【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「というわけで、喜びのダンジョンがすっごく面白いのよ!」
「お、おう……」
知ってる。というか俺も見ていた。
そこにいるリズワン王どころか、テイランの勇者テンユウを連れてたもんな。あんた。
「ただ、埋まっちゃっているせいで回収できない宝箱とかもあるのよねえ……」
「やはり、従来のダンジョンと異なり、宝箱が生成されやすいのではないか?」
「そうね。そうでもないと、あれだけ大量にできないでしょうし」
「その結果、おかしな場所に生成されることもあるのだろうな。俺たちが回収できないようなものも含めだ」
いつもは、まだ多少は理性が残っているレンシャの姐さんが、こうしてわざわざ俺にそんな話をしてくる。
よほど、ボスが作ったダンジョンが楽しかったんだろうなあ……。
「だが、あれは良いものだ。俺の国の兵たちも、あそこで戦闘訓練をさせてやりたいほどにはな」
「いや、それは駄目でしょ」
まあ、ボスが言うには、本来は弱いモンスターを配置しているらしいからな。
経験値稼ぎには向いていないということみたいだ。
「あのダンジョン、強力な武器での戦い方に慣れてしまうから、あそこで鍛え続けると実戦では、自分の実力の認識にずれが生じるわ」
……なるほど。
下駄をはかせてもらって戦えるってわけかい。
そして、それに慣れてしまうと、いざ魔王軍と戦うとなったときに、致命的な隙になると……。
相変わらず、えげつなく恐ろしいこと考えるねえ。うちのボスは。
「うむ。そう割り切れない者にとっては、あのダンジョンは劇薬だ。残念ながら、俺の国の兵たちもそうわかっている者は、多くはないな」
こういうところが、この王様や姐さんの怖いところだよな。
普段はカジノで金を失っているだけの、男女にしか見えないのだが、国が絡むと真面目に優秀になる。
……なんか、そういうところもうちのビッグボスに似ている。
この世界の優秀な為政者って、ギャンブルにハマるのが前提条件だったりするのかねえ……。
「だが、それで言うと、お前のところのレイライはどうなのだ? 俺やお前以上に、喜びのダンジョンにハマっていたようだが」
「あの子はねえ……。まあ、装備やアイテムを実際に使ってみるのが好きだから。でも、あそこにハマって勘が鈍るほど愚かじゃないわ」
ボスのダンジョン。また一人テイランの人間をのめり込ませたらしい。
テイランだけでなく、あのダンジョンも随分と盛況らしいし、収支はだいぶ黒字になっているようだ。
「ということは、うちの店に二人が来る機会も減るのかねえ」
「いや! 俺は欲望を裏切らん!」
「それとこれとは話が別よ。だいたい、喜びのダンジョンでは、手元に残らないもの。私としては、あなたのカジノのほうが好きね」
まあ、俺としてはどっちも地底魔界の客になるし、どちらにハマってもよかったんだけどな。
だが、王様も姐さんも、俺に言い訳するかのように、あちらのダンジョンを否定した。
二人の言うことも理解できる。
あちらは宝箱の中身は手元に残らない。得られるのは、せいぜいクリア後の報酬だけだ。
どちらかというと、あのダンジョンでの体験を楽しむために行くもの。
対してこちらは、楽しい体験というよりは、アイテムを得るためのもの。
存外、住み分けができているのかもしれねえな。
その体験自身が喜びであるあちら。欲望のままに戦利品を狙うこちら。
人類の感情に付け込んだそれらは、プリミラの姐御じゃねえけど、悪魔が作っているかのようだった。
◇
「ということで、ボスの試みはサンセライオにもテイランにも、好評らしいぜ」
「サンセライオとテイランというか、リズワンとテンユウの従者だけだろうけどな」
ロペスが、世間話がてらそんな評判を聞いてきてくれた。
ギャンブル好きにはそれなりに人気があるらしく、なんか勝手に喜びのダンジョンと名付けられた場所は、今日も楽しみに来ている侵入者が多い。
侵入者が絶え間なく訪れて、メンテナンスさえできないこともあるくらいだ。
まあ、そのときは精度最悪とはいえ遠隔で宝箱だけでも作るけどな。
