【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第461話 救世主の後ろ姿

「む、朝ですか」

 

 朝ですか? ベッドで寝ていたはずなのですが、玉座に座っていますね。

 あれ? ついに無意識のうちに、朝の支度をすませられるようになりましたか?

 私も、魔王としてまだまだ成長中ということに……。

 つまり、魔力が一万になる日もそう遠くありませんね。

 

「ふっふっふ……見てなさい。私も、蘇生薬を大量に引きますから」

 

 その声は、玉座の間の静寂をわずかに揺るがすだけでした。

 ……さすがにレイの反応がないと、こんなことを言ってもつまらないですね。

 とりあえず、レイを呼びましょう。宰相ですからね。魔王の傍にずっといるのは当然のことです。

 まあ、仕事で離れたいというのであれば、がんばって我慢しますけど?

 

 今は、朝の空き時間のはずなので、さっそくピルカヤに頼んで呼んでもらいましょう。

 

「ピルカヤ~」

 

「はい、魔王様」

 

 現れた精霊は、私に一礼し硬い表情で反応を伺う。

 ……表情豊かな精霊である彼が、そんな顔をしている。

 珍しい。とは思わない。だってこれは、散々見てきた顔だから。

 ——嫌な予感がする。

 

「……レイを、呼んでもらえますか?」

 

「レイって誰ですか?」

 

 嫌な予感が加速する。

 落ち着きなさい。きっとそういうことなのでしょう。

 

「……地底魔界の様子を報告してください」

 

「はい。四天王は、部下たちを指揮して侵入者を撃退しています。勇者はいまだ侵入していないため、兵隊や各国の強者相手に直接戦闘を行っているのは、十魔将とその部下です」

 

「転生者の様子は?」

 

「大転生の兆候はいまだ見られず、人間たちが匿っている様子もありません」

 

 ……まあ、そうですよね。

 表情が硬い。このピルカヤをよく知っている。

 私に仕えていたとき、彼の表情はころころと変化しなかったのですから。

 

「そうですか。ピルカヤ、今楽しいですか?」

 

「楽しい……? 質問の意味がわかりません」

 

「そうですね。もうけっこうです。ありがとうございました」

 

 その言葉に、ピルカヤはやはり一礼をしてから去っていった。

 異変なら良い。異変なら解決すれば、まだなんとかなる。

 だけど……。

 

    ◇

 

「魔王様。玉座の間で控えていてください。万が一勇者たちが来たら危険です」

 

「ええ、少し用事がありまして。プリミラ、あなたの趣味はなんですか?」

 

「ありません。今は人類との戦争中、私の趣味などどうでもいいことです」

 

 どうでもよくありません。あなたの趣味は、魔力や食料供給に大いに役立つものです。

 それは、とても素晴らしい趣味なのですよ?

 

    ◇

 

「少し休んだらどうですか? リグマ」

 

「魔王様。いいえ、俺は分体を作れるため、ローテーションで休憩できています」

 

 それは、本当に休めているんですか?

 ピルカヤと違って精霊ではなく、スライムであるあなたは、休息は本当に必要なはずです。

 本体や分体がたまに休めたとしても、それ以外のほとんどは休憩できていないじゃないですか。

 何割かだけが休んでいて、大半以上は常に働き続けている。そんな働き方であなたは大丈夫なんですか?

 

「休みたくないですか」

 

「いいえ、休憩は大切なので、適度にとっています」

 

「そうですか。無理はしないように……」

 

 温泉やカジノで休んだほうがいいですよ。きっとそうすることで、今以上の成果を出せるはずですから。

 

    ◇

 

「血まみれですね」

 

「魔王様。お見苦しい姿で申し訳ございません」

 

「いえ、許します。また侵入者の相手を?」

 

「はい。一人残さず殺しました」

 

 そこには何の感情もなく、ただ役目を果たすために殺しただけのようです。

 そして、今もまた侵入者を発見次第殺すのでしょう。無感情に……。

 

「息抜きは大切です。休憩するか、他のことをしてみるのはどうでしょうか?」

 

