【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「さて、メイドとして徳を積んだので、そろそろ当たりますね」
ガシャのことだな。
すでに煩悩まみれなので、たぶん外れる。
「なにか言いたそうですね? あなたは自由に意見して良いんですよ? 私の宰相」
「たぶん、徳より欲が勝っています」
「昨日あれだけメイドとして、ご奉仕してあげたじゃないですか!?」
いや、俺に奉仕しても物欲センサーさんが……。
あと、わりといつもと同じでしたよ。
ベタベタくっついて、楽しくおしゃべりしただけじゃないですか。
夜は抱き枕扱いして、寝ていただけじゃないですか。
なんとも、いつもどおりの日常だった。
「そして、今の私には影冠樹の貯金があるので、最強です」
出会ったときから最強だと思っていた魔王様。
そんな最強という言葉が、こうも頼りなくなる日がくるとは思わなかった。
「まあ、約束したので、影冠樹の魔力はある程度は使っていいですけど……」
「つまり、私の勝ちということでいいですか?」
自信だけはあるんだよなあ……。
部屋の中に置かれた魔王ボックスを見ながら、今日もここに入れられる物が増えるのか、と俺は内心憐れんだ。
◇
「今日は何がもらえるのかな~」
「やめなさい。外れることを望んでると思われるわよ」
「そんなっ!? おこぼれ狙いの卑しいウサギでごめんなさい!」
ほら、ガシャイベントに慣れた者たちは、こんなんだぞ。
かく言う俺も、そうそう当たるとは思っていない。
そんな俺たちの内心を知ってか知らずか、フィオナ様は気合い十分で宝箱に挑むようだ。
「とりあえず……十個ほどですかね?」
「まあ、そのくらいは許しますけど。玉座への補充がんばっていましたし」
俺たちを救うための出費だったからな。
なら、そのぶんは俺がダンジョン魔力から立替ておくべきだ。
「どうぞ」
「ふっふっふ……。十連もすれば、ほぼ確実に……」
フィオナ様が魔力を惜しみなく注ぐ。
合図されてから、俺がそれを開ける。
外れる。
「食料でした」
「俺も見ていたからわかります」
「くっ……魔王軍が増えすぎたから、必要物資として引いているのでしょうか」
ナツラやゼラシアを見ないでください。
その発言の後だと、間引くととらえられかねません。
なんなら、ゼラシアが震えています。
「そもそも、マギレマさんのお店があるので、食料はいくらでもあっていいです」
「マギレマの店、潰しますか?」
「魔王様!?」
暴君ですね。ついに魔王としての本領でも発揮しましたか?
さすがのマギレマさんも、いつもと違ってかなり焦ってますよ?
「マギレマさんの店はダンジョン魔力の収入源なので、潰した場合気軽にガシャはできなくなります」
「なるほど……どうやら、冷静ではなかったようです」
あなたがガシャで冷静だったことは、ほぼありません。
さて、二箱目は……食料だな。
「や、やはりマギレマの店が……」
「違うって言ってるでしょう」
気を確かに持ってください。
ガシャが外れすぎて闇堕ちする魔王とか、歴史上あなたくらいですよ?
「なるほど、魔王様はああして下々の者に食料を恵んでくれているのか!」
鳴神、良いように勘違いしてくれているが、これは運が悪いだけだ。
「好きで引いてるんじゃありませんけど!?」
フィオナ様の視線が鳴神に向かう。
ついでに、鳴神を止めようとしていたロペスや、近くにいた時任たちにも。
そのまま、しばらく転生者組を眺めているものだから、ロペスたちはおろか鳴神でさえ、さすがに緊張してしまっている。
やめましょうよ。パワハラですか?
「昆虫人たちのときに改めて思いましたが、転生者の力というものは強力です」
「そうですね。どうしたんですか? 急に」
「その強力な力は、何も戦闘だけに限りません」
「まあ、便利な力も多いですね」
「ならば、宝箱ガシャにも利用できると私は考えました」
それ、失敗ばかりだったじゃないですか。
鳴神以外の全員が試しても、外れ引いていましたよね?
