【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「わりと順調だな」
このダンジョンに訪れた侵入者たちは、今のところほとんどが二度以上来訪している。
つまり、リピーターを確保できているということだ。
やはり、最初の部屋を宝箱だらけにしたのが正解みたいだな。
二度目も宝箱部屋が復活していることを知った者たちは、安定したリピーターになることは間違いない。
「たしかに……このダンジョン限定とはいえ、強力な装備やアイテムで戦えるのは、魅力的ですからね」
「自分たちが強くなったことを実感できるというのは、冒険者にとって喜ばしいことですから」
タイラーたちもそう言ってくれるのなら、俺の考えは間違っていないようだ。
今も侵入者たちは来ているが、見覚えある顔ぶれだからな。
「モンスターたちも、やりがいがありそうだ。ほぼ加減なく戦えるのだからな」
ディキティスの言う通り、ここのモンスターたちは全力で戦える。
というのも、侵入者たちの強さが装備やアイテムで底上げされているからだ。
本来なら、そんな相手にはもっと上の位のモンスターを配置する。
しかし、それでは分不相応な大量の経験値を与えることにもつながる。
なので、低位モンスターである彼らに、本来の実力を発揮してもらうことで難易度調整とした。
「まあ、たまには全力を出せたほうが、みんなも嬉しいだろうからな」
「チラチラと俺を見るなよなぁ……」
みんなも嬉しいだろうからな!
みんなのうちに、俺だって入るんだぞ。
だから、俺だって全力のダンジョンを……。
「駄目ですよ? レイ様」
「駄目かあ」
「お前、プリミラの言うことはよく聞くよなぁ」
「アナンタ以外の忠告は、いよいよやばいってことだから」
「俺の忠告もそれくらいだと思ってくれよぉ……」
いや、そっちのほうは、交渉でなんとかなることもある。
たけど、プリミラとダスカロスは、一度駄目と言ったら、絶対に許してくれない。
どちらのほうが厳しいかは、なかなか難しいところだ。
「宝箱まみれのダンジョン……」
フィオナ様は、黙って侵入者たちの様子を見ていたかと思ったら、ぽつりとつぶやいた。
珍しく真面目に監視しているのかと思ったら、どうやら宝箱まみれの光景に目を奪われていただけらしい。
「……ちょっと、私も挑戦してきましょうか?」
「最速クリアされるだけなのでやめてください」
魔王用のダンジョンではないんですよ。
というか、あの宝箱を開けたとしても、あなたが望むものは出てきません。
宝箱なら、いつでもあなたのために作っているでしょうが。
「ただ、今のところは、真面目にダンジョンを探索していますが、途中でアイテムだけ持ち帰る者もいるのではないでしょうか?」
まあ当然だよな。
利益を考えると、その考えに至ってもなんら不思議ではない。
一応入り口に看板は立てたけど、あれを見てじゃあ持ち帰るのはやめようと思う者なんていないだろう。
あれは、単なる忠告だ。このダンジョンがどういうものか、いずれあの看板の言葉とともに思い出してもらうことにするためのものだ。
「そうそう都合よく、ここで得た装備が破損したり、アイテムを使い切ることもないだろうしなあ。どうすんの? レイくん」
「ちょうど、アイテムだけ持ち帰ろうとしているやつらがいるね。あいつら、焼いておく?」
「いや、大丈夫」
ピルカヤが毎度ルール違反者を焼いてくれるなら、それはそれでありがたいけれど、さすがに彼の仕事を増やす気はない。
それに、そこから四天王の存在を知られたくもない。
なので、それとは別に手は打ってある。
『なにも、馬鹿正直に探索する必要ないよな。こうして毎回アイテムが手に入るなら、それを売るだけで儲けられるんだから』
人間とハーフリングのパーティは、そんなことを話しながら最初の部屋でアイテムを回収している。
