【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「呆れた……それで、アタシにわざわざ会いに来たの?」
「うむ。勇者が共に行動するのであれば、俺の部下たちも安心しよう」
いや、それでわざわざこの国に来るなんて、王様絶対別の理由で怒られるでしょ。
まあ、王様なら頑丈だし問題ないんでしょうけど、この国に意味なく出入りするなんて、命知らずよねえ……。
「テンユウ様!」
「あなたはあなたで、元気いいわねえ……」
レンシャが目を輝かせて名前を呼ぶ。
真面目で堅物だったあなたは、どこに消えたのかしら……。
ええ、そうでしょうね。王様がこうして無茶するほどですもの。
宝箱大好きなあなたも、当然そういう反応するでしょうね。
「レンシャ、最悪の場合俺たち二人で行動するぞ」
「ええ、今は互いの国など忘れて、喜びのダンジョンへ挑むとしましょう」
待て待て待て。待ちなさい。馬鹿二人。
放っておいたら、本当に二人でダンジョンに挑む気しかしないわ。
欲望に喜びに、心に関した名が付けられたダンジョンって、この二人をおかしくする力でもあるのかしら?
「はあ……スイリョウ、レイライ。支度なさい」
「同行されるのですか?」
レイライが、表情を変えずに聞いてくる。
まあ、この子が一番冷静な判断ができるからね。
王様とレンシャについていくとは思っていなかったんでしょう。
だけど、甘いわよ。レイライ。
「ここでアタシたちが同行しなかったら、この二人のことだから二人だけでも、そのダンジョンに向かうわよ」
「おお、よくわかったじゃないか。さすがは勇者だ」
「テンユウ様は、頭の良いお方ですからね」
うるさいわよ! 馬鹿二人!
頭が良いくせに馬鹿って、どういうことなの!?
「はあ……。仕方ないわよ。新たなダンジョンの調査も勇者の仕事だし」
「うむ。魔王軍の力を削ぐのも、勇者の重要な役割だ」
「ええ。ですから、テンユウ様ならご同行していただけると信じていました」
このっ……!
こういうところを計算づくで誘ってくるからたちが悪い。
ほらね。馬鹿なのに、頭が良い。この二人が馬鹿になるのは、宝箱の前だけってことよ。
……つまり、喜びのダンジョンでも馬鹿になるってことね。
なんか、今から気が重いわあ……。
レイライはアタシの言葉に納得したのか、旅支度を始めている。
ただ、スイリョウは納得いかなそうな顔をしているわね。
まあ、あなたの気持ちもわかるけど、ここで二人を放っておいた方が面倒なのよ。
悪いけど……。
「そのダンジョン、温泉はないんですよね?」
「ああ、施設はせいぜい商店くらいだったぞ」
「では、私はお留守番を……」
前言撤回。あなたの気持ちぜんっぜんわかんないわ。
いや、温泉に行きたいだけってことはわかるけど、同意できないからね!?
レイライ。助けて~。アタシの従者たちが、なんかおかしくなってる~。
まともなのはあんただけよ~。レイラ~イ。
◇
「まったく……一国の王と勇者とその従者だからね!?」
「はっはっは。そのような肩書は、ダンジョンの前では捨ておくべきだ」
捨てないけど!?
こいつ、王である肩書捨ててカジノに通ってんの!?
レンシャを見ると、目をそらされた。
あんた……。
「ええと、まずは商店……なにこれ?」
やけに品物が多いと思ったのに、品ぞろえが悪い。
悪いというか、魔力回復薬しか売っていないじゃない。
え……装備とまでは言わないけれど、他の消耗品のアイテムは?
「よし、行くぞ!」
待て馬鹿!
説明をなさい! 行くのはもうわかったから、せめて説明をなさい!
レンシャはレンシャで、なんで迷いなくついていってるのよ。
あんた、アタシの従者であって、リズワンの部下じゃないでしょう!?
そうして仕方なくついていくと、なんかやけに長い道が……。
周囲の壁を見ても、別に特殊な魔法がほどこされているわけではない。
罠もないし、モンスターがいるわけでもない。
本当にただの道ね。代わり映えの無い景色は、こちらを油断させ、集中力を削ぐためかしら?
「ここだ!」
馬鹿の声に前を見ると、洞窟にはそぐわない扉が見える。
なるほどね……。たしかに、これはダンジョンだわ。
誰かが洞窟にこしらえた扉とも違うし、形状はかつて何度も見てきたパターンの一つだもの。
となると、入り口に有った看板も、魔王軍のしわざかしら。
ただ、書いてある言葉の意味はわからなかったけど……。
ここからが本番ってわけ。
気持ちを切り替えて戦いに備えると、馬鹿は何の躊躇もなく扉を開く。
……まあいいけど。もう少し慎重になさいな。
「こ、これは!?」
扉の中の光景に、うちの馬鹿まで騒ぎ出す。
なるほどねえ。たしかに、この二人が好きそうな光景よねえ。
部屋の中には宝箱が十個ほどかしら?
