【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

447 / 522
第447話 塗り替えられることのない記録

「というわけで、喜びのダンジョンがすっごく面白いのよ!」

 

「お、おう……」

 

 知ってる。というか俺も見ていた。

 そこにいるリズワン王どころか、テイランの勇者テンユウを連れてたもんな。あんた。

 

「ただ、埋まっちゃっているせいで回収できない宝箱とかもあるのよねえ……」

 

「やはり、従来のダンジョンと異なり、宝箱が生成されやすいのではないか?」

 

「そうね。そうでもないと、あれだけ大量にできないでしょうし」

 

「その結果、おかしな場所に生成されることもあるのだろうな。俺たちが回収できないようなものも含めだ」

 

 いつもは、まだ多少は理性が残っているレンシャの姐さんが、こうしてわざわざ俺にそんな話をしてくる。

 よほど、ボスが作ったダンジョンが楽しかったんだろうなあ……。

 

「だが、あれは良いものだ。俺の国の兵たちも、あそこで戦闘訓練をさせてやりたいほどにはな」

 

「いや、それは駄目でしょ」

 

 まあ、ボスが言うには、本来は弱いモンスターを配置しているらしいからな。

 経験値稼ぎには向いていないということみたいだ。

 

「あのダンジョン、強力な武器での戦い方に慣れてしまうから、あそこで鍛え続けると実戦では、自分の実力の認識にずれが生じるわ」

 

 ……なるほど。

 下駄をはかせてもらって戦えるってわけかい。

 そして、それに慣れてしまうと、いざ魔王軍と戦うとなったときに、致命的な隙になると……。

 相変わらず、えげつなく恐ろしいこと考えるねえ。うちのボスは。

 

「うむ。そう割り切れない者にとっては、あのダンジョンは劇薬だ。残念ながら、俺の国の兵たちもそうわかっている者は、多くはないな」

 

 こういうところが、この王様や姐さんの怖いところだよな。

 普段はカジノで金を失っているだけの、男女にしか見えないのだが、国が絡むと真面目に優秀になる。

 ……なんか、そういうところもうちのビッグボスに似ている。

 この世界の優秀な為政者って、ギャンブルにハマるのが前提条件だったりするのかねえ……。

 

「だが、それで言うと、お前のところのレイライはどうなのだ? 俺やお前以上に、喜びのダンジョンにハマっていたようだが」

 

「あの子はねえ……。まあ、装備やアイテムを実際に使ってみるのが好きだから。でも、あそこにハマって勘が鈍るほど愚かじゃないわ」

 

 ボスのダンジョン。また一人テイランの人間をのめり込ませたらしい。

 テイランだけでなく、あのダンジョンも随分と盛況らしいし、収支はだいぶ黒字になっているようだ。

 

「ということは、うちの店に二人が来る機会も減るのかねえ」

 

「いや! 俺は欲望を裏切らん!」

 

「それとこれとは話が別よ。だいたい、喜びのダンジョンでは、手元に残らないもの。私としては、あなたのカジノのほうが好きね」

 

 まあ、俺としてはどっちも地底魔界の客になるし、どちらにハマってもよかったんだけどな。

 だが、王様も姐さんも、俺に言い訳するかのように、あちらのダンジョンを否定した。

 

 二人の言うことも理解できる。

 あちらは宝箱の中身は手元に残らない。得られるのは、せいぜいクリア後の報酬だけだ。

 どちらかというと、あのダンジョンでの体験を楽しむために行くもの。

 対してこちらは、楽しい体験というよりは、アイテムを得るためのもの。

 存外、住み分けができているのかもしれねえな。

 

 その体験自身が喜びであるあちら。欲望のままに戦利品を狙うこちら。

 人類の感情に付け込んだそれらは、プリミラの姐御じゃねえけど、悪魔が作っているかのようだった。

 

    ◇

 

「ということで、ボスの試みはサンセライオにもテイランにも、好評らしいぜ」

 

「サンセライオとテイランというか、リズワンとテンユウの従者だけだろうけどな」

 

 ロペスが、世間話がてらそんな評判を聞いてきてくれた。

 ギャンブル好きにはそれなりに人気があるらしく、なんか勝手に喜びのダンジョンと名付けられた場所は、今日も楽しみに来ている侵入者が多い。

 

 侵入者が絶え間なく訪れて、メンテナンスさえできないこともあるくらいだ。

 まあ、そのときは精度最悪とはいえ遠隔で宝箱だけでも作るけどな。

 座標がずれていようが、入手不可能な埋もれた宝箱ができようが、適度に侵入者が開けられるならなんでもいい。

 

