【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「でも、装備が消えちゃうと知られたら、リピーターもいなくなっちゃうんじゃないですか?」
いや、そこはたぶん大丈夫。
慣れていくほどに、きっと彼らもわかるだろう。
このダンジョンの良さというものが。
『……道中のモンスターや罠はなんとかなる。だけどボスが倒せない』
『やっぱり、この時間制限がある装備やアイテムがひどいよな……』
『なあ、このダンジョン駄目だろ。ろくな場所じゃないぞ、ここ』
奥居の心配が的中したかのように、口々に文句を言う侵入者の姿を、ピルカヤが映し出す。
ここでいくつかのリピーターは減るだろうな。
『俺もういいわ。こんなことなら別のダンジョンのほうがマシだ』
『だな。俺もここはもう諦める』
奥居は心配そうに俺を見ているが、別に大したことではない。
今はまだ、ふるいにかけている段階というだけだから。
◇
「あれ、レイさん。あの人たちって……」
「前に諦めると言っていた冒険者たちだな」
後日、あの場でダンジョンに見切りをつけた冒険者パーティは、別々のパーティの一員となって、このダンジョンに挑戦していた。
互いに驚いた様子から、仲間には内緒で来ていたらしい。
『お、お前、用事があるからって』
『そういうお前こそ、ここはもう諦めたんじゃなかったのかよ』
『いや、俺はお前らが諦めたみたいだから、誘うと迷惑かと思って……』
ハマったな。
きっと彼らは今後もここに来る。
奥居は、まったく意味がわからないという顔をしているが、それでいいと思う。
なんなら、そちらのほうがよほど健全なのだから。
「や、やはり恐ろしいダンジョンですね……」
「俺じゃなくて、ボスがカジノを経営していても、成功してそうだよなあ……」
ギャンブルに関連している者たちは、なんとなく理解したようだ。
ここの侵入者たちは、真っ当な冒険者として訪れるというよりは、快楽にハマってしまった者ということを。
『やっぱりさあ。あんな強い武器を使った後だと、普通の武器じゃ物足りねえよ』
『それに、何が出るかわからないって、けっこう楽しいよな……』
『このダンジョン、他と違って失敗してもあまり危険じゃないからなあ』
実はこのダンジョンは、ゴブリンダンジョンよりもさらに安全なダンジョンだ。
というのも、完全に踏破されることを前提としている。
ダンジョンを踏破する喜び、強力な武器やアイテムを使う喜び、宝箱を開ける喜び、それらにハマった者たちを、何度も何度も呼び込むことを狙いとしたダンジョンというわけだ。
『ま、まあ、一度くらい踏破しないと、気持ち悪いしな』
『そうそう、踏破したら次のダンジョンに行けばいいんだよ』
きっと彼らは何度も来る。
やり方さえわかれば、比較的簡単にボスを倒せる。
だが、挑戦するたびにダンジョン内で使えるアイテムも装備も異なるため、そのランダム性が彼らを病みつきにする。
次はこの武器で、次はこのアイテムで、そうしてここでの知識を深めれば深めるほど、彼らはこのダンジョンでの喜びを知っていくだろう。
道中のセオリーは? 強い武器は? 引いただけでクリア可能なアイテムは?
それらを知り、実際に試してクリアする。
その手のゲームに一度ハマると、何度も何度も挑戦してしまうのと同じだ。
「リピーター。増えそうだな」
「お前、安全なダンジョンも作れたんだなぁ……」
アナンタが感心するが。俺だって、クリア前提のダンジョンなら、このくらいできるとも。
いつもはあれだ。クリアできそうでできないという、絶妙なバランスが難しくて、ついつい高難易度になっているだけだ。
「この調子で他のダンジョンも」
「あ、それ無理」
「せめて、努力する様子は見せろよぉ!」
見せているじゃないか。
見せたうえで、できていないだけだ。
「全部このダンジョンなら良いのになぁ……」
「そんなことしたら、俺の撃退の勘が鈍る」
「お前……やっぱり魔族だよ」
え、ほんとに? どのあたりが魔族っぽかったんだろう。
できれば、その部分を伸ばしていきたいんだけど。
アナンタは、そこのところどう思う?
