【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「あなたのこと噂になっていますよ」
突然そんなことを言ったからか、目の前の転生者の男は訝しげに私を見る。
いや、にらみつけると言ったほうがいいのかもしれません。
この態度から、すでに他の転生者と同じく、この世界を乱す転生者ということが、なんとなく理解できました。
「なんだお前。エーニルキアかアルマセグシアの国民か?」
「いいえ、あなたと同じ転生者でルイス・アラーニャと申します」
「なんだ、お前も転生者かよ」
私の言葉に、向こうは興味を無さそうな反応を取る。
こちらが名乗っても、名乗り返すという考えすらないらしい。
どうやら、彼の中ではこの世界の住人だろうが、同じ境遇の転生者だろうが、等しく自分に劣る存在なんでしょうね。
「それで、俺に接触してなんのつもりだ?」
「忠告しに来ました。あまり、女神の力で好き勝手しないほうがいいですよ。この世界にはこの世界の秩序があり、私たちはそれを乱すべきではありません」
男はいよいようんざりした顔をする。
ああ、またこの手のタイプですか。そうでしょうね。
自分勝手に力を振るうからこそ、こうして噂になっているのでしょうから、最初から説得できるなど思っていませんでした。
「ルナティックアビスは、元からNPCだって殺せるゲームだろ。ゲーム通りに行動して何が悪い」
「ゲームではありません。こうして私たちが生きているこの世界は、すでに現実です」
ゲーム感覚で、ただ力を行使するだけ。
そして、他人にどれだけ迷惑をかけようが気にすることさえない。
生前からそんな身勝手な人間だったのか。それとも、転生する際に女神にその意識を肥大化させられたのか。
私は後者だと思う。だって、そうでなければ、あまりにも身勝手な人間が多すぎる。
「その手はなんですか?」
気付けば男は私に手をかざしていた。
こういう反応も、すでに何度か見てきている。
つまり、邪魔になったのでしょう。
「要するに、俺のやることが気に入らない。敵ってことでいいんだろ?」
「はあ……。戦うということですか」
話し合いは失敗し、いつのまにか戦いへと変わってしまったらしい。
であれば、もうこちらも言葉を交わす意味もないと割り切って対処する。
「では、せめてこの中で。この世界をこれ以上破壊されたくありません」
「……その中が罠じゃないという保証は?」
「ありませんね、正々堂々と戦うことを信じてもらうしかありません。私は先に入りますので、あなたが入らないというのであれば、私を倒せなくなりますよ?」
それだけ言い残し、空間の中へと移動する。
追ってくるなら戦うし、追ってこないならその程度だったと割り切る。
しばらくの間はありましたが、どうやら私を殺したいみたいですね。
「本当に誰もいないみたいだな」
「言ったはずです。この世界をこれ以上破壊されたくないと。それ以外の意図はありません」
この中なら自由に戦っても問題ありませんからね。
◇
「ふむ、また一人転生者の消息がつかめなくなったか」
「はい、リズワン様。あまり良くない噂が流れていた転生者たちが、ここにきて次々と消息を絶っています」
転生者の中には、俺たちを軽視する者も少なくない。
特にひどい者になると、気軽に殺そうとさえしてくる危険なやつもいる。
エーニルキアからはぐれた者は、特にその手の転生者が多い。
あの王が、もはや飼い殺しすら不要と判断したということは、制御不能と判断されたということだろう。
そんな者たちが反感を買って、この世界の者たちに襲いかかり、返り討ちにでもあったのか?
「なんか悪いわね。私たちと同じ転生者が」
「いや、大転生だからな。人柄まで考慮されていないことは、こちらも重々承知している」
だからこそ、この鳳姉弟のように友好的なものは国に招くし、悪評の絶えない転生者たちはどの国も気にも留めていない。
どうせ、自滅すると知っているからな。
転生者同士で争うこともあれば、この世界の者をなめて返り討ちにあうこともある。
女神の加護一つでどうにかなるほど、この世界は弱くはないつもりだ。
「さて、こうなってくると他の転生者も心配だ。ということで、俺は欲望のダンジョンに視察に行くことにする」
「おい待て。嬉々としてさぼろうとするな。馬鹿」
王様だぞ! 馬鹿とはなんだ。馬鹿とは。
◇
「ひどくないか? 俺、王様なんだけど」
「結局、こうしてうちに遊びにきているから、俺はその部下の言うことが正しいと思うぜ……」
というか、なんかどこかで聞いたことがあるセリフだよなあ……。
うちのビッグボスと少し似ているよ。この王様。
「つれないなロペスよ。お前を心配して視察にきたんじゃないか」
「いや、そりゃあありがてえけど。うちで遊んでばかりで、あんたのところの部下が、うちに悪印象を抱くとそれはそれで困りそうだなあ」
「転生者って相変わらずまちまちよねえ」
「うむ。善良な者もいれば悪人もいる。目立たず生活している者もいれば、こうして商才を見せる者もいる。世界が違うだけで、俺たちと同じということだ」
「勇者もいるくらいだもんねえ」
……タケミのこと、もしかしてばれているのか?
リズワン王もレンシャの姐御も、こうして友好的だし普段は店のカモにすぎないのだが、油断していると何かを探られそうで怖いな。
とりあえず、一旦頭を馬鹿に切り替えてもらうか。
「まあ、俺は俺の生き方しかできないってことだ。どの世界にいようとな。というわけで、お二人さん。今日も俺のために宝箱でハズレを引いてくれ」
「その挑戦受けて立とうじゃないか!」
「次は引けるから。最近ハズレばっかりだし、そろそろアタリがくる確率の方が高いし!」
そうして二人とも、今日も宝箱からハズレを引いた。
いや、それなりに良いアイテムや装備も出ているはずなんだけど、なんか二人のアタリの基準が高くなっているみたいだ。
……そういうところも、うちのビッグボスみたいだよなあ。
◇
「というわけで、今日もリズワン王とレンシャの姐御は外れてた」
「そうか。……うん。報告してもらえるのは良いんだけど、ガシャの結果いるかなあ?」
「いえ、大事ですよ。なんせ、あの二人が外れ続けているということは、そろそろ私にアタリが回ってくるということですから」
「なんですか。その超理論」
三人で運を共有でもしているのか?
フィオナ様は、今日も意味不明な根拠で自信がいっぱいのようだ。
「二人とも見ていなさい。今日こそ、蘇生薬ですから」
「はい。それじゃあ、外れたら慰めるから、ロペスは開封後は出ていっていいぞ」
「おう。悪いなボス」
「開ける前から負けのことを考える宰相がいますか!」
「敵は内にいたみたいですね」
でも、慰めるんだから良いじゃないですか。
最終的にはちゃんと味方ですよ。
とりあえず、宝箱を作成したので、さっさと外れてください。
「う~……。慰めの時間、三倍に増やしてやります」
「丸一日慰められる気ですか」
「勝てばいいんですよ。勝てば!」
そんな会話をしていたせいなんだろうな。
開ける前から外れたときのことを考えてしまったせいで、フィオナ様は今日も時任の店の在庫を補充してくれた。
「じゃあ、俺は職場に戻るな」
「ああ。あまり働きすぎるなよ」
「ボスこそ……なんか、ビッグボスがすごい密着しているな」
「もはや、取り憑いている悪霊のそれだと思う」
フィオナ様がすっごいべたべたしてくる。
今の俺、男性なんですけど。
なんか、最近は女性同士でひっついているせいか、あなた俺に密着しすぎではないでしょうか?
……よし、ダンジョンのことを考えよう。
あの魔本、俺がいつでも使えるようにビブリオンから借りておくべきかなあ。