もう、これだけ持って帰るわけには……。いえ、入り口の看板の意味ってそういうことかしら?
もしかして、ここで得た宝って、外に持ち出せないようになっている?
でも、それなら馬鹿たちが喜んで挑むのも、なんだかおかしいわよね。
冷静に考えていると、馬鹿は入り口で購入していた魔力回復薬を手に取った。
あら? 魔力なんて、まったく消耗していないはずじゃない。
もしかして、ここからモンスターでも出てくるのかしら?
「レンシャ。いつもと同じだ」
「なるほど!」
なるほどじゃないわよ。説明しろ。
アタシたちを置いてけぼりにしながら、二人は宝箱に魔力を注ぐ。
……ああ、そういう話? たしかに、この場所は安全そうだし、無防備に宝箱に魔力を注いでも問題ないみたいね。
二人は、質を向上させるために、全力で魔力を注ぎ続けている。
なるほどねえ。それで、魔力回復薬ってわけ。
「はあ……。とりあえず、真似ておきましょ」
「それがいい。安心しろ。ちゃんとお前たちの分の魔力回復薬も買ってある」
「それはどうも」
そうして開けた宝箱からは、なんとも上等なアイテムや装備が出てきた。
……さすがに、アタシの装備ほどではないけれど、これ十分すぎるほどに強力よね。
わかってきたわ。ここで、装備を整える。そして本来以上の力を発揮して、ダンジョンを攻略する。
それが、ここの攻略法ってことね。
「よし、行くぞ!」
あの馬鹿、いつもの禍々しい剣を持っていないと思ったら、ここで得た装備で奥に進むつもりだったみたいねえ。
初挑戦とは聞いていたけれど、事前に情報収集は済ませていたようね。
そのうえで言いたいんだけど、絶対に話を聞いていたら挑みたくなっただけでしょ。
あんたたちこういうの好きそうだもんねえ……。
「なるほど……こうして、様々な装備やアイテムを惜しみなく使えると」
レイライ。感心しなくて良いわよ。
こいつら馬鹿なんだから。
◇
……なんか、強くない?
いえ、苦戦するとかそういうことは無いんだけど、ここのモンスターたち普通よりも強いわよね?
変なダンジョンねえ。入り口以外にも大量の宝箱があることといい、おかしなモンスターといい、魔王軍何考えてんの?
それとも……魔王軍じゃないってこと?
オルナスも言っていたわね。魔王軍ではなく、転生者がアルマセグシアにダンジョンを作ったって。
入り口に備えられた昆虫人の店といい、強いわりにこちらに致命的な攻撃をしてこないモンスターといい、まるで仕組まれている。
何をしたいかわからないけれど、ここはダンジョンじゃないのかもしれない。
転生者たちが、まるでアタシたちを楽しませようとしている。そんな戦闘と探索の施設みたいね……。
だから、ボスも当然と言えば当然だけど、あっさりと倒した。
まあ当然よね。これだけ強力な装備やアイテムを使えるし、そもそも王と勇者と従者という、強者のみで挑んでいるんだから。
「はあ、満足したなら帰るわよ。道中で消えたアイテムみたいに、どうせ得られるものなんてないんだから」
あえて言うのなら、戦闘の経験くらいかしら?
強力な武器で敵を倒す経験は、そう悪いものじゃないからね。
となると……もしかして、人類を鍛えようという考えでもあって、このダンジョンらしきものを作った?
いえ……それにしては、敵がお粗末かしら。確かに強いけれど、ここで得た経験で魔王軍と戦えと言われると、さすがにそれは無理。
であれば、最低限戦える人材を作るため? 下地作りができたら、あとはそこから育つことを期待されているのかしら?
「……」
「まあ気持ちはわかるわよレイライ」
レイライだけは、無言のまま止まっている。
まあそうよね。この子、こんなくだらないことに付き合わされてかわいそうよ。
まったく、次からはリズワンとレンシャだけで。
「もう一回やってみません?」
「……レ、レイライ?」
「いえ、リズワン王が言うには、宝箱の中身は毎回ランダムと」
「うむ、その通りだ!」
「であれば、様々なアイテムや装備を試せる、素晴らしいダンジョンではないでしょうか?」
……この子も、ダンジョンに魅せられた。
ア、アタシの従者が、全員何かにハマっちゃったんだけど!?