【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第437話 お前を料理してやる

「え~ん、暇だよ~」

 

 泣いているようなセリフではあるが、涙の一滴も出ていない。

 チラチラとこちらを見るマギレマさんを見て、俺はとりあえず犬たちをかわいがることにした。

 

「足より本体に優しくしてほしいな~」

 

「優しいつもりだよ? 甘くはないけど」

 

「魔王様には優しくて甘いくせに!」

 

 失敬な。フィオナ様が相手だろうと、俺はノーと言える元日本人だ。

 主にガシャの件では、一切の甘やかしを見せていないじゃないか。

 

「本当に別人のようだな」

 

「日々成長があたしのモットーだからね」

 

「となると、以前よりさらに強く……よし、戦うぞ」

 

「暑苦しいな~」

 

「厨房に立っているお前なら、慣れたものだろう」

 

 まあ、調理の場って大変そうだからな。

 だが、ナツラの暑苦しさとは、そういうことではないと思う。

 

「ま、いっか。暇だし、たまには戦わないと腕が鈍るってのも、言い分は分かるし」

 

 よほど暇なのか、あるいは本当に腕が鈍っているのか、マギレマさんはナツラの誘いに乗ることにしたようだ。

 たぶん前者だな。鳴神との戦いでは、マギレマさんも犬もめちゃくちゃ強かったし。

 

「レイく~ん、ネムちゃん用の広場借りるね~」

 

「今は誰も使っていないから、存分にどうぞ」

 

 その言葉を聞いて、マギレマさんはナツラとともに広場へと向かった。

 なお犬たちは、まだ俺にじゃれていたかったのか、最後まで抵抗していたけれど、マギレマさんが力ずくで引きずっていってしまった。

 相変わらず不思議な関係だな。

 

    ◇

 

「というわけで、ピルカヤに頼んで戦いの様子を見てみようかと」

 

「マギレマとナツラの戦いですか……」

 

 ステータス的には、わりと互角になりそうだよな。

 以前はナツラが、完膚なきまでに叩きのめされたそうだが、今ではそれほどまでに実力が伯仲している。

 

「あいつが自発的に戦うのは珍しいな」

 

「やっぱり、戦闘が好きじゃないのかな? だとしたら、ナルカミのときに戦わせて悪かったか……」

 

 ディキティスの言葉を聞いて少し反省する。

 知らず知らずのうちに、無理やりやりたくないことをさせてしまっていたか。

 

「いや、問題ないだろう。本当に嫌なことであれば、上の命令にすら逆らえるやつだ。あいつは」

 

 なら良かった。気は乗らないけれど、許容範囲内であったらしい。

 

「マギレマは、レイをかわいがっていますからね~。足を見れば一目瞭然でしょう」

 

 フィオナ様が、ジト目でこちらを見てくる。

 足というか犬のほうは、マギレマさんの意思とは別でしょうに。

 

「今日だって、本体と犬で意思疎通取れていませんでしたよ?」

 

「足のほうが、より素直なんです。つまり、マギレマはレイのことをそれだけ気に入っているので……ちょっと、魔王としてもあの戦いに参戦すべきですかね?」

 

「やめてください。一瞬で終わります」

 

 思いつきで、とんでもないことをしようとするよな。この魔王様。

 とりあえず、本当に向こうに行ったら困るので、俺はフィオナ様を背後から抑え込んだ。

 

「な、なっ!」

 

「まったく、大人しく見ていてくださいよ」

 

「い、良いでしょう! ですが、もっと強く抱きしめることを所望します!」

 

 俺程度の力では、どれだけ力を込めようが簡単に抜け出せるくせに、ノリの良い魔族だな。

 まあ、そういうことなら、こちらも非力なりに力を込めておこう。

 

「……暑いから、離れていいですか?」

 

「駄目です。私を捕まえておかなかった場合、世界が大変なことになります」

 

 なんとも、スケールの大きい話になってきたものだ。

 気づけば俺のこの両手に、世界の命運が握られていたらしい。

 さて、そんな馬鹿な話はおいておくとして……。

 

「マギレマさんの武器って、あの大きな包丁なんですね」

 

 ナルカミのときは武器を使わなかったが、今回は違うらしい。

 さすがに、調理に使う物とは別みたいだが、なんとも料理人らしい武器だな。

 

