【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
ダンジョンというものがある。
魔王の根城。あるいは、人類への攻撃を行うための拠点。あるいは、人類を誘い出して滅ぼすための罠。
危険極まりないものから、大した脅威もないものまで、内容は様々だ。
だから俺たち人類は、それらを見極めたうえでダンジョンを利用する。
モンスターを倒すことで力を得られるし、内部に置かれた宝箱を回収することで装備やアイテムを入手できる。
魔王の力を削ぐためにも、俺たち冒険者や国の騎士や兵士たちが、ダンジョンを攻略する意味は大きい。
最近では、ダンジョンの入り口付近に店を構える変なやつらも増えているらしいが、まあ転生者がおかしな行動をするのは今に始まったことではない。
欲望のダンジョンと呼ばれる場所では、それらが成功しているようだし、案外悪いことでもないんだろう。
脅威度を減らしつつ利用する。そのためにも、こうして新たなダンジョンが発見されたら、俺たちみたいなのが調査することは大切なのだ。
◇
「看板……?」
「たしかに、この先危険みたいな看板が置いてあるダンジョンとかもあるけれど……」
ゴブリンダンジョンとか、たしかそんな看板を見た気がする。
もっとも、従来のゴブリンよりは危険というだけであり、油断しなければそれほどのものではないが。
ただ、今回の看板はそういう類のものではない。
「このダンジョンで手に入る力は一時的、限定的なものであり、外部への持ち出しはできません……?」
意味が分からない。
入手した宝箱の中身が、外に持ち出せないということか?
そんな魔法の結界でも張られているのだろうか?
だとしたら、相当魔力の操作に長けている者が、常に魔力を消費し続けていることになる。
まさか、魔王がそんなことをしているのか?
「とりあえず、進んでみましょうか」
「そうだな。これだけでは、まだ何もわからない」
俺たちしかいないため、周囲に尋ねることすらできない。
他のダンジョンは、商魂たくましい者たちが、商店や宿屋を開いているが、ここにはまだそれすらない。
いや、それが当たり前だ。むしろ、あの場で商売を始めていることがおかしいと思うべきだろう。
転生者の発想に他の者たちも影響されて、ダンジョンに店があることが普通という認識になりかけていた。
自分たちで食料も消耗品も装備も用意して挑む。そんなものは、当たり前だろう。
「……長いな」
「もしかして、ハズレかしら?」
「ただの洞窟だったりして……」
その可能性も大いにありうる。
ダンジョンの厄介なところの一つとして、洞窟との見分けがつかない場合もあることだ。
こうして用心しながら進んでも、単に何もない洞窟だったことも少なくない。
反対に、洞窟かと思ったら、罠やモンスターに襲われた者だっている。
だから、たとえただの洞窟に過ぎないとしても、念入りに注意しながら進んで行くべきだ。
それにしても……本当に長い一本道だな。
30分ほど歩き続けただろうか。
そうしてようやく視界の先には扉が見えた。
……扉か。やはり、単なる洞窟ではない。ダンジョンだったというわけだ。
「罠やモンスターに気を付けるぞ」
「ええ」
「歩き疲れて集中力が切れそうだったからね……」
それが狙いだとしたら、わりと危険なダンジョンなのかもしれない。
俺たちは、一息入れてから用心深く扉を開いた。
……そこで、想像していない光景と出くわす。
「宝箱……」
「あ、あれ? もしかして、ダンジョンじゃなくて、誰かが宝を隠している場所だったのかな?」
「いえ、先の方に扉がまだあります。この先にも道が続いているかもしれません」
本当だ。
だけど、一部屋目からこれだけの宝箱とは幸先が良い。
この宝箱自体が罠の可能性もあるので、用心しながらも一つ一つ開いていく。
「わあ……」
「装備……アイテム……」
「それも、かなり質が良いですね。これだけで、私たちが今よりも大きく強化されるほどには」
であれば、ある程度モンスターたち相手でも渡り合えるだろう。
幸いここは安全な部屋のようだし、装備を整えて奥の部屋も目指してみるか。
次も宝箱だらけの部屋なら嬉しいが、扉を開いてそんな虫のいい話は無理かと思いなおす。
中は広い部屋で、何匹かのモンスターがこちらに気付いて攻撃をしかけようとしていた。
だが、このくらいのモンスターであれば、特に問題なく対処できる。
さっき手に入れた装備で強化されているので、なおさらだ。
「コボルトだな。いつも通りいくぞ」
俺の声に従って、仲間たちは協力し、あるいは各個撃破し、コボルトを次々と減らしていく。
順調だ。見た目だけならば順調だ。
だが、実際に戦ってみてすぐにわかった。
――このコボルトたち、確実に普通のコボルトよりも強い。
力や速度や耐久力とか、そういう単純な強さが上というわけではない。
なんというか、上手いのだ。戦い方が。
まるで、幾度も戦闘経験を重ねた歴戦の戦士のようだ。
今は地力で上回っており、なおかつ先ほど強力な装備を手に入れたのでなんとかなっている。
だが、あれがなかったら、もっと苦戦……下手したら逃げることになっていたんじゃないか?
