【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「あの、宰相様」
「どうした? ゼラシア」
ダンジョンを作成していると、背後からゼラシアに声をかけられる。
マップアイコンで接近は知っていたため、万一の場合も不意打ちはされないし問題ない。
ここ地底魔界なら、ピルカヤもいるしな。
「ダンジョンの作成、私たちならお手伝いできるかと思いまして」
「詳しく」
なんでそんなに怯えるのさ。
別に取って食おうってわけじゃないんだから。
「あ、あの近いです」
「ああ、ごめん」
思わず顔を近付けすぎていた。
どうやら、少しばかり気持ちが先行してしまっていたようだ。
「……」
「急に後ろから抱き着いてどうしたんですか」
「レイは私のものです」
「知っています」
俺の言葉に満足したのか、より強い力でフィオナ様に抱きしめられた。
背中にやわらかみを感じる。
……なるほど、ゼラシアは俺じゃなくてフィオナ様に怯えていたんだな。
この魔族、変なところで独占欲強いからなあ。
俺とゼラシアが会話していて、自分だけ除け者になっている状況が嫌だったんだろう。
「それで、ダンジョンの作成が手伝えるというのは?」
もしかして、昆虫人の巣を作っていたみたいに、ダンジョンを拡張できるのだろうか。
それとも、あの複雑な巣の構造のように、侵入者を迷わせるダンジョンを作れるんだろうか。
「あ、あの期待されすぎると魔王様が……」
本当だ。なんか背中からの感触が増している。
相変わらず、苦しくない程度に力を込めるのが上手いな。
「私だってダンジョン作れますけど~?」
「そうですね。フィオナ様のダンジョンも、とても参考になりました」
「じゃあ、ゼラシアより私を見なさい」
「いえ、今はゼラシアと話していたので……」
「私を見なさい」
「……はい」
なんだろうこれ。会話相手はゼラシアなのに、フィオナ様の顔を見るという変な状況になった。
どうやら冗談で言っているわけではなく、ちゃんと顔が見られるように背後から抱きしめていた腕も離されている。
「いいでしょう。では、続きをどうぞ」
「すっごいやりにくいです」
目を逸らしたら襲ってくるタイプの怪異か何かですか?
ゼラシアのほうを向こうものなら、無理やり顔の向きを変えようとしてくるし。
わけのわからない状況ではあるが、ダンジョンのことが気になる。
「それで、ゼラシアができる協力っていうのは?」
「はい。宰相様のダンジョン、私の子たちが何度も挑んだと聞いております」
ああ、あの転生者に命令されて、うちを偵察兼攻略しにきてた話か。
あれはよかった。互いに切磋琢磨して、俺自身成長できる満足いく結果だったもんな。
「そうか。ゼラシアなら、あのときみたいに兵隊を産めるし、進化させることができるのか」
思わずゼラシアのほうを向いた瞬間、やわらかい手が俺の顔の向きを戻す。
……なんですか。と言いたいけれど、やけに満足そうに俺の顔を見られると、文句も言えない。
「あの子たちにも限度がありますので、なんでもかんでも成長できるわけではありませんし、成長させすぎると以前得た耐性も消えますが、それでもお役に立てるかと」
あのときは岩に特化していたもんな。
ただ、全ての罠を網羅するのは難しいか?
