【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「テクニティスなら、魔本も作れるんじゃないのか?」
「作れるっすよ~。どんな魔本が良いっすか?」
魔力関連に長けているし、テクニティスならあるいはと思ったが、やはり可能らしい。
そんなテクニティスから見て、例の性別変化の魔本ってどんな評価なんだろう?
「テクニティスは、前に仕入れた魔本どう思う?」
「あ~、あれは相当凝ってるっすねえ。自分にも、あれほどのものは作れないかもしれないっす」
「テクニティスがそう言うほどか」
「違和感なく意識まで切り替えさせるというのが、一流の仕事っすね」
魔本を使っているときは、俺が本当に女だと思えてくるからなあ。
時任も同じだったようだし、単に体が変化するだけでないのは、やはり特殊みたいだ。
そこまで話していると、フィオナ様が期待を込めながら口を開く。
「それではテクニティス。私の魔力をあと一増やせる魔本を作ってください」
「無理っす」
「つ、作れるという話では……?」
「魔王様のお力に干渉する魔本なんて、自分には作れないっすよ……」
だよなあ。ということで、諦めてください。
なんですか。その不満そうな顔は、俺はともかくテクニティスがかわいそうじゃないですか。
「魔本がそんなに実用的なら、もっと流行ってるんじゃないですか?」
「うぅ……。テクニティスほどの実力者でも無理とは」
「申し訳ないっす」
「無茶ぶりだから、気にしないで良いぞ」
そもそも魔本はおふざけだと言ったじゃないですか。
ステータスの底上げなんてできるなら、それはもう魔本の方向性とは別でしょう。
「あ、あの。最優先で魔本の作成に取り掛かったほうがいいっすか?」
「いや、優先度は最低だから。フィオナ様を甘やかさないでくれ」
「魔王なんですけど!」
でも、あなたそれを振りかざすの嫌いじゃないですか。
そんな俺の目線に気付いたのか、フィオナ様は悔しそうにうなだれるのだった。
「テクニティス、ありがとうございました。良いでしょう。今後も宝箱に正々堂々と正面から挑んでやりますとも」
「も、申し訳ないっす」
「気にしないで良いぞ。いつもの発作だ」
ここのところハズレばっかりだからなあ。
さすがのフィオナ様も気が滅入って来ていたのかもしれない。
◇
「ということで、気分転換でもしますか?」
「おや、レイがそんな提案をするなんて珍しいですね」
「まあ、宰相ですから。魔王様のためとあれば、そんな提案もしますよ」
「じゃあ一緒に宝箱を……うそうそ! 冗談じゃないですか!」
良かった。仕事に戻ろうとしていたところだ。
俺の腕をつかんで引き留めるフィオナ様に、俺も少しだけほっとした。
それじゃあ、フィオナ様の気が済むまで、気分転換に付き合うとしよう。
「本でも読みます? 娯楽室やジム、あるいは魔導映写館にでも行きます?」
「う~ん。あなたと一緒なら、どれも楽しいので迷いますね」
……なんだろう。ちょっと、いやけっこう嬉しい言葉をいただけた。
こういうことを自然に言ってくるので、ちょっと注意が必要なんだよなあ。
気を引き締めないと、なんか変な勘違いをしそうだ。
「まあ、俺もフィオナ様と一緒なら、なんだって楽しいですけど」
「またそうやって、勘違いさせるような発言を……」
勘違い……。ああ、いつもならそれならガシャを、とか言うもんな。
きっと、今回もそれを言いかけて踏みとどまったんだろう。
「ふむ……魔本ですか」
「駄目ですよ? テクニティスがかわいそうなので、無茶な要求はしないでください」
「わ、わかってますよ。私は暴君じゃありませんので」
それは重々承知なんだけど、ガシャのことになるとわりと無茶ぶりするからなあ。
そんな疑念の目は、フィオナ様に内心を読み取らせるには十分だったらしく、俺の頬は暴君につねられた。
「レイは私のこと好きですよね?」
「今嫌いになりそうです」
「ええ!? つ、つねるのやめます?」
「あ、ごめんなさい。嘘です。大好きです」
いつもの軽口のはずなのに、慌てて指を引っこめようとするので訂正する。
たまに変なところで弱気なんだよなあ。この魔王様。
「まったく、驚かせないでくださいよ」
「それで、俺がフィオナ様のこと好きなことが、どうかしたんですか?」
「そうですねえ。私もレイのことは好きです」
「それはどうも」
相変わらず、俺は魔王様のお気に入りの存在として認識してもらえているらしい。
宝箱やらダンジョンやらと、これまで励んできた甲斐があるというものだ。
「レイちゃんになっても好きなので、性別無関係に好きです」
「ありがとうございます」
まあ、能力と性別は無関係だからな。
あの魔本では性別が変わるだけで、今までどおりにダンジョンマスターの力を使えたし。
「レイも、私であればどんな姿でも好きなのではないですか?」
「それはまあ……。そうですね」
例えば、フィオナ様がリピアネムのように、かっこいいドラゴンになっても好きだからな。
なれるのか? まさか、ついにフィオナ様に待望の第二形態が!?
