【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「
「テンユウ様……はい。今日は、調子が良いです」
アタシの来訪に慌てたように立ち上がろうとしたため、すぐにやめさせた。
今日は身体の調子も良さそうね。だけど、当然と言うべきか完治しているわけじゃない。
彼女は転生者であり、魔王討伐の戦力として期待されており、そのように育成している。
というのが、表向きの関係。
だけど、この子もただの被害者。この国の者たちと何も変わらないわ。
残念ながら、国の者たちはそうは思っていないから、アタシたちはこの子を戦力として育成しているふりは必要。
ほんと、かわいそうな子よねえ。
なんとなく、親近感を覚えてしまうのは、アタシと同じような状況だからかしら?
いえ、もっと辛い状況ね。
こちらは、勇者として人々に期待されて、面倒な戦いをこなさないといけない。
沙羅ちゃんも、転生者として同じく戦うことを望まれている。
だけど、見知らぬ地に送り込まれた、戦いすら知らない女の子だからねえ……。
女神~……。あんた、相当ひどいことしているって自覚ある? 無いんでしょうねえ……。
「それじゃあ、今日は魔術のお勉強しましょうか」
「はい。一日でも早く、テンユウ様のお力になれるよう、がんばります」
「がんばりすぎても良くないわよ~。気軽にいきましょ」
だってあなたは、不治の病なんだから。
あなただけじゃなく、アタシたち一部を除くこの国の全員がね……。
◇
「世良さ~ん。今日も温泉に入らせてくださ~い」
礼儀正しい言葉遣いだけど、どこか親しみやすくもある話し方の女性がやってきた。
常連ともいえるその女性は、テイラン出身であり、勇者であるテンユウさんの従者でもある。
「あ、スイリョウさん。体の調子が悪いんですか?」
「いえいえ。おかげさまで健康そのものです」
いいのかなあ?
ロペスくんが経営している温泉なら、うちよりもだいぶ安いのに。
治療のため以外で利用するなら、そっちのほうがお得なんだけど……。
「だったら、値段が高いこの場所じゃなくて、他の温泉を利用したほうがいいんじゃないかなあって」
ついつい、商売に向いてないなあと自分でも思うような発言をしてしまう。
だけど、スイリョウさんは首を横に振って、私の言葉を否定した。
「たしかに、ここ以外で有名な温泉として、欲望のダンジョンもありますけど、私はこっちの温泉のほうが良いので」
「そうですか? では、すみませんがお会計は先にお願いします」
「ええ、今日もよろしくお願いしますね」
いいのかなあ? 本人が納得しているのなら、きっといいんだよね。
私としては、うちでもロペスくんの温泉でも、魔王軍の稼ぎになるからどっちでも良いんだけど。
なんだか申し訳なくなってしまう。だって、スイリョウさんの狙いはたぶん達成できない。
うちの温泉はルトラさんが管理している。水の変化に関してはこちらに筒抜けになっちゃっている。
だから、スイリョウさんが、なんで健康になってもうちに通うかは、なんとなくわかっているんだよね……。
彼女は、温泉を少量持ち帰っているというのが、ルトラさんの考えだった。
温泉の量が減っているので、魔法で固定や圧縮をして、テイランに運んでいるみたい。
きっと、うちの温泉を解析しようとしているんだろうけど……快復の湯って、ルトラさんとテラペイアさんが都度調整して、効能を発揮するからなあ……。
だから、いくら温泉だけを調べても、同じものは再現できない。
「病気の人がいるのなら、ここに連れてきてくれたらいいのに……」
それとも、動けないほどの重病?
