【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「プネヴマ様、お食事ですか?」
「え……あ、う、うん……」
だ、誰だっけ……。ええと、たしか従業員の……。
慣れない。地底魔界に魔族以外がいることは、いまだに慣れない。
というか魔族が相手でも、私は緊張してしまう自信がある。
い、癒しを求めないと……。
「今は、食堂行かないほうがいいですよ?」
「え……な、なんで……」
もしかして、食堂で何か事件でも起きたの?
マギレマちゃんが、ナツラちゃんを殴ってるとか?
でも、それなら事件ってほどでもないし……。
そんなことを考えていると、他の従業員のみんなは食堂へと向かっていく。
あ、あれ……? まあそうだよね。もうお昼だし、みんな食事をしに行くのは普通のことだよね。
でも、食堂には行かないほうが良いって……。
私だけ行かないほうが良いってこと? ……も、もしかして、いじめられてる?
こ、怖い……。これだから、人類は……。いや、魔族も……。
「おや、あなたも食事ですか」
「エ、エピクレシちゃ~ん……」
怖くない魔族がいたので、私は避難するかのように抱き着いた。
ああ、安心した……。雑に引き剥がされたけれど、これで少しは落ち着ける。
「では、一緒に食事しますか」
「あ、あの……良いんでしょうか? エピクレシ様。今は、プネヴマ様は食堂に行かないほうが」
やっぱり、私だけは行かないほうがって言われている……。
もしかして、バンシーにだけ効く、変な魔法でも発生しているとか……?
テクニティスくんがアイテム作りに失敗したとかなら、あり得るかもしれない。
でも、それなら食堂というのもおかしな話だし……。
や、やっぱり、いじめられてる?
「別にかまいません。どうせ、すぐに元に戻りますし」
「そ、そうですか。では、俺たちはこれで」
エピクレシちゃんの言葉に、従業員の人たちは食堂に向かっちゃった。
やっぱりエピクレシちゃんってすごい……。
しっかりと、十魔将しているなあ……。
◇
「あ、それ一口ください」
「どうぞ」
「もう一口ください」
「どうぞ」
「もう一口」
「ひな鳥ですか?」
……。食堂について最初に目にしたのは、とても素晴らしい光景だった。
「ぐえぇぇ……」
魔王様にデザートをねだられたため、レイ様はスプーンを魔王様の口元へと運ぶ。
魔王様は、遠慮なくそれを口にするも、一度では満足せずに何度も何度も……。
あれって、レイ様が使っていたスプーンじゃないの? やはりお二人はそういう関係……。
この光景を目に焼き付けておかないと……。
『エ、エピクレシちゃん。私、しばらくあの光景見ているから……。先に食べていて……』
「また魂が抜けましたか。先ほどの従業員たちの警告どおりでしたね」
あ、また魂が口から出ちゃってる。
でも、それならそれで、落ち着いてあの光景を見ていられるし、戻るのは後でいいや……。
そんなことよりも、今はじっくりとあのお二人を観察して……。
あ、体が引っ張られていく。エピクレシちゃん。エピクレシちゃん! テラペイアくんのところに連れて行くのは、もうちょっとだけ待って!
『わ、私のことは……放っておいていいから……』
「まったくもう。マギレマには、後で食事を運んでもらわないといけませんね」
ああ、聞こえてない……。
こうして私は、親切な友人のおかげですぐに復帰した……。
◇
「なんかプネヴマが、急に食堂で倒れた」
「いつものことなので、気にしないで良いですよ?」
その通りなんだけど、あの光景に慣れて良いものなのかと不安にもなる。
今は平和だから良いけれど、敵に奇襲されて倒されたとかの場合、判断できなくなりそうだ。
……原因をつきとめて、あの体質の改善とかできないものだろうか。
「テラペイアはどう思う?」
「その辺に放り投げておいてくれると助かるね」
「医者が匙を投げるほどかあ……」
「いや、優先順位の問題だ」
なるほど。つまり、エピクレシの言うとおり、見た目ほど大変なことではないと。
にしても、倒れ方で判別できないのは、やはり不便だ……。
「特に問題なく倒れるときは、倒れますって宣言してもらうか」
「そのころには、魂が抜けているので聞こえないと思いますよ?」
「となると、あとは倒れにくくなってもらうとか」
「そうしてもらえるのなら、私も助かる」
だよなあ。毎日運び込まれているし、それがなくなるだけでもテラペイアの負担が減りそうだ。
ということで、プネヴマを強化しよう。
「原因は二人にはわからないのか?」
「わかるぞ」
「わかります」
え、そうなの?
