【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「ゼラシアって、寄生とか洗脳みたいな能力ないの?」
「な、なんでしょう。急に恐ろしいといいますか、おぞましい能力の話をされていますが」
おぞましいってなんだ。
昆虫人の女王の座を乗っ取った女が、似たような能力だったので気になっただけじゃないか。
昆虫人ならではの、寄生による精神操作とかができるのなら、この世界であの手の搦手が普通にあるということだからな。
「何も誰かを洗脳してくれって話じゃないんだよ。知っておけば対策できるかもしれないからな」
「ああ、そういうことでしたか。それでしたら、私たちに特にそういう力はありません。そんな力があれば、あの転生者から巣を取り返せていましたし……」
まあそうなるよな。
やっぱり、あれは女神の加護だから特別だったというだけだ。
……少しだけ残念だったと思わないでもない。
「な、なぜ残念そうに……。対策のための話だったはずでは……」
「騙されるなよぉ。そいつ、使えるものは何でも使うからなぁ」
アナンタめ。俺のことをよくわかっているじゃないか。
たしかに、正直なところ使用方法はすでに思いついていた。
「鳴神の自己暗示と組み合わせれば、最強のヒーローになれた可能性があると思ってな」
「無敵のヒーローに!? しかし、正義を行使する意思すら消滅するのは、さすがの俺も許容できるか難しいところだな……」
最強な。無敵はたぶんフィオナ様だ。
「そもそも、洗脳とかで意識奪った時点で、自己暗示の効果切れるんじゃねえかなあ……」
「意思なき正義は無力ということだな!」
「違うけど、お前の場合それでいいや」
となると、鳴神と相性が良いのは、むしろこいつの意思を強化する力なんだろうな。
星崎とか言われていた男は、どうやらその手の能力者だったらしいし、あの偽物の女王は転生者の力の組み合わせは本当に見事だったな。
うちも、何か組み合わせて力を発揮できないだろうか。
……せいぜいが、勇者と聖女と賢者でパーティを組むことくらいだな。
どうやら、俺にはその手の考えの才能はないらしい。
「……」
「ボス? 大丈夫か?」
ロペスが何か言っている。
……ああ、俺の身を案じているっぽいな。なんでだろう。
「ボス? なんか、調子悪そうだぜ?」
「……いや、ちょっと考え事を」
慣れないことを考えていたからだろうか?
なんか、頭がぼーっとしている気がする。
うん。やっぱり俺は、ダンジョンのことを考えるのが性に合っているみたいだな。
そう思い、アナンタと共にダンジョンに向かおうとすると、体から力が抜けた。
「おい、無理すんなよなぁ」
倒れそうになったところを、アナンタに支えられたらしい。
……あれ? なんか、全体的にだるい感じがするな。
「ピルカヤの旦那。テラペイアの旦那とビッグボスに、ボスの調子が悪いって知らせてくれ」
「あれ? レイ、風邪? なんか、体温がいつもより高いよ?」
風邪……なのか?
なるほど、それなら快複の湯に入って治してしまおう。
……あれ、なんか眠くなってきた。魔力が切れたとき以来だな。
◇
そうして目が覚めた時には、俺はフィオナ様の部屋にいた。
……意識を失った気がしたけど、夢だった?
いや、なんかいまだにだるい。ぼーっとする。正直なところ立ち上がるのもしんどい。
「無理してはいけません。テラペイアが言うには、あなたは疲労の蓄積で発熱していたらしいですから」
熱……。なるほど、だからこんな感じなのか。
しかし、あまり休んでいるわけにもいかない。
ましてや、少し動けばうちにはこんな熱治せる施設があるのだから。
「ちょっと温泉に入ってしまいます」
そう、それだけで治るのであれば、多少は無理してでも動いたほうがいいだろう。
だが、なんか体に力が入らないな。
しかたない。誰かに運んでもらって……。
「休みなさい。どうせレイのことですから、誰かに運んでもらって、温泉に放り込んでもらうとでも考えているのでしょう」
「いや、そのほうが結果的には……」
「レイもテラペイアもルトラも疑っていませんが、それで万が一治らず悪化したら? 自分で動けない状態なのであれば、まずは動けるようになるまで医者の言うことを聞くべきです」
つまり、テラペイアもそのように診断したってことか……。
まあ、たしかに意識だけは普通だが、頭は熱くてぼーっとしているし、体は言うことを聞かないからな。
「俺がいなかったら、ダンジョンのメンテが……」
「どうにかなります。モンスターたちも、再生が不要なように戦っていますし、罠の再利用ができないぶん、魔族のみんなが侵入者の相手をしていますから」
ほら、やっぱり俺が休んでいるせいで、他のみんなに負担がかかっているじゃないか。
これが……無理をして働くとかなら別だけど、たかが温泉に入るだけなら、多少の無理は……。
「無茶するようなら、虚無の種を育てて私と二人きりの空間に閉じ込めますよ?」
「それはそれで……いいのかもしれませんが」
フィオナ様しかいない空間に二人きりか。
まあ、悪くないな。いっそ理想的な空間といえるかもしれない……。
いや、なんか変な考えになってしまっている。なるほど、どうやら思考も熱でおかしくなっているようだ。
「そ、それならすぐに! ……いえ、やっぱり体調が悪いようですね。休みなさい。あなたのおかげで、魔王軍には人材も揃っています」
そのほうがいいのかもしれない。
……あ、いいことを思い付いた。
「ゼラシアは無理って言っていましたけど、魔王軍に洗脳とか支配の能力者いませんか?」
「え、どうして急にそんな話を……」
「今は動けないので、俺を人形みたいに働かせられる能力者がいたら便利かなあって」
そう、それこそジェルミとか偽物の女王がやっていたみたいに、俺の意志とか一旦なくして動けるように……。
「いません」
「そうですか……。でも、いずれ必要そうですね」
「そこまで無理して働かなくてはいけない、ということはありませんよ?」
「いえ、俺が死んだとしても、そういう能力者が俺のことを操れば、ダンジョンだけは無事じゃないですか」
死んだときのことを考えるとは、なんか熱で弱気になっているかもしれないな。
でも、もしものときのことを考えるのは悪いことではないだろう。
「……その場合、もうダンジョンはいらなくなりますね」
え、もしかしてダンジョンって俺の趣味のために運営してます?
という声を出すのもちょっと辛いな。なんか、このまま眠った方が良さそうだ。
「すみません。寝ます」
「そうしなさい。まったく、ぎりぎりまで無茶する子ですねえ」
そうして優しく頭をなでられながら、俺は深い眠りにつくことになった。
◇
あなたの意識がなくなったら、あなたがあなたでないのなら。
人形として手元に置いておく?
……なんだか、余計に辛い思いをしそうですねえ。
でも、手放すくらいならと考えそうな自分もいます。
「……ダンジョンはもういらなくなっちゃいますね」
そうなったら、残るのは私と魔王軍とあなたが招いた転生者や現地の者たち。
ごめんなさい。きっと、そのときは私はどうでもよくなっています。
――こんな世界。どうでもよくなっています。
全てを放棄して、楽しい思い出の中で生き続けるのか。
あるいは、あの女神に勝ち目のない戦いを挑んで破滅するのか。
う~ん……。なんか、あなたの後を追うみたいで、重い考えですねえ。
でも、きっとそれが最善なのでしょう。
かつての悠久の孤独よりも、あなたがいないその先のほうが、はるかに辛くなるのだから。