転がされていた。
ラプティキさんに叱られた後、彼はやはり律義に反省しているので、それ以上はラプティキさんも文句は言えなかったらしい。
「まあ、変身するヒーローだもんな。あいつ」
「だよねえ」
ラプティキさんは、鳴神の要望どおりに素晴らしい衣装を作った。
誰が相手でも、どんな衣装でも、いつもどおりに最高に仕事をしてくれた。
鳴神自身も、それを大いに気に入ったらしく、さっそく新たな衣装に身を包んでいた。
そこまではいい。だけど、問題はそこから。
鳴神が、リゲルフォルムとか言って叫んだ瞬間、衣装がはじけ飛んだ。
衣装というか、上に羽織っていた軍服だけが破損して、中に着ていたヒーロースーツが変化していた。
まあ、変身ヒーローだからね。服も形態に応じて変わるのは仕方ないんだろう。
「あんたは、軍服なし」
「なにっ!? むむ……仕方がないか」
こうして、鳴神は僕たち転生者と同じく、魔王軍の共通衣装を与えられることはなくなってしまった。
……僕たちが頼んだら、ラプティキさんなら用意してくれそうだけど、今度は鳴神が仲間外れになるし、今のままがいいんだろうね。