いや、そのときはまた一から耐性を積んでもらえば……。
「よし、それならさっそくダンジョンのテストをしてもらおう」
◇
「血も涙もねえのかよぉ。昆虫人」
「い、いえ、私たちも何かお役に立てればと思いまして……」
アナンタに止められた。
大量生産した昆虫兵たちを引き連れて、いざダンジョンといったところで、なんかダッシュして開口一番にこれだ。
「昆虫人、ちゃんと感情あるし差別は良くないぞ」
「そこまでわかっていながら、死地に送り出すお前らが怖えよぉ……」
「この子たちは、そういう役目ですので」
「ほら」
「なにが、ほらだぁ!」
なんで俺が怒られるんだ。
倫理観か? 倫理観かぁ……。
まあ、仲間を死なせる前提の作戦だもんなあ。
モンスターたちみたいに、復活が容易ならともかく、同じ個体を産み出せないのであれば……。
「昆虫人の兵隊が死んだ後に、もう一度ゼラシアが生産した場合、同じ個体が産まれるのか?」
「い、いえ、さすがにそのような生命を司るような真似は……」
うちのモンスターとは違うということらしい。
というか、その言い方だと俺が生命を司っているみたいだな。
さすがに、そんなとんでもないことはできないぞ。
「あの……いかがいたしましょうか?」
「ちょっと待ってくれ。アナンタを説得できる言い訳を考えている」
「本人の前でよくもまあ、そんなことが言えるよなぁ……」
でも、納得できることであれば許してくれるじゃないか。
いつもは、侵入者用のダンジョンだから、やりすぎると止められる。
今回は、あくまでも俺の成長のためだから、そのへんはクリアしているはずだ。
となると、仲間を殺す前提という倫理観が、やはりネックになってきそうだ。
「なんかいい方法ないか?」
「俺に相談するなよなぁ……」
アナンタのことを一番わかっているのは、アナンタ自身だからな。
う~む……。今回は言い負かせられない気がする。
「……死なない程度にすればいいんじゃねえのか?」
「それじゃあ、俺の成長につながるか微妙かもしれない」
「お前、俺が折れて協力してやったんだから、そっちも少しは折れろよなぁ……」
なんだかんだでこうして協力してくれる。
それがアナンタという男なのだ。
たぶん、こういうところはリグマ譲りだな。
「あの、本当にこの子たちのことなら気にせずとも」
「お前なぁ。それでもそいつらの親か」
「弱い個体は淘汰されるものです。生き残り、知恵をつけたものだけが将へと成長しますので」
「お、おう……」
ゼラシアの言葉に、アナンタがやや気圧されているみたいだ。
なるほど、昆虫人とはそうやって強者を産み出して、なんとか他の種族たちの迫害から生き延びてきたのか。
そんなふうに育てた将を根こそぎ奪われたのであれば、あの転生者は本当にとんでもない相手だったんだろうな。
「ど、どうする? なんかこいつもやべえんだけど」
こいつもってことは、少なくとももう一人やばいやつがいるということだ。
……俺か。つまりアナンタは、やべえやつの相談を、別のやべえやつにしているということになる。
アナンタかわいそう……。
「な、なんだよぉ。なんで、急に哀れみを向けるんだよぉ」
「なんか、大変なやつの相手をさせられているなと思って」
「お前、たまに他人事になるのはなんなんだよぉ!?」
客観視できているということか。
宰相としても、ダンジョンを管理する者としても、それはいいことじゃないか?
「はぁ……しかたない。お前らアホだから、俺が止めたらちゃんと止まれよぉ?」
口が悪いが面倒見は良いやつなんだ。このアナンタという男は。
こうして、俺とゼラシアは加減をしながら切磋琢磨するよう、昆虫兵たちをダンジョンテスターにすることに成功した。
……ただ、やはり本気の潰しあいじゃないせいか、あのときみたいな成長はしないなあ。
「やっぱり、本気で撃退すべきなのでは?」
「そのほうが成長できるという理屈はわかるが、お前の心がおかしくなりそうだから却下」
俺を心配するように止められると、こちらも何も言い返せない。
というか、俺の心ってまだおかしくなかったのか。
俺はてっきり、魔族になった時点で壊れたと思ったんだけどなあ。
「フィオナ様?」
「今回はアナンタの言うことが正しいので、魔王権限でも止めます。今のままで我慢しておきなさい」
「まあ、フィオナ様にまでそう言われるのであれば……」
この方法でも、いずれは成長するだろうし、我慢しておくとするか。