【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「レイ様」
「どうした? ルトラ」
ルトラがこうして自ら話しかけてくるということは、おそらく仕事の話だろう。
テクニティスもそうだけど、精霊って仕事好きだからなあ。
きっと、精霊のトップがワーカーホリックのせいだ。
上が休まないと、下も休めないということだな。
「よし、ピルカヤを叱るか」
『なんで!?』
「精霊の生態について、ちょっと思うところがあったから」
『ボクのせいじゃないんだけど~』
「いや、ピルカヤが休まないと、ルトラもテクニティスも休めないと思ってな」
『ボクたち優秀だから、このくらい大丈夫だよ』
う~む。実に精霊だ。
ルトラはというと、ピルカヤの味方だな。まあ当然か。
「ええと、私はお休みもいただいています」
『かわいがっていた後輩が裏切った!』
「い、いえ、裏切りというわけでは……」
なら、叱るのはピルカヤだけだな。
さて、ルトラの用件を聞かなくては。
「ごめんごめん。ピルカヤは後で叱るから、まずはルトラの用件だな」
「はい。ええと、温泉についてです」
まあ、ルトラが仕事について話すとしたら、そこだろうな。
今は安定しているし、最近では増強の湯で即死を回避したり、快復の湯で新たな客を集めたりと大活躍だ。
特に問題は起きていないという認識だったが、管理者目線からすると気になることでもあったのだろうか?
「オーガや昆虫人やナルカミが配下に加わったので、新たな温泉が作れないか気になりまして」
「なるほど……」
残念ながらクララからは、出汁は取れなかった。
時任やロペスも無理だったが、風間たちから出汁は取れた。
そうなると、ナツラやゼラシアは微妙なところだが、鳴神は可能性がありそうだな。
「とりあえず、代表二人と鳴神から出汁を取ってみるか」
「はい。試してみるのが良いと思います」
ちょっとテンションが上がっているな。
やはり精霊。自分の分野の仕事には、興味津々というわけだ。
◇
「なるほど。湯に浸かれば良いと」
「ああ。ルトラが管理してくれるから、指示に従ってくれ」
「心得た! ヒーローらしく、湯治に勤しもうではないか!」
ヒーローらしい入浴ってなんだろう……。
鳴神は、今日も正義が迷子になっているようだ。
「ナツラとゼラシアも悪いが付き合ってくれ」
「承知しました」
「温泉に浸かることが仕事……。良いのでしょうか?」
「大事な検証の一つだからな」
ゼラシアだけは困惑しているが、なにも難しいことはないので安心してほしい。
とりあえず、部屋を三つ作って、それぞれに温泉を作るとしよう。
今の温泉とは別の実験用の温泉に浸けておいたほうが、何かと便利そうだからな。
……鳴神、大人しく温泉に入っていられるだろうか。
いや、ナツラも心配になってきた。
プリミラみたいに、アヒルのおもちゃで遊んでもらうか?
