【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「え~ん、暇だよ~」
泣いているようなセリフではあるが、涙の一滴も出ていない。
チラチラとこちらを見るマギレマさんを見て、俺はとりあえず犬たちをかわいがることにした。
「足より本体に優しくしてほしいな~」
「優しいつもりだよ? 甘くはないけど」
「魔王様には優しくて甘いくせに!」
失敬な。フィオナ様が相手だろうと、俺はノーと言える元日本人だ。
主にガシャの件では、一切の甘やかしを見せていないじゃないか。
「本当に別人のようだな」
「日々成長があたしのモットーだからね」
「となると、以前よりさらに強く……よし、戦うぞ」
「暑苦しいな~」
「厨房に立っているお前なら、慣れたものだろう」
まあ、調理の場って大変そうだからな。
だが、ナツラの暑苦しさとは、そういうことではないと思う。
「ま、いっか。暇だし、たまには戦わないと腕が鈍るってのも、言い分は分かるし」
よほど暇なのか、あるいは本当に腕が鈍っているのか、マギレマさんはナツラの誘いに乗ることにしたようだ。
たぶん前者だな。鳴神との戦いでは、マギレマさんも犬もめちゃくちゃ強かったし。
「レイく~ん、ネムちゃん用の広場借りるね~」
「今は誰も使っていないから、存分にどうぞ」
その言葉を聞いて、マギレマさんはナツラとともに広場へと向かった。
なお犬たちは、まだ俺にじゃれていたかったのか、最後まで抵抗していたけれど、マギレマさんが力ずくで引きずっていってしまった。
相変わらず不思議な関係だな。
◇
「というわけで、ピルカヤに頼んで戦いの様子を見てみようかと」
「マギレマとナツラの戦いですか……」
ステータス的には、わりと互角になりそうだよな。
以前はナツラが、完膚なきまでに叩きのめされたそうだが、今ではそれほどまでに実力が伯仲している。
「あいつが自発的に戦うのは珍しいな」
「やっぱり、戦闘が好きじゃないのかな? だとしたら、ナルカミのときに戦わせて悪かったか……」
ディキティスの言葉を聞いて少し反省する。
知らず知らずのうちに、無理やりやりたくないことをさせてしまっていたか。
「いや、問題ないだろう。本当に嫌なことであれば、上の命令にすら逆らえるやつだ。あいつは」
なら良かった。気は乗らないけれど、許容範囲内であったらしい。
「マギレマは、レイをかわいがっていますからね~。足を見れば一目瞭然でしょう」
フィオナ様が、ジト目でこちらを見てくる。
足というか犬のほうは、マギレマさんの意思とは別でしょうに。
「今日だって、本体と犬で意思疎通取れていませんでしたよ?」
「足のほうが、より素直なんです。つまり、マギレマはレイのことをそれだけ気に入っているので……ちょっと、魔王としてもあの戦いに参戦すべきですかね?」
「やめてください。一瞬で終わります」
思いつきで、とんでもないことをしようとするよな。この魔王様。
とりあえず、本当に向こうに行ったら困るので、俺はフィオナ様を背後から抑え込んだ。
「な、なっ!」
「まったく、大人しく見ていてくださいよ」
「い、良いでしょう! ですが、もっと強く抱きしめることを所望します!」
俺程度の力では、どれだけ力を込めようが簡単に抜け出せるくせに、ノリの良い魔族だな。
まあ、そういうことなら、こちらも非力なりに力を込めておこう。
「……暑いから、離れていいですか?」
「駄目です。私を捕まえておかなかった場合、世界が大変なことになります」
なんとも、スケールの大きい話になってきたものだ。
気づけば俺のこの両手に、世界の命運が握られていたらしい。
さて、そんな馬鹿な話はおいておくとして……。
「マギレマさんの武器って、あの大きな包丁なんですね」
ナルカミのときは武器を使わなかったが、今回は違うらしい。
さすがに、調理に使う物とは別みたいだが、なんとも料理人らしい武器だな。
