【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「ビブリオンさ~ん」
「おやぁ、トキトウちゃんじゃないですか~。また、魔本を借りにきたんですか~?」
図書室を利用していると、そんなやり取りが聞こえてきた。
ビブリオンは謎かけをするつもりらしく、ちょっと姿勢を正している。
時任は時任で、簡単ななぞなぞに答えるだけで賢者扱いされるのが、まんざらでもないらしく、わりとこの二人の相性はいい。
というか、時任が魔王軍に全般的に馴染みすぎている気もする。
「それも良いんですけど、今日はちょっと気になったことがありまして」
「ありゃ、そうですか~。一般の本の貸し出しでしたら、ちゃんと記録しますから、自由に選んでくださいね~」
「そう、それです!」
「図書室ではお静かに~」
「あ、ご、ごめんなさい」
そのへんは、前の世界の一般的な図書館や図書室と変わらない。
軽く会話する程度なら問題ないが、基本的には静かに本を読むか別の何かを行うための部屋になっている。
フィオナ様は二人のやり取りを気にすることなく俺の隣で読書中だし、タイラーなんかは紙を広げて何かを書き込んでいるので、仕事中なのだろう。
俺は俺で、ここで静かにダンジョンの構成を考えている。
ここなら、アナンタも大声で俺に注意できないからな。
なお、アナンタが紙に大きな文字で馬鹿と書いた回数は十を超えている。
さて、さすがにアナンタも疲れてきているようだし、こちらもちょっと休憩して時任とビブリオンの様子を見るとしよう。
「ビブリオンさんって、魔王軍の記録係なんですよね?」
こそこそ声で話す時任に、ビブリオンが普通の声ならいいですよと伝えると、時任の耳がぴくぴく動いた。
いつもの大げさ気味の身振り手振りでは、またビブリオンに注意されると思ったため、耳だけが動いたのだろう。
「私は、みなさんの記録が好きですからね~。そうして様々なことを観察しているおかげで、あの難解な謎がひらめくのです」
……つまり、記録はなぞなぞ作成には特に役立っていないってことか。
「ということは、魔王軍や私たちの、色んな数値とかも記録できているんですか?」
「そうですねえ。例えば、トキトウちゃん、昨日より体重増えましたね」
「!?」
時任が、慌てて口を押さえた。ビブリオンではなく自分の口をだ。
きっと、突然のことで大声を出しそうになったためだろう。
律義に図書室では静かにというルールを守っているあたり、根は真面目な彼女らしくもある。
しかし……日ごとの体重の変化がわかっているのか。
もしかして、ステータスみたいに数値化できている?
ちょっと気になったので、俺は二人の会話に交ぜてもらうことにした。
「その話、ちょっと気になる」
「えぇっ!? 私の体重ですか!?」
小声で叫ぶとかいう、なんか微妙にすごいことをしてくるな。
……うん、この言い方だと勘違いを招いた俺が悪かった。
「そっちじゃなくて、ビブリオンの記録のほうだな」
「よ、よかった~。マギレマさんのご飯、今日から減らしてもらうことになるところでした」
減らさないでやってくれ。
マギレマさん、作るのも食べてもらうのも楽しんでいるからな。
「ビブリオンって、もしかして色んなことが数値で見えているのか?」
「いえいえ~。なんとなくです。明確に数値化できるのは、その手の特殊技能が必要になるため、希少な存在ですからね~」
「ステータスも?」
「ピルカヤ様からお聞きしましたけど、宰相様のステータスの可視化は希少なお力ですよ~? むしろ、私に魔王軍全員のステータスを毎日教えてほしいくらいです」
「さすがに、それは手間かも……」
「ですよね~」
できなくはないけれど、魔王軍もけっこうな大所帯になったからなあ。
元魔王軍メンバーだけでなく、人類である転生者や人間やドワーフや獣人、迫害種であるダークエルフやオーガや昆虫人。
これらすべてを網羅するのは、一日の作業が終わりそうだ。
というか、下手したら一日では終わらない。
「はっ! つまり、私の体重が増えているのは、ビブリオンさんの勘違いの可能性が!」
「確実に増えてますね~。ですが、肥満ではないので、気にしなくて良いと思いますよ~?」
「うぐぐ……太りすぎて跳ねることができないウサギなんて、食料になるしかありませんか……」
月のウサギにでもなるつもりか?
