【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「ふむ、肉体を鍛える手段がそれほど多いと」
「ああ。気になるのなら、レイ殿に利用許可を申請するが良い」
……あれは、ナルカミとリピアネムの姐御?
ああしてとりとめもない会話をする程度には、仲が良いのか?
そういえば、ボスがこの二人は、少し似ていると言っていたっけ。
「よう。二人して何の話だい?」
隠れて聞く趣味はないので、そのまま二人に声をかける。
鍛えるとか言っていたな。ボスが作ったジムもどきか?
あそこ、いまだに従業員が誰かしらいる程度には盛況だからな。
トキトウとか、すぐ倒れるくせに毎日通っているし。
まあ、この二人ならあそこで肉体を鍛えていても不思議じゃないか。
ナルカミのやつも、ここに馴染んできたようで何よりだ。
「ロペスか。なに、リピアネム様が喜びのダンジョンに挑んだと聞いてな」
「うむ。なかなか有意義な時間だった」
……そっちかあ。
コンセプト無視して破壊し続ける姿は、破壊竜だったってボスが言ってたなあ。
まあ、リピアネムの姐御なら、アイテムどころか装備がなくともクリアしそうだ。
「……もしかして、ナルカミも挑むって話してたのか?」
「興味はある!」
持つな。ろくな興味じゃないぞ、それ。
う~ん……。まあ、こいつならわりと攻略できそうか。
あのダンジョン、低位モンスターと中位モンスターで構成されているしな。
超位モンスターとも渡り合えるこいつなら、装備で底上げされたら簡単に踏破しそうだ。
「なら……問題ないのか?」
そんな独り言をナルカミはしっかりと聞いていたらしい。
なんか、どこかへ走り去ろうとしているな。
わかるぞ。お前、リピアネムの姐御と同じく暴走するタイプだからな。
「まあ、待て。止まれ。お前、どこに走っていこうとしたんだ」
「ロペスからお墨付きが出たと宰相様に伝えに!」
「俺を口実にしないでくれよ……」
ほら見ろ。俺の責任になるところだった。
いや、挑戦するのは自由だけどな。
タケミも興味を持っていたが、あちらはさすがに心配なので止めた。
だが、こいつはなんかもう放っておいてもいいや。
「まあ、ボスに迷惑だけはかけないようにな」
「無論だ! ヒーローからダークヒーローになったとはいえ、悪になったつもりはない!」
うち、世間一般では悪の組織なんだが……。
いや、所属している俺にとっては、こっちのほうが外よりよほど良いってことはわかっているけどな。
まあ、そんな平和な悪の組織だし、ボスもナルカミのダンジョンチャレンジには、許可を出してくれることだろう。
◇
「ロペスが良いって言っていた!」
「言ってねえから!?」
「まあ、別に良いけど」
なんか、鳴神がすごい勢いで走ってきた。
片手にはロペスを抱えているので、きっとロペスは巻き込まれたのだろう。
そして、なぜかいるリピアネム。
……興奮してすぐ走る犬が二匹。それに振り回される飼い主が一人。そんな光景を幻視した。
「モンスターは復活できるから、本気で倒して問題ない」
「手を抜かず全力で挑もう!」
「ただ、お前は死んだら復活が面倒だから、モンスターたちは殺しまではしない」
「むむ……相手にのみ加減をさせるのは、対等とは言い難い。よし! 俺もとどめはささん!」
「まあ、そこは好きにしてもらって」
あとは普通にダンジョンを探索してもらえばいい。
宝箱に魔力を注ぐ注がないは、各自の自由だし、適当に楽しんでもらうとしよう。
「じゃあ、準備ができたら行ってくれ。幸い、今は侵入者がいない時間帯だ」
まだ早朝だからな。こちらに向かっている最中か、準備を整えているのだろう。
……そんな朝早くから、元気だなあ。こいつら。
◇
「さて、鳴神相手にどこまでできるか、モンスターたちの活躍を見させてもらうか」
「あの、レイさん」
どうせ今はやることもない。
そんな風に観戦感覚で視界を共有してもらうと、風間から声をかけられる。
……駄目だぞ。お前にはまだ早い。ってダスカロスが言っていた。
ここで許可を出したら、後で怒られるの俺なんだから。
「僕も観戦していいですか?」
「あ、そっちか。別に構わないぞ」
ピルカヤに頼んで、風間にも視界の共有をしてもらう。
同じ転生者である鳴神が、どのようにダンジョンに挑むか気になるのかもしれない。
いずれ風間自身も、ここに挑むのであればなおさらだ。
「まあ、参考にはならないと思うが」
「いえ、何事も勉強になりますから」
真面目だなあ。
さて、鳴神のやつは……。
『なに!? 宝箱だと! これを持ち帰ると、横領になるのではないか!? ……くっ、ここはこの身一つで!』
宝箱、全部無視された。
おい。自由とは言ったが、お前やっぱりリピアネム系じゃないか。
そもそも、横領にならない。さては、ここのコンセプトよくわからずに挑んでいるな?
