【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「そういえば結構前のことだけど、ピルカヤが魔王軍にはメイドや執事がいたって言ってたよな」
「言ったね~。リグマさんが、魔族用の宿でサボろうとしてるときに」
「おい、ちゃんと働いてるでしょうが。おじさん、あれ以来すっごい真面目よ?」
まあ、そこは今更疑う余地もない。
本質的にぐーたらしたいくせに、同時に働き者でもある。
リグマとは、そんな難儀なスライムなのだ。
「でも、今の地底魔界だとメイドも執事も足りてるし、蘇生の優先順は後だろうね」
「ダークエルフに昆虫人。なんか、こっちに仕えたがってる種族が多いからなあ」
そこでオーガの名前があがらないのは、まあ仕方ないか。
あれがメイドや執事……。それに擬態した護衛にしかなれないだろうし。
「そんな話を急にするなんて、もしかして人手が足りなくなったの?」
「いや、レイくんも男の子だし、メイドに甲斐甲斐しく世話されたいとか」
「失敬な。俺は自分のことは、可能な限り自分でするぞ」
ただし食事以外。
食事はフィオナ様とマギレマさんの二強に勝てる気がしないから、大人しく二人に作ってもらうのが一番効率が良い。
「なんですか? 僕というかわいいメイドがいるのに、浮気ですか!?」
「イピレティスは、かわいいはかわいいけど、中身が血生臭くて物騒だから」
「えへへ~」
「そこで照れるあたり、レイくんが言ってること正しいんだよなあ」
こいつとピルカヤとプネヴマは種族特有のものなのか、たまにわけわからない反応が返ってくるからなあ……。
まあ、イピレティスは、メイドとしてたしかに優秀だよ?
だけどそれと同時に、それこそさっきオーガたちで想像したように、メイドに扮した護衛みたいな存在でもあるからな。
だから少し気になっただけだ。
護衛という役割でなく、メイドや執事という世話専門の魔族たちが、どれほどのものなのか。
もしかしたら、俺がダンジョンを作るにあたって、とても有益な存在になる可能性が……。
いっそ、新たな罠の提案や、侵入者の統計をとってくれるかもしれない。
「執事、便利そうだな……」
「イピレティスの世話じゃ足りないの?」
「そ、そういうことですか!? やはり、ここはもっと触れ合いを多くして……」
「魔王様に殺されるぞ、お前」
「それはそれで素敵です!」
「無敵か」
フィオナ様に仲間殺しはしてほしくないので、大人しくイピレティスに世話を焼いてもらうことにしよう。
といっても、やはり護衛がメインであり、俺のスケジュール管理こそしてくれるものの、必要以上に前に出ないのが彼女だけどな。
「……メイドが蘇生したら、ダンジョンの楽しい仕掛けとか提案してくれると思ったけど」
「あ、僕それ得意です!」
たしかに……。つまりイピレティスはメイドとしても優秀だった?
さすがは十魔将。メイド兼護衛兼暗殺者として、どれも一流の仕事をこなしているってわけか。
「おじさん、それはメイドの役割じゃないと思いま~す……」
「レイが想像している執事やメイド、なんか変な存在になってそうだよねぇ」
「まあ、僕は優秀なので、魔王軍のメイドや執事が蘇生したとしても、レイ様のお世話では負けませんけどね!」
「相性良すぎてアナンタが苦労しているから、ほどほどに加減しろよ。お前は」
リグマの言葉を聞いて、イピレティスの耳がそっぽを向いた。
あれだけ大きいウサギの耳なのに、まるで言葉が届いていないらしい。
「そういえば、同じウサギだし。時任とかもメイド得意かもな」
「職業の適性って、種族で決まりはしないと思うんだけどなあ」
「でも、トキトウそういうのわりと合ってそうだよね」
「でも、あの子わりとドジだぞ」
……たしかに。
変態だけどそつなくこなすイピレティスと違って、真剣に失敗しそうなのが時任だ。
やはり同じウサギとはいえ、それぞれ個性があるということだな。
◇
「なんて話があってさ~」
「レイさんの秘書に抜擢!? 時任、大出世の道を駆け上がっていますね!」
「へ~……僕の立場を乗っ取ろうという宣戦布告かな~?」
