【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「わかったから、引っ張るのはやめなさい」
ディキティスがさらわれた。
犯人は俺のケルベロスたちだ。
二匹のケルベロスが食事中にやってきたかと思うと、俺に頭をなでるようねだってきた。
計六つの頭をなでながらマギレマさんたちが料理を作るのを待っていると、食事を終えたディキティスを引っ張っていったのだ。
なるほど。食事が終わるまで待っていたんだな。頭の良い子たちだ。
「モンスターたちは、相変わらずディキティスに鍛えてもらおうとがんばっているな」
「そうですねえ。元々の部下だけでなく、モンスターやオーガや昆虫人の兵たちまで、しっかりと指導しているようです」
うちのモンスターたちが一風変わっているのは、ディキティスが育ててくれたというのも大きな要因だろう。
賢く学習能力があるモンスターたちは、今日もディキティスのもとで意欲的に戦法を学んでいる。
なお、それを活かそうとするとアナンタに止められる。
……今日もマギレマさんにパフェを作ってもらって、賄賂として送るべきか。
「一緒に見に行きますか? あの子たちも、そのほうが喜ぶでしょう」
フィオナ様の提案に、頭の中で今日のスケジュールを整理する。
改築は昨日したばかり、定期メンテナンスは早朝のうちにすませた。
フィオナ様とまったりするのは、夜になってから。
よし、問題ないな。
「そうですね。俺たちも食事が終わったら行きましょうか」
そうして、なぜかマギレマさんの犬たちをけん制するフィオナ様を見ながら、俺はのんびりと遅めの朝食を終えた。
◇
「おお、思っていたより大所帯だな」
「かつてディキティスが率いていた軍のようですねえ」
いつの間にか、かなりの人数を指導することになっていたらしく、広間の中にはこれでもかというほどの訓練兵たちがいた。
さすがにこれら全員がこの場で戦うわけにもいかず、いくつか作ってある広間に分かれて、各々で戦闘訓練を行うようだ。
ディキティスは、それらを見て回り的確にアドバイスをしている。
「魔王様に宰相殿か」
「モンスターたちががんばっているところを見に来た」
「そんなことを言ったら……ああ、手遅れだったか」
何が? という疑問は、ディキティスではなく、ドリュが答えてくれた。
もっとも、彼にそんな意図はなかっただろうけれど。
「な、なんで急に張り切って強くなっているんだ!?」
「ケルベロスが、ドリュにじゃれついている」
「あれを見てその感想が出るあたり、宰相殿は豪胆だな」
戦っているのはわかるんだけど、あれくらいのノリで俺に甘えてくるからな。
ついつい、のどかな光景に見えてしまったんだ。
「お、やる気か? 上等だ。ぶっ殺す」
物騒なことを言っているのはウルラガか。
相手はハイドラにセルケト。さすがにウルラガ相手には劣勢だが、それでもなんとか食らいついているようだ。
ウルラガはウルラガで、そんな彼らを相手に真剣に戦ってくれている。
殺すというのは、言葉の綾だろうな。まあ、死んでも再生成できるけど。
「なんだその回転!? ぐえっ!」
あちらでは、グルグルとドリルのように回りながら突進するソウルイーターに、オーガが何人かはね飛ばされている。
ただの突進よりも、威力が高そうだな。あの子はあの子で、まだまだ強くなるのかもしれない。
……と、その勢いを止めることなく、こちらまで突進してきている。
このままでは俺も轢かれそうだが、そこは心配していない。
ほら、ちゃんと俺の手前で急ブレーキした。
「はいはい。よくがんばっているな」
そのまま俺に巻き付いたソウルイーターの頭をなでると、どうやら満足してくれたようだ。
締め付ける力が少し強くなった。
だけど、訓練途中だからこのくらいにしておこうな。
「なんか行列が……」
「仕方ないことだろう。ソウルイーターがかわいがられているのを見て、自分もと思うのは」
その発端であるソウルイーターは、俺から離れて他のモンスターに順番を譲っている。
甘えん坊だが、俺を独占するわけでもないのは、偉いんだよなあ。
「最後尾に、モンスターじゃないのが見えるんだけど」
「魔王様だな」
そんな、当然のように。
というか、この機に便乗しなくたって、いつも甘やかしていますけど?