『うおぉ!! 仲間とはいえ、全力で挑ませてもらうぞ!』
そんで、相変わらず炎や雷をまとった攻撃は強力だな。
だが、トキシックスライムの攻撃が、刺さるのも相変わらずだ。
『くっ! 毒か! ……血を派手にまき散らせば、体内の毒も消えるか?』
いや、たぶん動けなくなるから。
自傷行為すんな。馬鹿。
トキシックスライムやコボルトたちが、どうすればいいかわからず困ってるだろうが。
『カペラフォルム!』
貧血気味になって動けなくなったのか、防御を固めた。
トキシックスライムだけが、延々と毒を噴出し続けている。
コボルトにいたっては、このまま倒れられると困ると思ったのか、回復薬を持ってきているな。
『う、動けん……。すまないコボルト。降参するから、その回復薬を使わせてくれ……』
相変わらず、搦手に弱いなあ。
ということは、精神操作系にも弱いということだし、敵に回らないように気を付けてもらおう。
まあ、そのときはイピレティスあたりが、喜んで制圧してくれるだろうけど。
「ず、ずいぶんとピーキーな性能なんですね。鳴神って」
「搦手にとにかく弱い。前は星崎がいたから、その耐性もあったけど、今は前より状態異常が苦手かもな」
「毒は怖いですからねえ」
「昆虫人の兵隊とか、はぐれ獣人とか、正面から戦ったらわりと強い種族が、毒だけで全滅することもあるからな」
さて、そんな正面から戦ったら強いに分類される鳴神は、ここでリタイアしたようだ。
コボルトたちに担がれて、衰弱した鳴神が搬送される。
毒消しと回復薬はすでに使用済みなので、単純に体力が無くなっただけだろうな。
「ルトラ。一応、鳴神の回復のための温泉を準備してやってくれ」
「承知いたしました。……あの、レイ様。喜びのダンジョンに、宝箱だけでなく、ランダムで温泉を出現させるのはいかがでしょう?」
「あ、それいいかも。採用」
いいじゃないか。
アイテムや宝箱だけでなく、ランダムで回復場所が出てくるのであれば、侵入者たちはさらにのめり込んでくれそうだ。
これまで諦めていた侵入者たちも、これならクリアできるかもと思ってくれそうだ。
「では、そちらの管理もしっかりとがんばります」
「ああ、頼りにしているぞ」
ルトラは、やる気に満ちた表情で気合を入れる。
相変わらず真面目な子だが、鳴神がリピアネム族なら、ルトラはピルカヤ族だ。
あまり仕事に熱中させないように、注意しておかないとな。
さて、鳴神の挑戦は完全に終了した。
見ていた風間としては、学ぶことはあったか微妙なところだな。
「……やっぱり、あのダンジョンの本質は、ランダムで手に入るアイテムをどう使うかですね」
「そうだなあ。鳴神はギミックを無視して突っ込んだから、参考にしてはいけないと思う」
「う~ん。やっぱり、ちょっと面白そうですね」
現代人の風間ですらそんな感想なら、きっと今のところはゲーム感覚で楽しめるダンジョンに仕上がっているのだろう。
であれば、このまま調整を間違えずに、今の状態をキープしないとな。
俺のことだから、気を抜いたら難易度上がりそうだし。
「宝箱を開ける楽しみと、それを実戦で試す楽しみ。やはり、恐ろしいダンジョンです」
「フィオナ様」
なんか、フィオナ様はやたらとこのダンジョンを過大評価している気がする。
「ただ、宝箱があれだけあるということは、それだけ引けるということですし……。私も挑んでみましょうか?」
「あなたが挑もうとしているのは、ダンジョンではなく宝箱なのでダメです」
「魔王なのに!」
魔王だからです。
魔王を撃退するダンジョンなんて、俺は作る気ありませんからね?
「というか、宝箱ならいつでも作るので、わざわざダンジョンまで行こうとしないでください」
「しょうがないですねえ。今回はこの宝箱に免じて許しましょう」
それはいいのですが、その中身が外れても俺のせいじゃありませんからね?
「レイ~! ハズレなんですけど~!」
俺のせいじゃありません。