「女神の力で、ズルして蘇生薬を引く作戦。今回はそれを試してみましょう」
まあ……止めませんけど。
助けを求める転生者の視線を無視して、俺はフィオナ様に好きに動いてもらうことにした。
悪いな。たぶん、適当にやったら諦めてくれるから、付き合ってあげてくれ。
「では、トキトウの選択肢ですね」
「あの~、未来を変えることはできないのですが」
「トキトウの選択肢で、私の外れを防止します」
「それだと、魔王様が一生ガシャを引けなくなっちゃいます」
「私、一生外れなんですか!?」
あくまでも時任が開けたときの場合だから、もしかしたら他の誰かが開けることで結果は変わるかもしれない。
まあ、期待は薄いけど。
「えっと……やっぱり、魔王様がガシャを引くとき、私が常に結果を見ましょうか?」
「……なんか落ち込みそうなので、やめておきます」
時任はほっとしたように、こちらに戻ってきた。
面倒な上司から解放されたから、というよりは自分の能力でフィオナ様の楽しみを奪わなくて済んだからだろう。
「では、オクイですね」
「えっと……何をしましょうか?」
「オクイの力であれば、開封前にアタリの宝箱がわかります」
ドヤ顔を俺に向けないでください。
かわいいなまったく。
その顔が、数秒後に歪むことになったとしてもだ。
「あの……複数の宝箱から選ぶのであれば、それもいいのですが、結局は魔王様が魔力を注ぐことになりませんか?」
「……注ぐ前の中身がわかっても、どうせ変化するので無意味ですね」
そうなんだよな。
だから、どの宝箱に注げばいいかなんてわからない。
中身が見えたところで、魔力はすでに消費済なんだから。
……だから無理なんですってば。
宝箱の隙間を覗こうとしないでください。
どうせ何も見えませんし、見えたとしても中身は低品質のアイテムです。
「ロペスの解錠でなんとか……」
「すみませんが無理です……」
そもそも、なにかやりようがあるならば、転生者の誰かが提案している。
それでもズルできないのが宝箱というものなのだ。
「裏技はないのですか!?」
「不正に手を染めようとしないでください」
「仕様を突いた裏技は不正とはまた別だと思うのですが!」
「でも、そんなものありませんから」
むしろ、魔力一万のガシャこそが、その仕様を突いた裏技なのでは?
あと一の魔力が不足しているので、フィオナ様には無理ですね。
「ナルカミ! 自己暗示で魔力を一万に増やしなさい!」
「すまんが魔王様よ。俺にはそもそも、その魔力とやらがわからん……」
とんでもない無茶振りが鳴神に飛んでいった。
それができるなら、こいついよいよやばいぞ。
自己暗示だけで、フィオナ様より強くなれるということだからな。
なので、仮に魔力がわかったとしても、一万はおろか千にすら届かないだろう。
「さあ、諦めて自力で戦ってください」
「これだけいる魔王軍に味方が一人もいませんねえ! 良いでしょう! 孤独な戦いにも、慣れていますから!」
そんなに宝箱回していたっけ。……回していたかもな。
それとも、自分以外が全滅したときのこと言っています?
さすがに、そのときほど辛い戦いではないと思いますし、辛いならやめたほうがいいと思います。
「むむ、アクセサリー系統。女性陣に譲ります」
あなたも女性陣でしょうに。
まあ、時任たちが喜んでいるし、いつもの大盤振る舞いな魔王様ってことだな。
「魔力関連の触媒。エピクレシとテクニティスで活用してください」
「レイ。慰めなさい」
「はい。じゃあ解散で」
部下への褒賞の場となったガシャ現場。
今日も魔王様は、自分のことをかえりみずに、自らの魔力で部下が喜ぶ物を生成するのだった。
なお、そんな魔王様の機嫌を取るのは、どうやら宰相の役目らしい。
フィオナ様の部屋に連れ込まれた俺は、しばらくフィオナ様の気が済むまで、されるがままとなった。