いや、いっそのこと魔導映写を流してしまえば……。
「なにやら、失礼なことを想像された気がします」
「プリミラ」
仕事に区切りがついたのか、いつの間にかプリミラが来ていたようだ。
手にはお風呂セットと……やはり、継ぎ接ぎのアヒルが。
「鳴神やナツラを温泉に浸けて、出汁を取ろうとしているんだけど」
「たしかに、試す価値はありますね」
「二人が大人しく温泉に入っていられるか心配になって、プリミラみたいにアヒルと戯れてもらおうかと」
「……貸しませんよ?」
アヒルを隠された。
まあ、これからプリミラも温泉に入るみたいだからな。
さすがに、それを奪うつもりはない。
「それか、魔導映写の施設を流用して、映像結晶でも観せておけば大人しくなるかなって」
「なるほど……。たしかに、良い案かもしれませんね。私にもお願いします」
意外と食いつきが良いな。
よし、そういうことなら、さっそく四人分の準備をするか。
そうして、万全の状態で温泉の検証を行うことにした。
あとは、ルトラに任せておこう。
◇
「というわけで、温泉に浸かりながら映像を楽しんでもらっています」
「ええ、ずるい! 私もそれ欲しいです!」
フィオナ様にねだられる。
映像結晶好きだからな。この魔族。
「なら、フィオナ様用の温泉と映像結晶でも用意しましょうか」
「ふやけるまで、楽しみましょう!」
長風呂になりそうだな。
そう意気込んでいたフィオナ様だったが、何やら急に冷静になったようだ。
「いえ、でもそうしたらレイと一緒に観られませんね」
「そりゃあそうでしょう。まさか、一緒に温泉に入るわけにもいきませんし」
「レ……レ、レ、レイが! 望むのであれば、私も覚悟を決めますけど!?」
「いえ、さすがにそこは覚悟を決めないでくださいよ……」
自分で何言ってるのかわかっているのだろうか。この魔族。
それって、俺と混浴して映像結晶を観るってことだぞ。
いくら抱き枕に慣れた俺だって、そんなの理性が保つはずがないでしょうが。
あなた、自分が美しくて可愛いことを、もっと自覚してくださいよ。
「さ、さすがに、私だって恥ずかしいので、まだやめておきましょう……」
まだってなんですか。
いつか羞恥が消えたあかつきには、実行するんじゃないでしょうね?
……もしかして、フィオナ様にとっての俺は、プリミラにとってのアヒルくらいの感覚なのか?
そんな結論を出していると、ピルカヤから連絡が入った。
『ルトラ、そろそろ止めたほうが良いと思うよ~?』
「ルトラを? 何かあったのか?」
『言っておくけど、あの子、ボクに負けず仕事好きだからね?』
……なんか、含みのある言い方だな。
ちょっと、温泉に向かうとするか。
◇
「うおぉ! この程度の熱さに負けるかあ!」
「水分と塩分補給が必要ですね。ではどうぞ」
鳴神に、球体の水を渡して飲ませている。
ピルカヤが言うには、ナツラとゼラシアも同じような状況らしい。
『い、いくつ映像結晶を観れば、解放していただけるのでしょうか……』
『そちらは……まだ、普通の温泉のようです。もう少し頑張りましょう』
ゼラシアの言葉に、ルトラは淡々と観察と検証を続けていた。
『暇だ……。もう出ても良いだろう?』
『駄目です。私はレイ様に任されました。あなたたちから出汁が取れて、新たな温泉が作成されるまで我慢してください』
その言葉を聞いて、ナツラは渋々とお湯に浸かり続ける。
……なんか、俺のせいでずっと温泉に入れられていたらしい。
「ルトラって、そんな融通効かなかったっけ……。昆虫人の兵隊じゃあるまいし」
「だから言ったじゃん。あの子、ボクと同じく仕事好きだって」
テクニティスといい、ルトラといい、熱中したらみんなこうなのか……。
精霊、やはり種族による違いのせいか、たまに妙なズレを感じるなあ。
それはともかく、釜茹での刑みたいなことをされている三人を助けないと。
「ルトラ~! 出汁が出ないなら出ないでいいから、無理はさせないでくれ~!」
「いえ、レイ様。水分も塩分も与えていますし、温度管理も完璧です。必ずや、新たな温泉を作り出してみせます」
かわいく意気込まなくていいから。
やけに張り切るルトラを説得するのは、思いのほか骨が折れた。
比較的まともな十魔将かと思っていたが、スイッチが入るとわりとやばい子みたいだなあ……。
◇
「俺の熱気が勝ったか!」
「ただ、これですとレイ様が作る溶岩温泉と変わりませんね……」
「ヒーロー要素は溶け出ていないか!」
「残念ながら、そのような成分は見当たりません」
後日、鳴神の出汁から溶岩温泉ができたらしい。
あいついよいよ人間やめてるよなあ。
なんで普通に浸かっていられるんだよ……。