【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「テラペイア先生って、手術とかするんですか?」
「なんだ。どこか悪いのか? だったら、まずは診察からだ」
「い、いえ! ウサギの腕毛が暑いなあとか思いますが、手術で脱毛してもらうほどでは!」
「それは……まあ、できなくもないが」
時任の腕って、ウサギだから暑そうだもんなあ。
他の獣人たちは、生まれながらなので気にしている様子もないが、元人間からすればそうはいかないのだろう。
「テラペイアの手術って、やっぱり切ったり縫ったりするのか?」
「否定しないが、なんか君が言うと途端に物騒な響きになるのは、何故なんだろうな?」
俺が知っている手術と同じか聞いただけじゃん!
テラペイアの中で、俺がどんな扱いを受けているのか、それは後でじっくりと聞くとしよう。
「ほえ~。この世界、魔法を手術とかにも使うのかと思っていました」
「それも使うぞ。切って回復して縫ってと、どちらも使う」
やはり、魔力もしっかりと関係するらしい。
世良の聖女の力があれば、テラペイアの役割も不要になるかも言われると、そんなことはないからな。
「最近じゃ、快復の湯の調整もあるしな。忙しくないか?」
「君ほどではない」
俺は別に忙しくないと思う。
それを言うのなら、ピルカヤやマギレマさんのほうだ。
「まあ、仕事に熱中している者は、一部を除いて減ったからな。目を光らせている時間がルトラとの作業に変わっただけさ」
ダスカロスが蘇生したあたりで、そのへんはだいぶ変わったからなあ。
一部というのは、精霊とマギレマさんだな。きっと。
「さて、そろそろフィオナ様のところに行くか」
「あ、私もお店の準備しないと」
「二人とも、無理はしないようにな」
朝の談笑も終わり、俺たちは各々自分の仕事へと向かう。
とりあえず、フィオナ様を起こすところからだな。
◇
さて、私も仕事を開始しなければ。
と言っても、私の場合は基本的には、医務室から動くことはない。
ルトラへの協力も、ピルカヤの目を通して遠隔で行える。
『テラペイア~。セラとルトラから快復の湯の調整頼まれてるよ~』
「共有してくれ」
視界に映るのは、痩せこけたドワーフ。
見た目と魔力から、症状を判断し、快復の湯の調整を指示する。
「魔力が乱れているな。ドワーフめ……。こいつらはこいつらで、仕事に熱中して健康をおろそかにしすぎる」
うちにいるカールくらいか? まともな者は。
他のドワーフたちは、体が頑丈だからと、無理をすることも少なくないからな。
「ルトラ。体力と魔力の増強を」
『はい。リラックスできるように、水質を調整します』
「しばらく脱力するようにしておけ。簡単に治ると思われたら、余計に無茶をしかねない」
簡単に治るから問題ない。今は元気だから問題ない。
連中の考えなど、だいたいそのようなものだ。
特に精霊組。よほどのことでなければ疲れないというのは、そのとおりだろう。
だが、一度崩れたら下手したらその形を取り戻すのに、何百年かかると思っている。
「君もテクニティスもピルカヤも、くれぐれも働きすぎないようにな」
『わ、私は、ちゃんと休んでいる時もありますので……』
「時もというのが問題だ。毎日休め。ダスカロスをけしかけるぞ」
『そんな、犬じゃないんですから……』
「半分は犬科だ」
私の言葉に、ルトラは観念したらしい。
まあ、彼女はわりとまともな部類だからな。
ピルカヤとテクニティスとマギレマとは違う。
あの三人には、頻繁に目を光らせておかないと、本当に倒れかねない。
そして、倒れられたら地底魔界が大変なことになる。
ピルカヤの目が無いと、情報は一気に減るだろうからな。
「さて、次は……」
そろそろやって来る時間か。
朝から元気なものだ。というか、血気盛んなものだ。
「テラペイア先生。薬ください」
「まずは怪我を見せろ。素人が自己判断で済ませるなと言っているだろう」
「どこも欠損していないので大丈夫です」
「君たちオーガの大丈夫の基準、いささか問題があると私は思うがね」
そして小癪なことに、彼の自己判断はなかなかどうして正確だ。
これならば、オーガの生命力の高さも加味すると、明日には治っているだろう。
