【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
俺が生まれたのは、本体が先代魔王様に仕えていたときのこと。
姿を変えすぎたあの本体は、性格が複数に分裂した。
自分の姿というものが、わからなくなったらしい。
日毎に種族も年齢も性別もバラバラになり、それでもまあいいかとあのスライムは日々を過ごした。
まあよくないと気付いたのは、今の魔王様に代わったときのことだ。
先代でさえ強かったのに、今の魔王様はそれを遥かに凌駕する。
そんな魔王様に仕える四天王としては、もっと強くならなくてはと焦ったのだろう。
かくして本体は、今のおっさんスライムへと姿を固定した。
様々な姿になれるのもたしかに強いが、決まった肉体に慣れて完璧に動かせるほうが強い。
それがリグマの考えだったようだ。
そうして、バラバラだった人格は完全に別のものとして分かたれる。
その結果、ガナがカーマルがウルラガが、そして俺が完全に独立した。
本体の中で意思を持っていただけのときと異なり、己の肉体を持つというのは存外悪くはない。
ガナだけは、自分の体で動くのは面倒そうだが、他の二人も自由に動ける今の方が良いと思っているだろう。
ただし、全てが全て良いというわけでもない。
「俺たちはもう完全に独立してるだろ?」
「まあ、リグマが本気で戦うときに、本体に戻るくらいだね」
「魔王様から、俺たちにおあつらえ向きのアイテムを賜ったからな。……あれを使って俺を強化すれば、リピアネムとも戦えるんじゃねえか?」
「やめろバカ。リピアネムもなんか訳のわからない強化されてんだろぉ……」
変なことを言い出したウルラガを焦って止める。
まあこいつはマシだ。なんせ、この一言で考えを改めるからな。
考えなしに見えて、案外冷静に物事を見られる男なんだ。
「あいつ……この期に及んで、なんで急成長してんだよ」
「リピアネムだからなぁ……」
今のリピアネムなら、勇者全員を相手にしても勝てるんじゃないか?
……いや、さすがにそれは無理かぁ。
だが、少なくともへーロスを完封しそうだ。
また、へーロスの感情を逆撫でしそうだなぁ。あいつ。
「で、僕たちが僕たちであることに、何か思うところでもあるの?」
そう。本題はそっちだ。
「元々は、リグマという本体の中で、役割分担してたじゃねえかぁ」
「そうだな。お前ヘタレだから、戦闘はもっぱら俺だった」
「ヘタレじゃなくて、慎重なの!」
まったく、これだから脳筋は。
リピアネムといい、へーロスといい、ドラゴンってみんなこうなんだろうなぁ。
「でも、今は別々の肉体で活動しているから、同時に色々とできているよね」
「そう。それなんだよぉ」
問題はそこだ。
俺たちは、各自肉体を得ている。それぞれが自分に合った仕事をできている。
だけど……。
「本体の中にいたときと違って、四六時中自分の役目を果たさなきゃいけないのがきつい」
「なんだ。そんなことか」
「なんだとはなんだぁ! お前、レイのこと知らないだろ!」
「いや、知ってるが……」
「い~や、絶対俺の方が知ってる!」
「なんか、レイを取り合ってるかのような発言だね」
やめろバカァ!
そんなこと冗談でも言うな。魔王様が怒ったらどうするんだぁ!
「あいつ、俺がいるときは自重を完全にやめるんだからなぁ! 俺に全てを任せて、自分はひたすら暴走するやつだ!」
「なに? のろけ?」
「だから、それやめろぉ!」
というか、文句しか言ってないだろぉ!