さすがのマギレマさんも、時任を調理するのは拒むと思うぞ。
と、脱線しそうだったので、改めてビブリオンに聞いてみる。
「今までの魔王軍の記録もとれているのか?」
「ええ、頭の中にはちゃんと入っていますよ~」
なるほど、つまりどんな人材がいたのか、どんなダンジョンだったのか、ビブリオンはしっかりと覚えているわけだ。
これは、今後の蘇生の参考や、ダンジョン構築の参考、国としての施設作成の参考にもなりそうだな。
「昔の魔王軍の様子とか、聞いてみたいな」
「ええ。お任せくださ~い。……あ、れ?」
「どうした?」
「いえ、あはは~。なんか、ちょっと記憶も古くなっちゃってますね~」
まあ、それは仕方ないことだろう。
言っちゃ悪いが、フィオナ様ってかなりの年齢っぽいもんなあ……。
つまり、魔王軍の歴史とはそれだけ長いということだ。
ならば、昔の記録は忘れて不明瞭になっていても当然といえる。
「どんな施設があったとか、どんな魔族がいたとか、そのあたりはフィオナ様に聞いたほうがいいか」
「私もわかりますが……魔王様のあの様子を見るに、そのほうが良さそうですね~」
あの様子……。なるほど。
振り向くと、そこには読書を中断して、ドヤ顔で自分の顔を指さすフィオナ様がいた。
はいはい、あなたに聞きますよ。だから図書室で騒ごうとしないでください。
さすがのビブリオンも、あなたには注意しづらいでしょうに。
魔王だけ特別待遇でルールを破ることが許される。そんなの、あなたが嫌う行為の一つじゃないですか。
「騒がしそうなので、フィオナ様の部屋で聞きますね」
「なにをぅ!?」
ほら、うるさい。うるさいけどかわいい。
それが我らが魔王様なのだ。
俺たちは、いくつかの本を借りていくことをビブリオンに申請し、図書室を後にするのだった。
なお、その後フィオナ様の部屋でかつての魔王軍の話を聞こうとしたが、情報量が多すぎて覚えきれる気がしなかった……。
ビブリオンもすごいけど、この魔族も大概すごいよなあ。
自分の部下を全て覚えているなんて、普段はアホっぽいけど記憶力が本当にすごい。
本人は、長年魔王をやっていたら嫌でも覚えるなんて謙遜していたけれど、それができる方はそうそういないと思いますよ?
◇
「なんか……ちぐはぐしている?」
記憶にあった魔王軍。
全員がしっかりと働いている。
魔王様に従って、軍として統率がとれている。
そこには、たしかな忠義がある。
あるはずなのに……。
なぜでしょう。
魔王様と魔王軍のずれを感じる気がするのは。
魔王様が施設を作る。魔王軍がそれを利用する。
魔王様が軍を指揮する。魔王軍がそれに従う。
だけど……記録から、数値からはわからないけれど、そこにはたしかに歪さを感じる気がする。
「……今の魔王軍と、何かが違う?」
魔族以外が所属しているから?
なんでしょう……。活気? ああ、それかもしれない。
そうか。今は勇者たちとの戦いも落ち着いている。
それに比べて過去の魔王軍は、勇者たちと戦いの真っただ中。だから、生活に余裕がなかったんですかね~?
それにしても、どうしてこんなに長い記録になっているんでしょうね~。
まあ、私はどれだけ長かろうと記録する者。今後の歴史もきっちりと記録していくとしますか。