てっきり原因不明かと思っていたため、難航する覚悟でいたんだけど……。
すでに解決の糸口は見えているのかもしれない。
「じゃあ、その原因を取り除けば……」
「駄目だ」
「それは駄目です」
なんでさ……。
いくら見た目ほど危険でないとはいえ、プネヴマが毎回倒れていたらかわいそうだろうが。
「あれは、魔王様とレイを見ただけで倒れる」
「え……フィオナ様と俺って、そんなに恐れられているの?」
「恐れといいますか、推しです」
意味がわからない。
よくわからないが、プネヴマはフィオナ様と俺を見て倒れてしまうらしい。
なるほど、原因を取り除けないわけだ。俺はともかく、フィオナ様を地底魔界から追い出すわけにもいかないからな。
「……じゃあ、イピレティスと一緒に俺についてきてもらって、ずっと見てもらうことで慣れてもらうとか」
「……まあ、喜びそうですし。良いんじゃないでしょうか? たぶん、何度も倒れますけど」
「慣れるかどうかは疑問ではあるが、やってみる価値はあるかもしれない。それなら、私も同行させてもらおう」
つまり、一時的に十魔将が三人もついてくるってことか。
まあ、フィオナ様って魔王だし、そのくらい厳重な警備体制になっても不思議ではないか。
◇
「暑苦しいです」
「? おかしいですね。ちゃんと魔力で涼しくしてから抱き着いていますが」
「視覚的な意味で、腕が暑苦しいです」
「本当は嬉しいくせに~」
「……」
「嬉しいくせに~」
「嬉しいですけど、暑苦しいです」
今日も今日とて腕にフィオナ様が抱き着いてくる。
そして、これもいつもながらのことだが、うざ絡みとドヤ顔だ。
おかげで、煩悩なく対処できている。
「ぐえ~」
そしてプネヴマが倒れた。
イピレティスが倒れる前に支えて、テラペイアが瞬時に蘇生した。
すごいな。十魔将……。
「なぐさめなさい」
「手段はどうします? なでますか? 膝枕されますか?」
「え~と……今日は膝枕ですね。さあ、遠慮なく魔王の膝で寝るのです!」
ガシャは今日もハズレだ。
そうしてなぐさめることを強要されるのも、いつものこと。
今日は俺が膝枕をされることで、心の安寧をはかるらしい。
「ぐえ~」
心どころか、後ろで魂が抜けていく声が聞こえる。
見た目美少女なのに、声が汚い。いや、声は綺麗だけど、断末魔みたいなのが汚い。
トップである魔王様が、見た目は美しくもこんなに残念なわけだし、部下がそうでも仕方ないのだろうか?
「……なんでつねるんですか?」
「馬鹿にされていたからです」
「何も言っていませんが?」
「レイの考えていることなど、私にはお見通しなんですよ」
「それなら……」
フィオナ様のガシャはきっと明日も外れるので、明日の慰める方法も考えておいてください。
「今、俺が考えたことわかります?」
「ガシャのことを考えていました」
まじかこの魔族……。
もしかして、本当に心を読めているんじゃないだろうか。
「私のために、明日は十連ガシャをすると考えていました」
「あ、それハズレです。魔王様って大したことないんですね」
「なにをぅ!?」
つねられる力がほんの少し強くなった。
目の前では、憤慨している魔王様のかわいらしい顔が見える。
「ぐえ~」
二回目じゃないか?
もしかして、倒れて蘇生して、その後また倒れた?
◇
「……無理そうだな」
「無理そうですねえ」
『あ、わ、私のことは……気にせず、お二人で……思う存分、イチャイチャしてください……』
「テラペイア。蘇生は?」
「無駄だと思ってね。とりあえず、放置している」
「やっぱり医者が匙を投げている……」
あ、き、聞こえてない……。
というか、魔王様とレイ様が……二人して……私の心配を……。
な、なんて贅沢な……。あ、また魂が出そう……。
あれ? 魂の状態だから、さらに魂が出たら……どうなるんだろう?
……出ないみたい……だね。よかった……。