【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「初めまして」
「ん? ああ、初めまして」
見覚えのない女だ。ということは、うちのカジノにきた新規の客ってことだな。
それにしても、わざわざ俺に挨拶しに来る客なんて珍しい。
「あなたがロペスさんですね」
「……ああ」
俺を知っている?
だが、この時点では、まだ判断できない。
警戒すべき敵なのか、それとも単にどこかで噂を聞いてきただけなのか。
「私は、転生者のルイス・アラーニャと申します」
「それはどうも。俺は、ロペス・トタネスだ」
転生者かあ……。それをわざわざ名乗って接触する。
俺たちの仲間になりたいのか、あるいは……。
とにかく、この場で話すというのは良くないな。とりあえず、客に聞かれないような場所に移るとするか。
◇
「ロペスさん。随分とこちらの世界で成功していますね」
「まあな。運が良かったみたいだ」
「ただ、カジノというのがどうもいただけない」
すでに面倒ごとの予感がする。
ヨハンといい、ホリイといい、こうしてわざわざ俺に絡んでくる転生者って、ろくなやついねえからなあ……。
現に、ルイスもカジノに難色を示そうとしている。
「もしあなたが、真っ当な商売で成功したというのであれば、私も口出しする気はありませんでした。ですが、この世界の者から金銭を巻き上げる商売は、さすがに見過ごせません」
「おいおい、勘弁してくれよ。ちゃんと見返りはあるし、互いに合意の上での商売だぞ?」
「この世界の者を食い物にする。それは、私が見てきた他の転生者たちと同じだと思うのです」
「娯楽と商品を提供して金銭を得る。それって、真っ当な商売じゃないのかい?」
「あなたのそれは、違法なギャンブルです」
ああ、そういうタイプね。
潔癖症というか、なんというか、この手の人間は元の世界でも見たことがある。
そして、話が通じないというのもわかっている。
「じゃあどうする? まさか、このまま商売をやめて路頭に迷えとでも言うのかい?」
「真っ当に生きましょう。あなたがその気なら、こんな方法以外でも稼げるはずですし、私たちも協力します」
完全に善意のつもりなのが質が悪い。
そもそも、これだって真っ当に生きていると思うんだけどねえ……。
要するに、ルイスが気に入った商売以外は認めないってところか。
「覚えはありませんか? あなた、わりとやっかみを受けていますよ?」
「まあ、成功した相手を妬むやつがいるのは、どの世界も同じだろうな」
「同じ転生者の中にも、あなたを妬んでいる者もいるはずです」
「だろうなあ」
前に、俺の顔見知りのハーフリングを利用して、ここで違法品を売るように命じた者もいたくらいだし。
現地民にも転生者にも、俺を嫌っている者が一定数いても不思議ではない。
「率直に言いますと、迷惑なんですよ。中には、あなたを妬むあまりに嫌がらせをしようとして、ここで麻薬のようなものを売ろうとした者までいました」
ちょうど、思い浮かべていたできごとを言い当てられる。
こいつ、そのことも知っているってことは、まさか関係者なのか……?
いや、名目としては、この世界の平和のためみたいな言い方だったな。
だとしたら、そんなやつがこの世界の住人の害となるような、違法品の売買を命じることはないか。
「あなたを恨むあまりに、この世界に有害な物をばらまくよう指示した転生者は、すでに粛清しました」
「……そりゃあ助かる。手をわずらわせてすまなかったな」
こいつも、俺と同じような界隈の人間か?
いや、なんかそんな様子ではない気がする……。
だが、ルイスが言う粛清というのが、要するに落とし前を付けたということなのはたしかだろう。
そして問題は、この女があのハーフリングを唆した大本までたどり着いたことか。
それだけの調査をする力を持っている。そして、転生者を倒すだけの力も持っている。
……敵にしたら、なんだか厄介なことになりそうだなあ。
「この世界に有害なものを作らないでください。この世界を害する行為を、私は見過ごすことはできません」
「転生者が、この世界で商売して成功することが許せないってことかい?」
「いいえ。それ自体は何の問題もありません。例えば、あなたと同じ場所で海を提供しているオクイさん。それに真っ当に商売をしているトキトウさん。彼女たちを見習うべきでは?」
二人のことも知っているか。
……不気味な女に見えてきた。女神の加護で調査している?