いや、さすがにそれは弱気な考えすぎるか。
考えながらも体は動く。それだけで倒せているあたり、まだこちらにも余裕があるということだが、油断は良くないな。
俺はそのまま気を引き締め直し、コボルトたちを全て倒しきることに注力した。
◇
「なんか、強かったよな……」
「やりにくかったあ……」
怪我人すらない。それだけ順調な戦闘だった。
だけど、明らかにおかしなコボルト相手に、なんだか必要以上に疲れてしまった。
「装備のおかげで、だいぶ楽に倒せたはずですけど、最初の部屋で装備を得ていなかったら、もっと苦戦していましたね」
「ああ、運が良かった」
そして、俺たちの運の良さはまだまだ続くらしい。
コボルトたちを倒した先に、再びいくつかの宝箱が見えたからだ。
中身は、またも装備や消耗品のアイテム。どれもが、最初の部屋の質と比べてもそん色ない。
なんだか、やけに宝箱だらけのダンジョンだな。
敵は妙に強い。
だけど、倒して進んで行くと宝箱もやけに多い。
そうして、自分たちが順調に強化されて、強敵とも渡り合えるようになっていく。
なんだこのダンジョンは……なんだか、楽しいじゃないか。
仲間たちもそう思っているのか、誰もが次の部屋へ行くことをやめようとしない。
奥へ奥へと進んで行く。
だが、その歩みもついに終わりを迎える時が来た。
「……明らかにこれまでと違う。ボスか」
「もしかしたら、初回で踏破できるかもね」
「運が良かったですね。あれだけ大量の宝箱から、装備やアイテムを手に入れられたので」
今の装備品……かなり強力だ。
次々と付け替えていったため、古い装備品はその場に置いたままだが、帰りがてら回収して売れば相当な儲けになる。
消耗アイテム……。惜しみなく使っているせいで、これも直近で手に入れた物だけが残っているが、そこまで不安な量でもない。
いけるか。いってみるか。
俺たちは、意を決してボス部屋の中へと入っていった。
◇
「ボス強っ!!」
「に、逃げられて良かった~……」
装備……壊されたな。
アイテムも撤退の際に全て消費してしまった。
というか、ボスのくせにボス部屋から出てきて入り口まで追いかけてくるなよ……。
おかげで、帰り道で回収しようとした装備品を回収できなかった。
不幸中の幸いは、元々の装備は入り口の宝箱部屋に置いてあったことと、それは誰にもとられずに残っていたことだ。
これがなくなっていたら、大きく赤字だったからな……。
今回は、ダンジョンの様子を知れたが、装備もアイテムも金も手に入っていない。だが、失ったものはここで手に入れたものだけ。
これなら、特に損はしていないし。ボスさえ倒せば大きな実入りを見込める。
「また、挑戦してみるか」
「そうだね。今度は、ボスを倒しちゃおう」
「ただ、宝箱はもうないはずなので、今回持ち運べなかった装備やアイテムを道中で回収しないといけませんね」
たしかに、さすがに宝箱はもう開け尽くしただろう。
道を変えれば、もしかしたら新たな宝箱があるかもしれないが、期待しすぎるのも良くない。
今日回収できなかった装備を身に着けボスを倒し、それらを持ち帰ることで儲けるとするか……。