【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「勝負だ!」
「料理で忙しいから、また今度ね~」
「今日こそは!」
「さあ、今日もみんなのためにご飯を作らないと」
最近、頻繁にこんなやりとりを見かける。
マギレマさんと戦いたいナツラ。
料理をしたいのか、あるいは戦いたくないのか、それをかわしていくマギレマさん。
「くっ……今日も戦えなかった」
そして、ナツラは毎日残念そうに突っ伏している。
まあ、マギレマさんが忙しいのは本当のことだからな。
なにせ彼女の店は、ダンジョン魔力の収入が最も多い。
様々な種族が利用しており、大いに繁盛しているのだから、魔王軍にとって代えの利かない大事な店だ。
「宰相様。マギレマと戦いたい」
あまりにも断られ続け、埒が明かないと思ったのだろう。
ナツラはついに、俺に嘆願するようになってしまった。
「本人が望んでいないなら、無理に戦わせるのもなあ」
「やっぱ、レイくんのそういうとこ好き~」
マギレマさんの犬たちが、俺に覆いかぶさってくる。
落ち着いてくれ。前が見えないから。
「いや、マギレマだぞ。料理を生業とした今であっても、戦いのことは忘れていないはずだ」
「まあ、十魔将だし。マギレマさんが戦えるってことは、聞いたことあるけど」
「そう、それだ! マギレマは十魔将なのだろう? ならば、料理だけにかまけて、いざというとき戦いの腕が鈍っては、魔王軍としても問題だろう」
「わからんでもないけど……」
戦いは別の者に任せるとしても、彼女自身が誰かに襲われたときに自衛できたほうがいいからな。
ナツラの言うとおり、マギレマさんは十魔将であり、敵に襲われる可能性もあるのだから。
「ナっちゃん、知恵つけて小癪になったね……」
さて、どうしたものか。
あとリピアネムは座ってなさい。
お前が入るとややこしくなるから、そこでそわそわするな。
「戦い云々はともかく、マギレマさんって休んでる?」
「……やすんでるよー」
嘘だな。
目が泳いでいるし、なんか棒読みだったぞ。
ダスカロスとテラペイアのほうを見ると、彼らは頷いていた。
休んでいるからではなく、休んでいないのでは? という、俺の疑念に同意したんだろう。
「とりあえず、マギレマさんに休暇を与えよう」
「う~ん。レイくんが言うなら」
「じゃあ、明日は休みということで」
「オッケー。明日はお店を開かないようにするね~」
「ちなみに明日は、魔王軍のみんなのために食事を作るのも禁止で」
「横暴っしょ! それは!」
やけにすんなり受け入れると思っていたが、やっぱり休みでも俺たちのための分の料理があるから問題ないと考えていたな?
「さすがは魔王軍宰相だな。十魔将の扱いが実に上手い」
「やだ~。料理したい~」
別にそれ自体は止めてないけれど、わりと律儀なマギレマさんは、明日は料理を一切しない約束した、と判断したようだ。
趣味のお菓子作りとか、自分のための料理くらいならいいんだけど、まあ言わないでおこう。
「つまり、明日は暇ということだな。よし、戦おう」
「ナツラ……元はといえば、あんたのせいで……」
さて、明日の食事はどうしようかな。
まあこれだけ人数も多いから、自炊ができる者も多いだろうし、持ち回りでなんとかしていくか。
……最悪、マギレマさんの部下たちに手伝ってもらおう。
◇
「つまり、魔王の手料理が食べたいと! いやあ、レイも素直じゃありませんねえ。言ってくれたら、いつでも作りますのに」
「いえ、本当にマギレマさんに休暇をというだけだったのですが……」
なんか、うきうきしながら料理しようとするフィオナ様がいる。
まあ、最初のころと比べて、しっかりとおいしい料理を作れるようになっているし、本人も楽しいのかもな。
「手伝いましょうか?」
「あ、それじゃあ、この野菜を切ってください」
そうして、俺とフィオナ様は二人で協力して食事を作ることとなった。
味はやはり美味しい。言っちゃ悪いが、マギレマさんには負けるはずなのに、なんかこっちのほうが好きな気がする。
「……」
「なんですか、ニヤニヤして」
「優しく見守っているとか、もっと表現あるでしょう!?」
……それはそれで気恥ずかしいので、ニヤニヤしていたととらえておこう。
仕方ないじゃないか。なんか美味しいんだから。
あのぐーたらな魔王様が、俺のために作ってくれたという付加価値のせいなのかな?