「リピーターがだいぶ多いから、そこは今までと違うところか」

 

「なんでも、いろんな装備で楽しめるとかで、レイライっていうテイランの姐さんが、どっぷりはまってるみたいだな」

 

「ああ。なんか、毎日来てる」

 

 しかも、毎日クリアしているんだ。その女性。

 ときには、その場でパーティを組んで、あるいはパーティに参加させてもらって、さらには単独で攻略するときもある。

 随分と、うちのダンジョンを楽しんでくれるものだ。そして、随分と熟知している。

 

 だが、それをどうこうするつもりはない。

 かつて獣人ダンジョンで、ルフという獣人が毎回訪れてはクリアしてしまっていたので、リピアネムに倒してもらった。

 だが、あの時と違って、今はクリアされて報酬を渡すことも、ダンジョンのメンテナンスをすることも、特に問題ないからな。

 マギレマさんをはじめとした様々な施設の管理者のおかげで、ダンジョン魔力がそれほど増えたのだから。

 

 だから、レイライという女性も、クリアしたければすればいい。

 下手にリピアネムを出撃させて返り討ちになんかしない。

 そうすることで、テンユウに疑念を抱かせるほうが、今の俺たちにとっては問題なのだから。

 

「ちなみに、そのレイライという女性。あっちのダンジョンでは有名になってきているぞ」

 

「へえ、そうなのか。それはやっぱり、何度もクリアしているからかい?」

 

「それもなんだけど。彼女についていけば、クリアできるということで、引く手数多になっている」

 

「なるほどなあ。強者に助けてもらって、ダンジョンをクリアするってことか」

 

 そうしてやり方を覚えて、次はそいつらが新たな初心者を助ける。

 なんとも、おかしなルールができつつある。

 こちらとしては、むしろ歓迎すべきことだけどな。

 

 ただ、そうなってくると心配が一つ……。

 

「あまりにもクリアばかり続くと、飽きられそうなのが不安か?」

 

「ボス……アナンタの旦那がかわいそうだから、あまり無茶しないでやってくれよ?」

 

「大丈夫。さすがに、ダンジョンそのものを大きく変えるつもりはないから」

 

 というよりも、道中はそのままにしておいていいだろう。

 達成感、あるいは新たな刺激が必要だと俺は考えている。

 要するに、新しいボスでも用意してやれば、それだけでまた一風変わった体験を彼らに与えられるだろう。

 

「よし、ボス用のモンスターを考えよう」

 

 倒されても経験値にならないモンスター。

 それでいて、ある程度以上の戦いがいがある、本来以上の実力を持つモンスターをピックアップしなければ。

 

 ……並んでも駄目だぞ。

 ソウルイーターはもちろんだが、超位モンスターのお前たちなんて、毎回倒されたら侵入者をどんどん強くしてしまうでしょうが。

 

「ならば、俺がダークヒーローとして、人類を迎え撃つか!?」

 

「いや、倒されて死ぬこと前提なんだよ。人間のお前には無理だから、諦めてくれ」

 

「なに!? ……エピクレシ様に頼んで、俺もアンデッド化してもらうべきか?」

 

 改造ヒーローか……。悪くないが、あちらはあちらで俺のモンスターほど手軽な復活ではないはずだ。

 であれば、やはりこの話は承諾できそうにないな。

 

「……」

 

「どうした? タケミ。まさか、お前までダンジョンのボスに立候補するんじゃねえだろうな?」

 

「いや、むしろ侵入者側として試すのが、ちょっと楽しそうかなあって」

 

「テスターしてみるか?」

 

「えっと……いいですか? それじゃあ、他の侵入者がいない間、少しだけ」

 

 風間ですら、興味を持つほどか。

 やはり、強力な装備やアイテムがランダムで入手できるというのは、ある種の中毒性があるのかもしれない。

 

「ならば私も!」

 

「お前は駄目だ」

 

「な、なぜだ……」

 

 リピアネムに対処できるダンジョンなんて、ボスとしてフィオナ様を配置するくらいしかないだろうが。

 というか、お前の場合装備も自前のものだから、このダンジョンを楽しめないと思うぞ。

 そう思っていたのだが、元気なく尻尾が下がっているリピアネムを見ると、どうにも甘くなってしまう。

 

「仕方ない……一回だけな」

 

「うむ!」

 

 その後、リピアネムは最速でダンジョンをクリアした。

 この記録は、きっと今後も破られることは無いだろう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。