「お心遣い感謝いたします。ですが、私に休息は不要です。私は魔王軍の剣であり、他のことなど必要ありません。それに、この力で他に成せることなどありません」

 

「料理とかどうでしょうか?」

 

「それはマギレマの領分です。私の力では役立つことは難しいかと」

 

「そうですか。気が向いたら、手伝ってあげてください」

 

 私の言葉に、リピアネムはピンときていないようでした。

 料理。良いと思うんですけどね……。

 

    ◇

 

 一通り地底魔界を見て回る。

 そこにいたのは四天王に十魔将。それだけでなく、かつて失った全ての部下たち。

 ……いえ、かつて失ったというのが、そもそも間違いなのかもしれません。

 

 これが現実。

 私に許された魔王軍という存在……。

 夢を——見ていたんでしょうね。

 あまりにも、自分に都合の良い楽しい夢を……。

 

「レイ……」

 

 そんな都合の良い存在、私の前に現れるはずないのに。

 夢が覚めたら、こうして余計に辛くなるだけなのに、なぜあんなにも楽しい日々の夢を見てしまったのか。

 いっそ全てを投げ出して、何も考えたくなくなってくる。

 だけど……それだけは、やってはいけない。

 

 あの子のためにも……。私はがんばって、この永遠を生き続けるんだ。

 

「大丈夫。大丈夫。お姉ちゃんは強いですから」

 

 それだけが、私の心の支えなのだから。

 

    ◇

 

「——ま」

 

 また、ぼんやりしてしまっていたらしい。

 意識にもやがかかっている気がする。遠くから声が聞こえる。

 

「——様」

 

 部下が私を呼んでいる?

 珍しいですね。向こうから話しかけるということは、何かの報告でしょうけど……。

 雑談なんて、あり得ないことだけはわかっています。

 

「フィオナ様!」

 

「はい!」

 

 意識が覚醒する。

 えっと、なんかやけに感情がこもった呼び方ですね……。

 レイ。

 

「お、おはようございます?」

 

「おはようございます。大丈夫ですか? 久しぶりにうなされていたみたいですけど」

 

 うなされていた……。あれ? 起きる直前まで、私は何を考えていましたっけ。

 なんだか、とても恐ろしい夢を見ていたような……。

 

「あ、手」

 

 そうしてようやく、自分の手をレイが握ってくれていたことに気付きました。

 

「ああ、すみません。つい」

 

 そう言って離そうとしたため、軽く力を入れて握っておきます。

 痛みは微塵も感じていないでしょうが、レイの力では抜け出せないでしょうね。

 

「あの……離せないんですけど」

 

「ええ。離せないようにしました」

 

「なんでですか……」

 

「なんででしょうね?」

 

 なんとなく、もう少し握っていたかったのでしょうか?

 いえ、これはあれです。レイが私の手を握ったということは、レイも私の手を握りたかったということ。

 ならば魔王として、日頃がんばっている宰相への労いというか褒美というか、私の手を握る時間を増やしてあげただけです。

 

「ええと、ご褒美です」

 

「それは俺への? フィオナ様への?」

 

「……両方?」

 

 呆れた顔をされるも、嫌がってはいない。

 い、いいじゃないですか! 二人とも嫌がっていないなら、お得じゃないですか!

 

「このままだと、動けませんけど」

 

「いっそ、このまま一緒に寝るというのは?」

 

「駄目です」

 

 え~……。真面目ですねえ。

 魔族だって人類だって、二度寝の誘惑というのは甘美なものだと思いますけど?

 そんな不満が伝わったのか、レイはため息をついてから提案をしました。

 

「今日も一緒に寝ますから。それでいいですね?」

 

「ほほう? つまり、レイは一日ごとではなく、毎日私と一緒に寝たくなった。ということですね」

 

「まあ、さすがにちょっと心配なので、しばらくはそれでもいいですけど」

 

 心配される理由はわかりませんが、それならそれで望むところです。

 ということであれば、さっさと起きて今日も一日がんばりますかね。

 楽しい地底魔界での日々。きっと今日も素敵な一日になることでしょう。

 

 ——悪夢を見ていた気がしますが、もうすっかりと内容は頭の中から消えてしまっていました。

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