「おかわりします?」
「食べます」
「ふふん! もはや、レイの胃袋は完全につかみましたね!」
……まあ、毎日食べてもいいくらいには、フィオナ様の料理好きだけど。
ほんと、上手になったよなあ。
「こうして、私が食を支配することで、魔王軍に永久就職することに……」
なんか、悪いことを企んでいる顔で言っている。
だけど、その内容は別にこちらにとって悪いことではなく、むしろ望むところなんだよなあ。
「フィオナ様が許すのなら、俺一生隣にいますけど?」
「ですよね~! 素直な良い子には、ご褒美として抱きついてあげましょう」
「暑苦しいです」
「なにをぅ!?」
それがご褒美になると考えているあたり、この魔族自分の顔の良さを正しく理解しているよなあ……。
◇
「くあぁっ……」
「なんですか? その細かいキラキラした物質は砂糖ですか? 魂ですか?」
「使って……いいよ……?」
「使いませんよ。そんなわけのわからないものを調味料なんかに」
プネヴマさんが、また口から何か出してる。
あれ、平気なのかな? なんてたまに思うけど、本人も平然としているし、バンシーってそういう種族なのかしら?
プネヴマさんもエピクレシさんも、それどころか四天王や魔族以外の従業員も、今日は厨房に立っている。
この全員分の食事を作っていたのだから、マギレマさんってやっぱりすごい……。
「江梨子ちゃん! 料理勝負だよ!」
そんなふうに、周囲の様子を観察していたら芹香が、今日も元気に話しかけてきた。
勝負……。審査員とか必要になるじゃない。
そんなの魔王軍には……わりと立候補する人いそうね。
「今日の厨房は混雑しているから、あまり周りの迷惑になっちゃ駄目でしょ」
「なるほど! じゃあ、普通にお料理だね」
「おじさん、審査員やってもいいぞ~」
私たちの会話が聞こえていたのか、リグマさんがそう言ってくれた。
四天王なのに、相変わらずノリがいい……というよりは、魂胆は別にありそう。
「……もしかして、自分の食事作るの面倒だったりします?」
「あちゃあ、オクイは相変わらず察しがいいねえ」
「まあ、多めに作るぶんには問題ありませんけど」
「よ~し、言ってみるもんだな。おじさん何でも食べるから、適当に頼むわ」
何でも……。そういえばスライムだもんね。
私の考えている何でもより、範囲が広い気がする。
……もしかして、普通の食事とかより、魔石とかのほうがいいのかしら?
「オクイちゃん? なんで、石を見てるのかなあ?」
「いえ、石を調理するにはどうすればいいかと考えていまして」
「なんで、おじさんの主食が石になってるのかなあ!? 君、レイくんに変な影響受けてない?」
……たしかにレイさんなら、調理にも石というか岩を使いそう。
石焼きで魚介類を調理すればいいのかしら?
「リグマさん、昔は食べ物にありつけないから、魔石食べてたって言ってなかったっけ?」
「あれは仕方なくであって、好んで食べてたわけじゃないの」
「え~、土属性なのに~」
「ならお前は、火を食べることに……できるな、そういえば」
「極論、魔力か火さえあれば、ボク平気だからね」
精霊ということもあり、ピルカヤさんに至っては食事さえ不要。
やっぱり、魔王軍って色々な人がいるわね。
そんな全員の趣味趣向特徴に沿って調理をするなんて、マギレマさんやっぱりすごい……。
もちろん私にそんなことはできるはずもなく、リグマさんやピルカヤさんには、石焼きで魚介類の料理を振る舞うことにした。
まあ、二人とも満足してくれていたみたいだし、それなりの出来ではあったと自負している。