【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「なあ、レンシャの姐御」
「あら何かしら? もしかして、また宝箱の限定イベントでもするの?」
「いや、悪いがそういうわけじゃない」
「なんだ」
ロペスの言葉に目に見えてガッカリしているようだけど、良い客である証なんだろうねえ。
魔王様といい、近くで同じようにガッカリしているリズワン王といい、のめり込みすぎて心配になるよ。
「テイランって独自の魔術を使うし、わりと魔力関係に強いのかい?」
その言葉に、レンシャは真剣な表情へと変わった。
欲望のダンジョンのカジノ客であるレンシャから、テンユウの従者であるレンシャへと変わったのだろう。
警戒というわけではなく、意識が切り替わっているというべきか。
「前にも言ったけれど、うちの魔術は教えられないことも多いわよ?」
「ああ、そのへんは全て姐御に任せる。だから、こっちが変な質問した場合は、答えられないと言ってくれ」
「まあ、それなら聞くだけ聞いてみるけど」
あくまでも世間話。そんなロペスの態度に、レンシャのほうも多少は緊張を緩和させたみたいだ。
彼のこういう取り入る姿勢は、相変わらず上手い。
だからこそ、女王であり迫害種である私にも、分け隔てなく接してくれるんだろう。
きっと私は、そういう態度を……。いや、なんでもないけど。なんでもないけど!
「じょ、女王様。大丈夫かい? なんか、うろたえてるけど」
「はあ? うろたえてないけど? なんでもないけど!?」
「お、おう……」
まったく、なんでもないって言ってるだろ。
なんだい。なんで、私の部下たちは残念そうな目で、私を見ているのかな?
「えっと、それじゃあ話の続きだが、テイランって魔本とか作ったりするかい?」
「変なこと聞くのねえ」
ロペスの質問に、レンシャは完全に気が抜けた顔に戻った。
まあそうだろうね。国の技術を聞かれると身構えていたのに、出てきたのは魔本の話なんだから。
「趣味で作ってる人はいるでしょうけど、だいたいはうち以外の国と同じような扱いよ?」
「悪いが、俺にはその普通がよくわかってねえんだ。なんせ、魔本も魔法もない世界の人間だからな」
「ああ、そういえばあなた転生者だったわね」
なまじ馴染みすぎているせいか、レンシャも今思い出したように言った。
なんなら、リズワンもそういえばと言っているね。
「魔本ならうちの国にもあるが、あれは魔力研究の一環でくだらない魔法を込めるものだ」
「そうよね。サンセライオもテイランも、他の国も同じだと思うわ」
「なんでそんなことを? 有用な魔法を込めたら、便利そうじゃないか」
「他人の手に渡ったら危険だからな。だが、技術は磨きたい。その結果、危険性はなくおかしな効果で溢れている」
うちにはなかったけれど、ヤニシアにいたころはわりと作られていたからねえ。
自分で言うのもなんだけど、遊び心が無いエルフですら作っていたのだから、魔本自体はどこも共通なんだろうね。
「魔法使いたちの訓練の一環ってわけか」
「まあ、そんなところだな。術式を構築し、それを正しく本に込める。そうした鍛錬をする者もそれなりにいるということだ」
「あとは、なにかしら形に残したいという欲ね。中には、手をかけすぎたりとのめり込む者もいるわ。うちの……いえ、なんでもない」
レンシャが何か言いかけた。
だけど、すぐに言葉を中断したところを見るに、漏らすべきではないテイランの情報だったのかもしれない。
「さっきも言ったが、俺はそういう物に馴染みが無くてね。仲間も含めてわりと興味を持っている」
「仕入れたいってこと? でも、きっとろくな効果じゃないわよ?」
「仕入れもいいんだが、腕の良い製作者を雇えねえかなって思って」
「駄目」
それまでは協力的な態度だったのに、きっぱりと断るね。
もしかして、彼女の同僚かな。さっき言いかけていた魔本作りが趣味であろう者は。