だが、そうなると転生者を倒してきた実力のほうは……レベルを上げたとかか?
「それでは、また後日。どうか賢明な判断をしていることを望みます」
「……俺もあんたにただで倒される気はない。粛清とやらをする気なら、全力で抵抗させてもらうぜ」
「かまいません。あなたのところの用心棒である竜人が相手だろうと、この世界のためであれば倒してみせましょう」
……また、厄介なのに目を付けられた。
とりあえず、ボスに報告するかねえ。
◇
「ルイス・アラーニャ」
「ああ、そう名乗っていた」
名乗り通りだ。ステータスに表記されている名前は、名乗りと同じものだった。
ロペスからピルカヤを通じて、俺もその様子はよく見ていた。
ルイス・アラーニャ 魔力:72 筋力:43 技術:61 頑強:63 敏捷:65
鳴神よりも、わずかに弱い程度の実力者。
ステータスによっては、鳴神以上のものもあるし、何よりも転生者としての力も当然ある。
もしもゲームの知識まであるのなら、相当に厄介な相手なのかもしれない。
「超位モンスターを大量にけしかけるか」
「どんなときでも全力なのは、ボスの良いところでもあり怖いところでもあると思うぜ」
だってやばそうな相手じゃないか。
とはいえ、下手に手出しはできないか?
能力すら判明してないと、モンスターをぶつけて偵察するのさえ、遠慮したいな。
「用心棒にウルラガがいるから、問題無いと思いたいが……」
「おう。久しぶりに面白そうな仕事になりそうだ」
やる気だなあ。
それにしても、時任や奥居のことは認めているみたいだし、なんとかロペスの方も穏便に認めてもらえないだろうか。
「カジノの操作でもして、利用客を多めに勝たせてみるか?」
「あの言い方だと、俺がこの世界の人間たちを食い物にしているのが、許せないみたいだしなあ」
別に、金儲けに躍起になっているというわけでもない。
それで面倒ごとを一つ避けられるのであれば、別に客に勝たせること自体は問題ないが……。
「ダンジョンもそうだが、カジノの勝ち負けのバランスもかなり大変そうだからなあ。ここで崩したら、客が離れないかが心配だな」
「そうなんだよなあ。あいつら、脳が焼けているから、簡単に勝てるとそれはそれで不満言いそうで」
「まあ、とりあえずは、様子見としてボーナス期間ってことにしておくか」
いったんはそれで様子見。
こちらもあの忠告後に行動したので、ルイスのような人間であればそこはきちんと評価するだろう。
少なくとも、次にいきなり戦闘ということはなくなるはずだ。
◇
「それでレイ」
「なんですか? フィオナ様」
「そのボーナス期間とやら、もっとも優先すべきである魔王にはいつ訪れるのでしょうか?」
「フィオナ様の宝箱については、俺もテコ入れできないので諦めてください」
「そこをなんとか!」
綺麗に頭を下げてこないでくださいよ。
あなた魔王ですからね?
「俺だって何とかできるならしていますって……」
あ、この魔王様、頭を下げたまま角で俺をチクチクとついてきやがった。
俺のせいじゃないでしょうが。
あなたの物欲やら運やらの問題ですって。
「仕方ありませんね。なら、今日も宝箱を作ってください。そして、私を思う存分甘やかしなさい」
「はいはい。それじゃあ慰める準備をしておきますよ」
「まだ負けたわけじゃありません!」
甘やかせと言ったのあなたじゃないですか……。
ロペスよ。うちにも宝箱に脳を焼かれたのが一人いるぞ。