【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「さあ、次こそ蘇生薬です!」
まだまだ宝箱が残っているためか、フィオナ様は余裕の表情で魔力を注いでいく。
この表情が、また泣き顔に変わるのかあ……。
なるべくなら、笑っていてほしいんだけどな。
それはそれとして、フィオナ様は泣き顔もかわいいと思う。
「装備ですね。残念ながら、四天王や十魔将のものよりも質は劣ります」
「そう簡単に、そんな上位陣の装備を更新できないでしょうね」
いや、四天王全員が強化済みであることを考えると、そうでもないのか?
この魔王様、なにげにガシャ運が良いような気がしてきた。
単に蘇生薬という一点狙いだから、ハズレばかりという印象が大きいだけだな。
「次こそは!」
「蘇生薬じゃありませんね」
「なんの!」
「薬ではあるんですけどね」
「まだまだ!」
「不死鳥の羽なので、惜しくはあります」
あ、かわいい。
フィオナ様がぷるぷると震えている。
だけど、やはりこの顔より笑顔の方が好きなので、いい加減当たってほしいと俺自身願っている。
「……いったん、徳を積みましょう」
「また、信心に頼るようになってしまいましたか」
「祈りの力が足りていない可能性がありますからね。そろそろ残弾も少ないことですし、やみくもに引いては敗北しそうです」
そうは言うものの、ガシャなんて結局は運と魔力が全てだからなあ。
やみくもに引く以外にできることなどないはずだ。
「よし! 掃除しましょう」
「なんですか、急に」
「こうもハズレを引くのは、きっと心が磨かれていないためです。掃除をすることで、地底魔界も心をきれいにしてしまいましょう」
それ、試験勉強中の気分転換みたいなもので、最終的にはそちらに時間をかけてしまうことになりそうですね。
というか……。
「フィオナ様の心はきれいですけど?」
「うっ……。嬉しい言葉ではありますが、今の私を甘やかしてはいけません」
これは、どうやら本気のようだな。
普段なら、むしろもっと甘やかせと甘えてくるのに、今はなんとか自制しているみたいだ。
それにしても、掃除か……。
「黎明の宝玉、使います?」
以前引き当てたアイテムの一つだが、魔力を注ぐことで周囲を浄化する効果があるはずだ。
うちの従業員たちは真面目なのか、掃除は自分たちで行うため、いまだに使用したことはない。
「いえ。楽せず自ら動くことが徳につながるはずです」
まあ、トップがこれだもんなあ。
部下も自然に真面目になるのは、当然のことなのかもしれない。
「あと、あれはあくまでも、浄化アイテムです。なので、ゴミを消すとかではなく、ゴミがとても綺麗になるだけですね」
「ああ、そういう……」
なら、どの道掃除には向いていないようだな。
呪いや病原菌などを排除するってことか。
今度、テラペイアに預けておこう。
医務室なら、あの宝玉で綺麗にする意味もありそうだし。
「ということで、ついてきなさい。徹底的に掃除しますよ! 私の宰相」
「じゃあ、ガシャは一旦お開きですか?」
「そうなりますね。先ほどまでのハズレは、一旦みんなで分けておいてください」
いつも通り、自らの魔力を消費して、部下に様々な物資を配る魔王様となった。
これも徳にならないのだろうか?
「お掃除か~。江梨子ちゃん、私たちも掃除する?」
「そうね。せっかくだし、部屋や職場を綺麗にしてもいいかも」
「師匠の職場も、掃除したほうが良いんじゃないですか? だいぶ散らかっていますし」
「う……。まあ、そのなんだ。あれはあれで、便利だが……まあ、この機会に片すのもいいかもしれん」
「僕も手伝いますよ」
「すまん……」
転生者たちも、魔族たちも、従業員たちも、各々掃除をするようになったらしい。
理由はともかく、一応魔王様の提案なので、それにならって行動するみたいだな。
影響力があるのはいいことだけど、その行動理由がガシャなのが若干残念ではある。
◇
「さて、みんないなくなったことですし、私とレイは玉座の間のお掃除です」
「物はまったくないので、わりと楽そうですね」
「ええ。玉座くらいしかありませんからね」
ここで勇者たちと戦ったようだし。
さすがに、散らかっているということもない。
生活感丸出しの場で戦ったら、勇者たちも嫌だろうからなあ。
「そういえば、信心と言っていましたが、当然あの女神に対してではないですよね?」
「当たり前じゃないですか! 誰が、あんなのを信仰しますか!」
だよなあ。あれを信仰するようだったら、俺は全力でフィオナ様を止めていたと思う。
となると、別の神様か?