う~ん……。残念だけど、向こうから話してくれないと、こちらも何もできることはない。
そもそも、聖女の力を多少扱えるようになったとはいえ、私自身にはどんな病も治せる力はない。
レイさんが作った温泉を、ルトラさんとテラペイアさんが調整してるからこその快復の湯。
私にできるのは、ここにきたお客さんの対応をするくらいだからね……。
◇
「じゃあ、また温泉が持ち帰られたのか」
「はい。ルトラさんもそう言っていました」
世良の言葉を聞いて、少しだけ不安になるけれど、まあ解析が成功しても問題ないか。
ルトラとテラペイアが協力して、ようやく完璧な効果を発揮するらしいからな。快復の湯って。
俺が作った他の温泉と違って、あの温泉だけは効能を発揮するのに手間暇かける必要がある。
まあ、病を全て治すなんて効果なのだから、そのくらいは仕方なくもある。
「解析されているって話だっけ?」
「はい。ルトラさんは、そう思うって言っていました」
そのうえで問題ないと判断されている。ダスカロスも放置で良いと言うほどなので、いくら解析されても支障はないんだろう。
これで魔王軍が不利になるのなら、そもそも快復の湯なんて人類向けに営業していないからな。
いつぞやの病の能力みたいな転生者が、魔王軍にいるのなら話は別だけど、せいぜい食人花がダンジョンで花粉症の状態異常を付与するくらいだ。
解析は成功しないだろうし、万が一成功しても問題ない。
なら、スイリョウという女性の行為は、特に咎める必要もないだろうな。
「わかった。それじゃあ、特に干渉しなくていいぞ。報告ありがとう」
「はい、失礼します」
頭を下げてから、世良は玉座の間から退室した。
たぶん、この後は風間や原と一緒に行動するのだろう。
「テンユウの従者の三人、みんなうちの施設にハマっていますけど、もしかしたら各々が解析しているのかもしれませんね」
フィオナ様に向けて、思ったことを伝えてみる。
すると、フィオナ様は難しそうな顔で考え出した。
やはり勇者に関する事柄だからか、こうしてフィオナ様も真剣な表情で考え込むほどのことらしい。
「となると、レンシャも宝箱をテイランに再現しようと……。私も、テイランに通って宝箱ガシャをする日が、いずれ……?」
真剣に何考えてんだあんた。
「宝箱なら、俺がいつでもフィオナ様のために作るので、そんなことでテイランに通おうとしないでください」
あんた魔王だろ。
何を平然と勇者の国に通おうとしているんだよ。
ついに魔王が攻めてきたと、一気に戦争が近づくぞ。
「ふっ、私にはレイがいますからね。人類よりもはるかに良い生活、そんな夢の地底魔界が実現しています。うらやましいでしょう。人類たち」
抱きつきながら、魔王らしく人類を見下すようなこと言い始めた。
人類たちの生活にコンプレックスを抱いているみたいだからなあ。この魔王様。
だからこうして自慢できるような精神になったのは、きっと良いことなのだろう。
それで、その手はなんですか?
「さあ、出してください」
「宝箱ですよね?」
「ええ、私のためならいつでも出せると言いましたからね」
まあ、消費魔力は五なので、いつでも出せますけど……。
「出したところで、フィオナ様の魔力が無ければガシャできませんけど」
「大丈夫です。私には影冠樹がありますので」
「そっちは許可した覚えはありません」
「え~……。ここは、魔王を思う存分甘やかす場面では?」
甘やかしたら最後、かつての玉座みたいになるでしょう。
もう二人揃って正座しながらプリミラにお説教されるの、俺は嫌ですからね?
そんな俺の固い意思が伝わったのか、フィオナ様は宝箱を諦めた様子だった。
「じゃあ、他の手段で甘やかしてください!」
「とりあえず、フィオナ様の部屋に行きますか……」
そうして向かったフィオナ様の部屋で、俺はベッドに座らされたと思うと膝にフィオナ様が頭を乗せた。
相変わらず、この膝枕のどこが良いのかはわからない。まあ、そっちは良いですよ?
だけど、たまに顔を膝に埋めるのはやめてください。なんで匂い嗅ぐんですか。
なんか、動物みたいだなあ……。