座標がずれていようが、入手不可能な埋もれた宝箱ができようが、適度に侵入者が開けられるならなんでもいい。
「リピーターがだいぶ多いから、そこは今までと違うところか」
「なんでも、いろんな装備で楽しめるとかで、レイライっていうテイランの姐さんが、どっぷりはまってるみたいだな」
「ああ。なんか、毎日来てる」
しかも、毎日クリアしているんだ。その女性。
ときには、その場でパーティを組んで、あるいはパーティに参加させてもらって、さらには単独で攻略するときもある。
随分と、うちのダンジョンを楽しんでくれるものだ。そして、随分と熟知している。
だが、それをどうこうするつもりはない。
かつて獣人ダンジョンで、ルフという獣人が毎回訪れてはクリアしてしまっていたので、リピアネムに倒してもらった。
だが、あの時と違って、今はクリアされて報酬を渡すことも、ダンジョンのメンテナンスをすることも、特に問題ないからな。
マギレマさんをはじめとした様々な施設の管理者のおかげで、ダンジョン魔力がそれほど増えたのだから。
だから、レイライという女性も、クリアしたければすればいい。
下手にリピアネムを出撃させて返り討ちになんかしない。
そうすることで、テンユウに疑念を抱かせるほうが、今の俺たちにとっては問題なのだから。
「ちなみに、そのレイライという女性。あっちのダンジョンでは有名になってきているぞ」
「へえ、そうなのか。それはやっぱり、何度もクリアしているからかい?」
「それもなんだけど。彼女についていけば、クリアできるということで、引く手数多になっている」
「なるほどなあ。強者に助けてもらって、ダンジョンをクリアするってことか」
そうしてやり方を覚えて、次はそいつらが新たな初心者を助ける。
なんとも、おかしなルールができつつある。
こちらとしては、むしろ歓迎すべきことだけどな。
ただ、そうなってくると心配が一つ……。
「あまりにもクリアばかり続くと、飽きられそうなのが不安か?」
「ボス……アナンタの旦那がかわいそうだから、あまり無茶しないでやってくれよ?」
「大丈夫。さすがに、ダンジョンそのものを大きく変えるつもりはないから」
というよりも、道中はそのままにしておいていいだろう。
達成感、あるいは新たな刺激が必要だと俺は考えている。
要するに、新しいボスでも用意してやれば、それだけでまた一風変わった体験を彼らに与えられるだろう。
「よし、ボス用のモンスターを考えよう」
倒されても経験値にならないモンスター。
それでいて、ある程度以上の戦いがいがある、本来以上の実力を持つモンスターをピックアップしなければ。
……並んでも駄目だぞ。
ソウルイーターはもちろんだが、超位モンスターのお前たちなんて、毎回倒されたら侵入者をどんどん強くしてしまうでしょうが。
「ならば、俺がダークヒーローとして、人類を迎え撃つか!?」
「いや、倒されて死ぬこと前提なんだよ。人間のお前には無理だから、諦めてくれ」
「なに!? ……エピクレシ様に頼んで、俺もアンデッド化してもらうべきか?」
改造ヒーローか……。悪くないが、あちらはあちらで俺のモンスターほど手軽な復活ではないはずだ。
であれば、やはりこの話は承諾できそうにないな。
「……」
「どうした? タケミ。まさか、お前までダンジョンのボスに立候補するんじゃねえだろうな?」
「いや、むしろ侵入者側として試すのが、ちょっと楽しそうかなあって」
「テスターしてみるか?」
「えっと……いいですか? それじゃあ、他の侵入者がいない間、少しだけ」
風間ですら、興味を持つほどか。
やはり、強力な装備やアイテムがランダムで入手できるというのは、ある種の中毒性があるのかもしれない。
「ならば私も!」
「お前は駄目だ」
「な、なぜだ……」
リピアネムに対処できるダンジョンなんて、ボスとしてフィオナ様を配置するくらいしかないだろうが。
というか、お前の場合装備も自前のものだから、このダンジョンを楽しめないと思うぞ。
そう思っていたのだが、元気なく尻尾が下がっているリピアネムを見ると、どうにも甘くなってしまう。
「仕方ない……一回だけな」
「うむ!」
その後、リピアネムは最速でダンジョンをクリアした。
この記録は、きっと今後も破られることは無いだろう。