【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「影冠樹の魔力もだいぶ溜まっていますね」
「みんなが暇なときに注入してくれているからなあ」
「ええ、そのおかげで周囲から魔力を吸うこともなく、ある程度は消費しても問題ない段階に至っています」
クララの見立てでは、すでに十分すぎる魔力が溜まっているらしい。
ステータスで確認できないが、俺でもなんとなくはわかる。
それほどまでに魔力は満ちているし、そもそも樹がすっかりと大きくなって薄っすらと魔力で光っている。
「……フィオナ様に還元するか」
「相変わらず、お二人は仲が良いですね」
クララが穏やかに微笑んだ。
……いや、別に甘やかすとかじゃないから。
フィオナ様もわりとこの樹に魔力を注いでいたし、少しくらいガシャで楽しんでも良いと判断しただけで……。
「じゃあピルカヤ。フィオナ様に伝えてくれ」
「レイが伝えたほうが、魔王様喜ぶんじゃない?」
「私もそう思います」
いや、別に伝えるのは誰でもいいだろ。
ガシャが引けると知っただけで、きっとあの魔族は喜ぶぞ。
◇
「ということで、影冠樹の魔力を使って宝箱を引いてもいいですよ」
「それをわざわざ言いに来てくれるなんて、私にこうして抱きつかれたいということですね!」
「いえ、ピルカヤとクララが……」
たしかにフィオナ様は喜んだ。
だけど、同時にうざ絡みされてしまっている。
見ているかピルカヤ。これがお前が言っていた結末だぞ。
「このままじゃ、動けないんですけど」
「……そういえば、普段生意気な口を利くレイも、私の力で簡単に組み伏せることができるんですよねえ」
なんか、変なこと考えていませんか?
閃いたみたいな顔しないでください。この世界であなたの力で組み伏せられない者は存在しませんから。
なんか、抱きしめる力強くなってるし!
「あの、動けないんですが……」
「非力でかわいいですね」
俺が非力なのは認めるけど、あなたが強すぎるんです。
あと、力を入れすぎたことで余計に密着して……なんというか、当たっています。
よし、ダンジョンのことを考えよう。あるいは、今すぐに女体化しないと。
「このままだと、ガシャできませんよ?」
「む……悩ましいですね。このまま、レイをかわいがり続けるか、あるいはガシャを引くか」
なにその二択。
フィオナ様のことだから、てっきりガシャにまっしぐらだと思っていたんだけど、思っていた反応じゃないぞ。
「わかりました。後でいくらでも抱きついていいので、今はガシャを回しましょう」
「どっちも許可されるなんて、今日は記念日かなにかですか!」
結局、俺が折れてしまった。
まあいいさ。俺なんかに抱きつくことで喜ぶのであれば、いくらでも抱きつけばいい。
すっかりとポンコツになったフィオナ様は、今度は俺の腕に抱きつきながら玉座の間へと移動した。
◇
「それでは、今日こそ勝てるであろうガシャを始めます」
「がんばってくださ~い」
気の抜けた開催の言葉に、時任の気の抜けた応援が返ってきた。
いや、本人は真面目に応援しているつもりだろうけど、ポンコツ同士のやりとりがどうにもしまらない。
「なんせ、影冠樹のおかげで五十連まで回せますからね」
「回せません。どこから出てきたんですか、その五十という数字は」
「え、遠慮して、普段の百連の半分にしたというのに!?」
「ああ、それで五十なんですね。駄目です」
「くぅっ……。では、二十で我慢します」
プリミラとダスカロスとクララの方を見る。
クララは……頷いているな。つまり、それだけの魔力を使っても問題ないらしい。
プリミラとダスカロスも同じ反応だ。ということは、フィオナ様を甘やかしても問題ない。
よし、それで手を打とう。
「じゃあ、今回は二十で」
「……」
許されると思っていなかったのか、なんか無言で抱き着いてきた。
せめて喋ってください。みんなが見ていますよ。
「とりあえず、宝箱を二十個作りますね」
プリミラが渡してくれた魔力回復薬を飲みながら、宝箱を並べていく。
これが全部外れるのかあ……。きっとそれだけショックも大きいだろうな。