「消毒だけしておくか」
「すみません。いつも助かります」
「いつも来るな。いっそ回復薬でも溜め込んでおけ」
「いえいえ、さすがに訓練ごときでアイテムを使うのは、もったいないので」
そういう考えができるくせに、なぜこうも戦闘狂なんだ。
理性と本能が明確に分けられているのか、なかなか興味深い一族とも言える。
「ところで、テラペイア先生も十魔将だから強いんですよね?」
「私は戦わないぞ」
「え~……」
「もしも戦いたいというのであれば、次に君が来たときに消毒薬に毒を混ぜることにする」
「テラペイア先生怖え……」
当たり前だろう。医者に何を期待しているんだ。
震えるオーガを退室させ、次の患者の診察を行う。
まあ、地底魔界での診察など、先ほどのオーガのような軽微な怪我くらいだ。
重い病は快復の湯で治し、重い怪我は回復薬で治す。
私の役目は、それらの予防や、そこまで大きくない怪我や病気の治療になるだろう。
簡単に治しすぎると、今度は耐性がなくなっていくからね。
さて、そんなオーガやモンスターたちの治療も終え、手が空いた。
「ピルカヤ。緊急での呼び出しがあったら、すぐに取り次いでくれ」
『オッケー』
これでよし。できれば、医務室で待機しておきたいところだが、こればかりは私が向かうべきだろう。
彼女も自分が医務室に向かうと言っていたが、さすがにそうもいくまい。
◇
「いやあ、すみませんね。わざわざ足を運んでもらって」
「いや、君はともかく触媒や材料を運ばれると、医務室が清潔でなくなりそうだからな」
「ゾンビですからねえ。腐っていますし」
「だから、私が出向いたほうが早いだろう」
そういえば、レイがまたおかしなアイテムを手に入れていたと話していたな。
なんでも、空間内を浄化するアイテムだとか。
譲ってもらうよう頼んでみるか。そうすれば、ゾンビが来ようと、退室後に滅菌できそうだ。
「さて、それでは手伝うとしよう」
いや、どの道これだけの死体が必要だ。
運ぶ方も大変だろうし、やはり私が出向いたほうが効率がいいか。
目の前には、様々な種族の死体が置いてある。
それらの優れた部分を見いだし、繋げていくのが私に望まれていることだ。
「こればかりは、私よりあなたのほうが上手いですからね」
「君の施術では、まだまだ肉体を活かしきれていないからな」
筋は良いが、それでもまだ無駄がある。
ロマーナの肉体に取り付けた鎖のように、アイテムを使用する場合は、私より上手くやっているので、適材適所だろう。
「それで、この肉体を使用するにふさわしい魂でもいるのか?」
以前は、引火しやすい肉体を作成したが、あれは消耗品として作ったものだ。
だが、今回のは可能な限り性能を高め、長く使用する肉体となっている。
今後、彼女のアンデッド軍団として、迎え入れられるような肉体だ。
ロマーナのときのように。
「それが、なかなか良い魂は無いんですよねえ」
「では、これはいずれ良い魂を見つけたときのためか」
「最終的にはそうです。ただ、いくつかの場所に配置しておこうかと」
インテリアか?
……まあ、剥製のようでもあるが、その場合人型というのはいかがなものだろうか。
「魂が抜けたプネヴマのために、地底魔界中に置いておけば、元の肉体をわざわざ医務室に運ばなくてすむんじゃないですか?」
「……なるほど?」
たしかに、毎度のことのようにプネヴマの肉体をベッドに放り投げるのも面倒だ。
その場で魂を肉体に戻せとも思うが、興奮のあまり魂だけが移動することも珍しくないからな。
ならば、彼女のための肉体の予備を用意するのは、一見すると理にかなっている。
だが、さすがのエピクレシも、それを本気で言っているわけではあるまい。
「暇なのか? お前」
「いえ、肉体の作成がいずれ必要なのは本当だと思いますよ? ただ、殺した転生者の再利用に行き詰まっていまして」
「なるほどな。まあいいだろう。いつかこれが必要になるのは、本当のことだろうし、協力してやろう」
そうして作り上げたアンデッド用の肉体のいくつかが、後日動いているのを目撃した。
……プネヴマ。本当にあれに入って、自分の肉体まで向かうことになったのか。
なんにせよ。あれらのゾンビが無駄にならなくて何よりか。