【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「そうか。それじゃあ喜びのダンジョンは、ローグライクだな」
いや、マップが毎回変わるわけでもないし、ローグライト?
まあとにかく、ゲームに精通していそうな者が、手掛けていそうではあるな。
「ペドロさん。それって、やっぱり転生者のしわざでしょうか?」
「まあ、その可能性は高いんじゃないか?」
欲望のダンジョンのロペスといい、好き放題やってくれる。
女神に言われたことを忘れているのか、それともあえて無視しているのか。
とにかくそいつらは、魔王退治をすることもなく、この世界で好き勝手に生きているということ。
喜びのダンジョンのほうの目的はわからないけれど、欲望のダンジョンのほうは実に目に余る。
どんな手を使ってでも、自分だけが稼げればいいという考えは、実に不愉快だ。
「違法品を売るように仕向けたハーフリングは?」
「連絡が途絶えました。探し続けているのですが、どこにも姿が見えず……。逃げたんですかね?」
「いや、おそらく失敗して殺されたんだろ」
きっと、ロペスかその仲間のしわざだ。
現地の住民にも容赦なく手を下す。本当に、勝手が過ぎる。
やはり、あれはよくない。この世界で魔王退治以外で成功して、それを独り占めするだなんて許せない。
「まったく……。卑怯な手で成り上がって、その儲けを他の転生者たちに分け与えることすらしないなんて」
「そうですね。やっぱり、俺たちでなんとかしましょうよ」
こちらは、魔王退治のために必死に努力しているというのに。
あちらは、最初から魔王退治をする気もなく、何の気兼ねもなく転生者の力を振舞って商売し、儲けて、それらを独占する。
良くない。実に良くない。
「……目に余るな。どうせ卑怯にも魔王退治から逃げ出したやつだ。俺たちで倒してしまおう」
「ペドロさん。私たちに会いたいというやつが来ました」
出鼻をくじかれた。
こんなときに来客? だが無碍にもできない。
もしかしたら、こいつらみたいに、俺の傘下に入って魔王退治や不正をする転生者を狩ってくれるやつかもしれないからな。
「わかった。いつも通りだ。俺が直接会って話す」
そうして仲間に招かせたのは、金髪の美しい女だった。
……へえ。いいじゃないか。
「俺に用があるんだって?」
「ええ、初めまして。私はルイス・アラーニャと申します」
「ペドロだ」
転生者なのか、現地の者なのか、まだわからないな。
転生者のほとんどは日本人なので、そちらは名前の響きでわかる。
だけど、俺やロペスみたいに、たまに日本以外からの転生者もいるため、そちらはこの世界の住民の名前なのか判断が難しい。
「それで、用件は?」
「あなたたちの行動が目に余るので、忠告に来ました」
奇しくも、俺がロペスに抱いていたのと同じ感情らしい。
だが、不愉快だ。俺たちの行動が目に余る?
魔王退治のために、仲間を募って努力をしている俺たちの批判だと?
「あなたたちは、この世界の者を利用して、違法品を売るように唆しましたね?」
「……仕方ないだろう。ロペスとかいう卑怯者が、この世界の人間相手に好き放題しているんだ。あいつの評判を落とすためには必要だったんだよ」
どこから聞いてきたのか、こうして俺のところまでたどり着いたのは、相当に優秀な女らしいな。
それとも、あのハーフリングが口を滑らせたか? 本当に、何の役にも立たないやつだったな。あいつは。
「真っ当に生きることです。この世界は、この世界の秩序があります。違法品を売りさばくなど、私たち外の世界の者が世界を乱す行為は慎みなさい」
……うざいな。こいつ。
言っているだろ? そうでもしないと、ロペスが成功してしまうんだ。
いや、すでに成功しているロペスを失墜させるには、必要なことだったんだ。
だが、聞く耳は持ちそうもない。
——面倒だ。こいつ、見た目は良いから期待したんだが、中身が駄目だな。
「話にならない。帰ってくれ。俺たちは魔王退治のために忙しいんだ。お前みたいに暇じゃない」
「どうしても忠告を聞くつもりはないということですか」
「そうなるな。いっそ、力ずくで聞かせてみるか?」
「……いいでしょう。今後もあなたたちがこの世界を乱すのであれば、私はあなたたちという外来種を処理しないといけません」
……転生者って話だったよな?
まるでこの世界の代表みたいな口ぶりだ。なんて傲慢な女なんだ。
だが、こうして自信がありそうなあたり、女神から強力な加護でももらったのか?