「この世界って、他に信仰対象があるんですか?」
「なにもあの女神だけが信仰対象ではありませんからねえ。姿なき上位存在だろうと、祈りが本物であればそれは信仰です」
そのあたりは、俺の前の世界の祈りに近いのかもしれないな。
なまじ存在が確認されているため、あの女神への信仰が強いというだけであり、それ以外を信仰することもあるというわけか。
「もしも別の神様がいるのなら、あの女神の代わりにこの世界を管理してほしいものですけどね」
「う~ん……。あれであの女神の手腕は、なかなかのものなんですよねえ。今は世界を監視しないで自動化できているほど、信仰心が揺るがなくなってしまっていますし」
そのおかげで、俺たちが目を付けられていないともいえるが、なんとも複雑な状況だ。
それだけ、女神の力が絶対的であるということへの裏返しだもんな。
「まあ、そもそもそんな神様との伝手なんてありませんか」
さすがのフィオナ様だって、そんな繋がりなどないだろう。
などと考えていると、フィオナ様は少し迷ったようなそぶりを見せた。
何かあるけれど、俺には明かせないってことだろうか?
「さっき当てた深淵の書ですが、あれが伝手ともいえるかもしれませんね」
「そういえば、あの本の効果を聞いていませんでしたね。神様関係って、そんなにすごい本だったんですか?」
「まあ、すごいことは間違いないですよ? ただ、すごすぎるせいで使用には危険が伴うのです」
危険……。まあ、神への伝手といえるほどのアイテムなら、とんでもない代物であることは想像に難くないからな。
「魔力を消費し、神と呼べるような高次元の存在と交信する。そうして、力を得るのがあの本です」
「聞いただけでも相当にすごい効果じゃないですか?」
「そうなんですよ。ただ、神らしき何か高次元の存在なので、正しく神につながるかは不明なんですよね」
「使用した人に聞いてみるとか……」
「使用者は精神が崩壊しています」
やばそう。
まあ、何の準備もなく神と交信をするんだもんな。真っ当な精神ではそのまま壊れてもおかしくないか。
そう考えると、あの女神のやつは、一応転生者である俺たちに加減していた可能性がある。
もしもあいつが加減なくその場に存在していたら、俺たちは転生どころかあの場で心が壊れていたのかもしれない。
「となると、再生成可能なモンスターたちや、不死鳥の羽で復活しても、そのまま精神が壊れそうですね」
「ええ。なので、この本はビブリオンに厳重に保管してもらうことにしましょう」
「魔本と違って、誰でも貸し出しできるようにはしない方が良さそうですね」
「そうですねえ。試練を乗り越えても貸し出しできないよう、彼女にはしっかりと伝えておくことにします」
下手したら影冠樹よりもとんでもない代物だ。
悪用どころか誤って使用しただけでも大変だし、封印しておくのがいいんだろう。
……いや、罠として勇者たちに使わせたら、蘇生後も精神が崩壊したままなのでは?
「勇者に使わせられませんかね?」
「どうでしょう。ただ、あまりお勧めはしませんね」
フィオナ様は、俺の案に否定的な態度を示した。
「まず、使用者の精神こそ崩壊しますが、絶大な破壊の力をもたらします。そのため、地底魔界どころか魔王軍の被害も未知数です」
「なるほど……」
「さらに、勇者の精神が崩壊するほどの事案であれば、さすがの女神も異変に気付きます。いえ、そもそも深淵の書で高次元の存在の力が世に放たれたら、その時点で女神が異変の調査を行いそうですね」
「それを聞くと、ますます使い道が無くなりますねえ」
「そういうことです。やはり悪用されないよう、封印するのが一番良さそうです」
なんだか、爆弾みたいなアイテムが手に入ってしまった。
どうせ燃やそうとしても、変なことが起こるんだろうなあ。
うちでしっかりと保管しておかないと。