そりゃあ断りもするだろうね。勇者のパーティの引き抜きなんて……。
ほら、リズワン王が自分の国に招きたそうにしている。
「駄目だからね。リズワン」
「わかっているとも。我慢しよう。だが、気が向いたらいつでも俺の国は歓迎するぞ」
「さてはわかってないでしょ。あんた」
「あ~。なんか誘ったらまずい相手ってことはわかった。そうだなあ。宝箱の質を向上したり、注ぐ魔力の改善をする魔術を考えてもらおうと思ったが、やめておく」
「そんなの私が教えてもらいたいんだけど!」
「実に良い魔術ではないか! ……だが、その手の実用的なものは、わざわざ他者が使える形で残さんだろうなあ」
まあ、つまるところそういうことだろうね。
なんというか、くだらないおふざけの魔術を込めるのが魔本の定石だ。
だからこそ、わりと手を抜いたものも多いわけだけど……。
その中で、あの魔本は効果こそ他と同じだが、込めてあった魔術がどうにも洗練されていて完璧だった。
なんでも、意識すら変えているようだからね。元から変化後の性別だったと思えるとか、そういう細かなところまで突き詰めているのは、他には見ないほど手が込んでいる。
◇
「ってことみたいだ。そもそも有用な魔術を込めた魔本は無いってさ」
「他人も自由に使えるとなると、製作者もなんらかの被害を被る可能性もあるしな。まあ、そういうものだと割り切るべきか」
「ところで、ボスはなんでまた女性の姿に?」
「フィオナ様が私にセクハラをするためだ」
「そ、そうかい……。なんか邪魔して悪かったな」
「人聞きの悪いことを! ロペスもロペスで、当たり前のように受け入れているのは、どうなんですかねえ!」
フィオナ様の言葉にロペスがびくっと体を震わせる。
だが、何も間違っていないのだから仕方ないでしょう。
「私の体、やけに触ってくるじゃないですか」
「女同士なんだから良いじゃないですか!」
「私は別に構いませんが、一般的にはセクハラの部類です」
「嫌なんですか!?」
「構わないと言っているじゃないですか」
フィオナ様をあしらいながら、ロペスに目で促す。面倒だから退室したほうがいいぞ。
それに気付いたらしく、ロペスは私に頭を下げて去っていった。
さて、思う存分フィオナ様にセクハラされるか。
男のときと違って変な気分にならないから、何をされても問題ないしな。
「まったくもう。私がひどい魔王のように言って」
「そもそも魔王って、世間一般からしたらそういう印象でしょうけどね」
「世間一般の評価はどうでもいいですけど、レイからの評価だけは大事なんです!」
残念ながら私からの評価はセクハラ魔王様です。
もまないでください。私が女性じゃなかったら、煩悩を追い出すのに必死でしたよ?
……なんか、本当に手つきがいやらしいというか。
……いや、女同士だ。変なことを考えるな私。
「おや? 今の反応、かわいいですね」
「へ、変なこと言わないでください……」
魔王め……。実に意地が悪いじゃないか。
◇
「テンユウ様……。また魔本作りですか」
「ええ、今度のはすごいわよ! 味覚が変わるの!」
「味覚……。どういう効果でしょうか?」
「何を食べてもお菓子の味になるわ」
「……何に使えば良いんですか?」
「あのねえレンシャ。魔本に込めた魔術に意味を求めてはいけないわ。でも、中身は完璧だから安心して」
「ええと、例えば飢餓で苦しんでいる国に与えて、土や草を美味しく食べるとか?」
「栄養にはならないわね。残念ながら、その手の苦しみを救うことには向いてないわ」
「じゃあ意味は……」
「ないわよ? 私が満足しているだけ」
「はあ……」
「反応薄いわね~。さて、また適当に愛でてから、どこかの国に流しちゃおうかしら」
「そういえば、前に作った性別変化の魔本って、テンユウ様は使わないんですか?」
「ええ。だって、アタシはアタシの性別を気に入っているもの」