「ふ、二人でお世話しましょう! ハルカちゃん助けて!」
何してるんだろうねえ。あの二人は。
気弱なウサギ獣人と思っていたトキトウちゃんだけど、ああして十魔将と仲良くしているあたり、実はかなりすごい人物なのかもしれない。
困ったようなオーガの背に隠れた姿を見ながら、私はそんなことを考えていた。
それにしても、メイドや執事ねえ……。
これでも一応はダークエルフの女王なので、従者とかはいたけれど、今は別に世話は不要と言っている。
その献身が最終的に接客へ向かったと考えると、店長を務めているトキトウちゃんも、案外その才能はあるのかもしれないね。
「ダスカロスの旦那とか、執事もそつなくこなせそうだよな」
「あの方は、なんでもできるからねえ」
そんな話を魔王軍内でわいわいとやっていたからか。
ラプティキ様が、なんだかすごい勢いで参戦した。
メイドになるとか、そういう話ではない。その服装のほうだ。
「いいわ! それなら、みんなのメイド服と執事服を作ってあげる!」
「え、やった~! ラプティキさん好き~!」
「任せなさい」
トキトウちゃんは、無邪気にラプティキ様に抱きついているが、私たちはいまだに十魔将の方にそんな仕事をさせるなんて恐れ多いという気持ちが先に来る。
でも、マギレマ様もそうだけど、魔王軍の面々は自らの仕事をこなすことを喜びとしているみたいだからねえ。
本来なら、トキトウちゃんみたいな反応が、一番良いんだろうね。
◇
「え、なんで私まで」
「当然でしょ。あんたや他の十魔将だけでなく、四天王でさえ着てるんだから」
なんか、魔王軍が大変なことになっていた。
四天王や十魔将、一部の転生者や従業員たちが、全員メイドと執事になっている。
俺が欲しがったから? もしかして、俺が余計なこと言っちゃった?
「リグマやプリミラは着こなしているな」
「恐れ入ります」
「いやいや、プリミラはともかく、こんな執事駄目でしょうよ」
いや、隣にいる精霊を見てみろ。
いつもは軍服を羽織ってる程度だからか、すでに執事服をほぼ脱いでるぞ。
「窮屈なのって、苦手なんだよね~」
まあ、ピルカヤだしそれも彼らしいから良い。
さて、問題は同じく四天王のリピアネムだ。
「なんで、男装?」
「私には、このほうが似合うと言われてな」
「まあ、かっこいいけど」
「さすがはレイ殿だ。よくわかっている」
尻尾を振っている様子は、かっこよさよりもかわいさが前に出ているけどな。
「マギレマさん、普段よりちゃんと服を着ているって感じですね」
プリミラもそうだったけど、普段の服装のほうが露出が多いからな。
「いやあ、ルカちゃんじゃないけど、あんまり窮屈なのは性に合わないかもね~」
まあ、普段は解放感がすごいからな。
それに比べて、今はスカートの中から首を出している犬たちでさえ、窮屈そうにしている。
「アナンタやカーマルは、無難に似合っているな」
「ウルラガだけは似合ってないけどね~」
「当たり前だろ。いいんだよ、こんなもん似合わなくたって」
ウルラガは、なんというか着崩している。
護衛対象にあわせて、無理やり着せられた服みたいだ。
「それにしても、なんでみんなで執事やメイドに?」
「ラプティキの仕事欲が爆発した」
「ああ、それで……」
なら仕方ないか。てっきりみんながメイドや執事に転職したのかと思ったが、あくまで服装だけなら問題ない。
もしも全員が転職していたら、元の仕事を引き継げる誰かを探さなければならなかった。
「ところでレイさん的には、誰が一番似合ってると思うの?」
難しい質問だな。
普段と違う服装がこれだけ並んでいると、その審査も大変だ。
ただ、とりあえず思ったことは……。
「たぶん、フィオナ様が一番かわいいと思う」
「そりゃあレイくんなら、そう言うだろうな」
なんでそこで全員納得しているんだ。ずいぶんと物分かりが良いな。
ここにいる誰もが一番じゃないと言ったのに、それでいいのか魔王軍。
その後、ピルカヤの伝言でこのことを知ったらしいフィオナ様が、俺を自室に拉致してメイド服を見せびらかしてきた。
まあ、綺麗ですよ? でも、そのどや顔はなんかポンコツな感じがします。