その行動は想定内であり、ようやくこちらもテストできるというもの。
『よし、こんなところか。じゃあ撤収するぞ』
『他の冒険者の装備やアイテムも奪えたらよかったんだけどな。最初の頃は、持ちきれないアイテムや装備をその場に置いていたみたいだし』
『どういうわけか、このダンジョンに入る前の所持品だけは、脱出するときに入り口に置かれるからな。あれは、どういう仕組みなんだろうな』
そう。他の冒険者に装備を奪われるのは、ちょっと問題だ。
なので、各侵入者の初期の装備とアイテムだけは、捨てられた時点で回収を命じてある。
そうして回収したアイテムは、そのパーティが外に出る直前に、昆虫人の兵隊たちがこっそりと運び出す。
これで、このダンジョンで全てを失うこともなくなり、リピーターとして期待できるようになるという寸法だ。
『ただ、この長い道だけは嫌になるな』
『まあ、そう言うなって。これが、モンスターや罠が配置されていたら困るが、何もない安全な道なんだから』
男たちは道を進む。
一本道なので、迷うことなくひたすら一直線に歩いていく。
かつて、俺とは別のダンジョンを作っていた転生者たちは、こうして疲労を溜めて、集中力を削いで、罠やモンスターで侵入者を撃退していた。
だが、俺はそれを真似てこの長い道を作ったわけではない。
『よし、出口が見えてきた』
『この道を行き来するだけで、安全に装備品やアイテムを持ち帰れるなら、この程度疲労にすら入らないかもな』
そう言いながら、男たちはアイテムを入れていた大きなリュックを大げさに背負い直す。
きっと、その重さをあえて感じようと思ったのだろう。
その重さこそが、彼らの成果であり、稼いだ金ともいえるのだから。
だが、そこでようやく気が付いたようだ。
『……なあ、なんか軽くないか?』
『お前もそう思うか? 無事帰れたから、体が軽いとかそういうのじゃないよな』
彼らは恐る恐る、背負っていた荷物を下ろして中身を確認し始める。
その結果は……。
『無い! どこにも無いぞ!』
『まさか、穴でも空いて途中で落として……はいないようだな』
違う。落としたんじゃない。
――消えたんだ。
『ど、どういうことだよ!』
それに答えられる者はいない。
そんな彼らは、ちょうど立てかけられている看板の文字が目に映ったようだ。
『このダンジョンで手に入る力は一時的、限定的なものであり、外部への持ち出しはできません……』
『まさか……そういうことなのか?』
彼らもようやく気付いたらしい。
いや、わりとすぐに気付いたと言ったほうがいいか。
存外頭の回転が早いのかもしれないな。
このダンジョンの宝箱は、全て過剰魔力で作ってある。
そのため、一定時間を経過したら消えてなくなる。
当然、宝箱の中身もだ。
残念ながら、消滅までの時間は一定ではないので、罠に流用はできなかったが、今のところ長くても三十分程度ということはわかっている。
つまり、ダンジョンから持ち帰ろうとして、あの入り口の道を通っている間に消えるようになっているのだ。
もちろん、ダンジョン探索中に急に装備が消えることもあるけれど、ちゃんと看板で忠告してあるからな。
追々、そのあたりのルールを理解した者たちが、時間制限付きで強力な装備が手に入るダンジョンだと割り切ってくれることだろう。
大丈夫。
ちゃんと、ボス踏破後の宝箱は普通のものだから。
道中得たものは持ち帰れないというだけだ。
それでも、宝箱のランダム性と、強力な装備を引けて活躍できた時の快感は、得も言われぬものだろう。
だから、今後も楽しんでいってほしい。
限定ダンジョンは、いつでも侵入者を歓迎しているのだから。
「お、恐ろしいものを……レイのほうが、私より魔王っぽくありませんか?」
「フィオナ様、今までで一番怯えていませんか?」
魔王すら怯えるようなダンジョンを作った覚えはないぞ。