「あの、私たちも並んだほうがいいんですか?」
「モンスターと魔王様以外はやめておいたほうがいい」
「そうですか。いえ、モンスターのほうのオーガも並んでいたので……」
そこがややこしいところなんだ。
ナツラたちと、モンスターのオーガって、見た目はほぼ一緒だからな。
そんなモンスターのオーガを甘やかすとなると、なんか変な光景だなと思う。
なんで俺は、マッチョな男の頭をなでているんだろうね?
「ディキティスの訓練を邪魔しているような気はして申し訳ないが」
「息抜きすることは悪くない。やる気にもつながるのであれば、なお悪くないだろう」
なら良いか。
そうなると、モンスターだけやる気を出すのも差が出てきそうだし、他の者たちがやる気を出す手段を考えるべきか?
「オーガたちって、戦闘訓練によりやる気を出すためには、何か欲しいものってある?」
「強敵が欲しいです」
「リピアネムか……?」
「いや、リピアネム様が相手では、蹂躙されるだけだろう」
さすがにリピアネム相手に、粘れるほどの強さは身についていないようだ。
ディキティスの言葉を聞いて、オーガたちはがっかりし、ドリュたちはほっとしている。
「いっそ、ディキティスが戦ってあげるとか?」
「それもかまわないが、こう数が多いとな」
「それなら、オーガたちの中で戦わせて、勝ち残った者だけが挑戦権を得るとか?」
「良いですね!」
俺の言葉を聞いて、オーガたちが男女問わずやる気になった。
なんかもう、戦えれば誰が相手でも良いのでは? なんて思えてしまう。
時任を置いて、あの変な威嚇をさせたらどうなるか、ちょっと見てみたい。
「だが、実戦訓練以外も大切だ。戦いはまた別の機会に考えよう」
「え~」
「ディキティス様も戦いましょうよ~」
まあ、訓練だもんな。
単純に戦うだけでなく、基礎を鍛えたり、なんなら座学だって必要だろう。
オーガたちは、戦いそのものが好きそうなので、それらは少し不満そうだ。
「変なこと言って悪かったな。オーガたちも、ディキティスの言うことをちゃんと聞いてくれ」
渋々といった感じで、オーガたちは元の訓練に戻ることにしたらしい。
……一応釘をさしておくか。
「わがまま言ってたら、ダンジョンに放り込むからな~」
「!」
その言葉に、オーガたちはすぐに反応し、何かを思案し始めた。
たぶん、それはそれで戦えるから良いと思っているのだろう。
だけど、俺が言っているのは、オーガたちが喜ぶようなダンジョンではない。
「仲良くしないと出られない部屋に閉じ込めて、戦闘を禁止するから」
「ディキティス様! 私、訓練がんばります!」
やはり、戦闘を禁じられるのがオーガたちにとって、一番の罰のようだ。
戦いたいと言っていた者たちは、すっかりとディキティスの指導を真面目に受けるようになっていた。
「宰相殿は宰相殿で、部下の指導が上手そうだな」
ディキティスがそんなことを呟くが、俺はそうは思わない。
わがまま言ったら罰を与えると言っただけだからな。
戦闘訓練のための指導は、やはりディキティスに任せるべきなのだろう。
「……レイ、レイ。蘇生薬を引き当てるまで出られない部屋とかどうでしょうか? そうすれば、私も蘇生薬を引けるのでは?」
すみません。便宜上出られない部屋と言っていますが、あれは手動なんです。
単に俺が判断して壁を消しているだけなので、ガシャ運が上がるような副次効果はありません。
というか……。
「フィオナ様、一生出てこられなくなりそうですね」
「なにをぅ!? だったら、レイもずっと一緒に入ってもらいますからね!」
それは別に良いんだけど……。
そのまま餓死しそうだなあ。