【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「む、朝ですか」
朝ですか? ベッドで寝ていたはずなのですが、玉座に座っていますね。
あれ? ついに無意識のうちに、朝の支度をすませられるようになりましたか?
私も、魔王としてまだまだ成長中ということに……。
つまり、魔力が一万になる日もそう遠くありませんね。
「ふっふっふ……見てなさい。私も、蘇生薬を大量に引きますから」
その声は、玉座の間の静寂をわずかに揺るがすだけでした。
……さすがにレイの反応がないと、こんなことを言ってもつまらないですね。
とりあえず、レイを呼びましょう。宰相ですからね。魔王の傍にずっといるのは当然のことです。
まあ、仕事で離れたいというのであれば、がんばって我慢しますけど?
今は、朝の空き時間のはずなので、さっそくピルカヤに頼んで呼んでもらいましょう。
「ピルカヤ~」
「はい、魔王様」
現れた精霊は、私に一礼し硬い表情で反応を伺う。
……表情豊かな精霊である彼が、そんな顔をしている。
珍しい。とは思わない。だってこれは、散々見てきた顔だから。
——嫌な予感がする。
「……レイを、呼んでもらえますか?」
「レイって誰ですか?」
嫌な予感が加速する。
落ち着きなさい。きっとそういうことなのでしょう。
「……地底魔界の様子を報告してください」
「はい。四天王は、部下たちを指揮して侵入者を撃退しています。勇者はいまだ侵入していないため、兵隊や各国の強者相手に直接戦闘を行っているのは、十魔将とその部下です」
「転生者の様子は?」
「大転生の兆候はいまだ見られず、人間たちが匿っている様子もありません」
……まあ、そうですよね。
表情が硬い。このピルカヤをよく知っている。
私に仕えていたとき、彼の表情はころころと変化しなかったのですから。
「そうですか。ピルカヤ、今楽しいですか?」
「楽しい……? 質問の意味がわかりません」
「そうですね。もうけっこうです。ありがとうございました」
その言葉に、ピルカヤはやはり一礼をしてから去っていった。
異変なら良い。異変なら解決すれば、まだなんとかなる。
だけど……。
◇
「魔王様。玉座の間で控えていてください。万が一勇者たちが来たら危険です」
「ええ、少し用事がありまして。プリミラ、あなたの趣味はなんですか?」
「ありません。今は人類との戦争中、私の趣味などどうでもいいことです」
どうでもよくありません。あなたの趣味は、魔力や食料供給に大いに役立つものです。
それは、とても素晴らしい趣味なのですよ?
◇
「少し休んだらどうですか? リグマ」
「魔王様。いいえ、俺は分体を作れるため、ローテーションで休憩できています」
それは、本当に休めているんですか?
ピルカヤと違って精霊ではなく、スライムであるあなたは、休息は本当に必要なはずです。
本体や分体がたまに休めたとしても、それ以外のほとんどは休憩できていないじゃないですか。
何割かだけが休んでいて、大半以上は常に働き続けている。そんな働き方であなたは大丈夫なんですか?
「休みたくないですか」
「いいえ、休憩は大切なので、適度にとっています」
「そうですか。無理はしないように……」
温泉やカジノで休んだほうがいいですよ。きっとそうすることで、今以上の成果を出せるはずですから。
◇
「血まみれですね」
「魔王様。お見苦しい姿で申し訳ございません」
「いえ、許します。また侵入者の相手を?」
「はい。一人残さず殺しました」
そこには何の感情もなく、ただ役目を果たすために殺しただけのようです。
そして、今もまた侵入者を発見次第殺すのでしょう。無感情に……。
「息抜きは大切です。休憩するか、他のことをしてみるのはどうでしょうか?」
「お心遣い感謝いたします。ですが、私に休息は不要です。私は魔王軍の剣であり、他のことなど必要ありません。それに、この力で他に成せることなどありません」
「料理とかどうでしょうか?」
「それはマギレマの領分です。私の力では役立つことは難しいかと」
「そうですか。気が向いたら、手伝ってあげてください」
私の言葉に、リピアネムはピンときていないようでした。
料理。良いと思うんですけどね……。
◇
一通り地底魔界を見て回る。
そこにいたのは四天王に十魔将。それだけでなく、かつて失った全ての部下たち。
……いえ、かつて失ったというのが、そもそも間違いなのかもしれません。
これが現実。
私に許された魔王軍という存在……。
夢を——見ていたんでしょうね。
あまりにも、自分に都合の良い楽しい夢を……。
「レイ……」
そんな都合の良い存在、私の前に現れるはずないのに。
夢が覚めたら、こうして余計に辛くなるだけなのに、なぜあんなにも楽しい日々の夢を見てしまったのか。
いっそ全てを投げ出して、何も考えたくなくなってくる。
だけど……それだけは、やってはいけない。
あの子のためにも……。私はがんばって、この永遠を生き続けるんだ。
「大丈夫。大丈夫。お姉ちゃんは強いですから」
それだけが、私の心の支えなのだから。
◇
「——ま」
また、ぼんやりしてしまっていたらしい。
意識にもやがかかっている気がする。遠くから声が聞こえる。
「——様」
部下が私を呼んでいる?
珍しいですね。向こうから話しかけるということは、何かの報告でしょうけど……。
雑談なんて、あり得ないことだけはわかっています。
「フィオナ様!」
「はい!」
意識が覚醒する。
えっと、なんかやけに感情がこもった呼び方ですね……。
レイ。
「お、おはようございます?」
「おはようございます。大丈夫ですか? 久しぶりにうなされていたみたいですけど」
うなされていた……。あれ? 起きる直前まで、私は何を考えていましたっけ。
なんだか、とても恐ろしい夢を見ていたような……。
「あ、手」
そうしてようやく、自分の手をレイが握ってくれていたことに気付きました。
「ああ、すみません。つい」
そう言って離そうとしたため、軽く力を入れて握っておきます。
痛みは微塵も感じていないでしょうが、レイの力では抜け出せないでしょうね。
「あの……離せないんですけど」
「ええ。離せないようにしました」
「なんでですか……」
「なんででしょうね?」
なんとなく、もう少し握っていたかったのでしょうか?
いえ、これはあれです。レイが私の手を握ったということは、レイも私の手を握りたかったということ。
ならば魔王として、日頃がんばっている宰相への労いというか褒美というか、私の手を握る時間を増やしてあげただけです。
「ええと、ご褒美です」
「それは俺への? フィオナ様への?」
「……両方?」
呆れた顔をされるも、嫌がってはいない。
い、いいじゃないですか! 二人とも嫌がっていないなら、お得じゃないですか!
「このままだと、動けませんけど」
「いっそ、このまま一緒に寝るというのは?」
「駄目です」
え~……。真面目ですねえ。
魔族だって人類だって、二度寝の誘惑というのは甘美なものだと思いますけど?
そんな不満が伝わったのか、レイはため息をついてから提案をしました。
「今日も一緒に寝ますから。それでいいですね?」
「ほほう? つまり、レイは一日ごとではなく、毎日私と一緒に寝たくなった。ということですね」
「まあ、さすがにちょっと心配なので、しばらくはそれでもいいですけど」
心配される理由はわかりませんが、それならそれで望むところです。
ということであれば、さっさと起きて今日も一日がんばりますかね。
楽しい地底魔界での日々。きっと今日も素敵な一日になることでしょう。
——悪夢を見ていた気がしますが、もうすっかりと内容は頭の中から消えてしまっていました。