「どうぞ。変身してください」
「さすがは私のレイです。すでに、私の考えを読んでいましたか」
やはり。変身するっぽい。
どんな姿なんだろう。今のフィオナ様が美しいから、凶悪な魔王としての姿だろうか。
それとも、さらに美しくなってしまうんだろうか。
リピアネムみたいに、まったく別の姿か?
◇
「まあ、かっこいいんですけどねえ……」
「おや、なにか不満そうですね?」
不満というか、なんか思っていたのと違っていただけだ。
フィオナ様の姿はたしかに変化した。
これまでの女性らしさは消えてなくなり、美しいというかかっこいい男性の姿になっている。
「さて、それではお互いにこの姿で地底魔界を楽しみましょうか。レイちゃん」
そして私は、またも女性の姿になっている。
フィオナ様の変身。それは、魔本の力を解析して、自力で性別変化の魔術を行使したというだけだった。
私のほうは私のほうで、魔本を使って女性の姿に変化している。
なので、今は互いの性別が反転した状態だ。
「男性の姿の私はどうですか?」
「かっこいいです」
「あなたもかわいいですよ。レイ」
……なんか、女性同士のときと違って、今のフィオナ様に褒められると異様に恥ずかしくなる。
というか、顔が熱いからたぶん赤面しかけている。
「フィ、フィオナ様のくせに!」
「……駄目ですよ? レイちゃんの姿でそんな反応をされたら、なんか変な気分になります」
フィオナ様が、私に近づく。
顔が良い。とても良い。というか近い……。
それでいて、逃げ道は伸ばした腕でふさがれている。
なんか……思考がうまくまとまらない程度には、動揺しそうになっている。
「ええと……そうだ。フィオナ様は、一人称が私のままなんですね」
「そうやって、ごまかそうとするところもかわいいですね」
顎に指を添えないでください!
目を背けると、フィオナ様はなにかに堪えるような顔をしていた。
「ええと……。これ以上は、私も本気で危険なのでやめておきますね」
「危険? 大丈夫ですか? フィオナ様が無理しているのなら、すぐにその魔法を解除したほうが……」
「ああ、もう! 本当にかわいい子ですね。この子は!」
めちゃくちゃ頭をなでられた。
なんだ、いつものフィオナ様じゃないか。良かった。どうやら調子が悪いわけでもなさそうだ。
「ええと……。一人称ですが、私という男性もいるじゃないですか。ダスカロスとかテラペイアとか」
「ああ、たしかに。でも、時任は一人称も変わっていましたよ?」
それに、俺という女性だっていそうだし。
「性格にあった一人称になるのかもしれませんね」
「なるほど。今のフィオナ様、綺麗でかっこいいので、私という一人称が似合いますからね」
離れられた。なんで?
「今の私をあまり褒めないように、あまり無防備すぎるとあなたに襲いかかりかねません」
「えっ……。男性化したことで、戦闘本能でも増えました?」
なら、イピレティスあたりに任せたい。
私が襲われたら、一瞬で死ぬぞ。まあ、不死鳥の羽があるから問題ないし。
フィオナ様が、私を殺したいというのであれば、別に受け入れるけれど。
「イピレティスとでも戦います?」
「いえ、あの子も一緒になると、レイが私たち二人に襲われます。まあ、イピレティスにも分けてあげませんけどね!」
え、私ってもしかして強者を惹きつける何かがあるの?
しかも、強欲な魔王様として、独り占めしそうになるほどの何かが……。
「……私、この姿ではリピアネムとかオーガに会わないほうが良いですかね」
「そうですねえ。私だけのものにしたいですし、それも良いのかもしれません」
こうして私は、フィオナ様と二人きりで楽しく過ごすように心がけた。
……のだが、なんか走ってやってきたプネヴマが、私たちの姿を見た瞬間に倒れた。
「フィオナ様。プネヴマも危険ですか?」
「いいえ。この子は、いつも通りなので平気です」
まあ、いつもより汚い声で倒れていたけれど、危険な倒れ方じゃないみたいだし、テラペイアに渡しておくか……。