「マギレマは、大きな魚も簡単に解体しますからね。ナツラくらいの大きさなら、ちょうど良いのかもしれません」

 

「ナツラ、活造りにされるんですか?」

 

「さ、さすがに、マギレマもそこまではしないはずですが」

 

 意外なことに、ナツラはすぐに仕掛けることはなかった。

 というより、やりにくそうに様子を見ているようだ。

 ……なるほど、あの犬たち全員がナツラを威嚇しているもんな。

 あれら全てを超えないと、マギレマさんには届かない。

 現にナルカミは、犬にもみくちゃにされてしまっていた。

 

「ハイドラもそうだけど、頭がたくさんあるって、それだけで強いよなあ」

 

 死角がまるでない。

 当然ながら、互いの連携も取れている。

 だが、ナツラはそんな中、針の穴を通すようにわずかな隙をついて攻撃を仕掛けた。

 

「やるな。俺では突破できなかった犬たちを、ああもたやすく」

 

 鳴神の言うとおり、ナツラは犬たちの攻撃を避けてマギレマさんに迫っていた。

 あいつ脳筋ではあるが、戦いにおいては力でごり押すタイプではないからな。

 なんというか、ストイックな戦い方が得意そうなやつだ。

 

 ナツラの刀とマギレマさんの包丁がぶつかり、けたたましい金属音が、火花を散らしながら鳴り響く。

 きっとものすごい力のぶつかり合いなんだろう。

 俺がやられたら、一発で両断されそうだ。

 

「やはり、マギレマのほうが上か」

 

 共に働いているためか、マギレマさんをよく知るリピアネムは、すでに互いの力量差を理解したらしい。

 そして、そんな彼女の言葉どおりに、視界の中ではマギレマさんがナツラを圧倒し始めた。

 

「……ナツラって、刀をうまく振るう技量の高いやつかと思っていたけど」

 

 いや、思っていたというか実際そうだ。

 だけど、そんなナツラの技術は、マギレマさんにまったく通用していない。

 

「あの巨大な包丁で、よくもまあ繊細な攻撃ができるな」

 

「マギレマだからな。あいつの調理の技術は、私も習うべきところが多い」

 

 剣術の最高峰に立っているリピアネムをもってしてそう言わせる。

 なるほど、魔王軍の料理長とは、それほどの技量を持っているのか。

 

「……なんか、犬たちが炎吐いているんだけど」

 

「マギレマは料理長だからな。包丁だけでなく、火の扱いにも手慣れている」

 

 いや、あの機能俺知らなかったんだけど……。

 あいつら、かわいい犬とばかり思っていたが、そんなすごい攻撃もできたのか。

 

 ステータスではほぼ互角だ。

 だけど、結果は視界にある光景どおり。

 やっぱり、ステータスだけを見て判断するのは危険だな。

 それ以外の様々な要素で、格上をあっさり倒せるということもあり得るわけだ。

 女神の加護なんて、まさにその最たる例だろう。

 

 となると、俺の両腕の中でまったりしているこの魔王様も……。

 あそこまで他とかけ離れたステータスなら、そうそうないとは思うが……。

 やはり、倒す手段はあるということだろうな。

 

「どうしました? レイ。なんか、少し力が強くなりましたね」

 

「あっ、すみません。苦しかったですか?」

 

「いえ、むしろどんどんきなさい!」

 

 まあ、俺程度の力では苦しいはずもないか。

 ステータスだけを見てはいけないが、ステータスを軽んじてもいけない。

 指標の一つとして、これからも信じていくべきだろう。

 

「……フィオナ様のことは、俺が守りますから」

 

「……ええ。頼りにしていますよ。私の宰相」

 

 急な俺の言葉に驚く様子もなく、むしろそれが当然であるかのように、フィオナ様は穏やかな声でそう返した。

 

    ◇

 

「あっ、そういうこと。いやあ、魔王様のプレッシャーが一瞬で消えたと思ったら、レイくんのおかげだったんだ。ありがとね~」

 

 ナツラを倒したマギレマさんは、俺とフィオナ様を見てそんなことを言った。

 ……フィオナ様、戦う二人にプレッシャーなんてかけていたんですか?

 なぜそんなことを……。

 もしかして、戦闘中の二人に負荷を与えることで、強くなるようにという考えだろうか?

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