俺がしっかりと慰めてあげないと。
「まあ、これだけチャンスがあるのなら、気楽に引けますね」
そうしてフィオナ様は、慣れたように魔力を注いだ。
段々と精度が上がっているため、ぴったりと九千の魔力を注ぎ終えた時点で動きを止める。
無駄に繊細な技術だなと感心しながら、俺は宝箱のふたを開けた。
「食料。マギレマたちで管理してください」
「はい。それじゃあ、みんなで運んでおいてね~」
マギレマさんが部下に指示を出す。これも慣れたもので、プシシモたちが食糧庫へと向かった。
「お金。プリミラとテラペイアで管理してください」
「かしこまりました」
あれだけ中身が詰まっていると、それなりの重量のはずではあるが、プリミラが宝箱を軽々と片手で運ぶ。
あれなら、あと何個か引いたとしても、一度に運べそうだな。
「次は……」
鎖が出てきた。ロマーナの腕にしているのとは別だな。
これもロマーナの腕につけられるだろうか。
「何の鎖ですか? これ」
「封環の鎖ですね。そうですねえ……。これは、プネヴマに」
「あれ? エピクレシじゃないんですか?」
そういう道具類は、アンデッド強化やら研究やらのために、エピクレシに渡すものかと思っていたんだが。
「う~ん。たしかに、エピクレシのほうがいいですかね。プネヴマの場合、これがなくても十分ですし」
俺の疑問に、フィオナ様は方針を改めたらしい。
大丈夫かな? 自分に与えられそうだったアイテムが、俺の意見で友人の手に渡るとなると、プネヴマに恨まれたりしないかな。
「わ、私は……それがなくても……魂の操作……得意ですので……」
「ええ。なので、エピクレシのほうがいいですね。さすがは私の宰相です。適切な判断ですね」
どういうアイテムなんだろう。
なんか思い付きの発言が、過大評価を受けている気がする。
「ちなみに、どういうアイテムなんですか?」
「肉体ではなく魂をとらえる鎖です。なので、プネヴマなら自身の能力で十分でしたね」
なるほど、つまり使用者がプネヴマみたいな力を得るアイテムってことか。
魂をとらえる……。
「勇者に使えば蘇生を阻止できたりは……」
「難しいでしょうねえ。女神の加護をふんだんに受けているため、その手の妨害はまったく効かないんですよ」
だよなあ。それができるのなら、プネヴマに頼んで蘇生を阻止しているだろうし。
「万が一できたとしても、勇者が蘇生しないとなれば、さすがの女神も異変に気付いて、私たちを本格的に滅ぼすでしょうし」
あいつ、気まぐれで種の根絶とかしてそうだもんな……。
あいつがいい加減だからこそ、こうして俺たちが繁栄できていると思うと、なんだか複雑な気分だ。
「じゃあ、この鎖はロマーナの腕の候補ですね」
「なるほど……後で取り付けてあげましょう。ただ、使用には魔力をほぼ使い果たすので、気を付けてくださいよ?」
「はい。自爆とこの鎖、用途を見極めて使っていきます」
「たぶん、私が言いたいこと伝わっていませんねえ……」
ロマーナがすっかりと脳筋なセリフをはいていた。
エピクレシもあまり気に留めていないことから、普段からあんな感じなんだろうなということが伺える。
「さて次は……」
「本ですね」
だが、一冊だけか?
一般の本を引き当てたときは、もっとたくさん出てきたはずなんだけど。
ということは、これがその分希少だったり、強力な効果を持っている可能性が高そうだな。
「ふむ……深淵の書ですか。使用禁止ということで、ビブリオンに管理してもらいましょう」
なんだか仰々しい名前だな。そして使用禁止というところから、確実に単なる本ではない。
フィオナ様は、その本をそっと置いてから、残りのガシャを回し始めるのだった。
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深淵の書
高次元の存在に接触、交信を行う目的で作成された本。
使用者の魔力を代償に、一時の破壊の力をもたらすと同時に、精神を摩耗させる。
異端の力と認定された者たちの技術は本物だった。
高次元の存在はその呼びかけに応え、彼らに力をもたらしたが、それに耐えられる精神を持つ者はいなかった。