「マギレマは、大きな魚も簡単に解体しますからね。ナツラくらいの大きさなら、ちょうど良いのかもしれません」
「ナツラ、活造りにされるんですか?」
「さ、さすがに、マギレマもそこまではしないはずですが」
意外なことに、ナツラはすぐに仕掛けることはなかった。
というより、やりにくそうに様子を見ているようだ。
……なるほど、あの犬たち全員がナツラを威嚇しているもんな。
あれら全てを超えないと、マギレマさんには届かない。
現にナルカミは、犬にもみくちゃにされてしまっていた。
「ハイドラもそうだけど、頭がたくさんあるって、それだけで強いよなあ」
死角がまるでない。
当然ながら、互いの連携も取れている。
だが、ナツラはそんな中、針の穴を通すようにわずかな隙をついて攻撃を仕掛けた。
「やるな。俺では突破できなかった犬たちを、ああもたやすく」
鳴神の言うとおり、ナツラは犬たちの攻撃を避けてマギレマさんに迫っていた。
あいつ脳筋ではあるが、戦いにおいては力でごり押すタイプではないからな。
なんというか、ストイックな戦い方が得意そうなやつだ。
ナツラの刀とマギレマさんの包丁がぶつかり、けたたましい金属音が、火花を散らしながら鳴り響く。
きっとものすごい力のぶつかり合いなんだろう。
俺がやられたら、一発で両断されそうだ。
「やはり、マギレマのほうが上か」
共に働いているためか、マギレマさんをよく知るリピアネムは、すでに互いの力量差を理解したらしい。
そして、そんな彼女の言葉どおりに、視界の中ではマギレマさんがナツラを圧倒し始めた。
「……ナツラって、刀をうまく振るう技量の高いやつかと思っていたけど」
いや、思っていたというか実際そうだ。
だけど、そんなナツラの技術は、マギレマさんにまったく通用していない。
「あの巨大な包丁で、よくもまあ繊細な攻撃ができるな」
「マギレマだからな。あいつの調理の技術は、私も習うべきところが多い」
剣術の最高峰に立っているリピアネムをもってしてそう言わせる。
なるほど、魔王軍の料理長とは、それほどの技量を持っているのか。
「……なんか、犬たちが炎吐いているんだけど」
「マギレマは料理長だからな。包丁だけでなく、火の扱いにも手慣れている」
いや、あの機能俺知らなかったんだけど……。
あいつら、かわいい犬とばかり思っていたが、そんなすごい攻撃もできたのか。
ステータスではほぼ互角だ。
だけど、結果は視界にある光景どおり。
やっぱり、ステータスだけを見て判断するのは危険だな。
それ以外の様々な要素で、格上をあっさり倒せるということもあり得るわけだ。
女神の加護なんて、まさにその最たる例だろう。
となると、俺の両腕の中でまったりしているこの魔王様も……。
あそこまで他とかけ離れたステータスなら、そうそうないとは思うが……。
やはり、倒す手段はあるということだろうな。
「どうしました? レイ。なんか、少し力が強くなりましたね」
「あっ、すみません。苦しかったですか?」
「いえ、むしろどんどんきなさい!」
まあ、俺程度の力では苦しいはずもないか。
ステータスだけを見てはいけないが、ステータスを軽んじてもいけない。
指標の一つとして、これからも信じていくべきだろう。
「……フィオナ様のことは、俺が守りますから」
「……ええ。頼りにしていますよ。私の宰相」
急な俺の言葉に驚く様子もなく、むしろそれが当然であるかのように、フィオナ様は穏やかな声でそう返した。
◇
「あっ、そういうこと。いやあ、魔王様のプレッシャーが一瞬で消えたと思ったら、レイくんのおかげだったんだ。ありがとね~」
ナツラを倒したマギレマさんは、俺とフィオナ様を見てそんなことを言った。
……フィオナ様、戦う二人にプレッシャーなんてかけていたんですか?
なぜそんなことを……。
もしかして、戦闘中の二人に負荷を与えることで、強くなるようにという考えだろうか?