なんで、そういう話に……ああ、そうだ。
こいつは、そういう風に茶化すやつだったなぁ……。
最近ではトキトウの手伝いをしていて、むしろ振り回されているから忘れてた。
「お前らはいいけど、俺への負担が多いと思う!」
「休めばいいじゃん。僕だって、たまにお店休んでるよ?」
「俺も、ロペスたちを護衛しないで、オーガどもと遊んでる日はあるな」
遊びと言いながら戦う戦闘狂め……。
ああ、たしかに魔王軍は、むしろ休むことを推奨しているよなぁ。
だから、俺が申請したらいつだって休めるだろうさ。
「俺が休んだら、その間にどんな恐ろしいダンジョンが作られるか……。それを考えただけで、気が休まらねえよぉ」
「でも、アナンタがいないときは、レイ自身が自重するんじゃないの?」
「休み明けの俺に、恐ろしいダンジョンを見せてくるぞ。あいつのことだからなぁ!」
「のろけだね」
「のろけだな」
「なんで、そうなるんだよぉ!」
あいつはなぁ。俺がいないと駄目なんだ。
俺がいないと、イピレティスやオーガたちと、変なダンジョンを作るやつなんだ。
そして、俺が止めないと、プリミラやダスカロスに叱られるからかわいそうだろうがぁ!
『アナンタ~。レイがダンジョンの構想について、意見もらいたいってさ~』
「ま、待て! 今行くから、早まるなと伝えておけぇ!」
あいつ、今度はどんなダンジョンを作る気だぁ?
せめて、指摘箇所は一桁にしてくれよぉ?
「……なんだかんだで、相性良いのかもね」
「忙しいやつだよなあ。俺も用心棒として、あのくらい忙しくしたいぜ」
◇
「虚無の種を作って逃げ場の無い空間に閉じ込めて、モンスターと延々と連戦させるのはどうだろうか?」
「どうだろうか、じゃねえんだよなぁ! 殲滅か? 殲滅したいのか? 有事のときは仕方ないにしても、普段からそんな難易度にするんじゃねえよぉ!」
ほら見ろ。これだぞ。
俺が少し目を離した隙にこれだぞ。
今回の原因は……なるほど、後ろにいるオーガどもだな。
「お前ら、レイに変なこと吹き込むな」
「ですが、無限に戦える空間など、褒美ではないでしょうか?」
「え、飴と鞭の飴側のつもりなの? 鞭で叩いて殺すつもりじゃないのかよぉ」
駄目だこいつら。
やっぱり、レイには俺がついていないと、きっととんでもないダンジョンが作られる。
一日休みでもしたら、その一日でダンジョン作るぞ。こいつは。
「はあ……連戦させるなら、もう少し弱いモンスターだろうがぁ」
こうして今日も調整する。
言えば聞くんだよなぁ。そうして学んだはずのことが、次回リセットされるのはなんなの?
いや、こいつわかっていても俺の足元見ている節があるんだよなぁ。
小癪なやつだ。だが、最終的にちゃんとしたダンジョンも作るので、そこは評価している。
……リグマのやつは、レイに好きにさせたほうが面白い結果になると言うが、このダンジョンに限っては監修は必要なままだろう。
ほんと……目が離せない弟でもできたようだ。
分体の中で一番下っ端なためか、こうして度々手を焼くことになっても、それすら悪くないと思えるのがまた小癪だ。
◇
「あ~。終わったぁ」
今日の調整も無事終わり、マギレマのところに向かうと笑われた。
「また疲れてるねえ。その様子だと、レイくんのダンジョン改築があったんでしょ」
「頭を使いすぎる……。飯くれぇ」
その気になれば、飯なんて食わなくても問題ない。
ガナとか、飯食うのすら面倒くさがって、リグマから栄養を分けてもらってるしな。
だが、こうして単独で活動できる肉体を得た以上、食事を楽しむのも悪くはない。
そうして、マギレマが作った飯を食べていると、頼んでいないはずのパフェが置かれた。
……いや、たしかに好きだけどなぁ。
ただ、立場的には四天王みたいなもんだし、俺が食ってたら示しがつかないというか。
「レイくんが、アナンタは今日も頭を使って疲れてるだろうから、甘いものでも作ってやってくれってさ」
そういう気の遣い方はできるくせに、あいつなんでいつもダンジョンのことになると暴走するんだろうなぁ……。
まったくもって小癪だ。こういうところがあるから、憎めないんだろうな。