「嬉しそうにすんなぁ!」
なぜだ……。
「だが、収支は大丈夫なのか? 宝箱を大量に作って、モンスターも罠もいつも以上に消費しているのだろう? 侵入者の魔力を得ても、マイナスにならないか?」
ダスカロスの言うことももっともだ。
このダンジョン、いつも以上にメンテナンスに魔力を費やすからな。
だが、それは追々なんとかできると思う。
「安定してきたら、店を作って一般の魔力回復薬を売る」
プリミラ産のものでは、回復しすぎるから駄目だ。
なので、フィオナ様のガシャのハズレや、なんならハーフリングの国から仕入れて、ここで売る。
「……もしかして、宝箱に魔力を注がせるためのものか」
さすが、話が早くて助かる。
「ああ、それでさらにレアな装備を出るようにすれば、ハマる者はどんどん増えるし、店の売り上げは伸びていく」
「だが、資金を得ても魔力に変換することは、難しいのではないか?」
「その資金で魔力の実の種子を購入して、昆虫人の巣で大規模な栽培をする」
あれだけ広い昆虫人の巣。
有効活用しないともったいないからな。
ただ、さすがに今所持している魔力の実の種子では、不足している。
なので、金を稼いで外から買おうという算段だ。
「そして、私のガシャに使用するということですね!」
「まあ……大量に得られるのなら、それもいいですけど」
それでも、一回につき百本飲まないといけませんよ?
きっと、そのときになって、泣きながら諦めるんだろうなあ。
「さすがは私の宰相! 私のことをしっかりと、考えてくれています!」
抱きつかないでください。
そんな現金な魔王様、他の者たちに示しがつかないでしょうが。
「これが私の宰相ですよ~」
周りの者たちに自慢しないでください。
さては、お気に入りのおもちゃとかぬいぐるみ扱いですね。
まあ、今のところ順調そうだ。
狙い通りに進めば、魔力回復薬をもっと量産できる。
それを二本ほど飲めば、一度の探索の準備に必要な魔力は補える。
そこに熱量変換によるダンジョン魔力の増加も考えると、収支はプラスとなるだろう。
そうすれば、俺がダンジョンの改築に使える魔力も増えるということだし、頑張るとするか。
「一日三回くらい引いちゃいますか!」
皮算用していますが、それだと回復薬を二百本か三百本飲むことになります。
無理でしょう。さすがに。
◇
「ほほう、面白いダンジョンとは聞いたが。入り口ではなく内部が面白いとは思わなかった」
ロペスのやつには悪いが、今日は欲望のダンジョンではなく、噂が広まっている新たなダンジョンに赴いている。
新たな脅威の調査という名目であれば、サンセライオの部下たちを説得しやすいからな。
「さて、欲望のダンジョンは、入り口で商売をする者たちが繁盛させたダンジョンだったが……。ここは」
「いらっしゃいませ」
なるほど、昆虫人。
それも知性を感じるので、兵隊ではないな。
またも迫害種たちか、たくましいものだと感心もする。
ダンジョンでの商売は、現地で必要物資を得られることから、販売している種族がどうであれ利用者は多い。
ロペスという転生者ならではの観点が、それに気付いたからだろう。
一度その認識が広まったためか、似たような商売をする者も少なくない。
こたびの昆虫人たちもそのうちの一人であろうな。
「売り物は……」
回復薬。いや、魔力回復薬だけ?
さすがに、商品がこれだけというのは、どうにも品揃えが悪い。
「他の物は売らないのか?」
「ええ。このダンジョンでは、これ以外を売る意味はないので」
どういう意味だ? いや、良い。
聞かずに自ら体験するのが良いだろう。
……くっ! 体験したい!
だが、王である俺がダンジョンに単身で挑むのは、さすがにかつてないほど叱られるだろう。
「お~い。回復薬これだけくれ」
「ご利用ありがとうございます」
悩んでいるうちに、冒険者たちが店に来たようだ。
……なんの疑問もなく、回復薬を大量に購入しているな。
「すまんが、少し聞かせてくれるか?」
「ん? あんたどこかで見たような……。まあいいや。何が聞きたいんだ?」
「なぜ、そんなに魔力回復薬を買っている。見たところ、魔法職はいないようだが」
男は、ああこれかと笑ってから説明してくれた。
……な、なんということだ。
ダンジョンの最初の部屋が、確定で宝箱部屋だと!?
それに備えて、魔力を注ぐためにここで大量の回復薬を買っていると……。
そこで得たアイテムや装備は三十分ほどで消えるが、その力で思う存分探索できる……?
た、楽しそうではないか!
なるほど、誰が言ったか喜びのダンジョンなどと呼ばれるのは、それが理由か。
欲望のダンジョン、喜びのダンジョン、なんとも魅力的なダンジョンが増えていくものだ。
……挑戦したい! す、少しくらいなら……いや、叱られるか。
鳳姉弟を連れて行く? いや、いっそのこと、宝箱ガシャ仲間に頼るべきか!
彼女であれば、俺のこの気持ちも理解してくれよう。
「よし、行くか。テイラン」