いつも通り、油断なく殺したほうが良いな。
「わかった。なら、この空間の中でやるぞ。暴れまわって周囲を壊されると俺も迷惑だ」
女神の加護、空間作成。
ある程度の広さの空間を作り出せる便利な代物だ。
さっきの言葉が本心なら、こいつもこの世界で暴れたくはないだろう。
だが、女は動かない。この空間の入り口を観察するように見つめ続けた。
「どうした? まさか、いまさら怖気づいたか?」
「この中に入った途端、私が閉じ込められる。あるいは、中が危険ではないという保証がありません」
「それは信じてもらうしかないな。正々堂々と一対一で戦うための空間だ。疑っているというのなら、俺が先に入ってやる。まさか、今さら逃げるとか言うなよ?」
軽く挑発してやって、俺は空間の中へと足を踏み入れた。
あいつが言っているように、これで攻撃できたり閉じ込めたりできればよかったが、残念ながらそんな効果はない。
あくまでも、空間を作り出すだけだから、中で敵を倒す場合は自身の実力で戦わないといけない。
まあ、俺一人しか入らない場合はだけどな。
「ペドロさん。ここに来たってことは、あの女は殺すんですか?」
「ああ。話通じねえし駄目だわ。あいつ」
中にはすでに俺の仲間たちが待機している。
俺自身が戦うための加護でないというのであれば、仲間たちに任せれば良いだけだ。
のこのことこの中に入ってきたら、そのまま数で押し切ってやる。
「……正々堂々。一対一のはずでは?」
呆れたような雰囲気で、女はそんなことを言いだした。
馬鹿だなこいつ。そんなの勝てばどうでもいいことだろ。
「こいつらは俺の仲間だからな。俺が一人で戦うことを心配して来てくれたんだ。だから、一対一の約束は無しだ」
「はあ……。そんなことだろうと思っていました」
それがわかっていてここに足を踏み入れたんだ。
なら、遠慮なく倒しても問題ないな。
「お前ら、やっちまえ」
◇
「粛清は終わりです。これで、この世界がまた一つ正されました」
さて、あと一人すませたら、ペドロが言っていたロペスとやらの調査といきますかね。
可能であれば、喜びのダンジョンを作ったであろう転生者も、調べておきたいところです。
動かなくなった男たちを適当な場所に捨てて、私は次の行動へと移りました。
◇
「ロペスが前に仕入れた魔本なんだけど」
「ああ、俺というか俺が引き込んじまったトラブルだな」
ロペスはそんなことを言って、ばつが悪そうな顔をする。
だが、クララと協力して相手の企みは未然に防げたし、有用な魔本だけが手に入ったし、特に問題ないんだけどなあ。
「魔本という成果だけが手に入ったから、そこはむしろ評価するところなんだが」
「そう言ってもらうと助かるねえ。それで、あの魔本がどうかしたかい?」
「フィオナ様やダスカロスが言うには、あれって効果はふざけているけれど、魔法自体はかなり精度が高いらしいんだ」
「そうなのかい? 俺には魔法のことはよくわからないが」
俺にもよくわからない。
だけど、あのときの俺はたしかに、女性であることに何の疑いもなかった。
まるで生まれたときからずっと女性だと思うくらいには、意識がしっかりと変わっていた。
それでいて、それ以外はしっかりと何も変わっていない。
どうやら、そこまで手が込んだ魔本というのは、作成者がとても魔法というか術式に精通しているらしい。
効果はちょっとお馬鹿だけど、魔法に優秀な者が、本気で仕込んだものということになる。
「あれの出どころってわからないよな?」
「そうだなあ。あいつ、珍品を集めるにしても適当に漁っただけらしいし。例の違法品については、唆した誰かに渡されたものみたいだからなあ」
何の情報も得られず役に立たないやつだった。とロペスはため息をつきながらこぼした。
たしか、ロペスというか転生者の成功を妬んだ者のしわざという話だったな。
あれ以来、こちらに何かを仕掛けてくる者はいない。
諦めてくれたのなら良いが、探っているというのなら、ちょっと面倒だ。
「ロペスには表に出て稼いでもらっている。悪いが、あの手のちょっかいをかけてくる連中もいるだろうから、何かあったら教えてくれ」
「おう。そういうの慣れてるんだ。気にしないでくれよ、ボス」
ロペスを目立つようにしているのも、そこを信頼しているからだ。
時任や原たちも店を経営して成功しているが、ロペスほどは目立っていない。
だから、今後もまずはロペスが狙われるだろう。
囮のようにしてしまっている以上は、こちらがしっかりと守らないとな。
「ウルラガも、ロペスの用心棒頼むぞ」
「おう。だが、最近じゃ仕事なくて暇だけどな」
「暇な方が俺としては助かるけどねえ」
◇
「ということで、魔本の製作者はやっぱり不明ですね」
「そうですか。う~ん……。それほど魔術が優秀な者なら、あるいはガシャを改善できるかと思っていたのですが」
「そんなこと思っていたんですか」
趣味に全力すぎると思ったが、たしかに改善されるなら有益ではあるんだよなあ。
魔王軍の復興も進むし、なんなら影冠樹みたいな面白いアイテムが今後も増えるかもしれないからな。
「それに、私は女の子のほうのレイも好きですし」
「……それは、どう受け止めれば良いのか困ります」
「レイなら、性別も種族も関係なく好きですからね! 素直に喜んでいいですよ?」
それだけ信頼されているのなら、たしかにありがたいことか。
「ということで、今日はレイちゃんのほうになって、一緒に寝てみますか?」
「女になったときは、フィオナ様が変なところ触ってくるから嫌です」
「い、いえ……。あれは、女性同士のスキンシップですし」
「……はぁ。今回だけですよ?」
「お触りの許可が!」
「違います」
そういう意味の今回だけではない。
と言ったのに……この魔族、思う存分私のこと触って堪能してくるんだよなあ。
まあ、性別が変わっている間は変な気分にならないし、問題無いと言えば問題無いか。
……ただ、なんかちょっとフィオナ様がいつもより怖いような気がする。
なんだろう。……肉食獣?