【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

434 / 436
第434話 あなたがいない世界に意味はない

「ゼラシアって、寄生とか洗脳みたいな能力ないの?」

 

「な、なんでしょう。急に恐ろしいといいますか、おぞましい能力の話をされていますが」

 

 おぞましいってなんだ。

 昆虫人の女王の座を乗っ取った女が、似たような能力だったので気になっただけじゃないか。

 昆虫人ならではの、寄生による精神操作とかができるのなら、この世界であの手の搦手が普通にあるということだからな。

 

「何も誰かを洗脳してくれって話じゃないんだよ。知っておけば対策できるかもしれないからな」

 

「ああ、そういうことでしたか。それでしたら、私たちに特にそういう力はありません。そんな力があれば、あの転生者から巣を取り返せていましたし……」

 

 まあそうなるよな。

 やっぱり、あれは女神の加護だから特別だったというだけだ。

 ……少しだけ残念だったと思わないでもない。

 

「な、なぜ残念そうに……。対策のための話だったはずでは……」

 

「騙されるなよぉ。そいつ、使えるものは何でも使うからなぁ」

 

 アナンタめ。俺のことをよくわかっているじゃないか。

 たしかに、正直なところ使用方法はすでに思いついていた。

 

「鳴神の自己暗示と組み合わせれば、最強のヒーローになれた可能性があると思ってな」

 

「無敵のヒーローに!? しかし、正義を行使する意思すら消滅するのは、さすがの俺も許容できるか難しいところだな……」

 

 最強な。無敵はたぶんフィオナ様だ。

 

「そもそも、洗脳とかで意識奪った時点で、自己暗示の効果切れるんじゃねえかなあ……」

 

「意思なき正義は無力ということだな!」

 

「違うけど、お前の場合それでいいや」

 

 となると、鳴神と相性が良いのは、むしろこいつの意思を強化する力なんだろうな。

 星崎とか言われていた男は、どうやらその手の能力者だったらしいし、あの偽物の女王は転生者の力の組み合わせは本当に見事だったな。

 うちも、何か組み合わせて力を発揮できないだろうか。

 ……せいぜいが、勇者と聖女と賢者でパーティを組むことくらいだな。

 どうやら、俺にはその手の考えの才能はないらしい。

 

「……」

 

「ボス? 大丈夫か?」

 

 ロペスが何か言っている。

 ……ああ、俺の身を案じているっぽいな。なんでだろう。

 

「ボス? なんか、調子悪そうだぜ?」

 

「……いや、ちょっと考え事を」

 

 慣れないことを考えていたからだろうか?

 なんか、頭がぼーっとしている気がする。

 うん。やっぱり俺は、ダンジョンのことを考えるのが性に合っているみたいだな。

 そう思い、アナンタと共にダンジョンに向かおうとすると、体から力が抜けた。

 

「おい、無理すんなよなぁ」

 

 倒れそうになったところを、アナンタに支えられたらしい。

 ……あれ? なんか、全体的にだるい感じがするな。

 

「ピルカヤの旦那。テラペイアの旦那とビッグボスに、ボスの調子が悪いって知らせてくれ」

 

「あれ? レイ、風邪? なんか、体温がいつもより高いよ?」

 

 風邪……なのか?

 なるほど、それなら快複の湯に入って治してしまおう。

 ……あれ、なんか眠くなってきた。魔力が切れたとき以来だな。

 

    ◇

 

 そうして目が覚めた時には、俺はフィオナ様の部屋にいた。

 ……意識を失った気がしたけど、夢だった?

 いや、なんかいまだにだるい。ぼーっとする。正直なところ立ち上がるのもしんどい。

 

「無理してはいけません。テラペイアが言うには、あなたは疲労の蓄積で発熱していたらしいですから」

 

 熱……。なるほど、だからこんな感じなのか。

 しかし、あまり休んでいるわけにもいかない。

 ましてや、少し動けばうちにはこんな熱治せる施設があるのだから。

 

「ちょっと温泉に入ってしまいます」

 

 そう、それだけで治るのであれば、多少は無理してでも動いたほうがいいだろう。

 だが、なんか体に力が入らないな。

 しかたない。誰かに運んでもらって……。

 

「休みなさい。どうせレイのことですから、誰かに運んでもらって、温泉に放り込んでもらうとでも考えているのでしょう」

 

「いや、そのほうが結果的には……」

 

「レイもテラペイアもルトラも疑っていませんが、それで万が一治らず悪化したら? 自分で動けない状態なのであれば、まずは動けるようになるまで医者の言うことを聞くべきです」

 

 つまり、テラペイアもそのように診断したってことか……。

 まあ、たしかに意識だけは普通だが、頭は熱くてぼーっとしているし、体は言うことを聞かないからな。

 

「俺がいなかったら、ダンジョンのメンテが……」

 

「どうにかなります。モンスターたちも、再生が不要なように戦っていますし、罠の再利用ができないぶん、魔族のみんなが侵入者の相手をしていますから」

 

 ほら、やっぱり俺が休んでいるせいで、他のみんなに負担がかかっているじゃないか。

 これが……無理をして働くとかなら別だけど、たかが温泉に入るだけなら、多少の無理は……。

 

「無茶するようなら、虚無の種を育てて私と二人きりの空間に閉じ込めますよ?」

 

「それはそれで……いいのかもしれませんが」

 

 フィオナ様しかいない空間に二人きりか。

 まあ、悪くないな。いっそ理想的な空間といえるかもしれない……。

 いや、なんか変な考えになってしまっている。なるほど、どうやら思考も熱でおかしくなっているようだ。

 

「そ、それならすぐに! ……いえ、やっぱり体調が悪いようですね。休みなさい。あなたのおかげで、魔王軍には人材も揃っています」

 

 そのほうがいいのかもしれない。

 ……あ、いいことを思い付いた。

 

「ゼラシアは無理って言っていましたけど、魔王軍に洗脳とか支配の能力者いませんか?」

 

「え、どうして急にそんな話を……」

 

「今は動けないので、俺を人形みたいに働かせられる能力者がいたら便利かなあって」

 

 そう、それこそジェルミとか偽物の女王がやっていたみたいに、俺の意志とか一旦なくして動けるように……。

 

「いません」

 

「そうですか……。でも、いずれ必要そうですね」

 

「そこまで無理して働かなくてはいけない、ということはありませんよ?」

 

「いえ、俺が死んだとしても、そういう能力者が俺のことを操れば、ダンジョンだけは無事じゃないですか」

 

 死んだときのことを考えるとは、なんか熱で弱気になっているかもしれないな。

 でも、もしものときのことを考えるのは悪いことではないだろう。

 

「……その場合、もうダンジョンはいらなくなりますね」

 

 え、もしかしてダンジョンって俺の趣味のために運営してます?

 という声を出すのもちょっと辛いな。なんか、このまま眠った方が良さそうだ。

 

「すみません。寝ます」

 

「そうしなさい。まったく、ぎりぎりまで無茶する子ですねえ」

 

 そうして優しく頭をなでられながら、俺は深い眠りにつくことになった。

 

    ◇

 

 あなたの意識がなくなったら、あなたがあなたでないのなら。

 人形として手元に置いておく?

 ……なんだか、余計に辛い思いをしそうですねえ。

 でも、手放すくらいならと考えそうな自分もいます。

 

「……ダンジョンはもういらなくなっちゃいますね」

 

 そうなったら、残るのは私と魔王軍とあなたが招いた転生者や現地の者たち。

 ごめんなさい。きっと、そのときは私はどうでもよくなっています。

 ――こんな世界。どうでもよくなっています。

 

 全てを放棄して、楽しい思い出の中で生き続けるのか。

 あるいは、あの女神に勝ち目のない戦いを挑んで破滅するのか。

 う~ん……。なんか、あなたの後を追うみたいで、重い考えですねえ。

 でも、きっとそれが最善なのでしょう。

 かつての悠久の孤独よりも、あなたがいないその先のほうが、はるかに辛くなるのだから。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。